最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ

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55 カーバンクル帰る②

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空を飛ぶグリファスの背中の上は風圧が凄いだろうし、仔どもの好奇心で背中から落ちたら洒落しゃれでは済まない。
スーは、まずはカーバンクルを飲み込む。
何度かスーの食料(仮)になっているから、もう抵抗しない。
首だけを出してキョロキョロと辺りを見回しているカーバンクルと一緒に、グリファスの背中に乗り込むと、両脇から触手を出して、ギュッとしがみ付く。

「すげー、飛んだ、飛んだっ」
グリファスが羽ばたき飛び上がると、カーバンクルは無邪気に喜んでいる。

(………)
スーは無言だ。
ムチムチボディの持ち主だが、固まっている。
グリファスを掴んでいる触手は力を入れ過ぎてグリファスからクレームが来ている。
対応する余裕はないが。

いくらいつも跳ねたり木に駆け上がったりしているスーだが、空を飛んだことはない。スライムは地に張り付いてなんぼだ。
昨晩は屋敷の3階から飛び降りたりもした。だから高所恐怖症ではないと思う。
思うのだが、これは駄目だ。

地面が見えない。
地に足が付かない状態は、本当に駄目だ(足は無いが)
それに、この揺れがたまらない。
だんだんと気分が悪くなってくる。カーバンクルごと吐いてしまいそうだ。
スーは気づいていないが、生まれて初めての乗り物酔いを体験していた。内臓があるのか無いのか分からないスライムだが、必死で吐き気をこらえる。

(おい、まだか、まだ着かないのか)
「何を言っているのだ、まだ飛び始めたばかりだろう。それよりも触手を緩めろ、痛いぞ」
「すごーい。風が気持ちイイー」
グリファスからの要望は無視する。
ブルースライムのスーが、ますます青くなっているのに、カーバンクルははしゃいでいる。

(グリファス、カーバンクルこいつの生まれ故郷は分かっているのか(ウエッ))
「ああ、カーバンクルは希少種だからな、だから狙われたのだろうが、王都から一番近い生息地はターサの森だ、そこに行く」
(あとどれぐらいだ?)
「まあ、一時間ってところか」
(あと一時間……(ウプッ))
グリファスからの返事に、スーは絶望する。

「スライム、見てみろ、川が流れてる。上から見ると、川って、あんなになっているんだな」
(動くな、騒ぐな、ゲロごと吐き出すぞっ)
「スライムも見てよっ」
(聞いちゃいねー)
ただ耐えるしかないスーだった。

きっちり一時間空の旅を楽しんだスー達は、やっとターサの森へと着いた。
地に足が付き、スーはカーバンクルを吐き出す。ゲロが一緒に出なかったのは、カーバンクルにはラッキーなことだと思う。

神獣が降り立ったことにより、辺りの魔獣たちは逃げ出している。

「懐かしい。ここだ、ここに巣があるっ」
カーバンクルは嬉しさで飛び跳ねている。
ターサの森で間違いないようだ。

「ここから自分の巣の場所は分かるか?」
「うん、こっちだ」
カーバンクルが先導するが、嬉しいのかスピードが速い。
まだ体調が戻っていないスーは、地面をうようにして後を追う。

カーバンクルは成獣になっても小さい。
スイカの大きさしかないスーよりも、やや大きいぐらいか。
そのためなのか、巣穴も奥は深いようだが、入り口は小さく、グリファスは到底入ることはできない。

スーとグリファスは、カーバンクルの巣がそのまま使うことができ、周りの環境がカーバンクルにとって、やっていけそうならば、別れを告げて戻るつもりでいた。

(どうだ、周りに強そうな魔獣とかいるか?)
スーも魔獣の気配を感じることはできるが、やはり神獣のグリファスの方が、より広範囲を調べることができる。

「周りは……。大丈夫そうだな。ん、ちょっと待て」
(どうした、敵か?)
「敵かどうかは分からない。だが魔獣が近づいてくる」
随分と遠い場所から、魔獣が近づいて来ている気配をグリファスはとらえていた。

「ウエエエ、母さん」
カーバンクルは、巣に残された母親の匂いに、懐かしさと寂しさにベソをかいている。
スーは、そっとカーバンクルを背中に隠す。

だんだんと魔獣の気配は近づいてくる。
相手も神獣の気配を感じているだろうに、それでも近づいてくるのは、よほど自分の能力に自信があるのか、それともバカなのか。
だが、近づいてくる速度は遅い。
これほど遅いなら、自分達がいなくなった後、カーバンクルが出くわしたとしても、簡単に逃げることができるだろう。だが、巣を襲われるわけにはいかない。
相手が来るのを待つ。

「誰だい、あたしの巣を荒らす失礼な奴は」
やってきたのはカーバンクルだった。
スーの背中にいるカーバンクルの二倍ほどの大きさだ。成獣なのだろう。

「お前の巣なのか?」
グリファスが前に出る。
もしかしてカーバンクルが連れ去られた後、空いていた巣に住み着いたのかもしれない。
野生では当たり前のことだ。
さて、どうしたものか……。

「坊やっ!!」
グリファスが動いたことにより、スーとカーバンクルの存在に気づいたのだろう。
成獣のカーバンクルが叫ぶ。

「母さん……。まさか本当に母さん?」
スーの後ろからカーバンクルが出てくる。

「ああ、坊やっ。生きていたのね」
「母さんっ!!」
二匹は駆け寄ると、匂いを確かめ合うように顔を寄せる。

(まさかカーチャンが生きていたとは)
「なんとも感動的なシーンだな」
長い時を生きてきたグリファスだが、少しウルッとしているようだ。

カーバンクルの話では、目の前で母親はなぶり殺されたと言っていた。
改めて母親を見てみると、あまりにも無残な姿だった。
右前足は折れ曲がり、右耳は半分ちぎれかけている。右目の上にも大きな傷がある。右目は見えていないだろう。
それこそ全身傷だらけだ。
こんな状態にされたなら、殺されたと思ってもしかたがない。
逆に、よくぞ生きていてくれたと思う。

カーバンクルが魔法特化型の魔獣だからこそ、生き残れたのだろう。
こんな状態で、狩りをして食い繋ぐことが出来たのだから。

「母さん、母さん、母さん……」
カーバンクルは泣き続けている。
いくら強気な態度を取ってきたとはいえ、まだ幼子だったのだ。死んだと思っていた母親に会えて、どれほど嬉しいだろう。

「あなた方が坊やを助けてくれたのですか? なんとお礼を言ったらいいのか。本当にありがとうございました。あの時、坊やはあたしの目の前で、従属の首輪を付けられて連れ去られてしまったのです。でも首輪が外れている……。良かった、本当に良かった」
カーバンクルの母親は嬉し涙をこぼしている。

「ああ、偶然だが従属の首輪が外れたのだ。もうこの仔は従魔ではない。元の巣に戻って生活できればと思い連れてきたのだが、母君が生きておられて良かった」
説明するグリファスの横で、スーも安堵する。
親離れする前に引き離されたカーバンクルだが、母親の元に戻ることができた。これで独り立ちするまでは母親の庇護のもとで生きていけるだろう。

これで心置きなく帰ることが出来るな。
ホッと、胸をなでおろす(どこが胸かは分からないが)スーなのだった。


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