最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ

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71 井戸の中②

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ギギヤッ、ギャャ。
ゴブリンメイジの暗い緑の身体の熱が上がったのか光が増し、持つ棒の先には、大きな火の玉。
こんなの喰らったら、一発でアウトだ。
スーはジリジリと後退していく。

ゴブリンメイジは何発も火の玉を、すでにスーへと投げつけている。そのうえ身体全体で発熱している。それなのに魔力切れを起こしていない。どれほどの魔力を持っているというのか。

魔法を使えるせいなのか、火の玉が無ければゴブリンメイジの攻撃力は低い。
棒で殴りかかる時も、スーから攻撃されて身をかわす時も、動作がつたない。
隙が多い。そこが勝機に繋がるだろう。グッとスーは気合を入れる。

スーが後退あとずさった場所は、大きな水たまりになっていた。そのまま地面を掘りながら自分の身体を沈めていく。
掘り進めている穴は、井戸の水源が残っていたのか、水がどんどんと溜まっていく。
ゴブリンメイジは魔法に集中しているのか、まだ動かない。

ギギャッ!
ゴブリンメイジは火の玉を投げつけながら、こちらへと向かって来た。
スーは水たまりから飛び出すと、大きく跳ねる。

ゴウッ!
火の玉がスーの脇スレスレを通過していく。
身体を水に浸していなかったら、酷い火傷を負っていただろう。

ゴブリンメイジはそのまま近づいて来ると。スーを殴ろうと棒を振り回す。
いくら水に濡れているとはいっても、発熱しているゴブリンメイジの身体に触ることはできない。
触手で握っている骨で、ゴブリンメイジの棒を防ぎながら、身体を平べったくなるほどに低くする。
反対の触手を固くして、ゴブリンメイジの足を打ち付ける。一瞬のことだったが、触手は軽い火傷を負ってしまった。

ギギャッ!
ゴブリンメイジはバランスを崩すと、その場に倒れそうになり、慌てて棒で身体を支える。
スーは骨を持っていない触手で棒を弾くと、棒は勢いよく、どこかへと飛んでいく。
よろけるゴブリンメイジを骨で殴りつけ、スーが掘っておいた穴へと突き落とす。

ジューッ!
穴の中に溜まっていた水が、ゴブリンメイジの熱で蒸発していく。
だが、水源があるのか、水は次から次へと溢れて来て、ゴブリンメイジの熱は奪われていく。
ゴブリンメイジは穴から出ようともがくが、スーの持つ骨が上から押さえ付けて叶わない。

身体の発熱と水の蒸発は続き、とうとうゴブリンメイジの魔力が底をついたのか、発熱をすることができなくなった。
手には棒もなく、火の玉を作ることもできない。

ギギギギ……。
魔法が使えなくなったゴブリンメイジは、体力もなくなっていったのか、徐々にもがく力も弱まっていく。

(おい、ゴブリン、聞こえるか?)
スーは念話を送ってみる。

ギギギギ、ギギャッ。
ゴブリンメイジからの意志は返ってこない。
おバカといわれているブルーウルフのトムでさえ、スー達と意思の疎通はできるのに。
ゴブリンは人型ということもあり、知能は高い傾向にある。ましてや、目の前にいるのは、進化したゴブリンメイジだ。
ただ唸るゴブリンメイジからは、何も感じない。意志というよりも、感情すら伝わってこないのだ。

「そいつの心は、もう壊れちゃっているんだよ」
(無事だったか)
スーに声をかけてきたのは、スーに助けを求めていた存在。
土の下に隠れていたためか、まるで土の塊のように見える。

「無事だよ、ありがとう。やっと出てくることができるようになったよ」
ピョンピョンとスーへと近づいて来る。

(やっぱり、スライムだったのか)
「うん、そうだよ」
スライムは小さい。まだレベル1なのかもしれない。
スーが巨大化しているので、トマトの大きさのスライムは、とても小さく感じる。
泥まみれで、スーと同じブルースライムなのか、一番多いグリーンスライムなのかも判別できない。

「そいつは、僕がここに入れられたころは、ただのゴブリンだったんだ」
スライムはスーの近くまで来ると、水の中に半分以上かり、動けなくなったゴブリンメイジを見る。

「毎日毎日、この穴の中に弱い魔獣や死にかけの魔獣が放り込まれて、ゴブリンは、そいつらを食べるように命令されていたんだ。僕も餌として入れられたんだけど、土の中に潜って、なんとか餌にならずに済んだ」
(このゴブリンは飼育されていたのか?)
スーは不思議だった。

わざわざゴブリンを飼う意味が分からない。
このゴブリンはナッカの従魔らしいが、なぜ井戸の中で飼う必要があるんだ? 従魔なら外に出しても命令すれば悪さはしないのに。
井戸の周りに魔法陣まで設置するほどの手の入れようだ。

だいたい王都の中に魔獣を持ち込むのは至難の業だ。それなのにスライムの話では、毎日魔獣が持ち込まれていたらしい。
スーが思うには、王都の中で魔獣がいるのが許されるのは、学園とギルド、そして騎士団だけだろう。もちろん魔獣とはいっても、従魔限定だが。
ナッカは騎士団ということで、魔獣討伐のていで弱い魔獣や死にかけの魔獣を、ここまで持ち込んでいたのだろう。

「ゴブリンはさ、食べるのを嫌がっていたよ。だって、一番多いエサはゴブリン。それも弱っているとはいっても、まだ生きているゴブリンだったから」
(!?)
スーは驚きに言葉が出ない。

ゴブリンは雑魚魔獣だが、知能が高い。
自分達で集落を作り、仲間たちと生活をしている。連帯意識が強く、仲間を思う心を持つ魔獣だ。
そんなゴブリンに共食いさせていたのか。

「酷いよね、従魔っさて、命令に逆らえないんだよね。仲間から罵倒されながらも、食べるしかないんだ。心が壊れちゃってもしかたがないよ」
(なぜだ、なぜそんなことをする必要がある?)
押さえ付けているゴブリンメイジは、もう動くのを止めている。
戦うのを止めたのか、生きるのを諦めたのか。

レベルアップして、ゴブリンメイジまで進化しているのに、魔法も攻撃も拙すぎた。経験は無いのに、レベルアップだけを無理やりしたからだったのか。スーはに落ちた。
井戸の底で、ただ経験値だけを増やし、進化させられた。
だからこそスーは勝てたのだ。

「僕が餌として、この井戸に放り込まれる時に、ゴブリンのあるじが言っていたんだ。強い従魔が欲しいけど、ゴブリンしかテイム出来なかったから、レベルアップさせて強い従魔にするって、そのために、お前達はゴブリンに喰われろって」
(レベル上げのために……)
ゴブリンのレベルアップの条件をスーは知らないが、スライムと同じで魔獣を食べると上がるのだろう。それも生きたままで。
井戸の魔法陣は、生餌エサが逃げないようにするためのものだったのだ。
スーは意味が分かった。

きっと、王都近くの森にゴブリン達は集落を作っていたのだろう。
狩るのが容易たやすいからと、ゴブリンを狩り、喰わせていたのだ。
同じ集落の仲間。もしかしたら親兄弟を喰わされたのかもしれないゴブリンのことを思うと、心が苦しくなる。

「ねえ、このゴブリンを食べてやってよ」
(え?)
小さなスライムの言葉に、スーは戸惑う。

「ゴブリンがまだ正気の時に、いつも泣きながらつぶやいていたんだ。生きていたくないって」
この暗い井戸の底で、ゴブリンは一人泣いていたのだろう。
せっかく仲間が現れても、それを殺して喰わなければならないのだ。
どれほどの苦しみだっただろうか。

「このまま死んだら従魔として魂が繋がれたままで死ななきゃならない。それよりも他の魔獣の餌として死ねば、自然の輪廻に戻れるんだ」
(…………)
そうなのだろうか。
ゴブリンメイジを救う方法は他にないのだろうか。

ゴブリンメイジを井戸から救い出せば、もしかしたら何も知らないご主人様が、カーバンクルの時のように、従魔の首輪を外してくれるかもしれない。
そう思ったがゴブリンメイジに首輪は見当たらない。

ナッカはテイマーで、ゴブリンメイジはナッカにテイムされている。ゴブリンメイジの魂は、ナッカに繋がれている。
ティナが首輪を外そうにも、首輪自体が無いのだ。

どうすればいいのか、スーは悩むのだった。



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