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74 小さなスライム
しおりを挟む「こいつ本当にスライムなのかよ」
ちょうちょが何をいいたいのかスーは分からず困惑してしまう。
(汚れて分かりづらいけどスライムだぜ。大きさからならレベル1。もしかしたら、もうレベル2になっているかもしれないな)
「ありえない……」
スーの説明を受けながらも、ちょうちょは泥団子のスライムを見続けている。
「俺はレベルが上がって今、レベル30だ」
(ああ、そう言っていたな)
「妖精は特性として相手のステータスを見ることかできる。でもその精度は低い。俺はレベルが上がって、精度も上がった。まだまだ長老には及ばないけど、それでも上がったんだよ!」
(そ、そうなのか)
ちょうちょが強く言うので、スーはちょっと引き気味だ。
「それなのに、こいつのステータスが見えない。見れないんだよ! おかしいだろう、ステータスを見ることができないのは、自分よりもレベルが上のヤツだけだ。このスライムが俺より上の、レベル30以上だっていうのかよっ」
(え?)
ちょうちょが指さす先には、きょとんとこちらを見ているスライム。
(そんなはずはないだろう……)
「俺がポンコツになったっていいたいのか? 井戸から出て来て、スーのレベルが6になっているのだって、ちゃんと分かってる」
ちょうちょは怒っているのか困惑しているのか、複雑な表情をしている。スーもどうしたものかと考え込む。
「ねえ、どっか行くんでしょう?」
(そうだった! ご主人様っ)
スーとちょうちょが騒いでいると、当のスライムが不思議そうに聞いて来る。
大切なことを思い出してスーは慌てる。
早くご主人様の所に行かなければ!
(ちょうちょ、案内を頼む)
「ああ……」
一緒に行くと言うスライムをつまむと(バッチイから)、腑に落ちない表情のままのちょうちょを頭に乗せ、跳ねだす。
足触手は出さない。
愛らしいペットの地位を手放したくはない。
そのまま進んで行くと、騎士団詰め所の前を通る。
『隊長は、どこに行ったんだ?』
『従魔を呼びに行ったぞ』
『帰って来るのが遅くないか?』
開いた扉の中から隊員達の声が聞こえてきた。
隊員達の何人が井戸のことを知っているのだろうか?
ゴブリンの餌を隊長一人で準備していたとは思えないが、どの隊員が関わっていたのかを調べるのは手間がかかり過ぎる。
もし、同じようにして従魔をレベルアップさせようとする隊員が現れたら、スーは許すことではない。また阻止しようとするだろう。
それよりも、さっさと井戸を壊す方がいいか。
ただ、王宮の騎士団詰め所に、また来ることがあるかは分からないけど。
スーもちょうちょも詰め所のことは無視して、そのまま王子宮へと向かう。
同じ王宮の中とはいえ、王子宮は遠かった。
王宮は建物一つ一つが、やたらとデカイ。
その上ちょうちょの案内は、自分がステルスを使っての移動だったために、宮殿の中を堂々と通っての直線コースだ。
そんな場所を道案内されても、スー達は通れない。
しかたがないので、屋根の上を爆走する。
レベルが上がったから、身体能力も上がっているので、遠い王子宮に思った以上に早く着くことができた。
ちょうちょがスーの頭から離れて、飛びながら指差したのは、二階の窓だった。
テラスなどは無い窓だが、スーはヤモリのようにスルスルと壁を伝って行く。
スライムをつまんだままだが、残りの手触手だけでも簡単だ。
少し首(?)を伸ばして窓の中を覗き込む。
部屋の中にはご主人様がストールに腰掛け、その背後には、お仕着せを着た侍女らしき女性が、ご主人様の髪の毛を触っている。
どうやら髪飾りを付けているようだ。
そのまま見続けていると、ご主人様の身だしなみの準備が終わったのか、侍女が部屋から出ていった。
ご主人様は、ホッとしたように肩の力を抜く。
田舎暮らしでは、人に身だしなみを整えてもらうことなんかない。せいぜい母親に髪をとかしてもらうぐらいだろう。
部屋の中に入ってもいいだろうか?
着替えの時は、近くにいないでと躾けられている。お行儀のいいペットのスーは、ご主人様の言いつけは守る。
窓に顔を付けたまま、ご主人様を伺うだけだ。
覗き見は近くにいないからセーフと思っている、ストーカー系ペットあるあるだ。
「まあ、スーさん、ちょうちょさん居たのね。よかった、探しに行こうと思っていたのよ」
部屋の中が豪華すぎて落ち着かないのか、キョロキョロと周りを見ていたティナが、窓に張り付いているペット達に気づいた。
「きゃあぁ、ス、スーさん、ここは二階よ、いい、じっとしていて。ゆっくり窓を開けるから、落ちないでね。大丈夫よ、すぐに部屋に入れるわ」
自分がいるのが二階だと思い出したティナは悲鳴を上げる。
慌てて窓へと駆け寄ると、窓を開けようとするが、なかなか上手くいかない。
王宮の建物は賊の侵入などを考えて、やたらと頑丈に作られているし、作りが大きい。
テラス窓ではないが、小柄なティナは四苦八苦している。
(ご主人様、大丈夫ですよぉ。こちらから開けますから)
「ティナ、俺は飛んでいるから落ちないぞ。ティナが落ち着け」
「へー、あの人が主なんだ」
スーは窓の桟に器用に乗って、触手を使って窓を開ける手伝いをしている。
ちょうちょはちょっと呆れているし、つままれたままのスライムは、興味深そうだ。
「や、やっと開いたわ! ゆっくりよ、ゆっくり入って来てね、落ちないように、そうそう、上手よ」
ティナはスー達が入って来るのを見届けると、緊張を解く。
あらためてご主人様を見ると、ちょうちょが言っていたように、キラキラしていた。
化粧をしているのか、妙に血色がいいし唇がツヤツヤしている。
これがドレスというのか、魔獣のスーには分からないが、裾がやたらと開いている服を着ている。
肩は出ているのに、下半身にいくほど布の量が多くなっている。
ちょうちょが着せられていた、ファンシーな貫頭衣よりもフリルやリボンがやたらと付いていて、動きにくそうだ。
ちょうちょが着せられていた……。
スーは思い出した。
(ヤバイぞっ、ご主人様から貰った服を置いてきたままだーーーっ)
「わーっ、忘れてたっ!!」
スーとちょうちょは阿鼻叫喚に陥るのだった。
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