最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ

文字の大きさ
1 / 109

プロローグ①

しおりを挟む
※ よろしくお願いします。



――― ――― ――― ――― ―――



スーは気ままに森を散策していた。
スーはスライムだ。それもレアでもない、そこら辺にウヨウヨいるブルースライム。

スライムは魔獣に分類されるが攻撃力なんて皆無で、獣よりも弱いどころか脆弱だ。それこそカラスにつつかれただけでも死んでしまうことがある。
そんなスライムだが、それでも魔獣だけあって人に害をなすことはあっても懐くことはない。
だがスーは違う。人に飼われている。それもペット枠だ。
ご主人様に可愛がられており、苦労知らずの生活を送っている。
優しいご主人様は、スーのことを檻に入れることも繋ぐこともしない。自由気ままに出歩くことが許されているのだ。

今もご主人様の元を離れて森へとやってきている。まあ散策とはいっても、おバカなスーにすれば、ただ森の中をフラフラと遊んでいるだけだ。
そう、スーはおバカだった。
これは仕方が無いことで、スライムという種族の特性ともいえる。スライムという種族全体がおバカなのだ。

スーもペットとして生活しているが “お座り” も “待て” も出来ない。憶えること自体ができないのだ。なんせおバカなのだから。
そんなスーだが、どんなにフラフラしていてもご主人様の元に帰ることだけはできている。本能ともいえる。だって、ご主人様と一緒にいることがスーの幸せだから。
スーはご主人様のことが大好きなのだ。

今いる場所はスーにとって初めての場所だったが、人里からほど近い場所にあり、そこまで森の奥というわけでもない。魔獣や魔物といった危険なものはいないだろう。
辺りに人影は無いし獣もいない。
だからスーは油断していた。

バサバサバサッ、バキバキィィッ!!
いきなり大きな音を立てて、目の前に何かが落ちてきた。
スーが見たこともない、とても大きなものだ。木から落ちたのか、もっと高い所から落ちてきたのか……。

驚いたスーは、危険かもしれないへと近づいていく。
おバカなスーには危機管理が少々。いや随分と欠落している。

それは随分と大きい。
ご主人様の両掌の上に乗ってしまえる程の大きさしかないスーからすれば、見上げても全体は見えないほどに大きかった。
生き物のようで、もがくように動いている。
鳥のような羽をバタつかせ、長い首を苦しそうに振っている。
鳥にしては羽毛が無く、トカゲのような皮膚をしている。飛びトカゲにしては大きすぎる……。なんて思考をスーはしていない。なんせおバカだから。

スーが考えていたのは『食べられる』か『食べられないか』だけだ。
スライムは食べるためだけに生まれてきたと言っても過言ではない種族で、食べることだけに特化している。
魔獣と呼ばれるにはおこがましい種族なのだ。
自分の数百倍はデカく、まだ生きて動いているというのに、スーはそいつを『食べ物』と判断した。いや判断なんてものはない。ただ単に食べようと思っただけだ。

スーは知る由も無いことだが、目の前で苦しんでいるのはワイバーンだった。
それも歳をとった経験値の高いオスのドラゴン種。
群れでボスの座に就いていたのだが、歳をとってしまったために若いオスからボス争いの戦いに挑まれ、敗れてしまった。
傷つき群れから追い出されてしまったのだ。
こんな人里に近い森まで来てしまったのも、必死で若いオスから逃げたためだ。
戦いで負った傷は深く、力尽き着地すらできずに落下してしまった。
とうとうワイバーンは、動くことも鳴くこともできなくなり動きを止めた。
死が近づいている。

スーはピョンピョンと身体を跳ねさせながら、ワイバーンの後ろ足部分に近づくと、自分の小さな身体を目一杯に広げ、取り込む食べるために密着する。
スライムは全身が消化器官のような働きをする。
最小最弱な魔獣だが、その消化吸収能力は他の追随を許さない。成獣レベル2になると、時間をかけさえすれば金属さえも溶かし、己の栄養にすることができる。

スーは固いワイバーンの表皮を溶かし、自分へと取り込もうとする。
レベル2になったばかりの若いスーは、それほど消化能力が強いわけではないため時間がかかる。だがスライムには食べることを諦めるという考えは無いし、元から考え事をしていない。
ゆっくりだが、少しずつ取り込んで行く。

どの位の時間が経ったか……。
ピロロローーン!!
スーの頭の中で、音が鳴り響く。

これまたスーは知る由も無いことだが、魔獣は経験値を得ることでレベルが上がる。
魔獣によって経験値の取得方法は様々だし、レベルが上がるために必要な経験値も違う。
同じなのはレベルが上がれば上がるほど、必要な経験値が多くなっていくということぐらいだ。
弱い種族ほど少ない経験値でレベルアップできる傾向にある。
スライム種は食べることに特化しているせいか、食べることによって相手の息の根を止めると経験値を得ることができる。死骸を食べても経験値は取得できない。

スライム種がレベル1からレベル2へレベルアップするための経験値は、わずか2~3ポイントでこと足りる。それでも草花や苔を食べているスライムにすれば、成獣となる頃に、やっとレベル2になれる。
食べることに特化しているスライムは、本能のままに生きていれば、いつの間にかレベル2へとレベルアップするということだ。

しかしそれ以降のレベルアップは無理というか出来ない。スライム種のレベルアップの条件が特殊だからだ。
レベル2以降の必要経験値がバグっている。
レベル3になるための必要経験値が膨大で1万ポイント以上が必要となる。それにレベル3以降のレベルアップにも他の魔獣ではあり得ない程の経験値が必要となっている。
なぜそんな仕様になっているのか、おバカなスライム種は考えたこともないだろうし、雑魚魔獣のスライムのことを研究しようなんていう殊勝な人族もいない。
スライムのレベルアップの仕組みを知っているのは神様製造元だけということになる。
だからこの世の中にはレベル3のスライムは存在しない。
それが当たり前のことだし、誰もが知っている事実だ。

ワイバーンがこと切れた時、ワイバーンの後ろ脚を食べていたスーは、ワイバーンの息の根を止めたと世界から認定されたらしい。
スーは大量の経験値を取ることができたのだ。

スーの頭の中でレベルアップを知らせる音が鳴り響く。
この世界でレベル2を超えたスライムが誕生した瞬間だった。



――― ――― ――― ――― ―――

※ 1日1話の投稿です。

しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい

あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。 誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。 それが私の最後の記憶。 ※わかっている、これはご都合主義! ※設定はゆるんゆるん ※実在しない ※全五話

愛娘(水蛇)から迫られています。誰か助けて下さい!

棚から現ナマ
ファンタジー
農作業の帰り道、川岸に赤ちゃんが泣いているのを見つけてしまったトール18歳。 なんやかんやあって、赤ちゃんを育てることになってしまった。 義理とはいえ父親になった俺は愛情を込めて赤ちゃんを育てた。それからあっという間に14年が過ぎ、赤ちゃんは可愛らしい女の子に成長した。 だが、子どもは素直なだけじゃない。成長すれば反抗期も来る。 『反抗期の方が良かったのに……』俺は嘆く、可愛い娘リディアには、反抗期よりも先に発情期が来てしまったのだから。 娘に迫られ(それも人外)、どうする俺。 おっさんとおっさんを好きすぎる水蛇娘のほのぼの生活。 リディアはトールには甘えっ子ですが、他には残酷な水蛇です。 残念なことに、Hな場面は、ありません。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...