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プロローグ①
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※ よろしくお願いします。
――― ――― ――― ――― ―――
スーは気ままに森を散策していた。
スーはスライムだ。それもレアでもない、そこら辺にウヨウヨいるブルースライム。
スライムは魔獣に分類されるが攻撃力なんて皆無で、獣よりも弱いどころか脆弱だ。それこそカラスに突かれただけでも死んでしまうことがある。
そんなスライムだが、それでも魔獣だけあって人に害をなすことはあっても懐くことはない。
だがスーは違う。人に飼われている。それもペット枠だ。
ご主人様に可愛がられており、苦労知らずの生活を送っている。
優しいご主人様は、スーのことを檻に入れることも繋ぐこともしない。自由気ままに出歩くことが許されているのだ。
今もご主人様の元を離れて森へとやってきている。まあ散策とはいっても、おバカなスーにすれば、ただ森の中をフラフラと遊んでいるだけだ。
そう、スーはおバカだった。
これは仕方が無いことで、スライムという種族の特性ともいえる。スライムという種族全体がおバカなのだ。
スーもペットとして生活しているが “お座り” も “待て” も出来ない。憶えること自体ができないのだ。なんせおバカなのだから。
そんなスーだが、どんなにフラフラしていてもご主人様の元に帰ることだけはできている。本能ともいえる。だって、ご主人様と一緒にいることがスーの幸せだから。
スーはご主人様のことが大好きなのだ。
今いる場所はスーにとって初めての場所だったが、人里からほど近い場所にあり、そこまで森の奥というわけでもない。魔獣や魔物といった危険なものはいないだろう。
辺りに人影は無いし獣もいない。
だからスーは油断していた。
バサバサバサッ、バキバキィィッ!!
いきなり大きな音を立てて、目の前に何かが落ちてきた。
スーが見たこともない、とても大きなものだ。木から落ちたのか、もっと高い所から落ちてきたのか……。
驚いたスーは、危険かもしれないそれへと近づいていく。
おバカなスーには危機管理が少々。いや随分と欠落している。
それは随分と大きい。
ご主人様の両掌の上に乗ってしまえる程の大きさしかないスーからすれば、見上げても全体は見えないほどに大きかった。
生き物のようで、もがくように動いている。
鳥のような羽をバタつかせ、長い首を苦しそうに振っている。
鳥にしては羽毛が無く、トカゲのような皮膚をしている。飛びトカゲにしては大きすぎる……。なんて思考をスーはしていない。なんせおバカだから。
スーが考えていたのは『食べられる』か『食べられないか』だけだ。
スライムは食べるためだけに生まれてきたと言っても過言ではない種族で、食べることだけに特化している。
魔獣と呼ばれるにはおこがましい種族なのだ。
自分の数百倍はデカく、まだ生きて動いているというのに、スーはそいつを『食べ物』と判断した。いや判断なんてものはない。ただ単に食べようと思っただけだ。
スーは知る由も無いことだが、目の前で苦しんでいるのはワイバーンだった。
それも歳をとった経験値の高いオスのドラゴン種。
群れでボスの座に就いていたのだが、歳をとってしまったために若いオスからボス争いの戦いに挑まれ、敗れてしまった。
傷つき群れから追い出されてしまったのだ。
こんな人里に近い森まで来てしまったのも、必死で若いオスから逃げたためだ。
戦いで負った傷は深く、力尽き着地すらできずに落下してしまった。
とうとうワイバーンは、動くことも鳴くこともできなくなり動きを止めた。
死が近づいている。
スーはピョンピョンと身体を跳ねさせながら、ワイバーンの後ろ足部分に近づくと、自分の小さな身体を目一杯に広げ、取り込むために密着する。
スライムは全身が消化器官のような働きをする。
最小最弱な魔獣だが、その消化吸収能力は他の追随を許さない。成獣になると、時間をかけさえすれば金属さえも溶かし、己の栄養にすることができる。
スーは固いワイバーンの表皮を溶かし、自分へと取り込もうとする。
レベル2になったばかりの若いスーは、それほど消化能力が強いわけではないため時間がかかる。だがスライムには食べることを諦めるという考えは無いし、元から考え事をしていない。
ゆっくりだが、少しずつ取り込んで行く。
どの位の時間が経ったか……。
ピロロローーン!!
スーの頭の中で、音が鳴り響く。
これまたスーは知る由も無いことだが、魔獣は経験値を得ることでレベルが上がる。
魔獣によって経験値の取得方法は様々だし、レベルが上がるために必要な経験値も違う。
同じなのはレベルが上がれば上がるほど、必要な経験値が多くなっていくということぐらいだ。
弱い種族ほど少ない経験値でレベルアップできる傾向にある。
スライム種は食べることに特化しているせいか、食べることによって相手の息の根を止めると経験値を得ることができる。死骸を食べても経験値は取得できない。
スライム種がレベル1からレベル2へレベルアップするための経験値は、わずか2~3ポイントでこと足りる。それでも草花や苔を食べているスライムにすれば、成獣となる頃に、やっとレベル2になれる。
食べることに特化しているスライムは、本能のままに生きていれば、いつの間にかレベル2へとレベルアップするということだ。
しかしそれ以降のレベルアップは無理というか出来ない。スライム種のレベルアップの条件が特殊だからだ。
レベル2以降の必要経験値がバグっている。
レベル3になるための必要経験値が膨大で1万ポイント以上が必要となる。それにレベル3以降のレベルアップにも他の魔獣ではあり得ない程の経験値が必要となっている。
なぜそんな仕様になっているのか、おバカなスライム種は考えたこともないだろうし、雑魚魔獣のスライムのことを研究しようなんていう殊勝な人族もいない。
スライムのレベルアップの仕組みを知っているのは神様だけということになる。
だからこの世の中にはレベル3のスライムは存在しない。
それが当たり前のことだし、誰もが知っている事実だ。
ワイバーンがこと切れた時、ワイバーンの後ろ脚を食べていたスーは、ワイバーンの息の根を止めたと世界から認定されたらしい。
スーは大量の経験値を取ることができたのだ。
スーの頭の中でレベルアップを知らせる音が鳴り響く。
この世界でレベル2を超えたスライムが誕生した瞬間だった。
――― ――― ――― ――― ―――
※ 1日1話の投稿です。
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スーは気ままに森を散策していた。
スーはスライムだ。それもレアでもない、そこら辺にウヨウヨいるブルースライム。
スライムは魔獣に分類されるが攻撃力なんて皆無で、獣よりも弱いどころか脆弱だ。それこそカラスに突かれただけでも死んでしまうことがある。
そんなスライムだが、それでも魔獣だけあって人に害をなすことはあっても懐くことはない。
だがスーは違う。人に飼われている。それもペット枠だ。
ご主人様に可愛がられており、苦労知らずの生活を送っている。
優しいご主人様は、スーのことを檻に入れることも繋ぐこともしない。自由気ままに出歩くことが許されているのだ。
今もご主人様の元を離れて森へとやってきている。まあ散策とはいっても、おバカなスーにすれば、ただ森の中をフラフラと遊んでいるだけだ。
そう、スーはおバカだった。
これは仕方が無いことで、スライムという種族の特性ともいえる。スライムという種族全体がおバカなのだ。
スーもペットとして生活しているが “お座り” も “待て” も出来ない。憶えること自体ができないのだ。なんせおバカなのだから。
そんなスーだが、どんなにフラフラしていてもご主人様の元に帰ることだけはできている。本能ともいえる。だって、ご主人様と一緒にいることがスーの幸せだから。
スーはご主人様のことが大好きなのだ。
今いる場所はスーにとって初めての場所だったが、人里からほど近い場所にあり、そこまで森の奥というわけでもない。魔獣や魔物といった危険なものはいないだろう。
辺りに人影は無いし獣もいない。
だからスーは油断していた。
バサバサバサッ、バキバキィィッ!!
いきなり大きな音を立てて、目の前に何かが落ちてきた。
スーが見たこともない、とても大きなものだ。木から落ちたのか、もっと高い所から落ちてきたのか……。
驚いたスーは、危険かもしれないそれへと近づいていく。
おバカなスーには危機管理が少々。いや随分と欠落している。
それは随分と大きい。
ご主人様の両掌の上に乗ってしまえる程の大きさしかないスーからすれば、見上げても全体は見えないほどに大きかった。
生き物のようで、もがくように動いている。
鳥のような羽をバタつかせ、長い首を苦しそうに振っている。
鳥にしては羽毛が無く、トカゲのような皮膚をしている。飛びトカゲにしては大きすぎる……。なんて思考をスーはしていない。なんせおバカだから。
スーが考えていたのは『食べられる』か『食べられないか』だけだ。
スライムは食べるためだけに生まれてきたと言っても過言ではない種族で、食べることだけに特化している。
魔獣と呼ばれるにはおこがましい種族なのだ。
自分の数百倍はデカく、まだ生きて動いているというのに、スーはそいつを『食べ物』と判断した。いや判断なんてものはない。ただ単に食べようと思っただけだ。
スーは知る由も無いことだが、目の前で苦しんでいるのはワイバーンだった。
それも歳をとった経験値の高いオスのドラゴン種。
群れでボスの座に就いていたのだが、歳をとってしまったために若いオスからボス争いの戦いに挑まれ、敗れてしまった。
傷つき群れから追い出されてしまったのだ。
こんな人里に近い森まで来てしまったのも、必死で若いオスから逃げたためだ。
戦いで負った傷は深く、力尽き着地すらできずに落下してしまった。
とうとうワイバーンは、動くことも鳴くこともできなくなり動きを止めた。
死が近づいている。
スーはピョンピョンと身体を跳ねさせながら、ワイバーンの後ろ足部分に近づくと、自分の小さな身体を目一杯に広げ、取り込むために密着する。
スライムは全身が消化器官のような働きをする。
最小最弱な魔獣だが、その消化吸収能力は他の追随を許さない。成獣になると、時間をかけさえすれば金属さえも溶かし、己の栄養にすることができる。
スーは固いワイバーンの表皮を溶かし、自分へと取り込もうとする。
レベル2になったばかりの若いスーは、それほど消化能力が強いわけではないため時間がかかる。だがスライムには食べることを諦めるという考えは無いし、元から考え事をしていない。
ゆっくりだが、少しずつ取り込んで行く。
どの位の時間が経ったか……。
ピロロローーン!!
スーの頭の中で、音が鳴り響く。
これまたスーは知る由も無いことだが、魔獣は経験値を得ることでレベルが上がる。
魔獣によって経験値の取得方法は様々だし、レベルが上がるために必要な経験値も違う。
同じなのはレベルが上がれば上がるほど、必要な経験値が多くなっていくということぐらいだ。
弱い種族ほど少ない経験値でレベルアップできる傾向にある。
スライム種は食べることに特化しているせいか、食べることによって相手の息の根を止めると経験値を得ることができる。死骸を食べても経験値は取得できない。
スライム種がレベル1からレベル2へレベルアップするための経験値は、わずか2~3ポイントでこと足りる。それでも草花や苔を食べているスライムにすれば、成獣となる頃に、やっとレベル2になれる。
食べることに特化しているスライムは、本能のままに生きていれば、いつの間にかレベル2へとレベルアップするということだ。
しかしそれ以降のレベルアップは無理というか出来ない。スライム種のレベルアップの条件が特殊だからだ。
レベル2以降の必要経験値がバグっている。
レベル3になるための必要経験値が膨大で1万ポイント以上が必要となる。それにレベル3以降のレベルアップにも他の魔獣ではあり得ない程の経験値が必要となっている。
なぜそんな仕様になっているのか、おバカなスライム種は考えたこともないだろうし、雑魚魔獣のスライムのことを研究しようなんていう殊勝な人族もいない。
スライムのレベルアップの仕組みを知っているのは神様だけということになる。
だからこの世の中にはレベル3のスライムは存在しない。
それが当たり前のことだし、誰もが知っている事実だ。
ワイバーンがこと切れた時、ワイバーンの後ろ脚を食べていたスーは、ワイバーンの息の根を止めたと世界から認定されたらしい。
スーは大量の経験値を取ることができたのだ。
スーの頭の中でレベルアップを知らせる音が鳴り響く。
この世界でレベル2を超えたスライムが誕生した瞬間だった。
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