32 / 109
30 入学試験・三次試験前日②
しおりを挟む(まあ、寿命が長いのはいいことだよな。それはいいとして、俺のレベルを教えてくれないか?)
これ以上寿命が長いことをどうこう言われても、自分ですら分からないのだからどうしようもない。スーは他のステータスを聞くことにする。
「おお、そうですな。スライム殿のレベルは……。5、レベル5ですな」
族長はスーを少しの間凝視すると答える。
「えっ、たったのレベル5!? 妖精喰いを一口で食っちまうヤツなのにレベル5だなんて信じられない」
スーが自分のレベルに対して何か言う前に、ちょうちょが騒ぎだした。
(まさかレベル5だったとはな。まあ、言われてみれば、元がレベル2だったとして、俺が成長痛になったのは3回だもんな)
スーにしても自分がレベル5だったのは驚きだが、考えてみれば納得だ。
「そうですな、儂ら妖精族ですらレベル5といえば、幼子のレベルですな……」
長老も驚いている。
スー本人もそうだが妖精達も、この世界のスライムはレベル2までしかいないことを知らない。
他の魔獣と同様にレベルは簡単に上がるのだと思っている。とは言ってもレベルは上がれば上がる程、次レベルにはなりにくくなるのだが、それでもレベル10くらいまでは、それほど苦労せずに上がるものだ。
「あんな触手を何本も出すようなキモスライムがレベル5だなんて信じられない。俺ですらレベル20は超えているのに」
(おまえは本人の前で、よくそんな悪口が言えるな。一度羽をむしられないと分からないみたいだな)
スーが本気で腹を立てているのか頭のてっぺんから触手が出そうになっている。
妖精のレベルは上がりにくい。
非力な妖精は争いを好まないし、生活をしていく上で、それほどまでに能力を使うことがないからだ。
それでも寿命が長い分、少ないながらも経験値が溜まりレベルは上がっていく。
ちょうちょも可愛らしい外見をしているが、人族からすれば随分と高齢といえるのだ。
「ま、まあ、種族ごとにレベルの強さは違いますからな。レベルが低いとはいえ、スライム殿がお強いのは分かっておりますとも。どうか触手を引っ込めてくだされ」
ちょうちょの命が危ぶまれるのか、長老が慌ててスーを諫める。
「へっへーん。レベル5なんて怖かないぜ」
(羽をむしられるだけじゃすまなそうだな。いっそ喰っちまうか)
ちょうちょがスーの周りを飛んで回り、スーの触手も伸びていく。
「ス、スライム殿、ジョブ! ジョブをお知らせしましょう」
「あっ、ジョブがあった」
(ジョブって何だ?)
慌てた長老の提案に、スーとちょうちょは長老へと視線を向ける。
「ジョブとは職業といいますか、現在の状態ですな。何か仕事に就いていればそれが表示されます。儂のジョブは “集落の相談役” と表示されております。先ほど驚いてしまったのは、スライム殿のジョブが見えてしまったからなのです」
(へー、そうなんだ)
スーは自分の状態がどう表示されているのか、見当も付かない。
レベルアップしたことにより、普通のスライムより少し逸脱(いつだつ)しているかもしれないが、それがジョブに反映されているのだろうか?
「なになに。デブスライムのジョブは何なの?」
(羽虫は煩い)
またもスーとちょうちょが険悪になりそうになり、慌てて長老は説明しだす。
「本来、魔獣がテイムされている場合、このジョブには “だれそれの従魔” と表示されるものです。ですがスライム殿には、その表示が無かった。その代わりに……」
(その代わりに?)
「なんて表示されているんだ?」
長老は言いにくそうに、そこで言葉を止めてしまった。
「あの、言ってもよろしいですかな? 聞かない方がいいかもしれませんぞ」
(いやいやいや、ここまで言っといて、止めるのは無しだぜ)
「そうだよ。俺も気になるじゃないか!」
(羽虫は聞かんでいい)
「俺は立ち会う義務がある」
(そんなもん無いわ)
またも言い合いを始めたスーとちょうちょを前に、長老は覚悟を決めたのか口を開く。
「スライム殿のジョブは……」
(俺のジョブは?)
「デブスライムのジョブは?」
スーとちょうちょは固唾をのんで長老の言葉の続きを待つ。
「スライム殿のジョブは……。“ティナのペット” です!!」
(え!?)
「なんと!?」
言いにくそうに、それでもきっぱりと長老は言い切った。
(そんな、あり得ない……)
スーは呆然としている。
「ス、スライム殿。落ち込む必要はないです。儂のステータスを見る能力はそれほど高くはありませんからな、見間違いということもあります。それにジョブは状態が変われば、すぐに変わるものです。安心してくだされ」
「そ、そうだぜ。大丈夫、すぐに変わるさ!」
長老とちょうちょがスーを励ます。
(あり得ない。あり得ないだろう。ペットだなんて、そんなジョブ、信じられない……)
「だ、だよな。ペットだなんて嫌だよな。でもジョブは変えられるんだから、すぐにペットなんて辞められるって!」
ちょうちょはスーの周りを飛びまわりながら、あれ程憎まれ口をたたいていたのに、一生懸命慰めている。
(はぁ、ペットを辞める? 何言ってんだ、辞めるわけがないだろう!)
「え、でもあり得ないって」
スーはちょうちょが周りを飛びまわるのが煩わしいのか頭(?)を振る。
(俺のジョブは間違っているって言ってんだよ)
「だからペットが嫌なんだろう」
(嫌なもんか。俺はご主人様のペットだ)
「じゃあ何が嫌なんだよ」
(おかしいだろう “ティナのペット” っていうのが信じられない。俺はご主人様の愛玩ペットなんだ。愛されているんだよ! ただのペットなんかじゃないっ!)
スーはフンスと鼻息荒く言い切る(鼻は無いが)
「愛玩……」
ペットなのが嫌じゃないんだ。そういや前にもペットだと自慢(?)していたことがあったな。
愛されって何だよ。どんだけ愛に貪欲なんだよ。
ちょうちょは脱力する。
「スライム殿は従魔ではなくペットなのですか?」
(おうよ。俺はご主人様に可愛がられているペットなんだぜ! それなのに、なぜジョブにはそこが反映されていないんだ。納得いかない)
ペットだといわれて、喜ぶどころか胸を張る魔獣がいようとは。
本来魔獣は人族とは相容れない。それに知能は高そうなのにプライドは無いのか?
長老は驚きを隠せない。
「お前、そんなジョブでいいのかよ?」
(当たり前だろう。俺はご主人様のペットだからな。これほど素晴らしいジョブはないぞ)
「いやいやいや、ペットだぞ」
(何だよ。文句でもあるのか? そんなに言うならお前のジョブは何なんだよ。御大層なジョブなんだろうな)
「俺か? 俺のジョブは……。何だっけ?」
(知らねーのかよっ!)
ちょうちょの返答にスーはずっこける。
(長老、偉そうなことを言っているこいつのジョブは何なんだ?)
「俺も知りたいです!」
スーとちょうちょは長老へと話を振るのだが、ちょうちょを見ている長老の表情がおかしい。
今まで散々驚くことはあったが、それ以上の驚愕の表情をしていた。
「長老、俺がどうかしたんですか?」
自分を見る長老の様子がおかしいことに気づき、ちょうちょは困惑するのだった。
171
あなたにおすすめの小説
愛娘(水蛇)から迫られています。誰か助けて下さい!
棚から現ナマ
ファンタジー
農作業の帰り道、川岸に赤ちゃんが泣いているのを見つけてしまったトール18歳。
なんやかんやあって、赤ちゃんを育てることになってしまった。
義理とはいえ父親になった俺は愛情を込めて赤ちゃんを育てた。それからあっという間に14年が過ぎ、赤ちゃんは可愛らしい女の子に成長した。
だが、子どもは素直なだけじゃない。成長すれば反抗期も来る。
『反抗期の方が良かったのに……』俺は嘆く、可愛い娘リディアには、反抗期よりも先に発情期が来てしまったのだから。
娘に迫られ(それも人外)、どうする俺。
おっさんとおっさんを好きすぎる水蛇娘のほのぼの生活。
リディアはトールには甘えっ子ですが、他には残酷な水蛇です。
残念なことに、Hな場面は、ありません。
授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
義妹がピンク色の髪をしています
ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。
神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい
あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。
誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。
それが私の最後の記憶。
※わかっている、これはご都合主義!
※設定はゆるんゆるん
※実在しない
※全五話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる