最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ

文字の大きさ
35 / 109

33 入学試験・三次試験①

しおりを挟む


「三次試験の受付はこちらでーす。登録しますので来てください」
迷いの森の学園側入り口から入ると、少し離れた所にテーブルが置かれ、その横で女性が手を振っていた。
一旦、試験会場側の入り口へ行き、係員に木札を渡し、また迷いの森へと戻ったので、時間はかかったが、先導するちょうちょがいたので、すんなりと森から出ることができた。

ティナは、とりあえずテーブルへと近づいて行く。
あの女性に紹介状を渡せばいいのだろうか? それとも食堂はどこにあるのか聞いた方がいいだろうか?
腹巻に入れた紹介状をいつ出すべきかとお腹に手を置く。

テーブルは3台並べられていて、テーブルごとに係員が座っている。
二次試験を通過出来た者は多く、テーブルごとに列ができており、受付をしているようだ。
どのテーブルに行こうかと周りを見回してみると、ティナ同様に魔獣を連れている受験生がいた。

「わぁ、スーさん見て、ワンちゃんだよ、可愛いねぇ」
男性というよりは少年が一匹の魔獣を連れている。
魔獣は全体的に濃い群青色をしており、長毛種とまではいかないが、長い毛並みが美しいグランデーションを作っている。
犬にしては大きいのだが、ティナはただの大型犬と思っているようだ。

(はぁ、可愛いだと? 可愛いのは最愛のペットである俺だけだろう。ちょっと毛が多いからって、ご主人様は騙されている。でもワンちゃんって何だ? ん、どこかで聞いたことがあるような……)
「あれはブルーウルフだよな。初めて見たけど、たぶんそうだ」
ちょうちょはちゃっかりスーの頭の上に止まる。飛ぶのが面倒になったのかもしれない。
考え込んでいるスーは気づいていないようだ。

「あっ、従魔だっ。従魔がいる。一緒、一緒!」
こちらに気づいたのかブルーウルフが尾っぽをブンブンと振っている。こっちに来たそうにしているが、ご主人様にしつけられているのか、その場から動くことはない。

(一緒にすんじゃねーよ、俺は従魔じゃないっ。なんて失礼な畜生なんだ。自分に毛が生えているからって、調子に乗るんじゃねーぞ!)
「キャインッ!!」
スーが威嚇いかくを放つと、ブルーウルフはスーの方が遥かに強いことが分かったのか、尾っぽを股に挟み、ご主人様の足の間に入り込む。

「ん、トムどうしたんだ?」
少年は自分の足の間で震えている従魔を見て、不思議そうにしている。

「お前、毛が無いことがコンプレックスなのかよ」
(はぁ、何言ってるんだ。このツヤツヤプルブルボディの俺が、コンプレックスを持っているわけがないだろうがっ)
少し哀れみが入ったちょうちょの言葉に、スーはムキになって反論するが、どうみたって毛が欲しそうだ。

ペット達が騒いでいても、ティナは気づいていない。仲がいいわねぇと思っているぐらいだ。
とりあえず一番近くの列に並んでみる。少し経つと自分の番が回ってきた。
テーブルの横の女性に話しかけるよりも先に、係員から目の前の椅子に座るように指示される。

「それでは本試験の登録をおこないますので、こちらに記入して下さい」
一枚の紙が目の前に置かれた。

「本試験?」
「三次試験からが本試験になります。まさかここに来られたから試験に合格したとは思っていませんよね」
不思議そうにしているティナに、係員が少し馬鹿にしたような表情を浮かべる。

(なんだこいつ。嫌な感じのヤツだな)
「だな」
ティナの足元で大人しく待つペット達は係員の態度にムッとする。

「あの、試験は続くんですか?」
「もちろんですよ。一次、二次は予備試験でしかありません。三次試験と、その次にある最終試験が本試験です。この学園は国内最高レベルの学校なんですよ。そんなに簡単に合格できるとは思わないで下さいね」
「まだそんなに……」
まだまだ試験が続くと聞かされ、ティナは気が遠くなりそうだ。
一体何時になったら就職できるのか。本当にこのまま就職できるのか心配になってしまう。

「次の方がいらっしゃいますので、早く記入して下さい」
「え、あ……」
係員からペンを押し付けられ、ティナは戸惑う。
ティナは文字を書くどころか、読むこともできないのだ。

「あの、字が書けなくて……」
「ああ、そういう方もいますね。次の方が待っているっていうのに、もっと早く言って下さいよ。じゃあ私の方で書きますから」
「すみません……」
小さくなるティナに係員は名前や年齢などを次々に質問すると用紙に記入していく。
毎年行われる試験の度に、一人や二人は文字の読み書きができない受験生がいる。係員は慣れたものだ。

「はい、登録が終わりました。三次試験から能力ごとに分かれての試験になります。あなたはテイマーですので “C” と書かれた立て札の所に行ってください」
係員はティナの足元にいるスーを見ると、ティナの話も聞かずに勝手に書類の能力欄にテイマーと書き込んでしまった。

「いえ、私はテイマーではなくて……。あのっ、あの、紹介状を貰っているんですけど、どこに出せばいいですか?」
「はぁ、紹介状ぉ」
思い切ってティナが申し出ると、係員が一瞬驚いた顔をした後に、わざとらしくため息を吐いてみせる。

「毎年いるんですよねぇ。紹介状があるから入学させろって言い出す人が。いいですか、ここは国内最高峰の王立ザイバガイト学園なんですよ。能力を重視する学校なんです。推薦入学なんてありえませんし、ましてや裏口入学しようだなんて、厚かましすぎます」
「え、いえ、違います。ちゃんと村長が書いてくれたものです……」
「村長……。たかだか村長ぉ。あなたねぇ、この学園を舐めているんですか? 名前も聞いたこともないような田舎の村の村長が何になると? あなたが王族だとでも言うのなら試験無しで入学することができるでしょうけどねぇ。言ってて恥ずかしくないんですか。それに教えてあげますよ、今年入学予定のクライブ殿下は、ちゃあんと入学試験をお受けになるんですよ、あなたと違ってね。あなたも折角一次試験と二次試験を合格したっていうのに、合格は取り消しですよ。さっさと帰りなさい」
係員は馬鹿にした表情のまま、いかにも早く行ってしまえと言わんばかりにシッシッとティナを追い払おうと手を振る。

不合格? ティナは慌てる。
そもそも係員の話の内容がよく理解できない。村長からは、この紹介状を出せば仕事に就けると言われていた。村長は嘘をつくような人じゃない。
それに、なぜ王族が就職試験を受けるのか。学園の経営でもするというのだろうか。

(おい、この係員をるぞ)
「了解。俺が加護を授けてやるよ。能力が爆上がりするから一瞬で殺れるぜ。ティナにはバレなきゃいいんだ。いけ!」
(おうよ!)
ペット達の物騒な話し合いは、合意の下、素早く終了した。
スーは頭から触手を出そうとして……。

「どうされましたか!」
年配の職員が慌てた様子で走ってやって来た。

「あ、主任。大丈夫ですよぉ、この受験生が厚かましくって。追い払う所ですから」
「ばかもんがっ! 係員が失礼しました」
主任と呼ばれた職員は、係員を一喝すると、ティナへと深々と頭を下げる。

「主任、頭なんか下げる必要はないですよ。この受験生は偽の紹介状を持っているなんて言って、裏口入学しようとしたんですよ。失格です」
「お前は黙っていろっ!」
「ええ……」
主任のあまりの剣幕に、係員は驚いて何も言えなくなってしまった。

「あ、いえ……」
主任と呼ばれた男性に頭を下げられティナは戸惑う。自分の親よりも年上に見える人に謝られ、どうしたらいいか分からない。

「ほら、お前もちゃんと謝らないか。誠に申し訳ありませんでした。この者には相応の罰を与えますので、ご容赦下さい」
主任は係員の頭を押さえ付けて頭を下げさせる。

「そんな、罰だなんて、私は大丈夫ですから」
なおさらティナは戸惑ってしまう。

「お心づかいありがとうございます。登録はお済になっているようですね。三次試験が始まりますので、あちらの黄色い立て札の方へ行かれてください」
係員は主任の手から逃れようともがいているが、主任の腕は外れない。
ティナは、このまま残っていてもいたたまれないので、頭を下げるとその場を離れる。

(ケッ、命拾いしたな)
「てめぇの顔は憶えたからな」
ペット達はティナに付いて行きながら、どこぞのチンピラのような捨て台詞を吐いている。

「主任、どうしてあんな裏口入学の受験生に頭を下げなきゃいけないんですか! それに罰だなんて、あんまりです」
自分は間違ったことはしていないのだと係員は不満を訴える。

「お前は学園の職員だというのに、あの少女が妖精を連れているのが分からなかったのか? 妖精は稀有けうな存在だ。それに人に使役されることはない。そんな妖精を連れているというのに、不合格にしようなどと、お前にそんな権限は無い」
「え、妖精? いやいや妖精だなんて、あの受験生はスライムを連れたテイマーですよ。従魔がスライムだなんて、二次試験が合格できたのだって、まぐれですよ」
「お前は……」
係員は馬鹿にした口調を改めようとはしない。
妖精が見えていないだけではなく、少女の連れていたスライムのことも見くびっている。

主任は目の前の係員が本当に何も気づいていないことに驚く。自分が出てこなければ、係員はこの世からいなくなっていただろうに。
あのスライムは、自分のあるじが係員から無下むげに扱われたことを理解していた。そして従魔のはずなのに、主の許可なく係員に対して殺意を向けていた。
たかがスライムなどとは言えない程の強い殺気を。
近くにいたブルーウルフなど、恐ろしさに逃げ出そうとして、テイマーから押さえ付けられていたぐらいだ。

それなのに……。
主任は、目の前で今だに不満そうな顔をしている係員を、この学園の職員でいることは不適切だと、見限ることにしたのだった。



しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい

あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。 誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。 それが私の最後の記憶。 ※わかっている、これはご都合主義! ※設定はゆるんゆるん ※実在しない ※全五話

愛娘(水蛇)から迫られています。誰か助けて下さい!

棚から現ナマ
ファンタジー
農作業の帰り道、川岸に赤ちゃんが泣いているのを見つけてしまったトール18歳。 なんやかんやあって、赤ちゃんを育てることになってしまった。 義理とはいえ父親になった俺は愛情を込めて赤ちゃんを育てた。それからあっという間に14年が過ぎ、赤ちゃんは可愛らしい女の子に成長した。 だが、子どもは素直なだけじゃない。成長すれば反抗期も来る。 『反抗期の方が良かったのに……』俺は嘆く、可愛い娘リディアには、反抗期よりも先に発情期が来てしまったのだから。 娘に迫られ(それも人外)、どうする俺。 おっさんとおっさんを好きすぎる水蛇娘のほのぼの生活。 リディアはトールには甘えっ子ですが、他には残酷な水蛇です。 残念なことに、Hな場面は、ありません。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...