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33 入学試験・三次試験①
しおりを挟む「三次試験の受付はこちらでーす。登録しますので来てください」
迷いの森の学園側入り口から入ると、少し離れた所にテーブルが置かれ、その横で女性が手を振っていた。
一旦、試験会場側の入り口へ行き、係員に木札を渡し、また迷いの森へと戻ったので、時間はかかったが、先導するちょうちょがいたので、すんなりと森から出ることができた。
ティナは、とりあえずテーブルへと近づいて行く。
あの女性に紹介状を渡せばいいのだろうか? それとも食堂はどこにあるのか聞いた方がいいだろうか?
腹巻に入れた紹介状をいつ出すべきかとお腹に手を置く。
テーブルは3台並べられていて、テーブルごとに係員が座っている。
二次試験を通過出来た者は多く、テーブルごとに列ができており、受付をしているようだ。
どのテーブルに行こうかと周りを見回してみると、ティナ同様に魔獣を連れている受験生がいた。
「わぁ、スーさん見て、ワンちゃんだよ、可愛いねぇ」
男性というよりは少年が一匹の魔獣を連れている。
魔獣は全体的に濃い群青色をしており、長毛種とまではいかないが、長い毛並みが美しいグランデーションを作っている。
犬にしては大きいのだが、ティナはただの大型犬と思っているようだ。
(はぁ、可愛いだと? 可愛いのは最愛のペットである俺だけだろう。ちょっと毛が多いからって、ご主人様は騙されている。でもワンちゃんって何だ? ん、どこかで聞いたことがあるような……)
「あれはブルーウルフだよな。初めて見たけど、たぶんそうだ」
ちょうちょはちゃっかりスーの頭の上に止まる。飛ぶのが面倒になったのかもしれない。
考え込んでいるスーは気づいていないようだ。
「あっ、従魔だっ。従魔がいる。一緒、一緒!」
こちらに気づいたのかブルーウルフが尾っぽをブンブンと振っている。こっちに来たそうにしているが、ご主人様に躾けられているのか、その場から動くことはない。
(一緒にすんじゃねーよ、俺は従魔じゃないっ。なんて失礼な畜生なんだ。自分に毛が生えているからって、調子に乗るんじゃねーぞ!)
「キャインッ!!」
スーが威嚇を放つと、ブルーウルフはスーの方が遥かに強いことが分かったのか、尾っぽを股に挟み、ご主人様の足の間に入り込む。
「ん、トムどうしたんだ?」
少年は自分の足の間で震えている従魔を見て、不思議そうにしている。
「お前、毛が無いことがコンプレックスなのかよ」
(はぁ、何言ってるんだ。このツヤツヤプルブルボディの俺が、コンプレックスを持っているわけがないだろうがっ)
少し哀れみが入ったちょうちょの言葉に、スーはムキになって反論するが、どうみたって毛が欲しそうだ。
ペット達が騒いでいても、ティナは気づいていない。仲がいいわねぇと思っているぐらいだ。
とりあえず一番近くの列に並んでみる。少し経つと自分の番が回ってきた。
テーブルの横の女性に話しかけるよりも先に、係員から目の前の椅子に座るように指示される。
「それでは本試験の登録をおこないますので、こちらに記入して下さい」
一枚の紙が目の前に置かれた。
「本試験?」
「三次試験からが本試験になります。まさかここに来られたから試験に合格したとは思っていませんよね」
不思議そうにしているティナに、係員が少し馬鹿にしたような表情を浮かべる。
(なんだこいつ。嫌な感じのヤツだな)
「だな」
ティナの足元で大人しく待つペット達は係員の態度にムッとする。
「あの、試験は続くんですか?」
「もちろんですよ。一次、二次は予備試験でしかありません。三次試験と、その次にある最終試験が本試験です。この学園は国内最高レベルの学校なんですよ。そんなに簡単に合格できるとは思わないで下さいね」
「まだそんなに……」
まだまだ試験が続くと聞かされ、ティナは気が遠くなりそうだ。
一体何時になったら就職できるのか。本当にこのまま就職できるのか心配になってしまう。
「次の方がいらっしゃいますので、早く記入して下さい」
「え、あ……」
係員からペンを押し付けられ、ティナは戸惑う。
ティナは文字を書くどころか、読むこともできないのだ。
「あの、字が書けなくて……」
「ああ、そういう方もいますね。次の方が待っているっていうのに、もっと早く言って下さいよ。じゃあ私の方で書きますから」
「すみません……」
小さくなるティナに係員は名前や年齢などを次々に質問すると用紙に記入していく。
毎年行われる試験の度に、一人や二人は文字の読み書きができない受験生がいる。係員は慣れたものだ。
「はい、登録が終わりました。三次試験から能力ごとに分かれての試験になります。あなたはテイマーですので “C” と書かれた立て札の所に行ってください」
係員はティナの足元にいるスーを見ると、ティナの話も聞かずに勝手に書類の能力欄にテイマーと書き込んでしまった。
「いえ、私はテイマーではなくて……。あのっ、あの、紹介状を貰っているんですけど、どこに出せばいいですか?」
「はぁ、紹介状ぉ」
思い切ってティナが申し出ると、係員が一瞬驚いた顔をした後に、わざとらしくため息を吐いてみせる。
「毎年いるんですよねぇ。紹介状があるから入学させろって言い出す人が。いいですか、ここは国内最高峰の王立ザイバガイト学園なんですよ。能力を重視する学校なんです。推薦入学なんてありえませんし、ましてや裏口入学しようだなんて、厚かましすぎます」
「え、いえ、違います。ちゃんと村長が書いてくれたものです……」
「村長……。たかだか村長ぉ。あなたねぇ、この学園を舐めているんですか? 名前も聞いたこともないような田舎の村の村長が何になると? あなたが王族だとでも言うのなら試験無しで入学することができるでしょうけどねぇ。言ってて恥ずかしくないんですか。それに教えてあげますよ、今年入学予定のクライブ殿下は、ちゃあんと入学試験をお受けになるんですよ、あなたと違ってね。あなたも折角一次試験と二次試験を合格したっていうのに、合格は取り消しですよ。さっさと帰りなさい」
係員は馬鹿にした表情のまま、いかにも早く行ってしまえと言わんばかりにシッシッとティナを追い払おうと手を振る。
不合格? ティナは慌てる。
そもそも係員の話の内容がよく理解できない。村長からは、この紹介状を出せば仕事に就けると言われていた。村長は嘘をつくような人じゃない。
それに、なぜ王族が就職試験を受けるのか。学園の経営でもするというのだろうか。
(おい、この係員を殺るぞ)
「了解。俺が加護を授けてやるよ。能力が爆上がりするから一瞬で殺れるぜ。ティナにはバレなきゃいいんだ。いけ!」
(おうよ!)
ペット達の物騒な話し合いは、合意の下、素早く終了した。
スーは頭から触手を出そうとして……。
「どうされましたか!」
年配の職員が慌てた様子で走ってやって来た。
「あ、主任。大丈夫ですよぉ、この受験生が厚かましくって。追い払う所ですから」
「ばかもんがっ! 係員が失礼しました」
主任と呼ばれた職員は、係員を一喝すると、ティナへと深々と頭を下げる。
「主任、頭なんか下げる必要はないですよ。この受験生は偽の紹介状を持っているなんて言って、裏口入学しようとしたんですよ。失格です」
「お前は黙っていろっ!」
「ええ……」
主任のあまりの剣幕に、係員は驚いて何も言えなくなってしまった。
「あ、いえ……」
主任と呼ばれた男性に頭を下げられティナは戸惑う。自分の親よりも年上に見える人に謝られ、どうしたらいいか分からない。
「ほら、お前もちゃんと謝らないか。誠に申し訳ありませんでした。この者には相応の罰を与えますので、ご容赦下さい」
主任は係員の頭を押さえ付けて頭を下げさせる。
「そんな、罰だなんて、私は大丈夫ですから」
なおさらティナは戸惑ってしまう。
「お心づかいありがとうございます。登録はお済になっているようですね。三次試験が始まりますので、あちらの黄色い立て札の方へ行かれてください」
係員は主任の手から逃れようともがいているが、主任の腕は外れない。
ティナは、このまま残っていてもいたたまれないので、頭を下げるとその場を離れる。
(ケッ、命拾いしたな)
「てめぇの顔は憶えたからな」
ペット達はティナに付いて行きながら、どこぞのチンピラのような捨て台詞を吐いている。
「主任、どうしてあんな裏口入学の受験生に頭を下げなきゃいけないんですか! それに罰だなんて、あんまりです」
自分は間違ったことはしていないのだと係員は不満を訴える。
「お前は学園の職員だというのに、あの少女が妖精を連れているのが分からなかったのか? 妖精は稀有な存在だ。それに人に使役されることはない。そんな妖精を連れているというのに、不合格にしようなどと、お前にそんな権限は無い」
「え、妖精? いやいや妖精だなんて、あの受験生はスライムを連れたテイマーですよ。従魔がスライムだなんて、二次試験が合格できたのだって、まぐれですよ」
「お前は……」
係員は馬鹿にした口調を改めようとはしない。
妖精が見えていないだけではなく、少女の連れていたスライムのことも見くびっている。
主任は目の前の係員が本当に何も気づいていないことに驚く。自分が出てこなければ、係員はこの世からいなくなっていただろうに。
あのスライムは、自分の主が係員から無下に扱われたことを理解していた。そして従魔のはずなのに、主の許可なく係員に対して殺意を向けていた。
たかがスライムなどとは言えない程の強い殺気を。
近くにいたブルーウルフなど、恐ろしさに逃げ出そうとして、テイマーから押さえ付けられていたぐらいだ。
それなのに……。
主任は、目の前で今だに不満そうな顔をしている係員を、この学園の職員でいることは不適切だと、見限ることにしたのだった。
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