【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

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後日譚

後日譚469.古傷が痛む外交官は上手くいったと思った

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 アールテアのとある領地を任されているハロルド・プランプトン侯爵は、庭師から知らせを受けて勢いよく立ち上がった。
 高い金を払って手に入れた椅子が音を立てて倒れるのを気にかける事もなく、開け放たれた扉から勢いよく飛び出した彼は走った。プランプトン侯爵を気にしながら小走りで先導をする庭師を気にする余裕もなく、とにかく走った。
 贅肉を揺らし、古傷が痛む足を庇いながら階段を駆け下りた彼は、侍女が開けた扉をそのまま通過し、生い茂った草を踏みしめながら突き進み、屋敷へと向かってきていたドライアドの集団と相対した。
 慌てた様子の『太い人間さん』をきょとんとしているドライアドと、目を見開いたプランプトン侯爵の視線が交差した。

「ふ、増えてる……」
「先程もお伝えした通り、見た事がない肌の色の者たちがいましたが、やはりドライアドで間違いないですよね……?」

 庭師の男がプランプトン侯爵に聞こえる程度の声量で問いかけたがドライアドじゃなかったら一体何なのかプランプトン侯爵は尋ねたい気分だった。頭の上に花が咲いているのはドライアド以外に聞いた事がない。

「なぜ増えて……いや、とにかく私が話す。お前たちは下がっていろ」
「かしこまりました」

 ついて来ていた侍女や護衛、それからドライアドを捜索していた私兵を下がらせると、一歩、また一歩とドライアドたちを刺激しないように気を付けつつ、ゆっくりと近づいた。

「人間さん、こんにちは!」
「む、あ、ああ。こんにちは。今日もいい天気だな」
「そうだね~。みんなすくすく育ついい天気だね」
「日向ぼっこ日和でござる~」
「記録をとったら日向ぼっこしてのんびりする?」

 魔道具『魔動カメラ』を髪の毛でしっかりと持ち上げている肌の白いドライアドが問いかけると、褐色肌のドライアドが首を傾げて「街は広いから時間がかかるかも~」と答えた。
 話に入るタイミングを窺っていたプランプトン侯爵が慌てた様子で「街に行くのか!?」と話に割り込んだ。

「街へは何もしないって言う話だったはずだ!」
「あれ~? そういう約束だったっけ?」
「私たちは知らないでござるよ」
「約束したのはあなたたちだから私たちは知らないよー」
「私の屋敷が建てられているこの場所の敷地内と、壁の外側に広がっている畑なら自由にしていい、という話だったはずだ。そうだろう?」

 落ち着いて話をしようと心掛けてプランプトン侯爵がそういうと、褐色肌のドライアドが「そうだったね。他の所に植えてはいけない、って話じゃなかったよね~」とニコニコしながら言った。

「いや、流石に街中は困る。屋敷の周りだけでも問題になっているのに、街まで同様な状態になったらもはやそれは街じゃなくて森だ」
「周りに自然がいっぱいあるいい街になりそうだね~」

 声を荒げてしまいそうになったプランプトン侯爵は言葉を一度飲み込み、ゆっくりと深呼吸してから口を開いた。

「とにかく、自由を許可していない場所には勝手に物を植えないでもらいたい。もし仮に、勝手に草木が広がっていたら伐採なりなんなり強硬手段を取らせてもらう」
「しょうがないなぁ。見つけたらそうして良いよ。それじゃあ私たちは今からする事があるから」
「ばいばーい」
「さよならでござる」
「待て待て待て。勝手に話を終わらせようとするんじゃない」

 横を通り過ぎ去ろうとしたドライアドたちに回り込み、プランプトン侯爵が再び立ちはだかった。その様子は肌が白いドライアドが構えた『魔動カメラ』にしっかりと納められている。

「まだなにかあるの? 今からしなくちゃいけない事があるんだけど」
「しなくちゃいけない事についても含めて色々聞きたいが、なによりも聞きたいのがその後ろの者たちについてだ。彼女たちは何者で、なぜここに来たんだ? まさかさらに敷地内を緑で溢れさせよう、という訳じゃないよな?」
「面白そう!」
「やるでござるか?」
「それはやめてほしいという話をしているんだが!?」
「でも私たちの自由だし~」
「やる事が終わったらするでござるか?」
「来たついでだし良いかもねぇ」
「ほんとにこれ以上は勘弁してくれ。今でさえ敷地から外に出るの荷馬車すら使えないありさまなんだ。これ以上は本当に足の踏み場すらなくなってしまう」
「通り道は作っておいてあるでしょ?」
「草ばっかでどれがどれだか分からん! 今踏んでいる草が何で踏んで良くて、私の私兵が踏んだ草がダメなのかはっきりわかるように説明をしてくれ」
「見れば分かるじゃん」
「そうでござるなぁ」
「申し訳ないが今はこちらのドライアドと話をしているんだ。後から来たあなたたちは一旦静かにしててくれ」
「お澄まし?」
「お澄ましかもしれないでござるなぁ」

 せーの、と掛け声を合わせて澄ました顔になったドライアドたちを放っておいて、目の前の褐色肌のドライアドに視線を戻したプランプトン侯爵。
 その後、しっかりと説明を受けたのだがそれでも判別はできないままだった。

「しょうがないから通り道の所は分かるようにしておいてあげるね」
「むしろこちらが指定したところは何もしないでほしいんだが……」

 力なき言葉は聞こえなかったのか、それとも聞こえないふりをしたのか。褐色肌のドライアドは気にした様子もなく今来た道に対して魔法をかけた。
 生えていた草が急速に成長したかと思うとその後に枯れてしまい、一本道が出来上がった。
 その一部始終を見ていたプランプトン侯爵とその場に居合わせた者たちは目を丸くしてその様子を見ていた。
 結局、その魔法を見た衝撃で、どうして褐色肌のドライアド以外が来ているのか聞いた事をプランプトン侯爵も忘れてしまうのだった。
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