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第19章 自衛しながら生きていこう
幕間の物語181.ご隠居は伝える内容を吟味した
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クレストラ大陸の中央よりも少し南に、天を貫くほど巨大な木、フソーがあった。
その周囲には森が広がり、さらに外側にはぐるりと囲うように街が広がっている。
世界樹フソーの影響で、周囲一帯は肥沃な大地として知られていて、農業も盛んだった。だが、それも数カ月前までの話だ。
世界樹からみて南側の街は武装した兵士たちが行き来していて、世界樹フソーに向けて森の中を探索しに行く者もいれば、北側との境界線となっている所の近くに集まって北側の様子を見ている者たちもいた。
一方北側は一部以外は、ゴーストタウンのような雰囲気が漂っている。
南側との境界線には多くの兵士が待機していたが、その兵士たちは国境線の防衛のため街に来る事はない。
人の気配がない建物が並ぶ中、世界樹から北に向かってまっすぐに伸びた大通りに、広めの空き地ができていた。
街の中にいきなり現れた畑の中で作業をしているのはドレスを着た金色の髪の少女だ。
彼女の顔の横に二つあるドリルのような縦巻きロールが夕日に照らされて煌めいている。
その様子を眺めていたのは一人の年老いた男性だった。
彼の名前はサラディオ・ディ・サンペリエ。
クレストラ大陸の最も東にあるサンペリエ王国の元国王だ。
彼の後ろに控えている護衛たちも、歴戦の戦士たちのような雰囲気が漂っている。
その中でもそう白髪の男性がサラディオに近づいて行き耳打ちをする。
「サラディオ様、そろそろ戻られた方がよろしいかと」
「わかっておるわい。さっさと戻って報告するかのぅ」
面倒臭そうに言いながら畑からさらに北へと歩き始めたサラディオの後に護衛たちが続く。
彼らが向かう先にあるのは、迎賓館と呼ばれている建物の近くに設置されている『転移門』という魔道具だった。転移門の周囲には巨大な市場が出来上がりつつあり、そこでは四ヵ国の名産品が売られている。
サラディオはその市場を素通りして、サンペリエに繋がる転移門へと向かうと、その門を守るようにエルフが二人並んで立っていた。
サラディオは彼らに手首に着けていた布を見せると、エルフたちは道を開けた。
異世界の勇者たちが作った神社と呼ばれる場所の入り口によく置かれている『鳥居』に似た形の物に魔石を設置すると、『転移門』に刻まれた複雑な文様が青白く光り輝く。
門の内側に魔力の光が集まり、一際明るくなる。
眩しくて思わず目を細めている間に彼らの前にあった転移門の向こう側の景色が様変わりしていた。
「問題ないようじゃのう」
「サラディオ様! 一度通ったからといって先に行こうとしないでください!」
「大丈夫だと思うんじゃが……」
サラディオが連れてきた兵士の一部が先に転移門を潜ると、何事もなく向こう側へと行く事ができた。
向こうに行った兵士の合図を確認してからサラディオを囲むように歩いていた者たちが歩き始め、サラディオもまた転移門へと向かって行く。
転移門をくぐる瞬間、転移門に設置された魔石から放たれる魔力の膜のような物を感じるがその程度だ。
何事もなくくぐり終えたサラディオたちを出迎えたのは、サンペリエ軍の兵士たちだった。
転移門をぐるりと取り囲むように布陣していた彼らは、転移門からもしも他国の者が攻めてきても問題がないように手配された者たちだ。
常日頃は近くにある駐屯所で寝泊まりしながら鍛錬に励み、転移門に異変があった時や繋げる時にこのように取り囲む事になっていた。
転移門の説明を受けた際に、魔石を設置しない限りは勝手に入ってくる事は出来ないと言われていた。
だが、そのまま鵜呑みにするほどシズトたちとの関係性を構築出来ていないから現国王がこのような対応をするのが当然だろうな、とサラディオは改めて思った。
ただ、少なくとも今回あった世界樹の使徒が転移門を悪用しようと考えるような少年には見えなかったのだが――。
「父上、無事にお帰りになられて良かったです」
サラディオに声をかけたのは、煌びやかな装飾がされた防具を身に着けた中年の男だった。
彼の名前はマッフィロ・ディ・サンペリエ。サンペリエ王国の現国王である。
クレストラ大陸も魔物の脅威や他国の侵略の可能性も踏まえ『戦う王』が求められる事が多い。
そのため、マッフィロもサラディオ同様、鍛え抜かれた体躯をしている。
「わしの留守の間、サンペリエは何事もなかったか?」
「国境付近でヤマトの動きが多少ありましたが、南に関しては何も問題ありません。ただ、首都に関しては……ほら、あのように商人たちが周辺の地域から大量に集まってきては向こう側へと行こうとしています」
マッフィロの視線を追ってサラディオが後ろを振り向くと、転移門をくぐろうと、大量の馬車が並んで待っていた。
サラディオが出てきた方向とは逆から入ろうとしているようだ。
向こうにいた兵士たちが全員戻ってくるまで待機するように言われていたのか、目の前で馬車の群れが動き始めた。
「向こうから戻ってくる商人たちは異国の特産品を大量に仕入れてきます。それを首都以外の街へと売りに行くのでしょう。首都の住人達はフソーに行く事ができますから自分たちで買いますから、当然でしょうね」
「やはり経済の影響はとても大きいのう。話に乗っかっておいてよかったわい」
「そうですね。危険性を声高に主張していた者たちも、転移門の利益を知ると我先にと御用商人を送り付けているようです」
「まあ、そうじゃろうな。……色々報告をしたい事があるんじゃが、すぐにでも友好国に手紙を書かねばならん。しばらく待っておれ」
「かしこまりました」
サラディオはその場を後にしながら手紙に書く内容を考える。
(経済的な面で考えても乗り遅れないように伝えた方が良いじゃろうし、シズト殿たちからも転移門の事を広めて欲しいと言われておるからその事は書くとして……あの魔道具を伝えるべきか悩むのう。どうせすぐに広まるじゃろうから伝えてしまってもよい気がするが、アダマンタイト製だったとは……。伝え方を気を着けねば、ドワーフたちは大挙する事になりそうじゃ)
サンペリエ王国の友好国の中にはドワーフの国もあった。
遅かれ早かれ伝わるだろうが、これ以上混乱を招くのは避けた方が良いような気もするサラディオだった。
その周囲には森が広がり、さらに外側にはぐるりと囲うように街が広がっている。
世界樹フソーの影響で、周囲一帯は肥沃な大地として知られていて、農業も盛んだった。だが、それも数カ月前までの話だ。
世界樹からみて南側の街は武装した兵士たちが行き来していて、世界樹フソーに向けて森の中を探索しに行く者もいれば、北側との境界線となっている所の近くに集まって北側の様子を見ている者たちもいた。
一方北側は一部以外は、ゴーストタウンのような雰囲気が漂っている。
南側との境界線には多くの兵士が待機していたが、その兵士たちは国境線の防衛のため街に来る事はない。
人の気配がない建物が並ぶ中、世界樹から北に向かってまっすぐに伸びた大通りに、広めの空き地ができていた。
街の中にいきなり現れた畑の中で作業をしているのはドレスを着た金色の髪の少女だ。
彼女の顔の横に二つあるドリルのような縦巻きロールが夕日に照らされて煌めいている。
その様子を眺めていたのは一人の年老いた男性だった。
彼の名前はサラディオ・ディ・サンペリエ。
クレストラ大陸の最も東にあるサンペリエ王国の元国王だ。
彼の後ろに控えている護衛たちも、歴戦の戦士たちのような雰囲気が漂っている。
その中でもそう白髪の男性がサラディオに近づいて行き耳打ちをする。
「サラディオ様、そろそろ戻られた方がよろしいかと」
「わかっておるわい。さっさと戻って報告するかのぅ」
面倒臭そうに言いながら畑からさらに北へと歩き始めたサラディオの後に護衛たちが続く。
彼らが向かう先にあるのは、迎賓館と呼ばれている建物の近くに設置されている『転移門』という魔道具だった。転移門の周囲には巨大な市場が出来上がりつつあり、そこでは四ヵ国の名産品が売られている。
サラディオはその市場を素通りして、サンペリエに繋がる転移門へと向かうと、その門を守るようにエルフが二人並んで立っていた。
サラディオは彼らに手首に着けていた布を見せると、エルフたちは道を開けた。
異世界の勇者たちが作った神社と呼ばれる場所の入り口によく置かれている『鳥居』に似た形の物に魔石を設置すると、『転移門』に刻まれた複雑な文様が青白く光り輝く。
門の内側に魔力の光が集まり、一際明るくなる。
眩しくて思わず目を細めている間に彼らの前にあった転移門の向こう側の景色が様変わりしていた。
「問題ないようじゃのう」
「サラディオ様! 一度通ったからといって先に行こうとしないでください!」
「大丈夫だと思うんじゃが……」
サラディオが連れてきた兵士の一部が先に転移門を潜ると、何事もなく向こう側へと行く事ができた。
向こうに行った兵士の合図を確認してからサラディオを囲むように歩いていた者たちが歩き始め、サラディオもまた転移門へと向かって行く。
転移門をくぐる瞬間、転移門に設置された魔石から放たれる魔力の膜のような物を感じるがその程度だ。
何事もなくくぐり終えたサラディオたちを出迎えたのは、サンペリエ軍の兵士たちだった。
転移門をぐるりと取り囲むように布陣していた彼らは、転移門からもしも他国の者が攻めてきても問題がないように手配された者たちだ。
常日頃は近くにある駐屯所で寝泊まりしながら鍛錬に励み、転移門に異変があった時や繋げる時にこのように取り囲む事になっていた。
転移門の説明を受けた際に、魔石を設置しない限りは勝手に入ってくる事は出来ないと言われていた。
だが、そのまま鵜呑みにするほどシズトたちとの関係性を構築出来ていないから現国王がこのような対応をするのが当然だろうな、とサラディオは改めて思った。
ただ、少なくとも今回あった世界樹の使徒が転移門を悪用しようと考えるような少年には見えなかったのだが――。
「父上、無事にお帰りになられて良かったです」
サラディオに声をかけたのは、煌びやかな装飾がされた防具を身に着けた中年の男だった。
彼の名前はマッフィロ・ディ・サンペリエ。サンペリエ王国の現国王である。
クレストラ大陸も魔物の脅威や他国の侵略の可能性も踏まえ『戦う王』が求められる事が多い。
そのため、マッフィロもサラディオ同様、鍛え抜かれた体躯をしている。
「わしの留守の間、サンペリエは何事もなかったか?」
「国境付近でヤマトの動きが多少ありましたが、南に関しては何も問題ありません。ただ、首都に関しては……ほら、あのように商人たちが周辺の地域から大量に集まってきては向こう側へと行こうとしています」
マッフィロの視線を追ってサラディオが後ろを振り向くと、転移門をくぐろうと、大量の馬車が並んで待っていた。
サラディオが出てきた方向とは逆から入ろうとしているようだ。
向こうにいた兵士たちが全員戻ってくるまで待機するように言われていたのか、目の前で馬車の群れが動き始めた。
「向こうから戻ってくる商人たちは異国の特産品を大量に仕入れてきます。それを首都以外の街へと売りに行くのでしょう。首都の住人達はフソーに行く事ができますから自分たちで買いますから、当然でしょうね」
「やはり経済の影響はとても大きいのう。話に乗っかっておいてよかったわい」
「そうですね。危険性を声高に主張していた者たちも、転移門の利益を知ると我先にと御用商人を送り付けているようです」
「まあ、そうじゃろうな。……色々報告をしたい事があるんじゃが、すぐにでも友好国に手紙を書かねばならん。しばらく待っておれ」
「かしこまりました」
サラディオはその場を後にしながら手紙に書く内容を考える。
(経済的な面で考えても乗り遅れないように伝えた方が良いじゃろうし、シズト殿たちからも転移門の事を広めて欲しいと言われておるからその事は書くとして……あの魔道具を伝えるべきか悩むのう。どうせすぐに広まるじゃろうから伝えてしまってもよい気がするが、アダマンタイト製だったとは……。伝え方を気を着けねば、ドワーフたちは大挙する事になりそうじゃ)
サンペリエ王国の友好国の中にはドワーフの国もあった。
遅かれ早かれ伝わるだろうが、これ以上混乱を招くのは避けた方が良いような気もするサラディオだった。
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