【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

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第23章 呪いの対策をしながら生きていこう

481.事なかれ主義者は食事を優先した

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 呪いが広まった方法が推測されてから数日が経った。
 あの日の翌日には『身代わりのお守り』を使った実験が行われ、今回の呪いは『生物に伝播する』性質がある事がわかった。
 呪われた者と接触したゴーレムに他の人が触れても呪われる事はなかったらしいけど、魔法生物に触れたら呪われた事から判断したようだ。
 また、相手に呪いを移したとしても、自身に掛けられた呪いが減衰する事はないようだ。むしろ頻繁に関わる人同士で呪いを移し合っていたとかありそう。
 呪いが効果を発揮するまでの期間とか、どのくらい呪いが重複したら重症化するのかとかは分からないけど、これで最低限今後の対応策は考える事はできるだろう。
 僕はその日から禁足地の外に出る事はせずにせっせと木製のマネキンのような見た目の物に【付与】でゴーレム化していく。
 付与対象のマネキンは、魔力節約のために最北端の国であるナウエストのエルフたちに量産してもらっている。
 ドワーフに依頼しても良かったんだけど、ムサシがエルフに依頼すると言ったので任せた。何かしらの意図があるのだろう。
 ドライアドたちにじろじろと見られながらジュリウスが差し出してくるマネキンに手を触れて【付与】をしていると、お菊ちゃんが部屋にやってきた。

「人間さん、フソーちゃんが葉っぱはもういいの? って聞いて来るんですが、もういいんですか?」
「うん、とりあえず要らないかな」

 ドライアドたちにはここ数日でたくさんの世界樹の葉っぱを収穫してもらった。
 一枚がとても大きな葉っぱだけど、一人分のエリクサーを作るには数枚じゃ全然足りない。
 だからパッと見て「葉っぱが少なくなったな」と分かる程度にはむしってもらったけど、これ以上はしばらく必要ないだろう。
 エリクサーの供給と、損害を被ったと主張してくるであろう人たちの対応は全てムサシに任せている。
 そのムサシはというと、今日も国際会議に議長として出席している。

「ムサシが帰ってくるまで待った方がいいかな?」
「お好きなようにされたらよろしいかと」
「そっか。……とりあえずマネキンゴーレムと、こっちの大陸用の『加護無しの流星錘』を作ったら考えようかな」

 毎日届く皆からの手紙で他愛もない日常の事は分かるんだけど、向こうの呪いの蔓延状況とか分からないからそろそろ戻りたいんだよね。世界樹フソーのお世話は十分したし。
 どうしたものか、と考えながらせっせと魔道具を量産している間にムサシが戻ってくる事はなかった。
 ムサシが帰ってくるまで待っても良かったんだけど、お菊ちゃんにムサシへの伝言をお願いし、ガレオールを経由してファマリーへ帰る事にした。

「エリクサーは自由にしていいって伝えておいてね」
「分かりました。人間さん、次はいつ来るんですか?」
「んー、一週間後か二週間後くらいかなぁ」
「すぐなのに伝言いるんですか?」
「人間的にはすぐじゃないんだよ」
「そうですか……?」

 納得していない様子だけど、お菊ちゃんは必ず伝えると言ってくれたので「日が沈む前には伝えてね」と念のため付け足しておく。
 やっぱり長命種との時間の感覚の違いは慣れないなぁ、なんて思いながらもガレオールを経由してファマリーの根元へと戻った。
 ガレオール実験農場は、しばらく見ない間に広げられている様だったけど、楽しそうにドライアドたちが働いているようで良かった。



 ファマリーに戻って最初に出迎えてくれたのはやっぱりレヴィさんとセシリアさんだった。
 レヴィさんはお腹に負担をかけないように着始めたオーバーオールを今日も着用している。もちろん、汚れがついてもすぐに取れるように魔道具化済みだ。
 セシリアさんはというと、いつも通り黒が基調のメイド服を着ている。農作業をするのに長いスカートは邪魔じゃないのかちょっと心配だけど、彼女の服も全て魔道具化しているので、レヴィさんを追いかけ回した後も綺麗なままである。髪と同色の薄い青色の切れ長な目は、レヴィさんに向けられていて、何があってもいいようにいつでもスタンバっている様だった。
 レヴィさんの妹であるラピスさんも少し離れた所にいるけど、僕たちの方をちらちら見ながら何やらノートのような物に書いている様だったのでスルーしておく。
 なんか彼女の近くにいるドライアドたちがジトーッと彼女を見ている様だったけど、まあ大丈夫だろう。

「お帰りなのですわ! 体調に変化はないですわ?」
「大丈夫だよ。むしろレヴィさんこそ大丈夫なの?」
「全く問題のですわ~。産婆の方からも、間違いなく神々の加護を授かっているでしょう、と太鼓判を貰ったのですわ!」
「万が一があるかもしれないからしばらくは激しい運動をしないように、と言われているんですけどね」
「これでも控えている方ですわ」

 普段の農作業の量が異常なんだろうなぁ。っていうか、王女様が農作業をすること自体が異常なんだろうけど、もう見慣れ過ぎて普通になってるわ。
 僕が歩き始めると、レヴィさんとセシリアさん、それからレヴィさんを警護している近衛兵たちがぞろぞろと動き始める。近衛兵たちを追い越すようにして僕の周りに集まってきたドライアドは建物の中には入れない。

「ケチ~」
「入れろ~」
「ちょっとだけ!」

 文句を言いながら近衛兵たちに一人一人大事に抱えられているドライアドたちと別れを告げて屋敷に入る。
 レヴィさんたちも昼休憩にする事にしたようだ。
 食堂に入ると、魔力マシマシ飴を舐めていたラオさんが僕に向けて軽く手を挙げながら話しかけてきた。

「おう、帰ったのか」
「うん。ただいま」
「お帰りなさい、シズトくん! 元気にしてた?」
「手紙で元気だって伝えてたでしょ」
「ちゃんと見ないと安心できないんだから仕方ないでしょ!」

 まあ、それはそうだけど。
 こっちに戻ってくる前の自分の気持ちを思い出して口を噤み、ルウさんの気が済むならとハグも甘んじて受け入れる。
 今日のルウさんは防具は身に着けておらず、上はタンクトップを着用しているだけだった。
 柔らかな感触といい香りが僕を襲う。
 真昼間からそういう気分になるわけには行かないから、心を無にして耐えていると、レヴィさんが食堂の中にいる人を見回した。

「全員揃ったのですわ? 食事にするのですわー」
「ほら、ルウさん。早く離して」
「また後で呪われてないか、体を見せてね?」

 ルウさんが名残惜しそうに僕を解放すると、席に向かいながら当たり前の事のように言ってきたけど「いや、見せないからね」というのを忘れない。忘れると見せる事になるのは知ってるから。
 僕が席に着き、食卓を囲んでいる皆で食事前の挨拶をしようと手を合わせたところで、室内にエルフが入ってきた。仮面をつけている所を見ると世界樹の番人の誰かだろう。
 彼……もしくは彼女は、皆の視線を浴びながら足早にジュリウスのもとに向かうと彼に耳打ちをした。
 壁際に控えていたエミリーとシンシーラの耳がピクピクッと反応している所を見ると聞こえたのだろう。

「シズト様、よろしいでしょうか」
「うん、いいよ」
「ありがとうございます。先程、イルミンスールにいるキラリーから報告があったようです」
「どんな内容だったの?」
「知の勇者とその仲間たちが邪神の信奉者の生け捕りに成功した、との事でした。いかがいたしますか?」
「いかがいたしますかって言われても……向こうで良い感じに対応しておいてもらえる? とりあえず食事したいし」

 ラオさんやルウさんなど冒険者組がが何とも言えない表情で僕を見てきたけど、話を聞いている間にご飯が冷めちゃったらよくないから仕方がない。
 本当に切羽詰まった状況だったら僕に聞こえるように言うだろうし。
 そう自分を正当化しながら、僕はのんびりと食事を進めるのだった。
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