【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

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後日譚

後日譚204.暗き森の住人たちは夜に出かける

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 アドヴァン大陸の中央から少し東にずれた所に聳え立つ世界樹カラバを中心にエルフたちの都市が広がっている。
 数年前から徐々に世界樹に異変が現れ、しばらくの間は世界樹の素材を買い付けにやってくる者も観光をしに来る他国の貴族も減っていたのだが、異大陸から世界樹を育む加護を授かった者がやってきてからは徐々に元に戻りつつあった。
 だが、元に戻らないものもある。以前までは禁足地として一部のエルフ以外立ち入り禁止されていた区画が、今では特定の人物以外全員立ち入り禁止となっていた。
 その原因は前任の世界樹の使徒が他国からの圧力に負けたのか、私欲に溺れたのか定かではないが、身内のエルフに命じて枝を切る事を命じた事が発端だった。
 世界樹の使徒は「今まで自分たちが育んでやったのだからこのくらいは問題ないはずだ」と高を括っていたようだったが、彼は枝を切ったエルフ諸共帰らぬ人となってしまった。
 だが、その程度でドライアドと世界樹に棲みついている魔物の怒りと防衛本能が収まる事はなかった。街を浸食しながら世界樹を囲う森を広げ、自分たちのテリトリーを増やし続けていた。
 異大陸から世界樹の使徒とドライアドがやってきた事により、森が広がる事はもうなくなったのだが、世界樹の根元に広がる森に入った者は特定の人物以外は全員帰らぬ人となる、と広まりつつあった。

「何とかなりませんか? 私が私財を投じて作り、貴重な薬草を育てていた畑が禁足地の中にあるんですが……」
「いやぁ、僕に言われてもどうしようもないですね。彼女らは僕の言う事は全く聞かないので」

 困った様に頭をぼりぼりとかきながら商人の男の問いかけに答えたのは、エルフの正装である真っ白な布地に金色の糸で蔦のような刺繍がされた服を着ているギュスタンだった。
 彼は時折転移陣でこっちにやってきては世界樹の根元で『生育』の加護を世界樹に向けて使っていたのだが、今日はこちらの大陸でも有数の豪商が「話したい事がある」と言っていた事を聞いて禁足地から出てきていた。

「そこを何とかしてもらえませんか? 私の商会の主力商品の材料がそこに集中しているんです。ないと困るのですが……」

 こっちの大陸では転移門とその周囲に広がるマーケットはない。それがあればまた状況は変わっただろうが、残念ながら物流革命は起きていなかったので、今まで通りの仕入れと販売をしているだけでは損害が大きいのだろう。
 それさえあればある程度金の工面はできるから、と拝み倒されたギュスタンは「とりあえずできる事はやってみます」と答えた。お金は正直いらなかったが、こちらの商人との繋がりはプラスになるだろう、と判断しての事だった。

「そういうわけだから、彼を畑まで入れてくれないかな?」
「だめ!」
「むり~」
「ここの子たちは誰も入れないでって言ってたです」


 ギュスタンが相談したのは、ギュスタンの体に引っ付いていたドライアドたちだ。
 肌が白い子と褐色肌の子、それから小柄で勇者のような肌の色をしたドライアドが一人ずつくっついていた。
 彼女たちはここのドライアドと協力関係を結んでいて、ギュスタンにくっついていない子たちも一定数こちらの世界樹にやってきていて森の中を警備している。

「人間でもダメになったのかい?」
「そうなの~」
「だめなの~」
「最近また夜の闇に紛れて侵入者するものがいたそうですが、人間だったそうです。お世話してくれる人間さんと、雨を降らせてくれる人間さん以外はだめって言ってたです」
「そっか……。じゃあ、僕だったら問題ないんだね?」
「ないよ~」
「大丈夫!」
「人間さんは世界樹に必要な存在ですから」

 ドライアドたちに確認を済ませたギュスタンは商人と話をつけて再び暗い森の中に入っていった。
 その様子を眠たそうな目で見ているのは、暗闇に同化する程真っ黒な肌のドライアドだった。
 彼女たちはギュスタンの後を追う事はなく、森と街の境界でうろうろと歩き回っている商人の監視をする訳でもなく、再び目を閉じた。
 彼女たちが目を覚ましたのは日が暮れ始めた頃だった。
 大きく伸びをしたり、作物を見て回ったり、森に異変がないかその目で確かめたりした彼女たちは、満足したら半数ほどが世界樹の根元へと集まってくる。
 世界樹の地表に露出している根っこの上に立って集まってくる子たちを見ているのは、黒い肌のドライアドたちと比べると大き目なドライアドだった。世界樹カラバ周辺に生息しているドライアドたちの古株で、シズトには『ヨルガオちゃん』と呼ばれているドライアドだ。

「点呼~」
「「「「いーち、にー、さーん」」」」

 まとめ役のヨルガオちゃんが大きな声で言うと、その場にいた全員が同時に数を数え始める。
 しばらくすると集まっていたドライアドたちが四つの集団に分かれた。他のドライアドたちに昼間は見張りをしてもらっていた代わりに、最近は夜の見張りは彼女たちがする事になっていた。
 順番に転移陣に乗っては転移していく様子をヨルガオちゃんは見守るのだった。
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