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後日譚
後日譚226.元社畜聖女は先送りにする
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白鳥麗華は前世ではいわゆるブラック企業に勤め、過労死した。
そんな彼女が新しい世界に行く際に求めた加護は、難病すらも癒す事ができる『聖女』だった。他人を癒すためではなく、自分が大怪我を負ったり、不治の病にかかってしまった場合に備えての事だった。
前世では周りの評価や、自己犠牲の精神が原因で亡くなる事になってしまった事を反省し、今回は自分の事を最優先にして生きようと決めていた。
そんな彼女が、滅亡したオールダムの再建に今も尚関わっていたのは、単純にタルガリア大陸のどこに行っても似たような状況だと聞いていたからだった。
中でも酷いのはオールダムだが、幸いな事に同郷の者が他にもいて、コミュニティを作る頃が出来たので身を寄せている。
他の国に逃げる事も考えた彼女だったが、中世の考え方が当たり前のこの世界で、自分の意志を貫く事は難しいと判断し、実行に移していなかった。
(あの人と繋がりが持てたら他の大陸に行けそうだけど……心証が悪いかしら?)
神から授かった力はこの大陸を復興するために使うように言われている。もしも自分の行動を神が見ているとしたら、何かしらの罰があってもおかしくはない。
それに前世と比べて蓄えもなければ戦う力もない。子孫がしっかりと加護を引き継いでいる事もあって希少ではないが、神様から直接聖女の加護を授かっている事がばれればどこかで囲い込まれて良いように使われる可能性だってあるという話を昨日聞いたばかりだった。
結局麗華は今日もまたいつも通り身支度をするのだった。
動きやすさを重視して長袖のトップスにズボンを着た麗華は前世とは桁違いの大きさの住まいから出ると、馬車に乗り込んだ。街の通りを歩くと髪を茶色に染めていても顔立ちが全く違うから注目を集めてしまうため、それを避けるために最近は馬車で移動している。
馬車は通りにたくさん咲いているホープという花を全く気にする事もなく走るため、車輪が花を踏みつけるのだが、しばらくすると元通りになっている。それでも呪われた土地を元に戻してくれるものだからと通行人は足元を気をつけながら歩いているし、浮遊台車は気持ち高めに浮遊しながらビュンビュン行き交っていた。
そんな窓の外の景色にも興味を示さず、麗華は加護を使う練習をしていた。昨日対談をした際にシズトが「加護はいつでも使いこなせるように練習しておくといいよ」と言っていたので実践しているようだった。
加護のおかげで神聖魔法や光魔法は詠唱をせずとも使う事が出来る彼女は、光魔法の『ライト』で車内を明るく照らしたり、神聖魔法の『浄化』を使って車内を綺麗にしたりしていた。
そうこうしている内に目的地に着いたようで馬車が停まる。最近ずっと入り浸っている会議場と呼ばれる円形の大きな建物だった。
「ありがとうございます」
扉を開けてくれた御者にチップを払った麗華は、喜びでブンブンと尻尾を振っている奴隷の子どもから目を逸らして建物へと向かう。
全身に刺青がある衛兵とも軽く挨拶を交わすと、開けてもらった扉をくぐって建物の中に入った。
真新しい建物である。どこもかしこも綺麗で、管理が行き届いている様だった。
いくつもある入口の中から正面にあった物を選んで中に入ると、半円形に配列された席は殆ど埋まっていた。麗華は正面中央にいくつかある高い椅子に一番近い最前列を目指す。
「おはようございます」
「おはよー」
「おはようございます」
「…………」
既に座っていた人物たちに声をかけると、各々が挨拶を返した。一人、声を発する事もなく軽く会釈しただけの人物もいたが、麗華は気にしない。
小柄で明るい髪色の女の子の隣に腰かけた麗華は、机の上に置かれていた資料に目を通した。
隣で朝から元気な女の子の話に適当に相槌を交わしつつ、一通り目を通したところで正面中央にある高い椅子に、議長として選ばれた中年女性が席に座った。オールダムで活動していた冒険者で、頬から首の下に駆けて刺青があるのが特徴的な女性だった。
「全員揃っているようなので会議を始めます。本日の議題は、他の大陸からいらっしゃった異世界転移者シズト様についての事がメインです。詳しい事は対談したマナブ殿から話をしてもらいます。よろしくお願いします」
「はい」
大きな声で返事をして立ち上がったのは、佐藤学という少年だ。
黒髪黒目で真面目そうな少年だった。実際、前世では生徒会長をしていたと麗華は聞いている。前世では国を引っ張る大人になりたいからと受験に向けて勉学に励んでいたそうだが、今回の人生では叶いそうだ。
(私も何か夢を持った方が良いのかしら?)
生きる事に精一杯だった前世。二度目の人生は前世とは違って危険がすぐ近くにあるのでまずは平穏な生活を手に入れる事が当面の目標ではあるのだが、それを手に入れた後の夢が何もない。
自分が知っている情報だからと前に出て大きな声で昨日の出来事を共有している学の話を聞き流しつつ、しばらくの間考えたがそんな簡単に思いつかない。
結局今日もまた人生の目標については先送りにして、今を生きる事に専念するのだった。
そんな彼女が新しい世界に行く際に求めた加護は、難病すらも癒す事ができる『聖女』だった。他人を癒すためではなく、自分が大怪我を負ったり、不治の病にかかってしまった場合に備えての事だった。
前世では周りの評価や、自己犠牲の精神が原因で亡くなる事になってしまった事を反省し、今回は自分の事を最優先にして生きようと決めていた。
そんな彼女が、滅亡したオールダムの再建に今も尚関わっていたのは、単純にタルガリア大陸のどこに行っても似たような状況だと聞いていたからだった。
中でも酷いのはオールダムだが、幸いな事に同郷の者が他にもいて、コミュニティを作る頃が出来たので身を寄せている。
他の国に逃げる事も考えた彼女だったが、中世の考え方が当たり前のこの世界で、自分の意志を貫く事は難しいと判断し、実行に移していなかった。
(あの人と繋がりが持てたら他の大陸に行けそうだけど……心証が悪いかしら?)
神から授かった力はこの大陸を復興するために使うように言われている。もしも自分の行動を神が見ているとしたら、何かしらの罰があってもおかしくはない。
それに前世と比べて蓄えもなければ戦う力もない。子孫がしっかりと加護を引き継いでいる事もあって希少ではないが、神様から直接聖女の加護を授かっている事がばれればどこかで囲い込まれて良いように使われる可能性だってあるという話を昨日聞いたばかりだった。
結局麗華は今日もまたいつも通り身支度をするのだった。
動きやすさを重視して長袖のトップスにズボンを着た麗華は前世とは桁違いの大きさの住まいから出ると、馬車に乗り込んだ。街の通りを歩くと髪を茶色に染めていても顔立ちが全く違うから注目を集めてしまうため、それを避けるために最近は馬車で移動している。
馬車は通りにたくさん咲いているホープという花を全く気にする事もなく走るため、車輪が花を踏みつけるのだが、しばらくすると元通りになっている。それでも呪われた土地を元に戻してくれるものだからと通行人は足元を気をつけながら歩いているし、浮遊台車は気持ち高めに浮遊しながらビュンビュン行き交っていた。
そんな窓の外の景色にも興味を示さず、麗華は加護を使う練習をしていた。昨日対談をした際にシズトが「加護はいつでも使いこなせるように練習しておくといいよ」と言っていたので実践しているようだった。
加護のおかげで神聖魔法や光魔法は詠唱をせずとも使う事が出来る彼女は、光魔法の『ライト』で車内を明るく照らしたり、神聖魔法の『浄化』を使って車内を綺麗にしたりしていた。
そうこうしている内に目的地に着いたようで馬車が停まる。最近ずっと入り浸っている会議場と呼ばれる円形の大きな建物だった。
「ありがとうございます」
扉を開けてくれた御者にチップを払った麗華は、喜びでブンブンと尻尾を振っている奴隷の子どもから目を逸らして建物へと向かう。
全身に刺青がある衛兵とも軽く挨拶を交わすと、開けてもらった扉をくぐって建物の中に入った。
真新しい建物である。どこもかしこも綺麗で、管理が行き届いている様だった。
いくつもある入口の中から正面にあった物を選んで中に入ると、半円形に配列された席は殆ど埋まっていた。麗華は正面中央にいくつかある高い椅子に一番近い最前列を目指す。
「おはようございます」
「おはよー」
「おはようございます」
「…………」
既に座っていた人物たちに声をかけると、各々が挨拶を返した。一人、声を発する事もなく軽く会釈しただけの人物もいたが、麗華は気にしない。
小柄で明るい髪色の女の子の隣に腰かけた麗華は、机の上に置かれていた資料に目を通した。
隣で朝から元気な女の子の話に適当に相槌を交わしつつ、一通り目を通したところで正面中央にある高い椅子に、議長として選ばれた中年女性が席に座った。オールダムで活動していた冒険者で、頬から首の下に駆けて刺青があるのが特徴的な女性だった。
「全員揃っているようなので会議を始めます。本日の議題は、他の大陸からいらっしゃった異世界転移者シズト様についての事がメインです。詳しい事は対談したマナブ殿から話をしてもらいます。よろしくお願いします」
「はい」
大きな声で返事をして立ち上がったのは、佐藤学という少年だ。
黒髪黒目で真面目そうな少年だった。実際、前世では生徒会長をしていたと麗華は聞いている。前世では国を引っ張る大人になりたいからと受験に向けて勉学に励んでいたそうだが、今回の人生では叶いそうだ。
(私も何か夢を持った方が良いのかしら?)
生きる事に精一杯だった前世。二度目の人生は前世とは違って危険がすぐ近くにあるのでまずは平穏な生活を手に入れる事が当面の目標ではあるのだが、それを手に入れた後の夢が何もない。
自分が知っている情報だからと前に出て大きな声で昨日の出来事を共有している学の話を聞き流しつつ、しばらくの間考えたがそんな簡単に思いつかない。
結局今日もまた人生の目標については先送りにして、今を生きる事に専念するのだった。
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