【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

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後日譚

後日譚419.箱入り女帝も暇つぶしに付き合った

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 オクタビアはエンジェリア帝国の代表として『新年会』に参加していた。
 シズトとの結婚を間近に控えている彼女の元には当然のように挨拶に来る者が多いが、話題のほとんどが結婚についてだった。
 オクタビアの方からそれとなく国同士の関係の強化のために交流を打診するもやんわりと断られる事が多い。
 小国家群であれば影響力が大きいエンジェリアだが、歴代の国王がやらかした事が多く、また、未だに蔓延る人族至上主義の思想が外交の邪魔をしている事は分かっていた。分かっていたが、こればっかりは時間が解決するのを待つしかない。
 何度目か分からない「またの機会によろしくお願いします」という言葉と共に去っていくニホン連合に加盟している国の代表を見送った後、小さくため息を吐いたオクタビア。
 そのため息が聞こえていたのだろう。近づいてきていた人物がオクタビアに「お疲れかな?」と問いかけた。

「え? あ、いえ。大丈夫です。お気遣いいただきありがとうございます」

 オクタビアは居住まいを正した。元々姿勢は良かったが、気を引き締める意味でも今一度自分の立ち姿を意識して目の前の人物に相対したのだ。
 彼女の前にいるのはシグニール大陸で一番の武力を誇っていると噂されている国の王、リヴァイ・フォン・ドラゴニアである。四十を過ぎたというのにその鍛え上げられた体は露出が全くないパーティー用の服でもよく分かる。
 青い目はまっすぐにオクタビアを見下ろしている。社交に慣れつつあると言っても経験の浅いオクタビアではその瞳の奥から感情を読み取る事は出来なかった。

「なに、当然の事だ。なんせあと一ヵ月ほど経てばシズト殿の側室の一人になるのだから。シズトの嫁という事はレヴィの家族になるという事だ。俺が気にするのも当然だろう?」
「そう、でしょうか。……話題のレヴィア様には声を掛けないのですか? 丁度ダンスが終わったようですが……」
「俺は話そうと思えばいつでも話す事ができるからな。あまりレヴィやシズト殿を独占しすぎると他国から要らぬ不興を買う事になりかねん。この場でこうして大人しくしているだけで他国から感謝される……なんて事はないが、シグニール大陸内の平和の維持をしようという話があったばかりだからな」
「なるほど」
「ただ、そうなると暇になる。暇をつぶすために他の国の王と話そうか、と思っていたところでオクタビア殿を見かけたので声をかけた、というだけだ。他意はないぞ」

 他意はない、と額面通り受け取るべきだろうか。否、普通であればあらゆる可能性を考えて対応するべきである。
 だが、リヴァイが厳格な王の雰囲気を醸し出さず、どちらかというと孫の顔を見に遊びに来た時の表情に似ていたのでオクタビアは彼のいう言葉をそのまま受け取った。

「ちょうど私も暇だったところです。良ければお付き合い頂けますでしょうか?」
「だから元からそのつもりだって言ってるだろう」
「フフッ。そうでしたね、ありがとうございます」



 統治者同士が話す事と言えば自国の事であるのだが、二人には他にもいくつか共通の話題があった。そのうちの一つがレヴィとシズトの間に生まれた子どもの事である。

「『生育』の加護をある程度使いこなすようになって、最近は外に出て間食を食べて過ごしてる事も多いです。ドライアドたちも面白がって食べ物をあげちゃうのでどんどん体重が増えちゃって、『脂肪燃焼腹巻』を使うべきか真剣に相談しているんです」
「ああ、あれは便利だからな。俺も世話になっている」
「そうなんですか? とても必要そうには見えないんですけど……」
「目に見えて必要そうだと分かるレベルだともう手遅れだからな。鍛錬に費やす時間をなかなか確保するのが難しくなってきて致し方なく補助的に使っているんだ」

 それは孫の顔を見たり、遊んだりするために設けた時間を潰せば確保できるんじゃないか、と思ったがオクタビアはそれを口に出す事はなかった。だが、それについて指摘する人物が近くにいたようだ。

「ファマリーに行きすぎなのよ。体型を維持できなくなったらしばらくは禁止ですから、お忘れなく」
「分かっているさ。……それより、他国の相手をしなくてもいいのか?」
「軽く挨拶は済ませました。オクタビア様を除いて、ですが」
「あ、ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません」
「そんなにかしこまらないでください。私はあくまで王妃ですので」

 慌てた様子で挨拶をしようとしたオクタビアを制したのはパール・フォン・ドラゴニア。リヴァイの妻であり、レヴィアの母親である。
 レヴィアと同様のドリルが二つ、彼女の顔の横にあるが、それは金色ではなく瞳と同じ淡い赤色だった。それを手で弄りながらオクタビアの様子を見守る目つきは鋭いが、それがデフォルトである事はオクタビアは知っていた。
 オクタビアは一度深呼吸すると新年の挨拶を丁寧に行った。それに対して、パールもまた丁寧に新年の挨拶を返した。

「……さて、こんなものですね。こんな所で二人仲良く話をしていて何の話をしていたのかしら? イクオっていう単語が聞こえてきたような気がするんだけど、気のせいではないわよね?」
「あ、はい」
「申し訳ないのですが、この人に話した事をもう一度話してもらえるかしら?」
「もちろんです」

 この話なら別にファマリーの根元でもできるんだけど、なんて事を思いつつも一人でいた時は全く見向きもしていなかった他国の者たちが自分に視線を向けている事に気が付いたオクタビアは、ドラゴニアとの関係が良好である事をアピールするチャンスだ、と気持ちを切り替えてリヴァイに話した事を思い出しながらパールにも同様の話をするのだった。
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