人間嫌いの公爵様との契約期間が終了したので離婚手続きをしたら夫の執着と溺愛がとんでもないことになりました

荷居人(にいと)

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そんな気持ちを秘めて結局あの日何も買わずに去った雑貨屋さんへ。公爵様が用意しようとしたあんな高い宝石で作られる婚約指輪とは比べ物にはならないけど、僕の手持ちで買えるのは庶民的なものが限界だ。元々いざというときのために隠し続けてたへそくりみたいなものだし……。

「おや、君は昨日の……」

「あの昨日お願いしてたものを見せていただいてもいいですか?」

「ああ、もちろんだ。この店にあるペアリングをかき集めておいたよ!とはいえ満遍なく取り揃えてるから数はあまりないんだけどね」

「大丈夫です」

元々自分にセンスがあるかわからないから逆に数が少ない方が選びやすいんじゃないかなと思う。店の中を見る限り派手なものはなさそうだし、落ち着いたデザインが多いんじゃないんだろうか?

そう思っているとだいたい10種類超えるか超えないくらいのペアリングが目の前に出される。

「種類こそ少ないけどデザインは結構違うね」

一緒に見ていたリードが感心したように言う。リードならもっと高価なものばかり身につけているだろうからこういうのは逆に珍しいのかもしれない。今までリードと一緒にアクセサリーを見に行くこともなかったしね。

「似たり寄ったりのよりは全くデザイン性の違うものの方が選びがいがあると思ってな。ちなみに宝石みたいなのが埋まってるのはガラス玉だ」

「でもガラス玉が埋まってるのはこのシンプルなものだけなんですね。色は透明みたいですけど……」

「それは後から色をつけるためでもある。好きな色をつけたかったら言ってくれればいい。それに色をつけやすい透明って理由もあるが、それだけは結婚指輪にも使われるからな。裕福じゃないもんたちでも買えるよう、結婚指輪としても使えるようにとあえてのシンプルデザインなんだ。こういうのは気持ちが大事だからな。何もしてやれないと諦めるより、本物の宝石じゃなくたって形に残るなら嬉しいもんだろ?」

「そうですね……」

優しい気持ちから作られたペアリングなんだなと少し温かい気持ちになる。でも、ガラス玉が見た目的にも綺麗であっても、公爵様にガラス玉の指輪は財産の面でよからぬ噂にもなりかねないから、デザイン重視したガラス玉のないペアリングにした方がよさそうだ。

「まああんたらは身なりがよさそうだから、偽物の宝石もどきのガラス玉の指輪よりは値段はあがるがこういう仕掛けペアリングの方がいいか?」

「仕掛けペアリング?」

ペアと言うよりはデザインがそっくりそのままといった感じではない指輪もあるが、その仕掛けというものに関わってくるのだろうか?

「そんな大したもんじゃねえが、例えばこの指輪上下で重ねると互いのイニシャルが現れるってもんだ。これは見本用だから時間をくれればそれぞれのイニシャルで加工してやれる」

「へえ、指輪に名前を書き込むとかはあるけど、二人の指輪が揃って互いのイニシャルが見れるのも互いがいてこそ完成する指輪って感じがしていいね」

僕以上にリードが感心したように声をあげる。確かに仕掛けとしては単純かもしれないけれど、繋がりを感じられる確かなペアリングだ。

「他にも互いに指輪をした後手のひらを重ねることで、指輪の窪んでいた部分が合わさってハートになるとかだな。指輪は手の甲から見られるが手のひらから見ることはそうないってことで隠された二人だけの愛って意味合いで作られたらしい」

「だからここに窪みが……窪みのある反対側が薔薇の柄もより情熱を感じるなあ」

「ペアリングって柄が同じだけの指輪ってばかりじゃないんですね」

「そうだな。何をもってペアリングというのかという考え方の違いだろうよ。お揃いのものもペアリングとして間違いはないが、二人揃ってこそ完成する指輪もまさに完成されたペアリングだろう。さらに二つが合わさった仕掛けとして、ハートが二つ斜めで羽のように描かれた指輪があるだろう?これも二つ上下に重ねると幸せのクローバーとしてできあがるわけだ。相手に渡してもさらに生まれる自分の愛と、相手から与えられた愛を宿らせた指輪同士を重ねることで、互いに埋まりきらない愛で幸せを築き上げるペアリングってな」

「デザイン自体は同じだけど、重ねることでまた違った意味合いのものになるんだねえ」

「埋まりきらない愛……」

僕の愛はそれが誰であれ、確かに積み重なってきた……それは僕の人生を埋めるほどに。

「このペアリングをください」

僕が本当に伝えるべきことは罪滅ぼしとか誠実を理由にしたものじゃないと今気づいた。きっとこの指輪が僕に勇気をくれるだろう。僕の気持ちをのせて。

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