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第38話 消えた乙女
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「くそっ、一体アメリはどこへ行ってしまったんだ……!」
「落ち着け、ロラン。そんなに興奮するとまた出血がひどくなるぞ」
「落ち着いてなどいられるかっ。アメリがいなくなってもう三日も経つんだぞ!?」
憤りを抑えられなくて、ロランは壁に拳を強く打ちつけた。
反動で天井からパラパラと埃が落ちてくる。
「ねぇ、サラ。アメリってホントにその幼馴染の家に行ったわけ?」
「はい、親しい間柄のようでしたので、家に戻るよりアメリさんも早く休めるかと思ってしまって……」
「言い訳はいい! どうしてアメリから目を離したんだ!」
「まぁまぁ、僕もさっき見に行ったけど、確かに幼馴染の家にアメリはいたみたいだよ? 僕の魔術探査は間違いないからね」
「モニカさんの話だと、アメリさんはすぐにこの家に向かったそうなんです」
いきなり聖剣が折れ大怪我を負ったロランを、一行は慌ててこの家に担ぎ込んだ。
着いてすぐにアメリがいないことを思い出し、ヴィルジールが使い魔を飛ばしてアメリに知らせを送った。
それを追いかけるように迎えに行ったサラは、行き違ったのか結局アメリに会うことはできなかった。
それ以降アメリは消息不明のまま今に至っている。
「だったらアメリはどこに行ってしまったんだ……!」
「何を騒いでいるの? ロラン、あなたはまだ安静にしてないと。今手配したいい薬が届いたのよ」
「そんなものは必要ない!」
馴れ馴れしく腕に触れてきたベリンダを、ロランが乱暴に振り払う。
驚いたベリンダは心外そうに悲しげな顔をした。
「ひどいわ、せっかくわたしが用意したのに」
聖剣の乙女の役割は、世間一般には秘密にされている。
事情を知らないベリンダに、何と返すべきかと一行は目を見合わせた。
「効きもしない薬など不要だと言っている。それに俺は頼んだ覚えなどない」
「飲んでもいないのに効かないだなんて。すごく高い薬なのよ? ねぇ、ロランが心配なの。お願いだから飲んでちょうだい」
涙を浮かべ、なおも食い下がるベリンダに、ロランは面倒くさそうに長いため息をついた。
「とにかく必要ない。今はアメリを探すことが優先だ」
「なによ、みんなしてアメリアメリって! あんな役立たずこそ、ロランに必要ないじゃない!」
出ていたはずの涙が引っ込んで、ベリンダは悪鬼のごとくの表情となった。
ウソ泣きが丸わかりの本性に、マーサが冷たい視線を向ける。
「ねぇベリンダ。あんたあの日、家の前で誰かと口論してなかった? アメリのことで何か隠してるんじゃない?」
「し、知らないわよ。あの子のことだもの。役立たずな自分が恥ずかしくなって、勝手にいなくなったに決まってるわ」
誤魔化すように咳ばらいをひとつする。
気を取り直したベリンダはロランに妖艶な笑みを向けた。
「ね、ロラン。あなたにはわたしがいるわ。あんな無責任な子なんか、わたしが忘れさせてあげるから」
しなだれかかるベリンダを、苛立ったようにロランが冷たく払いのけた。
「これ以上この村にいる意味はない。すぐに出発するぞ」
「そうだね~。今探査を広げてみたけど、もうこの村にアメリはいなさそうだし」
「そんな……! 医者も呼んであるのよ! 薬も! すんごくお金かかったのに!!」
金切り声を上げるベリンダを無視して、一行はアメリの家を出発した。
村の出口の街道を見やり、ロランがヴィルジールに向き直った。
「アメリがどこへ向かったのかは分からないのか?」
「大体の方角なら。近づけばもっと詳細にアメリの行方を探知できると思うケド」
ヴィルジールがある方向を指し示す。
「ヴィルジールは初代勇者一行の末裔ですし……今はそれに賭けるしかありませんね」
「そういうこと。大船に乗ったつもりで、この大魔導士ヴィルジール様に任せてといてよ」
その時代ごとに選抜される魔王討伐メンバーの中で、ヴィルジールだけは代々黒魔導士として選ばれてきた家系の出だ。
偉大なる黒魔導士の血を引くヴィルジールの力を、今は信じるしか道はなかった。
「みんな、すまんが協力してくれ」
ロランが深々と頭を下げる。
「ま、ロランの怪我が治らないことには、討伐の旅も続けらんないし?」
「こうなったら急がば回れだな」
よほどひどい魔物退治以外は後回しにして、一行はアメリ探しの旅に専念することになった。
「落ち着け、ロラン。そんなに興奮するとまた出血がひどくなるぞ」
「落ち着いてなどいられるかっ。アメリがいなくなってもう三日も経つんだぞ!?」
憤りを抑えられなくて、ロランは壁に拳を強く打ちつけた。
反動で天井からパラパラと埃が落ちてくる。
「ねぇ、サラ。アメリってホントにその幼馴染の家に行ったわけ?」
「はい、親しい間柄のようでしたので、家に戻るよりアメリさんも早く休めるかと思ってしまって……」
「言い訳はいい! どうしてアメリから目を離したんだ!」
「まぁまぁ、僕もさっき見に行ったけど、確かに幼馴染の家にアメリはいたみたいだよ? 僕の魔術探査は間違いないからね」
「モニカさんの話だと、アメリさんはすぐにこの家に向かったそうなんです」
いきなり聖剣が折れ大怪我を負ったロランを、一行は慌ててこの家に担ぎ込んだ。
着いてすぐにアメリがいないことを思い出し、ヴィルジールが使い魔を飛ばしてアメリに知らせを送った。
それを追いかけるように迎えに行ったサラは、行き違ったのか結局アメリに会うことはできなかった。
それ以降アメリは消息不明のまま今に至っている。
「だったらアメリはどこに行ってしまったんだ……!」
「何を騒いでいるの? ロラン、あなたはまだ安静にしてないと。今手配したいい薬が届いたのよ」
「そんなものは必要ない!」
馴れ馴れしく腕に触れてきたベリンダを、ロランが乱暴に振り払う。
驚いたベリンダは心外そうに悲しげな顔をした。
「ひどいわ、せっかくわたしが用意したのに」
聖剣の乙女の役割は、世間一般には秘密にされている。
事情を知らないベリンダに、何と返すべきかと一行は目を見合わせた。
「効きもしない薬など不要だと言っている。それに俺は頼んだ覚えなどない」
「飲んでもいないのに効かないだなんて。すごく高い薬なのよ? ねぇ、ロランが心配なの。お願いだから飲んでちょうだい」
涙を浮かべ、なおも食い下がるベリンダに、ロランは面倒くさそうに長いため息をついた。
「とにかく必要ない。今はアメリを探すことが優先だ」
「なによ、みんなしてアメリアメリって! あんな役立たずこそ、ロランに必要ないじゃない!」
出ていたはずの涙が引っ込んで、ベリンダは悪鬼のごとくの表情となった。
ウソ泣きが丸わかりの本性に、マーサが冷たい視線を向ける。
「ねぇベリンダ。あんたあの日、家の前で誰かと口論してなかった? アメリのことで何か隠してるんじゃない?」
「し、知らないわよ。あの子のことだもの。役立たずな自分が恥ずかしくなって、勝手にいなくなったに決まってるわ」
誤魔化すように咳ばらいをひとつする。
気を取り直したベリンダはロランに妖艶な笑みを向けた。
「ね、ロラン。あなたにはわたしがいるわ。あんな無責任な子なんか、わたしが忘れさせてあげるから」
しなだれかかるベリンダを、苛立ったようにロランが冷たく払いのけた。
「これ以上この村にいる意味はない。すぐに出発するぞ」
「そうだね~。今探査を広げてみたけど、もうこの村にアメリはいなさそうだし」
「そんな……! 医者も呼んであるのよ! 薬も! すんごくお金かかったのに!!」
金切り声を上げるベリンダを無視して、一行はアメリの家を出発した。
村の出口の街道を見やり、ロランがヴィルジールに向き直った。
「アメリがどこへ向かったのかは分からないのか?」
「大体の方角なら。近づけばもっと詳細にアメリの行方を探知できると思うケド」
ヴィルジールがある方向を指し示す。
「ヴィルジールは初代勇者一行の末裔ですし……今はそれに賭けるしかありませんね」
「そういうこと。大船に乗ったつもりで、この大魔導士ヴィルジール様に任せてといてよ」
その時代ごとに選抜される魔王討伐メンバーの中で、ヴィルジールだけは代々黒魔導士として選ばれてきた家系の出だ。
偉大なる黒魔導士の血を引くヴィルジールの力を、今は信じるしか道はなかった。
「みんな、すまんが協力してくれ」
ロランが深々と頭を下げる。
「ま、ロランの怪我が治らないことには、討伐の旅も続けらんないし?」
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