【R18】恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。

古堂 素央

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第45話 睦言2(*)

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「ごめんなさい、わたし……」
「いや、いいんだ。アメリを責める気はない。すべては些細な誤解が生んだことだ。結果、聖剣も格段にパワーアップしたことだしな」

 やさしく笑みを漏らしたロランだったが、その瞳はどこか遠くを見つめていた。
 噛みしめるように言葉が続けられていく。

「アメリがいなくなってからは、勇者として試されているような日々だった。聖剣も持たず、それでもお前は戦えるのかと……」
「ロラン……」
「俺は弱い自分に負けたくなかった。聖剣の乙女にふさわしい勇者になりたいと。魔物傷が増えていく中、その思いだけが俺を支えてくれていたんだ」

 後ろから耳元で囁かれ、アメリの瞳に涙がせり上がった。

「わたしも……勇者にふさわしい乙女になりたい……」
「もう、十分なってる」

 苦しいくらいに抱かれる。

「俺にはアメリ、君しかいないんだ。この数か月、本当にそう思い知らされた」
「ロラ……ぁあんっ!?」

 いきなりロランが乳首をつまみ上げてきた。胸を揉みしだきながら、同時に耳裏に舌を這わされる。
 なんだか感動の流れを一気に台無しにされた気分だ。
 ゾクゾクした快感から逃れたくて、アメリは必死に身をよじった。

「あっ、ひゃっ、ロラン、わたし、もう体力とか限界で……!」

 動きがエスカレートしていくロランの腕を、ぺちぺち叩く。
 このまま流されてしまっては、この部屋からいつ出られるか分からなくなってしまう。それこそロランの思う壺だ。

「なら次はこれだ。アメリに癒しの風を!」

 ロランが言うなり、アメリの体が白い光に包まれた。
 すっと疲労感が抜けていく。これはいつもサラがかけてくれていた回復魔法だ。

「ロランって、回復魔法も使えたんですか……?」

 癒しの白魔法はどれも上級魔法だと聞いていた。
 魔法の素養があったとしても、習得するには厳しい修業が必要らしい。

「アメリを探し回っている間、サラから伝授してもらった」
「どうしてわざわざ……?」

 何かあったらサラに頼めばいい話だ。
 それに習得したところで、ロランの魔物傷は白魔法では治せない。

「アメリが万が一どこかで怪我をしていたら……そう思ったら、いても立ってもいられなかったんだ」
「え?」
「俺が回復魔法を使えたら、君を見つけたときにすぐさま治療することができるだろう? だから死に物狂いで習得したんだ」

 ロランのその言葉に、アメリは一瞬感動しかかった。
 だが追いつめられた裏路地で、無体を働かれたことをすぐに思い出す。

「それにしてはロラン、あのときわたしに酷いことしましたよね?」
「酷い? 俺は君に何かしたか?」
「何かって……道端でいきなり服破いたりとかしてきたじゃないですか! 怪我の確認とかまったくされませんでしたっ」

 しらを切ろうとするロランに、アメリの頬がぷっと膨らんだ。

「それは俺を見たとたん、アメリが全速力で逃げたからだ。あれだけ走れるんだ。怪我してないのは一目瞭然だろう」

 不服そうに反論される。
 殊勝に謝ってくるのだとばかり思っていたアメリは、さらに大きく頬を膨らませた。

「だってロラン、髭だらけで浮浪者かと思ったんですもん!」
「俺だと分かったあとも君は逃げようとした」
「それは髭が刺さって痛かったから……!」

 息まいて、ふたりでにらみ合った。
 しばしの沈黙の後、根負けしたのはロランの方だった。

「いや、そうだな……すまない、俺が悪かった。アメリが消えた数か月間、寝ても覚めても君のことばかり考えていたんだ。怪我もそうだし、どこかで寒さに震えていないだろうかとか、ひもじい思いをしていないかだとか……今この瞬間、誰かに襲われたりしていたら……はたまた俺のことなど忘れてほかの男としっぽりよろしくやっていたとしたら……」

 ロランの声がどんどん低くなっていく。
 この自分が見知らぬ男性とホイホイ深い仲になれるはずもない。
 アメリの性格をよく知っているだろうに、ロランの妄想の逞しさに半ば呆れてしまう。

「とにかくそんなことが頭を巡ってだな、ずっと気が狂いそうだったんだ。そこをようやく見つけた君に逃げられて……」

 それであんな暴挙に出たと言うのか。だとしても、同意もなしにいきなりアレはあり得ない。
 何しろ再会直後に路地裏で半裸にされて、立ったままいきなり突っ込まれたのだ。いくらロランでも、許せないという思いがアメリの心にしこりを作る。
 無言で唇を噛みしめていると、ロランは審判を待つ罪人のように沈痛な顔をして押し黙った。

「……ロランの気持ちは分かりました。突然いなくなったわたしにも非がありますし」

 アメリは肩から力を抜いた。仕方ないと言った感じで息をつく。
 すると途端にロランの表情がぱっと明るくなった。

「でも、正直わたし傷つきました」

 嘘偽りない気持ちを伝えるのは、アメリにとってかなり勇気がいった。
 だが言いたいことを内に秘めた状態で、このことを有耶無耶に終わらせてはいけない気がする。ロランとは、こじらせたまま終わってしまった父親との関係のようにはなりたくなかった。
 まっすぐに見つめると、ロランは捨てられた子犬みたいにものすごく不安そうな顔に逆戻りした。

「あんなふうに無理やりとか外でとか、わたし二度と嫌です。そのことは分かってくれますか?」
「ああ……あんなことは二度としないと誓う。あのときの俺は本当にどうかしていたんだ……アメリ、こんな俺をどうか赦してくれ」

 懇願してくるロランが、今度はなんだか飼い主に叱られた大型犬のように思えてくる。
 しゅんとうなだれた耳としっぽの幻影まで見えてきそうだ。

「ロランって……案外、馬鹿なんですね」

 自分相手にこんなに必死になるだなんて。
 いもしない男に嫉妬して。その上勝手に暴走したりして。
 魔王を倒せるほど強いのに、それでいてなんて可愛いひとなんだろう。

 そう思うとどうしようなく愛おしさがこみ上げてきた。
 ふふと笑みを漏らしたアメリだったが、その愛しいロランは途轍とてつもなくショックを受けた顔になっている。

「あ、いえ、違うんです! 馬鹿っていうより、子供っぽい? じゃなくて単純っていうかむしろ幼稚で微笑ましいというか……」

 慌てて言い換えてみるが、どれも大したフォローになっていない。

「馬鹿で子供で単純で幼稚……そうか、俺に対するアメリの評価はそんななんだな……」
「あああ! だから違うんですってばっ」
「いいんだ……馬鹿で子供で単純で幼稚で、その上浮浪者に見間違ってしまうような俺は、これからもっと努力していつかアメリに立派な男として認めてもらうんだ……」

 落ち込むロランをなだめるために、結局アメリはこのあとロランとしっぽりずっぽりする羽目に陥った。
 疲れては回復魔法をかけられて、まぐあいはエンドレスの勢いとなった。
 途中からは調子づいたロランに翻弄されて、窓のない宿から出られたのはそれから数日後のことだ。

 ロランに白魔法を伝授したサラに、ちょっぴり恨みを抱いてしまうアメリだった。
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