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本編
2話
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イケメンさんが帰ってしまったため、再び部屋は静かになった。
暇すぎて天井を眺めたり、備え付けの棚をいじったりするばかり。
「ほんまに一人だとすることないな……」
そんなふうにぼやいていたら、タイミングよくドアが開いた。
「失礼しますね~。どうでした?」
「……何がですか?」
トコトコと入ってきた長野さんは、にこにこしてこちらをのぞき込んでくる。
「新藤(しんどう)さんがお見舞いに来られてましたから。喜ばれたでしょう?」
「あぁ……確かに。心配かけたみたいで、ほっとした顔してましたね」
「ふふっ。でしょうねぇ。新藤さん、結構な頻度で来てましたよ。いつも心配そうな顔して」
「やっぱり……。今日も“明日また来る”って言ってたし、かなり来てるんだろうとは思ってました」
「多分明日は、お父さまやお兄さまも来られると思いますよ」
「え? そうなんですか?」
「えぇ。明日は顔を出すっておっしゃってましたし。本当に、仲のいいご家族なんですね」
「ははっ、そうなんですよ、仲良いでしょう……。知らんけど」
最後の小声までは聞こえていないのか、長野さんは楽しそうに笑った。
「ふふっ、いいですねぇ~」
そのまま彼女はワゴンを押しながら、食事の準備に取りかかった。
「では、ご飯の準備しますね~。……と言っても、お味噌汁と重湯ですが」
「マジすっか」
白いトレイに載った、味噌汁と重湯。
見た瞬間に胃がキュッと縮む。
(これ……足りる?)
「マジです。でも夜はお粥になりますし、明日のお昼からは、柔らかいですけど固形も少し出ると思いますよ」
「へぇ……。てっきり、一週間くらいは食べられないのかと」
「臓器の手術があったり、意識が長く戻らなかったりしたらそうなりますけど、今回は一週間ほどで目覚められましたのでね。問題ないですよ」
「なるほど……そうなんですね」
重湯をひと口すする。
うん、味が……薄い。薄すぎる。
「でも、やっぱりこれだけだと物足りないですよね」
「それはもう……我慢あるのみです」
「ですよねぇ」
長野さんが片付けを始めた頃、ふと思い出したことがあった。
「あ、あと一つ聞きたいことあるんですけど。いいですか?」
「もちろんです! 何でも聞いてください!!」
「お、おお……圧がすご……」
声に反応して、長野さんはさらに身を乗り出してきた。
「えっと……肌荒れがひどくて。どうしたらいいでしょう?」
「!!」
その瞬間、長野さんの目がキラキラ……いや、ギラギラと輝いた。
「任せてください!! 龍宮さんに合うケア用品、私が選んで持ってきますから!!」
ガシッと手を握られる。
「は、はいっ……ありがとうございます……!」
「いえ! あと言いにくいんですが……その、肌荒れは食生活の乱れも原因なんです。規則正しい生活をすれば、かなり改善しますよ」
「へぇ……」
「病院では、栄養バランスしっかりしてますから!」
「なるほど……それなら体重もちょっとは落ちるだろうし、いいですね」
「そうでしょう! ここの病院食は美味しいと評判ですし、退院される頃には、けっこう落ちてると思います!」
「あぁ……これは肌も体重もどうにかなりそうですね。ありがとうございます」
「喜んでいただけてよかったです!」
満面の笑みでそう言うと、長野さんはワゴンを押しながら、
「ではまた夕食のときに来ますね~」
「はーい」
と軽く手を振って出ていった。
静かになった病室で、私は重湯を見つめながらつぶやいた。
「……まぁ、痩せられるのは嬉しいけどさ。量、少なすぎん?」
暇すぎて天井を眺めたり、備え付けの棚をいじったりするばかり。
「ほんまに一人だとすることないな……」
そんなふうにぼやいていたら、タイミングよくドアが開いた。
「失礼しますね~。どうでした?」
「……何がですか?」
トコトコと入ってきた長野さんは、にこにこしてこちらをのぞき込んでくる。
「新藤(しんどう)さんがお見舞いに来られてましたから。喜ばれたでしょう?」
「あぁ……確かに。心配かけたみたいで、ほっとした顔してましたね」
「ふふっ。でしょうねぇ。新藤さん、結構な頻度で来てましたよ。いつも心配そうな顔して」
「やっぱり……。今日も“明日また来る”って言ってたし、かなり来てるんだろうとは思ってました」
「多分明日は、お父さまやお兄さまも来られると思いますよ」
「え? そうなんですか?」
「えぇ。明日は顔を出すっておっしゃってましたし。本当に、仲のいいご家族なんですね」
「ははっ、そうなんですよ、仲良いでしょう……。知らんけど」
最後の小声までは聞こえていないのか、長野さんは楽しそうに笑った。
「ふふっ、いいですねぇ~」
そのまま彼女はワゴンを押しながら、食事の準備に取りかかった。
「では、ご飯の準備しますね~。……と言っても、お味噌汁と重湯ですが」
「マジすっか」
白いトレイに載った、味噌汁と重湯。
見た瞬間に胃がキュッと縮む。
(これ……足りる?)
「マジです。でも夜はお粥になりますし、明日のお昼からは、柔らかいですけど固形も少し出ると思いますよ」
「へぇ……。てっきり、一週間くらいは食べられないのかと」
「臓器の手術があったり、意識が長く戻らなかったりしたらそうなりますけど、今回は一週間ほどで目覚められましたのでね。問題ないですよ」
「なるほど……そうなんですね」
重湯をひと口すする。
うん、味が……薄い。薄すぎる。
「でも、やっぱりこれだけだと物足りないですよね」
「それはもう……我慢あるのみです」
「ですよねぇ」
長野さんが片付けを始めた頃、ふと思い出したことがあった。
「あ、あと一つ聞きたいことあるんですけど。いいですか?」
「もちろんです! 何でも聞いてください!!」
「お、おお……圧がすご……」
声に反応して、長野さんはさらに身を乗り出してきた。
「えっと……肌荒れがひどくて。どうしたらいいでしょう?」
「!!」
その瞬間、長野さんの目がキラキラ……いや、ギラギラと輝いた。
「任せてください!! 龍宮さんに合うケア用品、私が選んで持ってきますから!!」
ガシッと手を握られる。
「は、はいっ……ありがとうございます……!」
「いえ! あと言いにくいんですが……その、肌荒れは食生活の乱れも原因なんです。規則正しい生活をすれば、かなり改善しますよ」
「へぇ……」
「病院では、栄養バランスしっかりしてますから!」
「なるほど……それなら体重もちょっとは落ちるだろうし、いいですね」
「そうでしょう! ここの病院食は美味しいと評判ですし、退院される頃には、けっこう落ちてると思います!」
「あぁ……これは肌も体重もどうにかなりそうですね。ありがとうございます」
「喜んでいただけてよかったです!」
満面の笑みでそう言うと、長野さんはワゴンを押しながら、
「ではまた夕食のときに来ますね~」
「はーい」
と軽く手を振って出ていった。
静かになった病室で、私は重湯を見つめながらつぶやいた。
「……まぁ、痩せられるのは嬉しいけどさ。量、少なすぎん?」
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