アラサー手前だった私が男子高校生に？！

本編

3話

　「おはよう、お寝坊さん。」

　柔らかな低音が耳元に落ちてきた。まぶたを開けると、ベッド脇に立っていたのは——
　渋みのあるダンディなおじさま。落ち着いたスーツ姿が似合いすぎている。

「ん～……はい？　えっ……お、おはようございます。」

　誰！？　驚きすぎて心臓止まるかと思ったわ！

　彼は苦笑しながらベッドに身を寄せ、当たり前のように私を抱き寄せてきた。

「ははっ、驚かせちゃったかな。でもその顔も可愛いよ。」

　ぎゅっ

「ぐっ……つ、強っ……！」

「ちょっと父さん。翔が苦しがってる、離れて。」

　ぐい、と私を取り返したのは、ベッドの反対側に立つ長身の青年。
　整った顔立ちにクールな眼差し。どう見てもイケメン兄。

「大丈夫？　兄さんが翔のこと守ってあげるからね。」

　そう言ってそっと抱き寄せられる。
　……あっ、めっちゃ良い匂い。反則級。

「兄さん！？」

「！！」

「翔が……あの翔が俺のことを“兄さん”と……聞きましたか父さん！」

「ああ……聞こえたぞ……くそっ羨ましい……！」

　父と兄が鼻息荒くこっちに詰め寄ってくる。なんなんだこの家族は。

「翔、私のことも“父さん”でも“パパ”でもいいぞ！！」

「と、と父さん……？」

「あぁぁなんて可愛いんだ……もっと呼んでおくれ……！」

「父さん。」

「なんだい？」

（呼べって言ったのあんただし……！　うわ恥ずかし……！）

　二人は大げさすぎるほど感動して、またしてもぎゅーっと抱きしめてきた。
　抱擁好きなん？　めちゃくちゃ距離が近いんだけどこの家族。

　すると、部屋の入口から落ち着いた声がした。

「彗様、恭弥様。翔様はまだ本調子ではございません。あまりはしゃがれませんように。」

　入ってきたのは、黒服の執事・霧島さん。
　昨日から何度か見かけたが、感情の読めない落ち着いたタイプだ。

「す、すまん。」

「……分かってるよ。」

　兄さんは注意されて少し口を尖らせる。子供か。

「さあ、三人とも。紅茶が入りましたよ。」

　トレイを手に入ってきたのは、新藤さん。
　昨日お見舞いに来てくれた“綺麗系イケメン”。
　どこか“褒められたいワンコ”みたいな可愛いところがある。

「ありがとう。……うん、美味しいよ。」

　私がそう言うと、新藤さんはぱっと顔を輝かせた。

「はい。今まではお砂糖ましまし用の紅茶でしたが、ストレートで飲んだ方が美味しい茶葉に変えましたから。」

　ドヤッと胸を張っている。……可愛いなこの人。

「……え？」

「……えっ？」

　父と兄が同時に固まった。

「やっぱり……どこか悪いのか？」

「あの甘い物大好きな翔が……砂糖を一つも入れないなんて。」

「ううん、大丈夫だよ。砂糖を入れなくても美味しいって気づいただけ。」

「そ、そうなのか……。どこも悪くないなら良いが……。何かあったらすぐ父さんに言いなさい。」

「うん、分かったよ。」

「本当か？」

「本当だよ！」

（いやさっきから答えてるし……！）

　霧島さんが静かに口を開いた。

「私もおりますので、ご心配なさらずに。……ところで、お二人ともお仕事の時間は大丈夫ですか」