アラサー手前だった私が男子高校生に?!

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本編

5話

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あれから一週間が経った。

食事も普通に取れるようになり、ひどかった肌荒れは嘘みたいに落ち着いた。
ナースコールを使えば、手を借りながらだが動ける。だが、今日はついに――“あれ”を取る日だ。

(……怖い。
付けられた時は意識がなかったから良かったけど、今は全部分かってしまう。
腐女子だった頃は「尿道責め最高!」とか言ってた自分を殴りたい。あれは現実じゃない。受けのみんな、本当にごめん……!)

「はーい、龍宮さん。準備できたので取りますね~」

柔らかい声でそう言われ、返事は半ば祈りにも似たものになった。

「はいっ……!」

看護師さんが落ち着いた手つきで説明しながら作業を進める。
体の奥で、ゆっくりと違和感が移動してくる。

(うわ、変な感じ……っ)

「は~い、取れましたよ。少し休んで大丈夫ですからね」

「……は、はい。ありがとうございます」

たしかにネットで読んだ「激痛!」みたいな感じはなかった。
ただ、抜けた後の妙なスースーした感覚がなんとも落ち着かない。

「では、洗いますね」

「……え、洗うんですか?」

「もちろんですよ。清潔を保つために必要ですからね~」

(うわぁぁぁああ!!恥ずかしい!気まずすぎる!
お願いだから早く終わってくれ~~!!)

でも看護師さんの手つきは終始淡々としていて、こちらの羞恥なんて気にしていない。
そのおかげで、余計な誤解を生むこともなく無事終了した。

「はい、お疲れさまでした」

「ありがとうございました……」

胸に手を当てて深呼吸すると、少しだけ肩の力が抜けた。

「それじゃあ私は行きますね。――あっ、トイレに行きたくなったら必ず呼んでくださいね。絶対ですよ!」

「わ、分かってますよ」

「本当ですかぁ?」
看護師さんがじとっとした目を向けてくる。

(ギクッ……なんで分かるのこの人)

「本当だって!」

「龍宮さん、勝手に行っちゃいそうなんですよねぇ……」チラッ

(図星すぎて胃が痛い!)

「しませんってば!」

「約束ですよ? それでは失礼します」



「ふぅ……」

感覚としては、痛みより違和感。
だけど、これが取れたという事実が何より嬉しかった。

ガラガラ。

「翔様、失礼いたします」

和也が入ってきた。白い光の中に立つ姿が今日も綺麗で、病室の空気だけ少し柔らかくなる。

「やぁ、和也。いらっしゃい」

「今日は果物を持ってきました。今、お食べになりますか?」

「うん、食べたい!」

籠を開けた瞬間、ふわっと甘い香りが広がる。
林檎、梨、メロン……全部瑞々しくて美味しそう。

「梨がいいな。剥いてくれる?」

「はい」

丁寧にナイフを動かす手は綺麗で、つい見惚れてしまう。
器にのった梨を一つ取り、口に運ぶ。

シャクッ、モグモグ……。

「甘い!この梨めちゃくちゃ美味しい」

「それは良かったです。何かお飲みになりますか?」

「ううん、大丈夫。それより――和也も食べなよ?」

「い、いえ、私は……」

「ほら、あーん」

こっちを見た瞬間、和也の耳まで赤くなる。
それでも頑張って口を開けて近づくのが可愛すぎて、胸がきゅんとした。

モグモグ……こくこく。

「美味しい?」

縦にこくりとうなずく仕草が、なんだか子犬みたいで愛おしい。

「ね? 一人で食べるより、一緒の方が美味しいよ」

「……翔様がそうおっしゃるなら。で、ですが、自分で食べますので爪楊枝を……」

あーんを阻止されたらしい。
むすっとした顔で手を出される。

「はいはい、分かったよ」

「仕方なく渡したような言い方はやめてください」

(その怒り方も可愛いんだよな……)

和也は確かに綺麗系のイケメンだ。
でも、近くにいると、綺麗よりも“可愛い”の方が強い。
赤くなるし、ムッとするし、表情がころころ変わる。

(はぁ……ほんと、自覚してほしい)

梨を食べ終わると、和也は名残惜しそうにしながら帰っていった。

(明日も来てくれるよね……)

自然とそんなことを考えてしまい、ひとりで苦笑してしまった。
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