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本編
5話
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あれから一週間が経った。
食事も普通に取れるようになり、ひどかった肌荒れは嘘みたいに落ち着いた。
ナースコールを使えば、手を借りながらだが動ける。だが、今日はついに――“あれ”を取る日だ。
(……怖い。
付けられた時は意識がなかったから良かったけど、今は全部分かってしまう。
腐女子だった頃は「尿道責め最高!」とか言ってた自分を殴りたい。あれは現実じゃない。受けのみんな、本当にごめん……!)
「はーい、龍宮さん。準備できたので取りますね~」
柔らかい声でそう言われ、返事は半ば祈りにも似たものになった。
「はいっ……!」
看護師さんが落ち着いた手つきで説明しながら作業を進める。
体の奥で、ゆっくりと違和感が移動してくる。
(うわ、変な感じ……っ)
「は~い、取れましたよ。少し休んで大丈夫ですからね」
「……は、はい。ありがとうございます」
たしかにネットで読んだ「激痛!」みたいな感じはなかった。
ただ、抜けた後の妙なスースーした感覚がなんとも落ち着かない。
「では、洗いますね」
「……え、洗うんですか?」
「もちろんですよ。清潔を保つために必要ですからね~」
(うわぁぁぁああ!!恥ずかしい!気まずすぎる!
お願いだから早く終わってくれ~~!!)
でも看護師さんの手つきは終始淡々としていて、こちらの羞恥なんて気にしていない。
そのおかげで、余計な誤解を生むこともなく無事終了した。
「はい、お疲れさまでした」
「ありがとうございました……」
胸に手を当てて深呼吸すると、少しだけ肩の力が抜けた。
「それじゃあ私は行きますね。――あっ、トイレに行きたくなったら必ず呼んでくださいね。絶対ですよ!」
「わ、分かってますよ」
「本当ですかぁ?」
看護師さんがじとっとした目を向けてくる。
(ギクッ……なんで分かるのこの人)
「本当だって!」
「龍宮さん、勝手に行っちゃいそうなんですよねぇ……」チラッ
(図星すぎて胃が痛い!)
「しませんってば!」
「約束ですよ? それでは失礼します」
⸻
「ふぅ……」
感覚としては、痛みより違和感。
だけど、これが取れたという事実が何より嬉しかった。
ガラガラ。
「翔様、失礼いたします」
和也が入ってきた。白い光の中に立つ姿が今日も綺麗で、病室の空気だけ少し柔らかくなる。
「やぁ、和也。いらっしゃい」
「今日は果物を持ってきました。今、お食べになりますか?」
「うん、食べたい!」
籠を開けた瞬間、ふわっと甘い香りが広がる。
林檎、梨、メロン……全部瑞々しくて美味しそう。
「梨がいいな。剥いてくれる?」
「はい」
丁寧にナイフを動かす手は綺麗で、つい見惚れてしまう。
器にのった梨を一つ取り、口に運ぶ。
シャクッ、モグモグ……。
「甘い!この梨めちゃくちゃ美味しい」
「それは良かったです。何かお飲みになりますか?」
「ううん、大丈夫。それより――和也も食べなよ?」
「い、いえ、私は……」
「ほら、あーん」
こっちを見た瞬間、和也の耳まで赤くなる。
それでも頑張って口を開けて近づくのが可愛すぎて、胸がきゅんとした。
モグモグ……こくこく。
「美味しい?」
縦にこくりとうなずく仕草が、なんだか子犬みたいで愛おしい。
「ね? 一人で食べるより、一緒の方が美味しいよ」
「……翔様がそうおっしゃるなら。で、ですが、自分で食べますので爪楊枝を……」
あーんを阻止されたらしい。
むすっとした顔で手を出される。
「はいはい、分かったよ」
「仕方なく渡したような言い方はやめてください」
(その怒り方も可愛いんだよな……)
和也は確かに綺麗系のイケメンだ。
でも、近くにいると、綺麗よりも“可愛い”の方が強い。
赤くなるし、ムッとするし、表情がころころ変わる。
(はぁ……ほんと、自覚してほしい)
梨を食べ終わると、和也は名残惜しそうにしながら帰っていった。
(明日も来てくれるよね……)
自然とそんなことを考えてしまい、ひとりで苦笑してしまった。
食事も普通に取れるようになり、ひどかった肌荒れは嘘みたいに落ち着いた。
ナースコールを使えば、手を借りながらだが動ける。だが、今日はついに――“あれ”を取る日だ。
(……怖い。
付けられた時は意識がなかったから良かったけど、今は全部分かってしまう。
腐女子だった頃は「尿道責め最高!」とか言ってた自分を殴りたい。あれは現実じゃない。受けのみんな、本当にごめん……!)
「はーい、龍宮さん。準備できたので取りますね~」
柔らかい声でそう言われ、返事は半ば祈りにも似たものになった。
「はいっ……!」
看護師さんが落ち着いた手つきで説明しながら作業を進める。
体の奥で、ゆっくりと違和感が移動してくる。
(うわ、変な感じ……っ)
「は~い、取れましたよ。少し休んで大丈夫ですからね」
「……は、はい。ありがとうございます」
たしかにネットで読んだ「激痛!」みたいな感じはなかった。
ただ、抜けた後の妙なスースーした感覚がなんとも落ち着かない。
「では、洗いますね」
「……え、洗うんですか?」
「もちろんですよ。清潔を保つために必要ですからね~」
(うわぁぁぁああ!!恥ずかしい!気まずすぎる!
お願いだから早く終わってくれ~~!!)
でも看護師さんの手つきは終始淡々としていて、こちらの羞恥なんて気にしていない。
そのおかげで、余計な誤解を生むこともなく無事終了した。
「はい、お疲れさまでした」
「ありがとうございました……」
胸に手を当てて深呼吸すると、少しだけ肩の力が抜けた。
「それじゃあ私は行きますね。――あっ、トイレに行きたくなったら必ず呼んでくださいね。絶対ですよ!」
「わ、分かってますよ」
「本当ですかぁ?」
看護師さんがじとっとした目を向けてくる。
(ギクッ……なんで分かるのこの人)
「本当だって!」
「龍宮さん、勝手に行っちゃいそうなんですよねぇ……」チラッ
(図星すぎて胃が痛い!)
「しませんってば!」
「約束ですよ? それでは失礼します」
⸻
「ふぅ……」
感覚としては、痛みより違和感。
だけど、これが取れたという事実が何より嬉しかった。
ガラガラ。
「翔様、失礼いたします」
和也が入ってきた。白い光の中に立つ姿が今日も綺麗で、病室の空気だけ少し柔らかくなる。
「やぁ、和也。いらっしゃい」
「今日は果物を持ってきました。今、お食べになりますか?」
「うん、食べたい!」
籠を開けた瞬間、ふわっと甘い香りが広がる。
林檎、梨、メロン……全部瑞々しくて美味しそう。
「梨がいいな。剥いてくれる?」
「はい」
丁寧にナイフを動かす手は綺麗で、つい見惚れてしまう。
器にのった梨を一つ取り、口に運ぶ。
シャクッ、モグモグ……。
「甘い!この梨めちゃくちゃ美味しい」
「それは良かったです。何かお飲みになりますか?」
「ううん、大丈夫。それより――和也も食べなよ?」
「い、いえ、私は……」
「ほら、あーん」
こっちを見た瞬間、和也の耳まで赤くなる。
それでも頑張って口を開けて近づくのが可愛すぎて、胸がきゅんとした。
モグモグ……こくこく。
「美味しい?」
縦にこくりとうなずく仕草が、なんだか子犬みたいで愛おしい。
「ね? 一人で食べるより、一緒の方が美味しいよ」
「……翔様がそうおっしゃるなら。で、ですが、自分で食べますので爪楊枝を……」
あーんを阻止されたらしい。
むすっとした顔で手を出される。
「はいはい、分かったよ」
「仕方なく渡したような言い方はやめてください」
(その怒り方も可愛いんだよな……)
和也は確かに綺麗系のイケメンだ。
でも、近くにいると、綺麗よりも“可愛い”の方が強い。
赤くなるし、ムッとするし、表情がころころ変わる。
(はぁ……ほんと、自覚してほしい)
梨を食べ終わると、和也は名残惜しそうにしながら帰っていった。
(明日も来てくれるよね……)
自然とそんなことを考えてしまい、ひとりで苦笑してしまった。
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