38 / 75
38】【番外編】②
しおりを挟む
38】【番外編】②
ギルベルトが訓練から戻って来たことを知った。だが珍しく、私の元へ顔を見せに来ない。忙しいのだろうと思いながら、自身の計画は順調だと自負していた私は楽観的に考えていた。
「なら、私が会いに行けば良いだけのこと」
思いついたら、善は急げ。
慰労会を催していると聞いて、様子を見に行ってみようと私の足取りはギルベルトに会えると思うと軽かった。だが軽かったのは、訓練場の入り口くらいまで。賑やかな声と酒の匂いに、食事の匂い。社交界とは違った賑やかさを感じつつ、まだ酔いの浅そうな団員に声をかけた。
「すまない、ギルベルトはいるか?」
私に気づいた団員が、ほよろいだったのが背筋をピッ! とする。
「アーサー様! はい、いらっしゃいます。団長はあそこに……」
ワイワイと賑やかで人も多い中、指を指した方向を見ればギルベルトがいた。久しぶりに見る顔に、思わず自身の頬が緩む。
(私が会いに来たと聞いたら、驚くだろうか)
ふふっ、と笑いながら案内すると言ってくれた団員の後に続く。途中、「アーサー様!」「こんばんは、アーサー様」と声をかけられ返事をしながら。だが肝心のギルベルトは私に気づく様子がない。それどころか、隣には私とさほど年の差が無いような人物。副団長のレオンが陣取っていて、ギルベルトの身体に触れたり、談笑したりしていた。
(なんだあれは?)
レオンはギルベルトの肩に抱き着くようにしたり、顔を近づけて笑ってみたり。酔っているとしても、好きな相手が別の男に触られていて良い気分なわけがない。ギルベルトの表情も、今の私にはあまり見ないような少しばかり気が抜けたような。私が小さい頃に見せていたような表情で、一気に腹の奥にザワリとした感覚が走った。
「ギルベルト!」
思わず名前を呼んでみたが、気づく様子はない。レオンの相手に集中している様子に、内心苛立つ。速足になり、前を歩く団員を追い抜き。早くギルベルトからレオンを離さなくてはと躍起になった。だが頼もしい団員は多く、思うように進まない。更には、ギルベルトよりも私の存在に気づいたのはレオンだった。一瞬、私を目が合う。その視線、表情はギルベルトに向ける「酔っている」ものと違っていて、どこか挑発的に笑っているように見えた。その刹那、レオンの腕が伸びて更には顔がギルベルトに近づき。私が今まで重ねたことないギルベルトの唇に、レオンの唇が重なっていた。
ああ、やってしまった。私の作戦は失敗だ。私が離れ、引いている間に、他の誰かがギルベルトに手を伸ばしている。すぐにそう悟った時には、もう一度レオンがギルベルトにキスしようとしていた。
******
更新しました。お気に入りほか有難うございます(^^)
ギルベルトが訓練から戻って来たことを知った。だが珍しく、私の元へ顔を見せに来ない。忙しいのだろうと思いながら、自身の計画は順調だと自負していた私は楽観的に考えていた。
「なら、私が会いに行けば良いだけのこと」
思いついたら、善は急げ。
慰労会を催していると聞いて、様子を見に行ってみようと私の足取りはギルベルトに会えると思うと軽かった。だが軽かったのは、訓練場の入り口くらいまで。賑やかな声と酒の匂いに、食事の匂い。社交界とは違った賑やかさを感じつつ、まだ酔いの浅そうな団員に声をかけた。
「すまない、ギルベルトはいるか?」
私に気づいた団員が、ほよろいだったのが背筋をピッ! とする。
「アーサー様! はい、いらっしゃいます。団長はあそこに……」
ワイワイと賑やかで人も多い中、指を指した方向を見ればギルベルトがいた。久しぶりに見る顔に、思わず自身の頬が緩む。
(私が会いに来たと聞いたら、驚くだろうか)
ふふっ、と笑いながら案内すると言ってくれた団員の後に続く。途中、「アーサー様!」「こんばんは、アーサー様」と声をかけられ返事をしながら。だが肝心のギルベルトは私に気づく様子がない。それどころか、隣には私とさほど年の差が無いような人物。副団長のレオンが陣取っていて、ギルベルトの身体に触れたり、談笑したりしていた。
(なんだあれは?)
レオンはギルベルトの肩に抱き着くようにしたり、顔を近づけて笑ってみたり。酔っているとしても、好きな相手が別の男に触られていて良い気分なわけがない。ギルベルトの表情も、今の私にはあまり見ないような少しばかり気が抜けたような。私が小さい頃に見せていたような表情で、一気に腹の奥にザワリとした感覚が走った。
「ギルベルト!」
思わず名前を呼んでみたが、気づく様子はない。レオンの相手に集中している様子に、内心苛立つ。速足になり、前を歩く団員を追い抜き。早くギルベルトからレオンを離さなくてはと躍起になった。だが頼もしい団員は多く、思うように進まない。更には、ギルベルトよりも私の存在に気づいたのはレオンだった。一瞬、私を目が合う。その視線、表情はギルベルトに向ける「酔っている」ものと違っていて、どこか挑発的に笑っているように見えた。その刹那、レオンの腕が伸びて更には顔がギルベルトに近づき。私が今まで重ねたことないギルベルトの唇に、レオンの唇が重なっていた。
ああ、やってしまった。私の作戦は失敗だ。私が離れ、引いている間に、他の誰かがギルベルトに手を伸ばしている。すぐにそう悟った時には、もう一度レオンがギルベルトにキスしようとしていた。
******
更新しました。お気に入りほか有難うございます(^^)
32
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる