【完結・BL】王子は騎士団長と結婚したい!【王子×騎士団長】

彩華

文字の大きさ
40 / 75

40】

しおりを挟む
40】

 アーサー様と二人、賑やかな慰労会が開催されていている訓練場を後にした。遠くで訓練場から賑やかな声が聞こえる中、どこへ行こうかと脚を止めればアーサー様が俺の名前を呼んだ。

「ギルベルト」

「はい」

すぐに振り返って返事をする。そうすれば、穏やかにニコリと微笑んだ表情を浮かべながら、目が笑っていなかった。静かにアーサー様の手が伸びて、俺の唇をなぞる。ムニッ、と上唇を僅かに持ち上げてすぐに指が離れていった。

「アーサー様?」

「ギルベルト。私の部屋に行こう」

「……分かりました」

今の俺に拒否権なんか無かったし、選択肢も俺の部屋かアーサー様の部屋の二択しか無かった。この空気のままアーサー様の部屋へ行くことが何を意味するか分かる。ほのかに身体に残る酒が、身体から蒸発するような。酔いが一気に醒めた気がした。

それから、どのくらいの時間が経っただろう。
互いに無言のまま、今度はアーサー様が俺の前を歩いて行った。道中、人に会ったのは数人で「アーサー様」「ギルベルト様」と声をかけられては手短に挨拶する程度で脚を速める。俺たちの居住区へ近づけば、人は居ない。一層静かな廊下に、コツコツと二人分の足音が響いて内心どうしたものかと考えた。

(アーサー様の機嫌が悪い)

戻って来て顔を見せに行かなかったのが、よほど悪かっただろうかと思ったが、正解は分からない。

「着いたよ、ギルベルト。入って」

ギィッ……と開かれた扉に、言われるまま脚を踏み入れる。一瞬、この場でキスされたことを思い出して身構えてしまった。

「大丈夫。今日はここでは、キスしないよ」

俺の様子に気づいたアーサー様が、小さく笑った。さぁと手を引かれ、やって来たのはいつものベッドの側。普段であれば、アーサー様が座って俺を見ることが多いが、今日は俺が先に座らせられる。俺の前に立ったアーサー様が、俺を見下ろす。不謹慎ではあるが、こんな中でも俺の心臓はどういうわけかドキドキと速くなった。
黙ったまま俺を見下ろすアーサー様が、また俺の唇に触れる。フニフニと乾燥した唇など触れても楽しくないだろうにと思いながら、無言は苦しくアーサー様の名前を呼んだ。

「アーサー様?」

「何?」

「そのっ、何をしてるんですか?」

「んー……」

俺が問えば、ムニッとまた俺の唇を持ち上げて。端正なアーサー様の顔が近づいて言った。

「なに。色々と私の作戦が失敗だったことと、さっさと奪っておけば良かったと後悔していたりするだけさ」

「え……ふ、ぅ……!」

一瞬目を伏せたアーサー様。作戦? 後悔? と思った時には、初めてアーサー様が俺の唇にキスをしていた。

********
更新しました。お気に入りほか有難うございます
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

若さまは敵の常勝将軍を妻にしたい

雲丹はち
BL
年下の宿敵に戦場で一目惚れされ、気づいたらお持ち帰りされてた将軍が、一週間の時間をかけて、たっぷり溺愛される話。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

処理中です...