【R18】二人の会話 ─幼馴染みとの今までとこれからについて─

櫻屋かんな

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第三章 二人の会話

7.お墓参り

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 圭吾と再会して数日後の土曜日、久しぶりに俊成君と会った。

 この日は夜から雨が降るんだとかで、朝から空はどんよりと曇っていた。平日しか入れていないバイトはお休みで、午前中はコロの散歩に行っただけ。あとはずっとコタツに入ってごろごろしていた。お母さんが「お昼なににしようかな」なんてつぶやいていて、それとテレビの音を聞きながら少しずつ眠りに落ちていく瞬間だった。

 玄関からピンポンと音が聞こえて、コロが一声吠えて走っていった。あの反応の仕方だと、誰か知り合いがきたと思うんだけど。

 ぼんやり思いながら、近くに転がっているクッションを手繰り寄せる。これを枕に本格的に寝ようとしていた。けれど、

「あずさー、俊ちゃんよ」
「えー?」

 回らない頭でとっさに、今日学校あったっけ? とか考えてしまう。ああもうすでに寝ぼけているな、私。

 慌てて頭を振ってはっきりさせると、玄関に向かった。

「どうしたの?」

 気が付けば二週間ぶりくらいだ。今までも夏休みとか、下手すると一月くらい会わないこととかあったのに、なんだかやけに懐かしく感じる。そういえば、学生服じゃない俊成君っていうのも久しぶりだ。

 圭吾とのことがあったせいか、妙に意識してしまっていた。いたって普通の表情の俊成君を前に、平常心であろうと努力をしてみる。

「ばあちゃんの墓参り、誘いに来たんだ」
「墓参り?」

 訳が分からず聞き返したら、あれ? って顔をされた。

「うちの母さんに頼まれたんだけど。あずが行きたがっていたから、誘ってやれって」
「え? ……あ、ああ。そうだ。行くっ。ちょっと待って」

 慌てて自分の部屋に戻り、コートを掴んだ。つい先日、おばさんがパンを買いに来たときにそんな話になったんだ。もうおばあちゃんが亡くなって丸三年になるって聞いて、でも親族じゃないからさすがに自分だけじゃお墓参りできないしって私がぼやいて。あんまり考えないでもの言っちゃったんだけど、ちゃんとおばさん気にしてくれていたのか。

「お待たせっ」

 慌てて靴を履いたら、コロが尻尾を振って私の足を前足で引っ掻いた。

「コロも行く?」

 なんの気無しにそう聞いたら、背後で返事があった。

「ただの散歩じゃないんだから、お寺の境内に関係ない犬連れて行くのは止めておきなさい。それよりも、はい、これお花代」

 そうしてお母さんからお金を渡されてしまう。

「おばさん、俺も貰っているから」

 困ったように俊成君が反論すると、お母さんはいい事を思いついたとでもいう表情で、とんでもない発言をした。

「じゃあ、二人でご飯でも食べたら?」
「へ?」

 さっくりと言われて、思わず固まってしまう。高校生の娘に、男の子と二人でご飯食べに行けって、母親がそれ言うの?

「あずさ、お母さん達の分もちゃんとお参りお願いね」

 娘が内心焦っているというのに、無邪気な笑顔で送り出すお母さん。そうでした。この人にとって俊成君と私は、高校生とかなんとかじゃなくて、昔からの幼馴染の二人なんでした。

 一瞬分からなくなって焦ってしまった自分の立ち位置を、教えてもらったような気分だった。ほっとしながら今度こそ、外に出る。





「……で、『いずみ亭』はやっぱりカツサンドが売りなんだけれど、結構カレーも侮れないのよ」

 数分後、商店街を通り抜けながら、熱く地元の飲食店について語る私がいた。

「カレー?」
「ニンジンとかジャガイモとかがごろごろしている、普通の一般家庭のようなカレーなんだ。結構美味しいんだよね」
「ふぅん。あ、でも駄目みたいだぞ」
「え?」
「ほら、本日臨時休業」

 そう言って通りの向こう、話題の店を指して俊成君がくすりと笑う。

「やられたー。もういい。ファミレスかファーストフードで良いよ。どっちも最近行ってなかったし」

 唇とがらせてそういうと、俊成君が余計に面白そうに笑い出した。

「あずの幸せは、金で買える」
「なによ、それ」
「飯であっさり釣られるだろ? 分かりやすいよな」
「……否定は出来ないかも」

 しぶしぶ認めながら、どんどんと歩いていった。

 俊成君のおばあちゃんが眠るお墓は、中学校の先、神社の隣の祥竜寺にあった。あのお祭りの日に、みんなで肝試しをしたお寺だ。そういえば最近、うるさい住職が体壊して息子さんが頑張っているって聞いたけど。

「副住職さんってかなりのイイ男だって聞いたんだけれどな」
「どこからそんな話が流れて来るんだよ」
「奈緒子お姉ちゃん。お姉ちゃんが中一のとき、副住職は三年生だったって。凄いもてていたって言っていた。どう思う?」
「自分で確かめれば? 今日はいるんじゃないのか」
「本当にいるの?」
「さあ」

 そんなくだらない話をしながら、お寺の近くの花屋さんに寄った。墓参のお客のため、店頭に仏花が置いてある。すでに白い紙で包まれているその束をのぞき込んだら、菜の花とかチューリップとか春の花が重ねられていた。

「まだ二月なのに、花は春なんだ」

 ちょっと感心したように、つぶやいた。

「温室栽培だから、実際の気候より早いよ。この後もっとチューリップの種類が増えてくる。あと、小手毬に金鳳花、スイートピー、やっぱり華やかになるな」

 ごく当たり前のように花の名前を口にする俊成君に驚いて、横顔を見つめてしまった。

「くわしいね」
「家に庭あるし」
「あ、そうか。倉沢家の園芸って、俊成君がやっているんだっけ」
「なんで知っているんだ?」
「おじさんがこの間教えてくれたよ」

 言いながら、昔一度だけ見たカンナの花を思い出した。思えば俊成君の園芸歴って、小学生にまで遡れるってことなんだよね。

「親父、あずにそんなこと話したのか?」

 なんとなくほのぼのとしたのに、なぜか俊成君は緊張したように表情をこわばらせた。

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