53 / 73
第三章 二人の会話
25.あたためて
しおりを挟む
「冷えている」
ふいに背後から抱きしめられ、声がする。肩に乗る頭の重みとか、背中越しに伝わる体温だとか。さっきまで抱き合っていたけれど、でもこんな密室の中、近い距離で感じる俊成君にまた私の鼓動は早くなる。
「外、寒かったもん」
顔を上げることが出来ずに、俊成君の腕を見つめた。私のうなじに彼の短い髪がかかって、呼吸をするたびかすかに揺れる。そんな感触にも体がぴくりと震え、どうしてよいか分からずにそっと俊成君の腕に触れた。するとくるりと体を回されて、正面から抱きしめ直されてしまう。
「髪も冷たい」
髪の毛に指を差し入れ梳いてゆく。そのたび冷えた髪に彼の熱が伝わって、じんわりとした心地よさが広がった。優しい仕草。何度も繰り返すその動作に、昔、頭を撫でられた事を思い出した。
あのときには、まさかこんなことになるとは思わなかったけれど。
つい微笑みながら顔を上げたら、俊成君と目が合った。
「あず」
うながされるように呼びかけられる。
「……うん」
どきどきしているのに。緊張しているのに。
それなのに私は自然に眼を閉じて、彼のキスを待っている。そしてそれはやって来て、柔らかな感触が唇に落とされた。
暖かい。俊成君の唇だ。あれほど冷えて凍えていた体が、キスで急速にとかされてゆく。
俊成君はそんな私を暖めようとするように、頬や鼻、まぶたやおでこなど顔のいたるところに唇を落としていった。柔らかくって暖かで、でも彼の唇が離れるとそこはじんわりとしびれたようにうずいてくる。
「なんか温泉入っているみたい」
眼をつむったまま、小さく笑ってそう言ったら、俊成君の動作が一瞬止まった。
「あず、寝るなよ?」
「寝ないよ」
確かに気持ちよくって、このまま寝ちゃってもいいくらいの気持ちにはなっているけど。さすがにそこまで言えなくて黙ったら、私の頬に俊成君の頬がそっと寄せられた。
「まあ、寝させないけど」
どこか楽しそうな俊成君の声が耳元でして、え? と思った瞬間、耳たぶに湿った感触と刺激を覚えた。
「や、あっ」
俊成君が私の耳を甘噛みする。耳元にかかる息とか、唇の柔らかな感触とか、噛まれるたびにそんなものにびくついて、体を逃がすようにのけぞってしまう。でも止めるつもりは無いようで、もう片方の耳もそっと親指の腹で撫で上げられた。
「んっ」
左側の耳に、俊成君の指と私の耳がこすれる音が響いてくる。そして右側では俊成君の吐息が。左右の耳から受けるそれぞれの刺激に対応できなくて体をよじったら、右の耳をさらに彼の口元に押し付ける結果となってしまった。
「全部、暖めるから」
間近でそう囁く俊成君の声がいつもと違う艶を帯びていて、それだけでまた体が震えた。
「と、俊成君」
「ん?」
焦る私をはぐらかすように聞きかえして一旦離れると、今度は正面から口付ける。優しい、ついばむようなキス。何度もそれを繰り返すうち、少しずつ深くなって、唇のあわさる時間が長くなった。
頭がぼうっとする。力が、入らない。でも俊成君の左手は私の後頭部を支え、右手は耳たぶをもてあそんでいるから、頼りなく腕を掴んでいるしかなかった。
「あず、腰に手を回して」
唇を合わせたまま、囁かれた。唇の振動がくすぐったい。俊成君が一歩後ろに下がったのを合図に素直に手を前に持っていくと、その分上半身が傾いて密着する。より深く唇があわさった。
「あ……」
耳をいじっていた指が後ろにずれて、つっと首筋をなぞってきた。その刺激に声を上げると、その瞬間俊成君の舌が私の唇から侵入してくる。
ぽってりとした厚みの、でもひどくなまめかしい動きの舌が私の歯をなぞってゆく。ゆっくりとこじ開けるように口内に侵入し、上あごをくすぐるように舐めていった。
「ふっ、ん……」
くらくらする。息が上手く出来ない。すべての神経が口の中に終結してしまったようで、まるで全身を舐められているみたいだ。
心臓が、ばくばくする。恥ずかしい。恥ずかしい。でも、気持ちが良くて溶けていく。気持ちが、溶けてゆく。
「ん。はぁ……、ん」
上あごを丹念になぞる俊成君の舌は円を描く様に口内を蹂躙し、奥にちぢこまった私の舌を捕まえると、誘うように絡めてきた。
どうしよう。どうすればいいの?
分からなくってうっすらと目を開けると、その瞬間俊成君の瞳とかち合った。強い意志を秘めた瞳。引き込まれて逸らすことも出来ない。
俊成君は首を傾け角度を変えると、今度はさらに口付けを深くし、私の舌を誘い出した。
「んっ」
意を決して、恐る恐る舌を差し出す。体をきゅっと強く抱きしめられて、それに勇気付けられて、つたないながらもそっと舌を動かしてみた。
「ふぁ、は……」
私の動きに呼応するようにさらに俊成君の舌はうごめいて、口の中の快楽が増した。
気持ちいい。どうしよう、キスがこんなに気持ちいいなんて初めて知った。
ふいに背後から抱きしめられ、声がする。肩に乗る頭の重みとか、背中越しに伝わる体温だとか。さっきまで抱き合っていたけれど、でもこんな密室の中、近い距離で感じる俊成君にまた私の鼓動は早くなる。
「外、寒かったもん」
顔を上げることが出来ずに、俊成君の腕を見つめた。私のうなじに彼の短い髪がかかって、呼吸をするたびかすかに揺れる。そんな感触にも体がぴくりと震え、どうしてよいか分からずにそっと俊成君の腕に触れた。するとくるりと体を回されて、正面から抱きしめ直されてしまう。
「髪も冷たい」
髪の毛に指を差し入れ梳いてゆく。そのたび冷えた髪に彼の熱が伝わって、じんわりとした心地よさが広がった。優しい仕草。何度も繰り返すその動作に、昔、頭を撫でられた事を思い出した。
あのときには、まさかこんなことになるとは思わなかったけれど。
つい微笑みながら顔を上げたら、俊成君と目が合った。
「あず」
うながされるように呼びかけられる。
「……うん」
どきどきしているのに。緊張しているのに。
それなのに私は自然に眼を閉じて、彼のキスを待っている。そしてそれはやって来て、柔らかな感触が唇に落とされた。
暖かい。俊成君の唇だ。あれほど冷えて凍えていた体が、キスで急速にとかされてゆく。
俊成君はそんな私を暖めようとするように、頬や鼻、まぶたやおでこなど顔のいたるところに唇を落としていった。柔らかくって暖かで、でも彼の唇が離れるとそこはじんわりとしびれたようにうずいてくる。
「なんか温泉入っているみたい」
眼をつむったまま、小さく笑ってそう言ったら、俊成君の動作が一瞬止まった。
「あず、寝るなよ?」
「寝ないよ」
確かに気持ちよくって、このまま寝ちゃってもいいくらいの気持ちにはなっているけど。さすがにそこまで言えなくて黙ったら、私の頬に俊成君の頬がそっと寄せられた。
「まあ、寝させないけど」
どこか楽しそうな俊成君の声が耳元でして、え? と思った瞬間、耳たぶに湿った感触と刺激を覚えた。
「や、あっ」
俊成君が私の耳を甘噛みする。耳元にかかる息とか、唇の柔らかな感触とか、噛まれるたびにそんなものにびくついて、体を逃がすようにのけぞってしまう。でも止めるつもりは無いようで、もう片方の耳もそっと親指の腹で撫で上げられた。
「んっ」
左側の耳に、俊成君の指と私の耳がこすれる音が響いてくる。そして右側では俊成君の吐息が。左右の耳から受けるそれぞれの刺激に対応できなくて体をよじったら、右の耳をさらに彼の口元に押し付ける結果となってしまった。
「全部、暖めるから」
間近でそう囁く俊成君の声がいつもと違う艶を帯びていて、それだけでまた体が震えた。
「と、俊成君」
「ん?」
焦る私をはぐらかすように聞きかえして一旦離れると、今度は正面から口付ける。優しい、ついばむようなキス。何度もそれを繰り返すうち、少しずつ深くなって、唇のあわさる時間が長くなった。
頭がぼうっとする。力が、入らない。でも俊成君の左手は私の後頭部を支え、右手は耳たぶをもてあそんでいるから、頼りなく腕を掴んでいるしかなかった。
「あず、腰に手を回して」
唇を合わせたまま、囁かれた。唇の振動がくすぐったい。俊成君が一歩後ろに下がったのを合図に素直に手を前に持っていくと、その分上半身が傾いて密着する。より深く唇があわさった。
「あ……」
耳をいじっていた指が後ろにずれて、つっと首筋をなぞってきた。その刺激に声を上げると、その瞬間俊成君の舌が私の唇から侵入してくる。
ぽってりとした厚みの、でもひどくなまめかしい動きの舌が私の歯をなぞってゆく。ゆっくりとこじ開けるように口内に侵入し、上あごをくすぐるように舐めていった。
「ふっ、ん……」
くらくらする。息が上手く出来ない。すべての神経が口の中に終結してしまったようで、まるで全身を舐められているみたいだ。
心臓が、ばくばくする。恥ずかしい。恥ずかしい。でも、気持ちが良くて溶けていく。気持ちが、溶けてゆく。
「ん。はぁ……、ん」
上あごを丹念になぞる俊成君の舌は円を描く様に口内を蹂躙し、奥にちぢこまった私の舌を捕まえると、誘うように絡めてきた。
どうしよう。どうすればいいの?
分からなくってうっすらと目を開けると、その瞬間俊成君の瞳とかち合った。強い意志を秘めた瞳。引き込まれて逸らすことも出来ない。
俊成君は首を傾け角度を変えると、今度はさらに口付けを深くし、私の舌を誘い出した。
「んっ」
意を決して、恐る恐る舌を差し出す。体をきゅっと強く抱きしめられて、それに勇気付けられて、つたないながらもそっと舌を動かしてみた。
「ふぁ、は……」
私の動きに呼応するようにさらに俊成君の舌はうごめいて、口の中の快楽が増した。
気持ちいい。どうしよう、キスがこんなに気持ちいいなんて初めて知った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる