平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬

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8.風紀委員会室にて

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 放課後、風紀委員会室に向かう足取りは、なぜか少し軽やかだった。

 東雲先輩との約束を思い出すと、胸がそわそわする。如月会長とは違う、あの軽やかで親しみやすい雰囲気に、なぜか惹かれている自分がいた。

 風紀委員会室は、生徒会室よりも少し小さくて、でも整然と整理された落ち着いた空間だった。扉をノックすると、すぐに返事が聞こえた。

「はーい、どうぞー」

 扉を開けると、東雲先輩が一人で机に向かっていた。書類を片付けながら、にっこりと笑いかけてくる。

「よく来てくれた!待ってたよ」

「お疲れさまです」

「お疲れさま。まあ、座って座って」

 促されて椅子に座ると、東雲先輩も向かいの席に移ってきた。生徒会室での如月会長との距離よりも、なぜか近い気がする。

「他の風紀委員は?」

「今日は俺一人。他のメンバーには、君が来ることは内緒にしてあるから」

「内緒?」

「だって、『新入生の柊が風紀委員会に来る』なんて話が広まったら、みんな見物に来ちゃうでしょ?」

 東雲先輩は苦笑いを浮かべた。

「君の人気、本当にすごいからね。昨日廊下で会っただけで、もう噂になってるし」

「噂って?」

「『東雲委員長が新入生と親しそうに話してた』とか、『あの美少年は誰だ』とか」

 頬が熱くなる。そんなに注目されているなんて思わなかった。

「でも、だからこそ風紀委員として君のことを把握しておかなきゃいけないんだ」

 東雲先輩は少し真面目な表情になった。

「実際、君がいることで学園にどんな影響が出るか、確認したくて」

「影響って、そんな大げさな……」

「大げさじゃないよ。現に俺も、君と二人きりになれて嬉しくてドキドキしてるし」

 またしても直球な発言に、心臓が跳ね上がった。

「東雲先輩……」

「あ、また言っちゃった。でも本当だよ?」

 東雲先輩は全然恥ずかしがる様子もなく、むしろ楽しそうだった。

「風紀委員長として、君みたいな『危険人物』は要チェックなんだ」

「危険人物って……」

「学園の平和を乱す美少年、って意味での危険人物ね」

 そう言いながら、東雲先輩は書類の束を取り出した。

「これ、昨日今日で集まった『苦情』と『要望』」

「苦情?」

「『廊下で美しい新入生を見かけて授業に集中できませんでした』とか、『あの子は一体誰ですか、教えてください』とか」

 書類をぱらぱらとめくりながら、東雲先輩は笑っている。

「要望の方は『もっと彼と接触する機会を作ってください』とか『同じクラスに転入させてください』とか、無茶苦茶なのばっかり」

「そんな……」

「でしょ?だから俺も対策を考えなきゃいけないんだ」

 東雲先輩は椅子を少し近づけてきた。

「まず、君の制服の件。やっぱりサイズが合ってないのは問題だね」

「はい……」

「立ってもらえる?」

 言われるままに立ち上がると、東雲先輩も立ち上がってぼくの周りを歩き始めた。

「うーん、やっぱり全体的にゆるいね。特に肩幅と胴回り」

 そう言いながら、東雲先輩は制服の肩の部分を軽く摘んだ。その指が肩に触れた瞬間、ぞくっとした。

「ここ、こんなに余ってる」

 今度は袖を持ち上げて、腕の長さをチェックしている。東雲先輩の顔が近くて、彼の香りがほのかに感じられた。

「胴回りも……」

 東雲先輩の手が、制服の脇の部分に触れた。

「あの……」

「ん?」

 顔を上げると、東雲先輩の顔がすぐ近くにあった。その瞳が、じっとこちらを見つめている。

「……やばい」

「え?」

「こんなに近くで見ると、本当に可愛いんだもん」

 東雲先輩の声が、少しかすれていた。

「俺も、他の生徒と同じ気持ちになっちゃう」

「東雲先輩……」

「風紀委員長失格だね、こりゃ」

 そう言いながらも、東雲先輩は距離を詰めてくる。

「あの……」

「君のせいで、俺の理性も吹っ飛びそうだよ」

 その言葉に、胸がどきどきした。

「でも……」

 東雲先輩は突然はっとしたような顔をして、慌てて距離を取った。

「あー、だめだめ!俺としたことが」

 頭を掻きながら、苦笑いを浮かべる。

「風紀委員長が生徒に手を出すなんて、最低だよね」

「そんなことないです」

「優しいなあ、君は。でもだからこそ危険なんだ」

 東雲先輩は椅子に座り直した。

「君は自分の魅力を分かってない。だから無防備すぎる」

「無防備って?」

「今みたいに、俺がちょっと近づいただけで頬を赤らめて。そんな顔されたら、誰だって勘違いしちゃうよ」

 確かに、顔が熱くなっているのが自分でも分かった。

「俺だって、君がそんな反応してくれるなら、もっと……」

 東雲先輩は言いかけて、首を振った。

「だめだ、また変なこと考えちゃう」

「東雲先輩」

「何?」

「ぼく、そんなに変ですか?」

 東雲先輩の表情が、一瞬真剣になった。

「変じゃない。美しすぎるんだ」

「美しいって、よく言われるんです。でも、よく分からなくて……」

「そうだね。君は本当に自覚がない」

 東雲先輩は少し考えるような表情をした。

「じゃあ、実験してみる?」

「実験?」

「君の魅力がどれほどのものか、客観的に確認してみよう」

 そう言って、東雲先輩は携帯を取り出した。

「ちょっと写真撮らせて。もちろん、変な用途じゃないよ」

「写真?」

「風紀委員会の資料として。君がどれだけ『危険』な存在か、記録に残しておきたいから」

 そう言われて、なぜか断れなかった。

「じゃあ、そこに立って」

 言われるままに立つと、東雲先輩がカメラを構えた。

「いい表情だね。自然で」

 シャッター音が響く。

「今度は少し笑って」

「え?」

「そう、その困ったような笑顔がまたいい」

 何枚か写真を撮られて、東雲先輩は携帯の画面を見ながらにやりと笑った。

「やばい、本当に可愛く撮れちゃった」

「見せてください」

 画面を覗き込むと、そこに映っているのは確かにぼくだった。でも、普段鏡で見る自分とは何かが違う。

「本当にぼく?」

「君だよ。客観的に見ると、こんなに美しいんだ」

 東雲先輩の声が、少し優しくなった。

「これなら、みんなが騒ぐのも無理ないね」

 写真の中の自分を見ていると、不思議な気持ちになった。

「でも、これじゃあ風紀委員長として君を放っておけないな」

「え?」

「こんなに可愛い子が無防備に学園内をうろついてたら、絶対に問題が起きる」

 東雲先輩は真面目な顔になった。

「だから、俺が個人的に見守ることにした」

「個人的に?」

「風紀委員長として、じゃなくて、一人の男として」

 その言葉に、胸がきゅんとした。

「東雲先輩……」

「君を守りたいんだ。他の奴らに変な気を起こされる前に」

 東雲先輩の瞳が、真剣だった。

「でも、それって……」

「俺の勝手な都合だよ。君に迷惑かもしれない」

「迷惑じゃないです」

 思わず口に出していた。

「本当?」

「はい。東雲先輩となら……」

 途中で言葉が詰まった。自分でも、何を言おうとしていたのか分からない。

「可愛いなあ、本当に」

 東雲先輩は優しく笑った。

「じゃあ決まり。これからは俺が君を守る」

 その時、風紀委員会室の扉がノックされた。

「東雲、いるか?」

 聞き覚えのある声に、二人とも振り返った。

「蒼真にい……」

 扉が開いて、蒼真兄が顔を出した。兄の視線が、ぼくと東雲先輩を見比べる。

「凛音……何をしてる?」

「あ、えっと……風紀委員会のお手伝いを」

「お手伝い?」

 蒼真兄の表情が険しくなった。東雲先輩の方を見ると、彼は何事もなかったかのように立ち上がる。

「副会長、お疲れさまです。弟さんに風紀指導をしていたところです」

「風紀指導?」

「制服のサイズの件で。それから、学園生活についてのアドバイスも」

 蒼真兄の視線が、東雲先輩の携帯に向いた。画面にはまだ、ぼくの写真が映っている。

「……その写真は?」

「あ、これは……」

 東雲先輩が慌てて携帯をしまおうとした瞬間、蒼真兄が素早く近づいてきた。

「凛音」

「は、はい」

「帰るぞ」

 兄の声には、いつもとは違う厳しさがあった。

「あ、でもまだ……」

「今すぐだ」

 有無を言わさぬ調子に、立ち上がる。

「東雲先輩、今日はありがとうございました」

「あ、うん……また今度」

 東雲先輩は困ったような笑顔を浮かべていた。


****

8月からは一日一話更新とさせていただきますm(_ _)m



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