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12.歓迎会①
しおりを挟む「新入生歓迎会は今年も鬼ごっこです!」
生徒会の上級生が大きな声で発表すると、体育館にいた全校生徒からどよめきが起こった。
「鬼ごっこって……まさか本当に?」
真白くんが隣で呟く。
「蒼嶺学園伝統の、特別な鬼ごっこです。ルールを説明しますね」
マイクを持った生徒会役員が続ける。
「まず、学園内全体がフィールドになります。校舎、中庭、体育館、図書室……どこでも使えます。制限時間は2時間」
「2時間も?」
「鬼は上級生10名。新入生は全員が逃げる側です。捕まった新入生は、体育館に戻ってもらいます」
ぼくは周りを見回した。新入生は約100名。鬼が10名なら、なんとかなりそうな気がする。
「最後まで捕まらなかった新入生には、特別な景品があります!」
「景品?」
「はい。生徒会から図書カードと再来月に行われる学園祭での特別席券をプレゼントいたします!」
思っていたより無難な内容だったけれど、嬉しい。
「それでは、鬼の発表です」
体育館のスクリーンに、10人の上級生の写真が映し出された。
最初に映ったのは——
「生徒会長、如月圭人!」
圭人先輩の写真を見て、胸がどきんとした。あの優しい微笑みが、今日は少し違って見える。
「続いて、生徒会副会長、柊蒼真!」
「蒼真兄が鬼!?」
思わず声に出してしまった。
「風紀委員長、東雲伊織!」
東雲先輩の写真も映し出される。きっと楽しそうに追いかけてくるんだろうな。
「寮長、 鳴海 文哉」
寮長さんまで鬼になるなんて。
他にも見知らぬ上級生たちの顔が次々と映し出されていく。
「それでは、新入生の皆さんは5分後にスタートです。鬼の皆さんは10分後に追跡開始となります」
「作戦会議しよう」
真白くんがぼくの腕を引っ張る。
「どこに隠れるのがいいかな?」
「うーん……」
夏目くんも近づいてきた。
「人数の多いところは避けた方がいい。鬼も効率を考えて、人が集まる場所から攻めてくる」
「じゃあ、どこに?」
「図書室の奥とか、普段使わない教室とか」
「それいいね!」
真白くんが手を叩く。
「じゃあ、図書室に向かおう」
その時、後ろから声をかけられた。
「凛音」
振り返ると、蒼真兄が立っていた。
「蒼真兄……」
「お前、どこに隠れるつもりだ?」
「え、えっと……」
「教えられるわけないでしょ」
真白くんが蒼真兄を見上げる。
「副会長は鬼なんですから」
「そうだが……」
蒼真兄は困ったような顔をした。
「凛音、あまり危険な場所には行くなよ」
「危険って?」
「屋上とか、人里離れた場所とか」
蒼真兄の表情が真剣だった。
「もし捕まりそうになったら、素直に捕まれ。変に逃げ回って怪我をするな」
「うん、分かった」
「それから……」
蒼真兄は声を小さくした。
「他の鬼には気をつけろ。特に如月と東雲だ」
「どうして?」
「お前を捕まえることに、必要以上に熱心になりそうだから」
そう言って、蒼真兄は苦笑いを浮かべた。
「では、ゲーム開始5分前です!新入生の皆さん、準備してください」
アナウンスが響く。
「行こう、凛音」
真白くんと夏目くんと一緒に、体育館を出た。
廊下は新入生たちで溢れていて、みんな思い思いの方向に散らばっていく。
「図書室に向かおう」
「待て」
夏目くんが立ち止まった。
「どうしたの?」
「あそこを見ろ」
夏目くんが指差した方向を見ると、図書室に向かう新入生がぞろぞろといる。
「みんな同じことを考えてるのか」
「別の場所にしよう」
「どこがいい?」
「音楽室はどうだ?普段あまり使わないし、防音もしっかりしている」
「それいいね」
三人で音楽室に向かう途中、廊下で東雲先輩とすれ違った。
「よう、凛音」
「東雲先輩……」
「楽しそうだね、鬼ごっこ」
東雲先輩はにこやかに笑っている。
「まだ鬼は動けないんじゃ……」
「あ、そうだった。でも、どこに隠れるかは大体想像つくよ」
「え?」
「君みたいな可愛い子は、みんなが守ろうとするからね。きっと人目につかない場所を選ぶでしょ?」
東雲先輩の推理が的確すぎて、ぞくっとした。
「でも安心して。俺は手加減してあげるから」
「手加減?」
「すぐには捕まえない。せっかくだから、楽しく追いかけっこしよう」
そう言って、東雲先輩は手を振って去っていった。
「……手加減されるのも微妙だな」
夏目くんが呟く。
「ゲーム開始!新入生の皆さん、逃げてください!」
アナウンスと同時に、新入生たちが一斉に走り出した。
音楽室に着くと、既に何人かの新入生がいた。
「ここも人気なのか」
「他を探そう」
廊下に出ると、遠くから楽しそうな声が聞こえてくる。
「きゃー、鬼が来る!」
「まだ5分経ってないのに?」
「フライングじゃない?」
慌てて階段を上がると、3階の美術室の前で立ち止まった。
「ここはどうかな?」
「美術室……意外と盲点かも」
扉を開けると、中は静かで誰もいない。大きなキャンバスや彫刻が並んでいて、隠れる場所はたくさんありそうだ。
「ここにしよう」
三人で美術室の奥に隠れた。窓の外を見下ろすと、中庭で鬼ごっこが始まっているのが見える。
「鬼の動き出し!新入生の皆さん、頑張って!」
「いよいよ始まったね」
真白くんが緊張した様子で呟く。
「大丈夫だよ。ここなら見つからない」
そう言った矢先、美術室の扉が静かに開いた。
「……」
息を殺して見ていると、そっと中に入ってきたのは——
「如月会長……」
圭人先輩がゆっくりと室内を見回している。まだこちらには気づいていない。
(どうしよう……)
真白くんと夏目くんも、息を殺している。
圭人先輩は静かに美術室の中を歩き回った。彫刻の陰やキャンバスの後ろをチェックしていく。
その姿は、まるで猫のように優雅で無音だった。
「凛音くん」
突然名前を呼ばれて、心臓が跳ね上がった。
「ここにいるのは分かっています」
圭人先輩の声は優しかったけれど、どこか確信に満ちていた。
「出てきてください」
(どうして分かったんだろう……)
「一緒にいる方も、出てきて構いませんよ」
真白くんと夏目くんを見ると、二人とも困った顔をしている。
仕方なく、隠れていた場所から出た。
「やっぱりここにいましたね」
圭人先輩は微笑んでいる。
「どうして分かったんですか?」
「あなたが美術に興味を持ちそうな場所を考えていました。図書室や音楽室は他の人も考えつきますが、美術室は盲点ですからね」
「すごい推理力ですね……」
「ありがとうございます。では、捕まえさせていただきます」
圭人先輩がゆっくりと近づいてくる。
「待ってください」
真白くんが前に出た。
「凛音を捕まえる前に、僕たちを捕まえてください」
「真白くん……」
「友達を見捨てて逃げるなんて、できないよ」
夏目くんも立ち上がった。
「俺も同じ意見だ」
「二人とも……」
胸が熱くなった。こんなに優しい友達がいてくれて、本当に嬉しい。
「素晴らしい友情ですね」
圭人先輩は感心したような表情をした。
「でも、申し訳ありませんが、私の目的は凛音くんだけです」
「え?」
「他の方は見逃します。凛音くんだけを捕まえさせていただきます」
圭人先輩がさらに一歩近づく。
「逃げて、凛音!」
真白くんが叫んだ。
反射的に走り出すと、圭人先輩も追いかけてきた。
美術室を出て廊下を走る。後ろから圭人先輩の足音が聞こえる。
「待ってください、凛音くん」
「捕まるわけには……」
階段を駆け下りて1階に向かう。でも、圭人先輩の足音はどんどん近づいてくる。
「凛音くん」
振り返ると、圭人先輩が手を伸ばしていた。
「きゃっ」
慌てて角を曲がると、目の前に別の人影があった。
「おっと」
ぶつかりそうになったのは、東雲先輩だった。
「凛音じゃん。こんなところで会うなんて」
「東雲先輩……」
「如月会長に追われてるの?」
後ろから圭人先輩が現れる。
「東雲」
「よう、圭人。早速獲物を見つけたのか」
「ええ。凛音くんを捕まえに来ました」
「それはいけないなあ」
東雲先輩がぼくの前に立った。
「俺も凛音を狙ってたんだよ」
「そうですか。では、どちらが先に捕まえるか、競争ですね」
「面白いじゃん。やってみよう」
二人の会話に、ぞくっとした。
「あの、ぼく逃げますから……」
「だめだよ、凛音」
東雲先輩が振り返る。
「せっかく二人で競争するんだから、審判になってよ」
「審判って……」
「俺と圭人、どっちが先に君に触れるか見ててもらいたいんだ」
「それは困ります」
圭人先輩が割り込む。
「凛音くんには、危険がないようにしたいのです」
「心配しなくても、俺は紳士だよ」
「あなたの『紳士』は信用できません」
二人の間に、微妙な空気が流れた。
その隙に、そっと後ずさりしようとすると——
「凛音」
今度は蒼真兄の声だった。
「蒼真兄……」
角の向こうから、蒼真兄が現れた。
「何をしている?」
「あ、えっと……」
「如月、東雲。お前たちも」
蒼真兄の表情が厳しくなった。
「俺の弟に何をするつもりだ?」
「ただの鬼ごっこですよ、副会長」
圭人先輩が答える。
「ルール通り、捕まえようとしているだけです」
「そうそう。別に変なことしようとしてるわけじゃないって」
東雲先輩も軽く答える。
「でも、蒼真も凛音を狙ってるんでしょ?」
「当たり前だ」
蒼真兄がぼくの方を見る。
「凛音、こっちに来い」
「でも、蒼真兄も鬼だよね……」
「俺が捕まえる分には問題ない」
「それはずるいでしょ」
東雲先輩が文句を言う。
「俺たちも同じ鬼なんだから、平等にチャンスをもらわないと」
「そうですね。公平に競争しましょう」
圭人先輩も同意する。
「凛音くん、10秒だけ待ちます。その間に逃げてください」
「え?」
「10、9、8……」
圭人先輩がカウントダウンを始めた。
「おっ、面白い」
東雲先輩も一緒にカウントしている。
「7、6、5……」
蒼真兄は困った顔をしている。
「4、3、2……」
慌てて走り出した。
「1、0!」
三人の足音が一斉に響いた。
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