どうやら異世界の歪みに落ちた様ですっ!

伊織愁

文字の大きさ
10 / 14

10話

しおりを挟む
 チィーガルの街へやって来ました!!

 馬車を乗り継ぎ、鍛治の街である聳え立つ三つの火山に囲まれた麓に広がる街に辿り着いた。

 道中は思いの外大変だった。 綾の想像よりも魔物と遭遇し、馬車を護衛している屈強な冒険者が魔物を全て退治した。

 綾も魔物と戦う事を覚悟していたが、ショボイ火魔法を披露する事なく、馬車は街道を駆け抜けた。

 少しくらいは戦ってみたかったという願望は、馬車を襲いくる魔物の形相によって早々に打ち砕かれたのだった。

 絶対にもっと強くなろ!

 決意を新たにした綾の青い瞳に、三つの火山が見える。

 チィーガルの街は火山の麓に広がっている。 綾が居たサングリエは、火の国フィアンマの丁度中央で広がっている温泉の街だ。

 サングリエの観光地と違い、チィーガルの街に訪れる人々は、火の魔法石と武器を求めてやって来ている様だ。 ガイドブックの説明には、魔法石の鉱山と鉄鉱石が取れる鉱山があると書いてあった。

 フィアンマにはチィーガルとは別の街であるシャンという街もある。 シャンは犬の姿をした精霊が守っている街で、良い土が取れる山が二つあり、食器や陶石の街だ。

 話は逸れたが、チィーガルの街を歩く綾は、周囲の強そうな冒険者を眺めていた。

 「マスター、前を見て歩かないと危ないよ」
 「……うん」

 冒険者の側には、成獣の精霊たちが歩いている。 皆、連れている精霊は一体だけだ。 誰も契約精霊を連れていない。

 「まさかね……」

 綾の胸に過ぎる嫌な予感を無理やり奥の方へ押し込み、綺麗に視線を向けた。

 「綺麗、先ずはチィーガルのギルドへ行こう」
 「うん、マスター」
 「それで、契約精霊の情報を聞き出さないと」
 「そんな簡単に見つからないと思うよ」
 「そうみたいだよねぇ、誰も契約精霊を連れてないし」

 綾は、ムゥッと口を尖らせる。

 「それはそうだよ。 世界で契約精霊になれる精霊は12体だけだし、その12体が生まれるのも稀だしね」
 「……」
 「皆んなが連れてたらビックリだよ。 って、この話、前もしたような気がする」
 「えっ、そ、そうっ?」

 二人が話している間に、チィーガルの冒険者ギルドに着いたようだ。 何処の街のギルドも同じ作りで同じデザインの建物になっている。

 ただ、街のシンボルが虎なので、掲げているギルドの紋章に虎を表す紋が入っている。 建物の中央に取り付けられている紋章を見上げ、綾は息を吐いた。

 先ずはギルドに到着報告をする為、ギルドの木製の両扉を開けた。 建て付けがイマイチなのか、冒険者が粗雑に開けるのか、鈍くて軋んだ音を鳴らした。

 ◇

 チィーガルの火山の一つで過ごしている圭一朗は、ふと何かを感じて見上げた。

 「どうしました? 圭一朗様」
 「うん、今何か感じたんだけど、何か分からないんだ」
 「ほう、そうですか」

 律儀に返事を返して来た紫月は、起用に眉を顰め、腑に落ちない表情を浮かべている。 動物はあまり表情が動かないものだと思っていた圭一朗は、転生して考えを改めた。 

 とても表情豊かで、仕草が可愛いらしい。

 まだ、一月も経っていないが、圭一朗の側に侍って来た精霊たちとは、信頼関係が築けて来たと自負している。

 「圭一朗殿、さぁ、修行の時間だ」

 一体を除いて。

 クロガネが嫌な笑みを浮かべ、圭一朗を見つめてくる。 

 獲物を見つけた猛獣の様だ。

 まぁ、虎も肉食獣だからな! だけど、あの視線だけは慣れないな、怖すぎるだろっ! 確実に俺を狩る気だろう!

 クロガネが身体の筋を伸ばした後、足音を鳴らさず、四肢が草地を蹴る。

 炎を纏いし剣に魔力を注ぎ、炎を纏わせる。 炎は燃え盛る音を鳴らして揺らぐ。

 クロガネの前足のパンチが圭一朗へ迫る。 炎剣を振り、クロガネの攻撃を交わしたが、背後から迫って来る気配を感じて、圭一朗は左方向へ逃げた。

 背後から迫って来た正体は、クロガネが操る黒い幻影で、いつもは虎の姿、多分だが、クロガネ自身を投影しているはずだ。

 人の姿をした幻影は、なんなとなくだか、シルエットが圭一朗に似ていて、幻影が握る黒い剣は、クロガネの姿を連想するかの様なデザインだった。

 黒の刀身に、金と白の紋様。 厳ついデザインだなっ。

 思わず、圭一朗の口から乾いた笑いが漏れる。

 「幻影って虎だけじゃないのか」
 「ええ、そろそろ人との戦い方も学ぶ方が良いだろうと思いまして」

 圭一朗は炎剣を構えながら小さく首を傾げた。

 「でも、俺の姿は魔力の高い者にしか見えないんだろう?」
 「そうですね。 姿を隠している状態ならですが。 見せないといけない場面もあるかと思いますので」

 にっこりと笑うクロガネの考えは見えないが、彼の言う通りにした方がいい様な気がして、圭一朗はクロガネに頷いた。

 炎剣と幻影の握る黒い剣が打ち合う音を鳴らした。 金属がぶつかる澄んだ音ではなく、炎がぶつかり合う爆ぜるような音だった。 炎が爆ぜる音は、夕方近くまで鳴り響いた。

 ◇

 「先ずは情報収集よ、綺麗。 契約精霊について調べないと」
 「…….マスターはそんなに契約精霊に会いたいの?」
 「まぁ、そういうゲームだしね。 それに物凄く美形なんだよ。 虎の精霊」
 「へぇ~」

 ご機嫌で美形の契約精霊を褒める綾に、綺麗の発した声には、なんの感情も乗っでおらず、棒読みの様な音を出した。

 全く興味がない事が分かる反応だ。

 誰に尋ねようかと、周囲を見回していた綾は、綺麗の反応にムッと口を尖らせた。

 「何、その興味がありませんって態度は」
 「仕方ないじゃない。 実際に興味がないし」
 
 そっぽを向いた綺麗は肩に乗っているのだが、何故か重みが増した。 少しだけ不機嫌にも見える。 ヤキモチを焼いているのかも知れないと思い、綺麗の背中を撫でて宥めた後、綾は受付カウンターへ向かった。

 丁度、手の空いてそうな受付嬢を見つけ、窓口へ足を向けた。

 「すみません」

 綾が声を掛けると、机の上に置いてある羊皮紙を見ていた受付嬢が顔を上げた。

 「いらっしゃいませ。 ギルドにご依頼でしょうか?」

 満面な笑みを浮かべる受付嬢に、綾は
苦笑を零した。 幼い容姿の綾は、冒険者には見えない様だ。

 「あの、依頼ではなくて、聞きたい事があるんですが……」
 
 受付嬢は首を傾げた後、再び満面の笑みを浮かべて対応してくれた。

 「はい、ご用件は何でしょう?」
 「えと、契約精霊の情報を知りたいんですけど」
 「契約精霊ですか?」

 眉を顰めて暫し考えた後、受付嬢は綾を上から下まで眺めて来た。 受付嬢の強い眼差しに、綾は一歩後ずさった。

 何っ?!

 「貴方様にはまだ早いと思われます。 もう少し大人になったらお越しくださいませ」
 「えっ?!」

 完璧に子供扱いを受けた綾は憤慨した。

 幼い顔立ちだが、ゲームでの年齢は成人に達している。 ムッと口を尖らせた。

 再び尋ねようとした時には、もう既に受付嬢は席を離れていた。

 しかし、少し奥に引っ込んでいただけだった為、彼女たちが話している内容が綾の耳に飛び込んできた。

 「ねぇ、あの子の依頼なんだったの?」
 「それが契約精霊の情報を知りたいって」
 「えっ! あの子、冒険者だったの?」
 「そうみたいよ」
 「ふ~ん、じゃ、あの子も契約精霊とどうにかなりたい派なのね」

 えっ、何それ! 美形だとしても、ゲームキャラとどうにかなりたいとかないけど!

 「じゃ、絶対に教えられないわね。 街の外れにある屋敷にそれらしい精霊がいるって」
 「本当ね」

 受付嬢の話を聞いた綾の脳内にある事が思い出された。 公式サイトに載っていた契約精霊との出会いイベントがある事を。

 「あぁぁぁ!」

 思わず声を張り上げてしまった綾は、慌てて口を押さえた。

 公式サイトには、契約精霊は悪どい事をしている貴族に捕まっていて、無理やり契約させられているのだ。 プレイヤーたちは悪徳貴族から契約精霊を解放し、救出するのだ。

 何でその事をすっかり忘れてたの?! 大事な事だったのにっ。

 他にも忘れていないだろうかと、綾は自身の記憶を探った。 解放イベントは、ゲームの初期に出て来るが、まだ新人冒険者には荷が重いイベントだ。 高いスキルレベルを求められる。

 あっ、スキルレベル6以上推奨って書いてなかったっけ?

 以上という事は、6だと駄目だという事だ。 綾のレベルが今、いくつなのか、ステータス画面が見られない為、全く分からない。

 ちゃんと覚えとけば良かった! 最後にアンナウンスが聞こえた時、なんて言ってたっけ?

 綾は頭を抱えてしゃがみ込む。 綺麗が肩から床へ降り、綾の顔を心配そうに覗き込んで来た。

 「マスター?」

 カッと青い瞳を見開いた綾は、綺麗を抱き上げ、すっと立ち上がった。

 「うん、今の私のレベルが分からないなら、レベル上げすればいいのよ。 レベルが足らないかも知れないし、よし、綺麗、山へ行くわよ」
 「えっ?! 契約精霊を探すんじゃなかったの?!」
 「契約精霊に会う為には、一定以上のレベルが必要だって分かったのよ」

 冒険者ギルドを出た綾は、意気揚々と火山に向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...