38 / 97
一章:SとK
現実逃避 12
しおりを挟むこの手の話は苦手だ。
あまりしたくない。
「好きって、感情が、よく解らなくて」
呼吸を落ち着かせてから、視線をあちこちに動かしながら答えとも言えないような答えを返した。
「本当に、そうですか? 僕には、河東先生との関係が、よく解りません。好きでも、付き合ってもいないのに、ただ幼馴染みというだけで、こうやって何年も面倒をみる関係が、あるんでしょうか?」
席を立ち、前のめりになった継生に、がっ、と両肩を掴まれ、目と目ががっちりとぶつかった。
僕は目を逸らしたかったのだが、有無を言わせない雰囲気が漂っていて、出来なかった。
継生の大きな瞳を見詰める。
「た、確かに。端から見れば可笑しな関係だと、解っては、います。いつまでもサン君に、迷惑は掛けられ、ませんし。ですが、それと好き云々は関係ないでしょう?」
一度目線を落としてから、おずおずと継生を見詰め直す。
「関係、あると思いますよ。そんなに無防備に、何もかもを河東先生に預けられるのは、何故ですか? 僕じゃ、駄目なんですか?」
真剣な問い掛けに答えようとした。
頼れるのがサンしかいないのだと、向かい側の席から此方に移動する継生に、そう言おうとしたのだ。
「ぇ? つ、ぐな……先生?」
その言葉は、頭が真っ白になり何処かに飛んでしまった。
僕は、継生に抱き締められていた。
「こんなに好きなのに、僕では駄目なんですか? 僕も精一杯貴方を守ります。河東先生じゃなく、僕を見て下さい」
耳元を擽る言葉の意味を考えようとして、頭の中で何かが弾けた。
頭がガンガンと痛む。
何も考えたくないと拒否反応が起こった。
「す、好きって。僕も先生も、男です、よ」
「それでも、好きなんです。愛しているんです」
どうにか口を吐いた言葉は、みっともなく掠れていた。
返された継生の台詞が耳に入ると同時に、僕の視線は反転した。
継生に押し倒されたようだ。
背中が床に着いている。
継生の顔が目の前にあった。
そこまで理解して、僕の頭は機能しなくなる。
辛うじて継生を突き飛ばし、頭を抱え俯せになる。
頭が痛くて堪らない。
意味を解りたくない。
何も考えたくなかった。
うああぁぁ、と頭を押さえ叫ぶ。
次第に呼吸が上手く出来なくなる。
ひっひっ、と息を吸っても吸っても苦しい。
僕は過呼吸を起こしているようだった。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
【花言葉】
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!
【異世界短編】単発ネタ殴り書き随時掲載。
◻︎お付きくんは反社ボスから逃げ出したい!:お馬鹿主人公くんと傲慢ボス
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる