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03 つまらなくしないで
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アタシはもちろん婚約破棄なんて応じなかったし、屋敷から離れることもなかった。
当然だ。
長年アタシを悩ませてきた退屈という病気が、やっと癒されるかもしれないのに。
「ああ、身体が熱いわ。
なんだかここの、芯のほうがジンジンする」
アタシはベッドのなかで、太ももを擦り合わせて悶えた。
昼間のことを思い出して欲情しているのかもしれない。
ヴィクター卿から睨まれ、殺されそうになったときのことを。
とにかく、夜が更けても全然眠くなってくれない。
すこし館のなかを散歩でもしてこようか。
侍女たちが寝静まっているようなら、彼の秘密の部屋を探すいい機会だ。
そう考えていたところに――
アタシの部屋の扉が、静かに開いた気配がした。
誰?
誰が入ってきたの?
入ってきた何者かが、アタシの寝ているベッドに近づいてくる。
足音を殺してはいるものの、まさかアタシが起きているとは思っていないのだろう、歩調を緩めることなくすぐそばまで寄ってきた。
じっとアタシの寝顔を覗き込んでいるような、静かな空気。
あのつまらない侍女が、アタシがちゃんと寝ているのか確かめにきたのだろうか。
彼の指示で? なぜ?
攫ってきた子どもを殺す日に、こうして邪魔者が入らないことを確認している?
ここでパッと目を開けたら、どうなるのだろう。
彼に報告がいき、お楽しみは延期されるのかもしれない。
どうしよう、気になる。
気になるわ~。
と、そのとき。
その何者かの手が、アタシの首に触れた。
ごつごつした男の指だった。
え? え?
思わず出そうになった声を引っ込める。
もしかしてこれ、彼が昼間の続きでアタシを殺しにきた?
すごい!
そんなに執着してくれているのね。
ロリコンなのに、それを言いふらしかねないアタシを黙らせるためには、おとなであっても殺すんだ。
もしかしたらこれが、彼にとってはじめてのおとな殺しかも。
ああ本当、ドキドキする。
このまま首を絞められるのかしら。
苦しむアタシは、そのときどうするのだろう。
抵抗して彼を叩く?
それとも、その手を優しく撫でて、愛し合うように殺されてあげる?
自分で死にたいと思ったことはないが、死に直面したときにどうなるかは興味があった。
心臓が早鐘を打つ。
唇は笑った形になっているかもしれない。
どうか彼が気づきませんように。
寝ているアタシを、好きにしてくれますように。
が、
首をしばらく撫でていただけで、彼の気配がすっと遠ざかった。
どうしたのだろう。
じつは起きているのがバレた?
いや、それならもっとそれらしい反応をするはず。
アタシは仕方なく、そっと薄目を開けた。
窓から射す月明りに照らされて、彫りの深いヴィクター卿の顔がうっすらと見えた。
あいかわらず無表情で、なにを考えているかわからない。
月明りで、アタシの寝顔を見ていただけ?
でも、首を撫でたのはどういうこと?
アタシの頭のなかに無数の疑問符だけを残し、彼は入ってきたときと同じように、足音を殺して部屋を出ていった。
「なによ。なんなのよ、もう……!」
やきもきするばかりで、考えがまとまってくれない。
でもアタシは、彼が撫でていたところを自分でも触っているうちに、いつしか眠りのなかへといざなわれていた。
当然だ。
長年アタシを悩ませてきた退屈という病気が、やっと癒されるかもしれないのに。
「ああ、身体が熱いわ。
なんだかここの、芯のほうがジンジンする」
アタシはベッドのなかで、太ももを擦り合わせて悶えた。
昼間のことを思い出して欲情しているのかもしれない。
ヴィクター卿から睨まれ、殺されそうになったときのことを。
とにかく、夜が更けても全然眠くなってくれない。
すこし館のなかを散歩でもしてこようか。
侍女たちが寝静まっているようなら、彼の秘密の部屋を探すいい機会だ。
そう考えていたところに――
アタシの部屋の扉が、静かに開いた気配がした。
誰?
誰が入ってきたの?
入ってきた何者かが、アタシの寝ているベッドに近づいてくる。
足音を殺してはいるものの、まさかアタシが起きているとは思っていないのだろう、歩調を緩めることなくすぐそばまで寄ってきた。
じっとアタシの寝顔を覗き込んでいるような、静かな空気。
あのつまらない侍女が、アタシがちゃんと寝ているのか確かめにきたのだろうか。
彼の指示で? なぜ?
攫ってきた子どもを殺す日に、こうして邪魔者が入らないことを確認している?
ここでパッと目を開けたら、どうなるのだろう。
彼に報告がいき、お楽しみは延期されるのかもしれない。
どうしよう、気になる。
気になるわ~。
と、そのとき。
その何者かの手が、アタシの首に触れた。
ごつごつした男の指だった。
え? え?
思わず出そうになった声を引っ込める。
もしかしてこれ、彼が昼間の続きでアタシを殺しにきた?
すごい!
そんなに執着してくれているのね。
ロリコンなのに、それを言いふらしかねないアタシを黙らせるためには、おとなであっても殺すんだ。
もしかしたらこれが、彼にとってはじめてのおとな殺しかも。
ああ本当、ドキドキする。
このまま首を絞められるのかしら。
苦しむアタシは、そのときどうするのだろう。
抵抗して彼を叩く?
それとも、その手を優しく撫でて、愛し合うように殺されてあげる?
自分で死にたいと思ったことはないが、死に直面したときにどうなるかは興味があった。
心臓が早鐘を打つ。
唇は笑った形になっているかもしれない。
どうか彼が気づきませんように。
寝ているアタシを、好きにしてくれますように。
が、
首をしばらく撫でていただけで、彼の気配がすっと遠ざかった。
どうしたのだろう。
じつは起きているのがバレた?
いや、それならもっとそれらしい反応をするはず。
アタシは仕方なく、そっと薄目を開けた。
窓から射す月明りに照らされて、彫りの深いヴィクター卿の顔がうっすらと見えた。
あいかわらず無表情で、なにを考えているかわからない。
月明りで、アタシの寝顔を見ていただけ?
でも、首を撫でたのはどういうこと?
アタシの頭のなかに無数の疑問符だけを残し、彼は入ってきたときと同じように、足音を殺して部屋を出ていった。
「なによ。なんなのよ、もう……!」
やきもきするばかりで、考えがまとまってくれない。
でもアタシは、彼が撫でていたところを自分でも触っているうちに、いつしか眠りのなかへといざなわれていた。
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