君は淫らなシンデレラ~ちびっ子天才デザイナーは初恋ノッポちゃんを離さない~

真波トウカ

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 車内には沈黙が流れている。

 ――なに、この状況。なにから聞けばいいの。

 事態に全くついていけずにいろいろな疑問がぐるぐると頭の中を巡る。
 蜜也は頬杖をついて、ぷいと外を向いていた。

「……悪かったよ」
「え?」

 ぽつりとつぶやかれた言葉に思わず聞き返す。

「謝るからさ……もう、別れるとかいうなよ」
「別れるって……」

 蜜也から真っ先に出てきた言葉が、仕事を放り出していたことへの恨み言でも、先ほどのプロポーズらしき言葉についてでもなくて面食らう。

「気にくわないことがあるなら言えよ。だから頼むからなにも言わないでいなくなったりすんなよ……」

 段々と消え入りそうな語尾は頼りなげで、信じられない気持ちで花奈実は蜜也を見た。

「蜜也くん、私と本当に付き合ってたの?」
「はあ!? なにそれ」
「だ、だって責任感でしぶしぶ付き合ってたんじゃ……」

 今度は蜜也が信じられないという顔で花奈実を見返す。

「どうやったらそんな考えになるんだよ」
「だって、告白一回なかったことにされるし、仕事とか言って理亜さんと二人でいるし……」
「あれは――」
「好きとか、言われてないし……」
「いや、言ってるだろ」
「言ってないよ」
「言ってるだろ。デートした日とか……お前、もしかして記憶ない?」

 はあ、と蜜也は大きなため息をつく。

「相当酔ってたもんな。理亜と一緒にいたのってその次の日の話だろ? あれは本当に仕事だよ。理亜の主演映画の衣装監修任されてその打ち合わせ」
「二人で?」
「なに見てたんだよ。監督とプロデューサーもいただろ」

 そう言われてみれば二人は店からちょうど出てきたところで、連れの人がまだ中にいたのかもしれない。

「じゃあなんで一回告白をなかったことになんか……」
「それは、お前が悪い」
「ええ……」
「お前が『背の高い人が好き』なんて言うから」
「い、言ってないよ!」
「いいや、言った。インタビューではっきりと」

 蜜也はスマートフォンで「ガールズなう」の、花奈実のインタビュー記事を開く。確かにそこには背の高い人が好ましいと受け取れるような花奈実の回答が載っていた。

「ちがっ、これは周りに変に思われないためで――」
「昔からお前は本当は背の高い男が好みなんだろ」
「そんなことないよ! 一度も思ったことない」

 花奈実の言葉に蜜也がぎらりと睨みをきかす。

「忘れたなんて言わせねえ。小学校の時、放課後、友達と話してただろ。どんな人がタイプかって」

 記憶をたどってみるが正直そんな話、小学生の女子なら誰でもしている。数え切れないほどにしている。そこで話すタイプなんて日によってばらばらで、身近な男子のことを言う日もあればテレビのアイドルを挙げる日もある。

 強いて言えば花奈実のグループで背の高い男の子に恋をする少女漫画がはやった頃があった。そのときに何の気なしに口にしたのかもしれない。

「ていうか蜜也くん、そんな昔のこと覚えてたの?」
「っ……!」

 花奈実の率直な驚嘆に蜜也は顔を赤くした。それが照れからくるものなのか怒りから来るものなのか花奈実にはわからない。が、おそらく後者だろうと身を縮める。

「悪いかよ。あのころの俺にはその一言が、天国か地獄かってくらい大切だったんだよ」

 意外なことに蜜也の言葉に怒気は含まれていなかった。

「全然、わかんないよ。それって蜜也くんが昔から私のこと好きみたいじゃん……」
「……」
「さ、さっきのプロポーズってまさか本気で……?」
「お前『はい』って言ったからな。なしは、なし」

 言うなり蜜也は花奈実の左手を取り、少し角のビロードがすり切れた小箱から指輪を取り出すと、薬指にそっとはめた。

 ダイヤモンドの輝きをみていると、急にこの夢のような出来事が現実味を帯びてきて、不意に花奈実の目から涙が伝う。

「な、なんで泣くんだよ」
「わかんない……。なんか、嬉しいのかな。蜜也くんとこれからも一緒にいられるってわかって安心したのかな。なんかもうわかんないよ……」

 ハラハラと涙を流す花奈実に困ったような笑みを浮かべて、蜜也はそっとハンカチでこぼれる涙を拭った。







 カーテンをひいた蜜也の家は薄暗かった。
 電気のスイッチへと伸ばした花奈実の手を蜜也の手が阻む。そのまま指先を絡められたと思ったらくいと引かれ、バランスを崩して前屈みになったところで唇に柔らかい感触を感じた。

「んっ……」
「なんか、非現実感がすごいな」
「え?」
「家の中にドレス姿の人がいるって」
「でも、前も着たことあったよ?」
「ヘアメイクも小物もバッチリだからかな。なんかお姫様さらってきたみてえ」
「あはは、助けに来た王子様じゃなくて?」
「お前はどっちだと思う?」
「私は……王子様、だと思うよ。サンドリヨンってシンデレラって意味なんだよね? 蜜也くんはくすぶってた私を見つけてくれた王子様だって、ずっと思ってるよ」
「……王子みたいに行儀良く出来ないけど、いい?」
「え?」

 くるりと身体を反転させられ、近くのチェストに手をつかされる。バサリとスカートを捲り上げる音がした。

「とりあえずパニエ脱がすわ。動きにくいだろ」
「あ、うん。ありがと……」

 膨らみがすっかりしぼんだドレスの裾を引きずってパニエをまたいで抜け出す。重さが少しなくなって身体が軽い。

「花奈実、こっち」

 手を取られるままに、カーペットに膝立ちすると、目の前にかがんだ蜜也が唇と重ねられる。
 その柔らかな感触にうっとり目を閉じると、唇を割入って舌が入ってきた。

 じっくり味わうように舌は花奈実のそれをなぶり上げる。
 背筋からぞくぞくと湧き上がってくる快感に、花奈実は思わず身を震わせた。

「手ついて」
「え……」

 再び身体を反転させられ、一人がけのスツールに手を着く。
 ぷつん、ぷつんと背中のホックが外され締め付けられていた胸が楽になる。

「蜜也くん……?」
「行儀良く出来ないって言っただろ」

 その言葉と同時にむき出しの背に舌が這わされる。ねっとりと背骨を下から舐め上げられ、その官能的な舌使いにこれがただ着替えを手伝ってくれているだけではないことを知る。

「なんでこんなとこで……」
「このドレスを着た花奈実を抱きたい」

 きっぱりと言われ、振り返るとまっすぐに自分を見下ろす蜜也がいた。
 少し潤んだ、欲をはらんだまなざしに花奈実の鼓動が早まる。
 指先で、つっ、と耳の縁をなぞられ思わず熱い吐息がこぼれる。

「待っ……」
「待たない。し、やめない」

 唇が首筋に落とされ、所々食まれながら肩まで徐々に降りていく。

「この一ヶ月、生きた心地がしなかった。お前はショーに来ないんじゃないのか。二度とお前と会えないんじゃないのか、って。もうそんな思いするのはいやだ。だから断れないように公衆の面前でプロポーズした。なりふり構ってられるかよ。お前を手に入れる為に」
「あ……っ」

 ぐるりと後ろから手が回され、ドレスの間を縫って胸の膨らみを蜜也の手が包む。そのまま柔く揉まれて思わず声が出た。

 中心はすぐに立ち上がり、存在を主張し始める。ぷくりと熟れた赤い実を蜜也はそっと指先で摘まんだ。

「ん、やっ……」

 きゅっと強く摘ままれたかと思えば、優しく撫であげられる。そのたびに、花奈実の中心が疼く。
 後ろからピタリと身体をつけた状態で、胸を触っていたのと反対の手が花奈実の腿をなであげ、スカートをたくし上げる。チュールがカーテンから漏れ出る光を反射して、部屋が一瞬かすかに瞬く。

「ここ、濡れてる」

 ショーツの上から花奈実の中心をなぞり、蜜也が言った。
 すっかり濡れて、身体に張り付いていたショーツから湿った水音がする。
 花奈実の身体は期待するようにぶるりと震える。

 蜜也は再び、ショーツの上から割れ目を何度もなぞり上げる。そのたびぐちゅぐちゅと水音が大きくなっていった。

「や、……もぉ……っ」

 もどかしい快感に大きくかぶりを振る花奈実をみて、蜜也はそっとショーツを脱がせる。
 今度は直接蜜を溢れさせる隘路にぐぷりと指を一本埋め込まれる。

「あ……っ」

 きゅうきゅうとその指を締め付ける狭い路にもう一本指が差し入れられバラバラに動かされると、花奈実の身体を快感が駆け抜けた。

「や、あっ……!」
「痛いか?」
「ち、ちが……」
「じゃあ、もっと?」

 ざらついたところをぎゅうっと押されて、花奈実は身体をのけぞらせて達した。

 肩で大きく息をする花奈実の頭を蜜也はポンポンと撫でると、中途半端にめくれ上がっていたスカートを今度は腰のあたりまで全て捲られる。

「ごめん、もう我慢出来ない」
「ん……」

 蜜也の熱い欲望があてがわれたと思うと、隘路に割り入ってくる。さっきまで指で慣らされていたそこはあっさりとそれを飲み込んでしまう。

「動くぞ」

 奥まで入ると、蜜也が律動を始める。
 突き入れられる度に花奈実の口からは甘い嬌声が漏れた。

「あ、っ、あぁ……」
「……っ、花奈実っ、好きだ……!」
「蜜也く……」
「愛してる」

 囁かれた愛の言葉に自然と涙が滲む。どんな官能的な愛撫よりも花奈実の気持ちは高まっていった。

「私も、っ、好き……、大好き……」
「花奈実……っ」

 唇が重ねられ最奥に欲望が突き入れられる。

「んん――っ」

 花奈実が大きく背をのけぞらせて達すると、蜜也の白濁も中で爆ぜる。
 くたりとスツールに倒れ込む花奈実を蜜也は後ろからぎゅっと抱きしめた。

「もう絶対離さないから」

 束縛のようなその言葉が嬉しくて花奈実は回された腕をぎゅっと握った。



 



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