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第3話:初めて聞く言葉
しおりを挟む外出の準備が出来たとのことで、ポチさんの触手に手を引かれながら廊下を歩く。
すれ違う使用人たちが僕に頭を下げてくれるのでその度に僕も会釈する。
使用人と言っても人間ではなく、全員異形の人外たちだ。
ただあのオークション会場で見た禍々しい見た目の者は1人も居らず、一つ目のカラスやツノの生えたウサギのような、ちょっと不気味だけど可愛らしい見た目の者ばかりだ。
おかげで来た当初もそこまで不安にならなかった。
玄関から外に出て、目の前の景色を見上げる。
このお城は深い森に覆われた場所に建っているらしく、城門の向こう側は木がびっしり生えている以外何も見えない。
部屋から見た色とりどりの植物が咲き誇る庭園を、ポチさんと一緒に散歩した。植物は禍々しい見た目をしているが、異国にワープしてきたみたいでワクワクする。
ご主人様は高位の悪魔らしく、かなり広い領地を持っているのだとか。この庭園も、庭とは思えないくらいとても広く見事だ。
食虫植物が多いので触っては駄目とポチさんに言われているが、僕より大きなトゲトゲの植物とかカッコよくて見ているだけで楽しい。
「ポチ様、少々宜しいでしょうか? 食料と薬品の在庫のことでお話が…」
ポチさんに植物の説明を聞きながら散策していると、突然後ろから声をかけられた。
発注書を手に持ったお城の使用人が、申し訳なさそうにポチさんに声をかけてくる。ポチさんは差し出された発注書を触手に持ち、しばらく眺める。
「やれやれ、こうなる前に毎日チェックして仕事終わりに申請するように言っているではないか」
「こちらの不手際で…申し訳ございません」
「仕事終わりの時間だとどこの店も閉まってるからねぇ…まあ確かに今から発注すれば間に合うだろう。次は気をつけてくれ」
使用人と話を終えたポチさんがこちらを向く。
「シオン様、少しだけ離れます。絶対にここから動かないでくださいね」
「はい、分かりました」
ペコリと一礼してポチさんは急いでお城に戻っていった。僕は全く気にしていないのに使用人の方にも何度も謝罪された。
ポチさんはそう時間もかからずに戻ってくるだろうが、動かないでいるのはちょっと暇だな。
勝手に移動は出来ないけど、この周辺の植物を近くで眺めるくらいなら良いかな。
そう思って少しだけ歩き出した瞬間、横から膝あたりに何かがぶつかってきた。
「ギャッ…!」
「わっ…!?」
ぶつかった方からドサっと何かが倒れる音がする。慌ててそっちの方を向くと、地面に何かが倒れている。
ここの庭の整備をしている、顔のない蝙蝠のような姿をした、庭の手入れをしている使用人だった。足にスコップと剪定用のハサミが入った小さなバケツを持っている。僕よりかなり身体の小さいその使用人は、思い切りぶつかった衝撃で地面に背中から倒れていた。
「あの…大丈夫ですか?」
僕は手を伸ばして声をかける。使用人はうーんと呻き声を上げながら文字通り羽を伸ばしてきた。
僕はその羽を優しく掴み、身体を持ち上げる。
「えっ? は!? シコウノチンミ様!?」
僕の姿を見た瞬間、使用人は慌てたように飛び上がる。慌てたようにパタパタと飛び回っているので、落ち着いてと声をかけた。
それより今少し気になる事を言っていた気がする。
「シコウノチンミ様って何? 僕の事?」
初めて聞いた言葉だ。
先程の反応を見るに、僕をそう呼んでいるように感じた。
僕の質問に使用人の蝙蝠はハッとし、慌てたようにソワソワしている。顔がないので表情はよく分からないが、心なしか焦っているように見えた。
「あ…えっと、なんでもございません…!? 申し訳ございませんでしたー!!」
そう叫ぶや否や使用人の蝙蝠は道具を持ってあっという間にどこかへ飛んでいってしまった。一体なんだったんだ…?
「お待たせしました、シオン様」
使用人が飛んでいった方をポカンと見ていると、声をかけられた。どうやらポチさんが戻ってきたらしい。
では散歩を再開しましょうと触手を差し出すポチさんに手を伸ばす。
そうだ、ポチさんならさっきのシコウノチンミというのが何か分かるだろうか。さっきの使用人の反応がどうにも気になる。
歩き始めようとするポチさんに声をかけた。
「ポチさん、シコウノチンミってなんですか?」
ポチさんの動きがピクリと止まる。いつもはすぐに質問に答えてくれるのに、しばらく沈黙が流れた。
「申し訳ございません、私にも分からないです。ところで、どこでそれを?」
「いえ、待っている間に会った方がそう言っていて…僕が驚かせてしまったせいですぐどこかへ行ってしまったんですよね」
「左様でございますか。まあ…おそらく何かの行事や流行り物だと思いますので、そう気になさらず」
そう言うと、ポチさんは僕の手を引いて歩き出す。
そうか、ポチさんにも分からない事もあるんだな。でも多分、何かの行事や流行り物ではないと思う。なんとなく言えなかったが間違いなく、僕の顔を見て言っていた。
ご主人様なら知っているだろうか?
今晩質問したら答えてくれるかな?
庭の散歩をしている時も、昼食のサンドイッチを食べている時も、歩き疲れて漫画を読んでいる時も、そんな事をぼんやりと考えていた。
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