ときどき甘やかして~欲しいのは匠さん、あなたです~

ぐるもり

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二人きりのスケジュール?

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 慌ただしく雑誌の取材が終わり、そうこうしているうちに見本誌が届いた。発売の二日前で本当に急だったんだなとしみじみ雑誌を開く。

 外観と、メニュー、そしていつも働くキッチン。本当に雑誌に載ったのだと実感していると、次のページに航大の写真が掲載されていた。

「わーすごい! 航大くんがめっちゃでかでかと載ってる」
「いやーなすまし顔して。普段はこんなぽやぽやなのに」
「俺だってやれば出来るんですよ」

 航大の写真と一緒に、料理も添えられている。七海の好きなタレッジオチーズとアボカドのグラタンと、フルーツトマトのサラダ。それとマグロの香草フライ。見ているだけで美味しそうと顔がほころぶ。

「航大くんも素敵だけど、料理も綺麗に撮ってくれているね」
「……ああ、そうですね」
「嬉しいね。航大くんの料理美味しいもん。私も貢献出来るように頑張るね」

 近しい人が認められることがこれ程嬉しいとは。七海は料理の写真を愛おしげに眺め、指でそっと撫でる。

「大忙しになるかもね」
「はい。俺、めっちゃ頑張りますから」

 航大が七海を見つめて、そんなことを口にした。ものすごいやる気に溢れており、七海は少しだけたじろいでしまう。けれども航大がやる気になるのはいい事だ。

「うん。頑張ろうね」

 やる気を応援するように、七海はそう返した。


■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪


「はい。からんどです。はい……大変申し訳ございません、その日はもうすでに予約でいっぱいでして……はい、はい……ええ、その日も……」

 雑誌の発売日。モーニング開始時刻から電話が鳴りっぱなしになった。それだけではない。ネット予約もわずか数分であっという間に予約が埋まってしまった。

 そして七海は今電話対応に追われっぱなしだ。電話担当の専門要員が必要ではと思ってしまうほど同じ言葉を何度も何度も繰り返している。

「オーナー……」

 七海は電話を切ったあと、ついに立花に泣きついた。予約が取れないとなると、残念そうにする客もいれば、怒り出す客もいる。これが雑誌の効果かと今更ながら途方に暮れてしまう。嬉しい悲鳴だが、断わらなければいけないのが大変申し訳なく思ってしまう。

「うーん、これじゃあ仕事にならないわね。予約外の連絡が取れないし、なにか対策を取らないとね」

 想定以上だとばかりに、立花があちこちに連絡を取り始める。対応としては予約以外の電話が取れるように自動音声の導入と、ネット予約の停止。予約外の客はしばらく断ると言ったものだった。予約を断ったり止めたりするのは心が痛むが正直なところありがたいというのが本音だ。判断が早いと七海はぱちぱちと拍手を送る。

「ごめんね。もっと早く対策を取っとけばよかったね」
「いいえー。想定外ですよね」

 そんな二人のやり取りを知ってか知らずか、航大は黙々とキッチンで何かを作成している。真剣な様子に、七海も立花も入っていけない何かがある。

「何しているんでしょう」
「……さぁ。料理をしている訳じゃなさそうだけど……」

 その間にも電話は鳴り止まず、取り敢えず留守番電話サービスを利用して、対応をすることにする。
 調べてみると自動音声サービスは直ぐに導入ができ、月額利用のようだ。立花はすぐにサービス提供会社に連絡を取っている。これで少し落ち着くといいんだが、とほってしていると、航大が紙を持ってこちらにやってきた。

「七海さん」
「ん?」
「これ、夜のメニューです。アラカルトは少なくしてコースをメインにしようと思って」
「うんうん」

 航大が考えていたのはメニューだった。『からんど』の夜メニューはアラカルトがほとんどだった。しかし、客を捌くにはコースの方が効率がいい。けれど、完全に無くすのではなく、アラカルトを七海と航大が半分ずつ担当するという提案だった。アラカルトの内容は、サラダ一品、前菜を二品、メインの魚と肉を一品ずつ。あとはパスタを二種類。

「なるほど。フレンチフライはいらない?」
「フレンチフライは長居されると困るので暫く中止にします。アラカルトが少なければ、ほとんどがコースを頼むと思います。そうすれば七海さんの負担も減りますし、俺も助かります」
「そうだね。コースで私がやることはある?」

 航大は聞かれることが分かっていたかのようにスマートフォンを取り出す。

「ちょっと見にくいんですが、コースのスープとデザート、あとパスタをお願いしたいんです」

 デザートは三種類をローテーション。スープは二種類。チキンコンソメスープと季節の野菜のポタージュで、パスタはランチと同じ。デザートは作り置きできるし、スープも同じだ。七海はふむふむと相槌をうちながら航大の話に耳を傾ける。

「コースは肉魚をメインとしたものとパスタコースを考えてます。結局七海さんにおんぶにだっこになっちゃうんですけど大丈夫ですか?」
「うーん、私は大丈夫だと思うけど。私はランチもやってるし、何時までお店にいればいいんだろ。オーナーにも聞かないと」
「できれば最後まで一緒にいて貰えると助かるんですけど……」
 
 航大の提案は理にかなっているが、ランチを担当している七海には少々しんどい勤務だ。中間の休憩を長くとるとなっても……と、少し考えてしまう。

「七海ちゃんはランチもやってるんだから、どんなに遅くても19時まで。それ以上遅くなるとキツくなるからね。17時オープンで、その時間までで大体一回りするでしょ。その後はバイトの子に入ってもらったりするし、私もキッチンに立つから」

 悩む七海に、立花からの助けが入る。ランチの準備は十時から始まる。そこからクローズまでとなるとかなりの負担になるうえ、プライベートの時間がほとんどなくなってしまう。

「……わかりました。その代わりお互い同じ味が出せるように互いに練習しましょうね。七海さん」
「えっ、う、うん」

 なんとも言えない圧を感じながら、七海は頷くしか無かった。

「じゃあ練習の日程ですが……」

 航大がまたスマートフォンを差し出してくる。そこにはスケジュール管理のアプリが入っていて、大体の日にちが決まっていた。

「互いに予定を共有するとやりやすくなると思うんで、七海さんもこのアプリを入れてもらっていいですか?」
「……スケジュール管理するってこと?」
「はい。いつ予定があってこの日はダメ、とか書いてもらえると分かりやすいし抜けも少なくなると思いますから。俺と七海さんの二人で」

 二人でスケジュールを共有するなんて、何だかちょっと行き過ぎているような……と思いながらも、言っていることは理にかなっているため拒否しようもない。

「今入れて貰えると助かるんですが」
「う、うん……わかった。ちょっとまっててね」

 二人で。ということにどうしても引っかかってしまう。練習をするのであれば立花もいた方がいいだろう。

「オーナーにも入ってもらうといいかな?」
「……え?」
「ね? だってオーナーもキッチンに立つならいた方がいいもんね」

 ね? と首を傾げると。航大はなにか言いたそうに口を結んだが、分かりましたと了承してくれる。
 二人きりを回避出来たことで、七海は人知れずホッと胸をなでおろした。
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