【R-18】自称極悪非道な魔王様による冒険物語 ~俺様は好きにヤるだけだ~

秋刀魚妹子

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第275話 馬車を襲撃

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 「さて、ポチよ。 出発だ!」

 「はい! 皆さん、通りますよ~!」

 セムネイルはタリアを見送った後、4次元の扉を潜り山賊から助けた宿場町キューカンバを出ようとしていた。

 「セムネイル殿。 お連れの奥方達は……? いえ、やはり何も聞きません。 この度はご助力、本当に感謝致します! 王都までどうかお気を付けて!」

 「「「「「ありがとうございました!」」」」」

 町の住民達や山賊との戦いに参加すらしなかったFランク冒険者達は火竜王ポチに怯え、近付きすらしない。 

 救った礼として、借りた宿屋の受付ですらセムネイル達を怖がっていた。

 だが、命の恩人にして町の英雄を兵士達は出入り口の門に並び敬礼して見送る。

 (ほぉ、やはり根性があるな。 くっくっくっ、良い兵士達だ)

 真っ赤な鱗に筋肉の鎧で包まれたポチの威圧感は凄まじく、意識を保つのでやっとであろうに懸命に敬礼する兵士達を見てセムネイルは笑みを浮かべる。

 「おう、気にするな。 行け、ポチ!」

 「はい!」

 セムネイルはポチの背に乗り、南にある王都に向けて走り出した。

 ◆◇◆

 「あのぉ、セムネイル様。 今日は、お一人なのですか?」

 「ん? あ~、たまにはセリス達も休ませたいからな。 それに、今日中には王都に着きたいんだ。 休憩は無しで頼む」

 「お任せ下さい! ただ、私は魔力探知は使えませんので何か有れば早めにお願いします」

 ポチはセムネイルだけを背に乗せ、南に続く道を凄まじい速度で駆ける。

 道中、幾つかの村や町を通り過ぎる間に宿場町キューカンバ方面に向けて歩く冒険者達や馬車と擦れ違うがセムネイルは完全に無視をした。

 泣こうが喚こうが、通り過ぎるのは一瞬だ。

 村や町でも驚きの声や悲鳴が聞こえていたが、そんな事は魔王には関係無い。

 しかし、王都に近付いて来たであろう道の先から来る一つの気配にセムネイルは眉をひそめた。

 「おい、ポチ。 もうすぐ見える馬車を襲うぞ」

 「はい! わかり……えぇ!? 襲うんですか!?」

 主からの命令にポチは目を見開いて驚く。

 「馬車の中に、小さい気配が詰められてる。 恐らく……奴隷商人の馬車だ」

 「奴隷……? もしや、ベア殿達と同じ様な酷い目にあっている者達の事ですか?」

 「ベアから聞いたのか。 そうだ、必要なら助けるぞ」

 「ゆ、許せない!! 分かりました!」

 怒れるポチの喉が真っ赤に光り、口から火花が散る。 

 それ程にポチにとってベア達は大切な友であり、ベアから奴隷だった過去を聞いたポチは口から炎が出る程に怒ったのだ。

 ◆◇◆

 「黙れガキ共!! これ以上泣き喚いたら鞭打ちだからな!」

 奴隷商人は馬車を走らせながら、荷台の檻で泣く少年少女達に怒鳴り散らした。

 「ちっ、糞が。 王都での取り引きがもっと早く済めば、今頃ミンガムの奴隷市場でゆっくり休めてたのによ!」

 奴隷商人が馬に鞭を打つと、その音で少女達から悲鳴が上がる。

 「うるせぇな! おぁ?! 何だ、糞! 馬が言うことを……は?」

 後ろを振り返って怒鳴っていた奴隷商人は、手綱が乱れた事に驚き視線を戻した。

 「ガフォォォ……おい、人間。 動いたら、この牙で噛み砕いてやる。 主が良いと言うまで、絶対に動くな」

 すると、何処から現れたのか馬車よりも何倍も大きなポチが立ちはだかり巨大な瞳で奴隷商人を睨んでいた。

 「ひ、ひぃっ?!」

 意味の分からない状況に、奴隷商人は股間を濡らし声にならない声を出しながら必死に頷いた。

 「さて、聞いても良いか? お前達はどうして、こんな狭い檻の中に居るんだ?」

 ポチから降りたセムネイルは荷台の檻で互いに身を寄せ合う子供達に問い掛けた。 檻の扉を素手で引き千切り、荷台の中へと入る。

 なるべく怖がらせないように、しゃがんでから視線を合わせた。

 子供達への接し方をセリス達から学んだのだ。

 「ひっ、り……竜?」

 しかし、ポチの威圧感で子供達は怯えており直ぐに会話は難しいようだ。

 「ん? おう、そうだ竜だぞ。 俺はセムネイルだ。 コイツは、火竜王のポチ。 身体はデカいが……まぁ、犬や猫みたいなもんだ。 ほれ、にゃ~って鳴いてみろポチ」

 「えぇ……? に、にゃ~?」

 「な?」

 セムネイルがおどけるようにして語り掛けると、子供達は少し警戒を解いたのかようやく笑みを見せた。

 「じゃあ、こうしよう。 もし、ちゃんと事情を話せたらポチに乗せてやる。 どうだ? おっと、その前に邪魔なのを取っておこうな」

 檻の中には少年5人、少女5人が乗せられていた。 見る限りは人族であり、服もきちんとした物を着ている。

 長い間、奴隷として生きてきた様子では無い。  

 手足に枷がされているが、セムネイルが順番に優しく壊してやる。

 そんな、優しくしてくれるセムネイルの提案に少年5人が反応した。

 「あ、ありがとうございます。 ぼ、僕達は王都に住んでました」

 「そ、そうなの。 でも、スラムで遊んでたら怖い人達に連れて行かれた」

 残りの3人も同意するように頷き、セムネイルのこめかみに青筋が浮かび上がる。

 どうやらこの子供達はまだ奴隷では無く、人攫いによってこれから奴隷にされる所だった様だ。

 「その怖い人達の中に、あの男は居たか?」

 少年達は男を見て首を横に振る。 すると、今度は少女達が口を開いた。

 「あの人は奴隷商人です。 スラムの怖い人達が……あの人に私達を売ったの」

 「そう、私達をミンガムって街にある奴隷市場で売るんだって……言ってた」

 「お母さんに会いたい……」

 少女の呟きに、残りの子供達も両親を思い出したのか泣き始めてしまう。

 「理由は分かった。 安心しろ、お前達は家に帰れるからな」

 セムネイルはなるべく怖がらせないように、優しい声色で子供達に告げた。

 子供達は喜び、更に涙を流す。

 すると、1人の少女が恐々としながら口を開いた。

 「あの……もしかして、お兄さんが欲望と狭間の魔王様?」

 名前以外言っていない筈なのに、正体を口にされたセムネイルは目を見開いて驚くのであった。
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