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第142話 4次元への侵入者
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セムネイル達が冒険者ギルドで依頼達成の報告をしている頃。
オーガの洞窟にて、倒れていた女冒険者が突如として息を吹き返し咳き込んでいた。
「ゲホッ! ゴホッゴホッ! はぁはぁはぁ……あれ? 何で私……生きて」
Aランク冒険者のハヤは自身の身体を確認し、何故か生きている事に驚愕する。
ハヤは逃亡奴隷達を捜索する依頼を仲間達と受け、ハヤを含めて4人で森へと入ったのをはっきりと覚えていた。
しかし、噂に聞いていたオーガに運悪く遭遇し逃げる間もなく3人の仲間は瞬殺されたのだ。
そして、ハヤもオーガから逃れる事は叶わず死を悟ったハヤはとある毒物を飲んでいた。
それは、王都の薬屋で念の為に買っていた仮死薬だった。
仮死薬とは、飲めば丸一日は何をしても目覚めず、文字通り身体を仮死状態にする薬だ。
ハヤは意識のある状態でオーガに食われるのを恐れ、慌てて飲んだのだが何故か生きて目を覚ましてしまったのだ。
「嘘でしょ……? まさか、薬が切れる前に食べられてないなんて……うぅ、暗いよぉ」
外からの光りが入り込み、薄っすらと視界は確保できたが殆ど見えない。
ハヤは立ち上がろうと手をつくと、仲間の死体に触れてしまい悲鳴を上げそうになるのを必死に耐える。
(んんんん!? ダメ、声を出したらオーガ見つかる……)
長年共に冒険した仲間の死体に手を合わせ、ハヤは自身の身体を確認する。
(傷だらけだけど、動ける。 武器は……隠してたナイフだけか。 うぅ……お兄ちゃん)
ハヤは震える手で、盗賊服の中に隠していたナイフを取り出しゆっくりと歩き出す。
決して音を立てないように、オーガに見つからないように。
「……あれ? 居ない。 それに、コレは……焚き火の後? ……へ? 扉?? 何でこんな所に……」
ハヤは焚き火の側に聳え立つ、謎の扉を発見し近付く。
「罠は……無い。 当たり前か。 普通の扉だもんね……?」
正面から見ても、後ろから見ても、何の変哲もない扉だけが何故か立っている。
ハヤは好奇心に負けて、扉を開けた。
「……へぁ? 何……コレ」
開けた先には太陽の光が差し込み、大きな屋敷や家々が見えた。 そして、遠くまで美しい山々や草原が広がっている。
「はは……コレ、流石に夢? 違う……やっぱり私死んでるんだ。 じゃないと……こんなのって」
ハヤは恐る恐る扉を潜り、中へと入って行った。
◆◇◆
太陽の光に照らされ、ハヤの綺麗な紫色の髪が光る。 黒色の盗賊服が太陽に当たり熱くなるが、今はそれすら心地良かった。
「凄い……あ、気持ち良い風」
とても穏やかな光景だ。
魔物に怯え、腐敗する国々に怯え、生きるだけで必死な世界とは思えない程に穏やかな平和な光景がハヤの死にかけの心を暖める。
「おや? 初めましてかな? 見ない顔だよね」
ハヤが目を細め、のんびりしていると亜人のドワーフらしき少女が話し掛けてきた。
「ふぇっ?! あ、えっと……私は、その」
「大丈夫ですよ~。 貴女もセムネイル様に助けられた人間なのですよね? その服を見るに、酷い目にあったんだね……今、セムネイル様の奥様であるローズ様が住民の確認をしているからキュイジーヌさんのレストランに行くといいよ」
人間に怯えずに、とても優しくされたハヤは狼狽えながらもドワーフのレストランという言葉によだれを垂らす。
(セムネイルとか云う人物は知らないけど……お腹減っちゃったし、行ってみようかな)
「あ、ありがとう。 その、レストランは何処にありますか?」
「ほら、あの立派な建物さ。 う~ん、ドワーフながら何時見ても素晴らしい建物だなぁ。 おっと、ルグに怒られる。 またね~」
子供程の背丈しかないドワーフに手を振り、ハヤはレストランへと向かった。
「す、すみませ~ん」
恐る恐る中に入ると、何百人で食事をするのだと言いたくなる広さに目を見開いて驚く。
「あれ? 見ない顔ね。 服もボロボロじゃない! ちょっと待っててね。 纏め役のプレーリーさんを呼んでくるから!」
レストランで食事をしていたエルフがハヤに気付き、容姿を見て直ぐに飛び出した。
「えっと、その、えぇ? ふふ、何か凄い夢だなぁ。 ドワーフにエルフ? それに、獣人もご飯食べてるし……あれ? 鬼人族も?」
まだ此処が、夢か死後の世界なのだと思い込んでいたハヤだが食事をしている鬼人族を見つけて固まった。
「そうだ。 私は……逃亡した鬼人族の奴隷を探しに森に来たんだ」
その時、ハヤはうっかり大きな声で思い出した事を口走ってしまった。
「おい、お前……今、何と言った?」
怒りを抑えるような低い声がハヤの後ろから聞こえ、恐る恐る振り返る。 すると、其処には額から小さな角を生やし、こめかみに青筋を立てた鬼人族代表のオルガと、幽霊を見た様な顔で驚くミリムが立っていた。
オーガの洞窟にて、倒れていた女冒険者が突如として息を吹き返し咳き込んでいた。
「ゲホッ! ゴホッゴホッ! はぁはぁはぁ……あれ? 何で私……生きて」
Aランク冒険者のハヤは自身の身体を確認し、何故か生きている事に驚愕する。
ハヤは逃亡奴隷達を捜索する依頼を仲間達と受け、ハヤを含めて4人で森へと入ったのをはっきりと覚えていた。
しかし、噂に聞いていたオーガに運悪く遭遇し逃げる間もなく3人の仲間は瞬殺されたのだ。
そして、ハヤもオーガから逃れる事は叶わず死を悟ったハヤはとある毒物を飲んでいた。
それは、王都の薬屋で念の為に買っていた仮死薬だった。
仮死薬とは、飲めば丸一日は何をしても目覚めず、文字通り身体を仮死状態にする薬だ。
ハヤは意識のある状態でオーガに食われるのを恐れ、慌てて飲んだのだが何故か生きて目を覚ましてしまったのだ。
「嘘でしょ……? まさか、薬が切れる前に食べられてないなんて……うぅ、暗いよぉ」
外からの光りが入り込み、薄っすらと視界は確保できたが殆ど見えない。
ハヤは立ち上がろうと手をつくと、仲間の死体に触れてしまい悲鳴を上げそうになるのを必死に耐える。
(んんんん!? ダメ、声を出したらオーガ見つかる……)
長年共に冒険した仲間の死体に手を合わせ、ハヤは自身の身体を確認する。
(傷だらけだけど、動ける。 武器は……隠してたナイフだけか。 うぅ……お兄ちゃん)
ハヤは震える手で、盗賊服の中に隠していたナイフを取り出しゆっくりと歩き出す。
決して音を立てないように、オーガに見つからないように。
「……あれ? 居ない。 それに、コレは……焚き火の後? ……へ? 扉?? 何でこんな所に……」
ハヤは焚き火の側に聳え立つ、謎の扉を発見し近付く。
「罠は……無い。 当たり前か。 普通の扉だもんね……?」
正面から見ても、後ろから見ても、何の変哲もない扉だけが何故か立っている。
ハヤは好奇心に負けて、扉を開けた。
「……へぁ? 何……コレ」
開けた先には太陽の光が差し込み、大きな屋敷や家々が見えた。 そして、遠くまで美しい山々や草原が広がっている。
「はは……コレ、流石に夢? 違う……やっぱり私死んでるんだ。 じゃないと……こんなのって」
ハヤは恐る恐る扉を潜り、中へと入って行った。
◆◇◆
太陽の光に照らされ、ハヤの綺麗な紫色の髪が光る。 黒色の盗賊服が太陽に当たり熱くなるが、今はそれすら心地良かった。
「凄い……あ、気持ち良い風」
とても穏やかな光景だ。
魔物に怯え、腐敗する国々に怯え、生きるだけで必死な世界とは思えない程に穏やかな平和な光景がハヤの死にかけの心を暖める。
「おや? 初めましてかな? 見ない顔だよね」
ハヤが目を細め、のんびりしていると亜人のドワーフらしき少女が話し掛けてきた。
「ふぇっ?! あ、えっと……私は、その」
「大丈夫ですよ~。 貴女もセムネイル様に助けられた人間なのですよね? その服を見るに、酷い目にあったんだね……今、セムネイル様の奥様であるローズ様が住民の確認をしているからキュイジーヌさんのレストランに行くといいよ」
人間に怯えずに、とても優しくされたハヤは狼狽えながらもドワーフのレストランという言葉によだれを垂らす。
(セムネイルとか云う人物は知らないけど……お腹減っちゃったし、行ってみようかな)
「あ、ありがとう。 その、レストランは何処にありますか?」
「ほら、あの立派な建物さ。 う~ん、ドワーフながら何時見ても素晴らしい建物だなぁ。 おっと、ルグに怒られる。 またね~」
子供程の背丈しかないドワーフに手を振り、ハヤはレストランへと向かった。
「す、すみませ~ん」
恐る恐る中に入ると、何百人で食事をするのだと言いたくなる広さに目を見開いて驚く。
「あれ? 見ない顔ね。 服もボロボロじゃない! ちょっと待っててね。 纏め役のプレーリーさんを呼んでくるから!」
レストランで食事をしていたエルフがハヤに気付き、容姿を見て直ぐに飛び出した。
「えっと、その、えぇ? ふふ、何か凄い夢だなぁ。 ドワーフにエルフ? それに、獣人もご飯食べてるし……あれ? 鬼人族も?」
まだ此処が、夢か死後の世界なのだと思い込んでいたハヤだが食事をしている鬼人族を見つけて固まった。
「そうだ。 私は……逃亡した鬼人族の奴隷を探しに森に来たんだ」
その時、ハヤはうっかり大きな声で思い出した事を口走ってしまった。
「おい、お前……今、何と言った?」
怒りを抑えるような低い声がハヤの後ろから聞こえ、恐る恐る振り返る。 すると、其処には額から小さな角を生やし、こめかみに青筋を立てた鬼人族代表のオルガと、幽霊を見た様な顔で驚くミリムが立っていた。
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