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第238話 刀を捧げた王国よりも優先する物
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「もう一度申します。 ソルバ氏……貴方を捕縛せよとの命令です」
進み出た衛兵の合図で、背後の衛兵達が槍を構えた。
反対にソルバは刀を腰に差し、殺し合いをするつもりはないと示す。
「ふむ……さて、困りましたのぉ。 長年右腕としてこのギルドを支えた敏腕受付嬢は消え、儂も解任。 このギルドはどうなりますのかな」
ソルバは何処か他人事のように呟き、その余裕な態度にセムネイルは笑みが溢れる。
「くっくっくっ……そうだな、困ったものだ。 それで? お前達は本気でソルバを捕縛するのか? 恐らくだが……王国全ての兵士で襲い掛かっても無理だぞ?」
「ぐ……それは、この街で衛兵をする者なら誰でも理解しています! 我が祖国にいる兵士達の多くはソルバ氏に育てて頂きましたから……今回の命令に従いたい者は居りません。 ですが、命令は命令なのです」
衛兵達は顔を顰め、上の命令に不満を露わにした。
本当に、この場にいる衛兵達はソルバの捕縛に内心では反対しているのだ。
「うむ、良くぞ言ったの……ポリ。 そうじゃ、命令は絶対じゃ。 そうか、お主等の様な兵士達が育っておるなら儂の様な老人が王国を守ろう等と想う必要はないのぉ」
「はい。 なので、ソルバ氏……どうか他国にお逃げ下さい。 私達はギルドに踏み込んだものの、既にソルバ氏は他国に亡命せんと逃亡し逃したと報告致します」
衛兵長のポリは微笑みながら頷いた。
「礼を言おう。 最後に約束してくれ、頼んだ奴隷市場再興阻止の件……必ず頼む」
衛兵達はソルバに敬礼し、衛兵長ポリはソルバと固い握手を交わす。
「お任せ下さい。 汚職していた衛兵も見つけだし、既に裁きを与えました。 この街に、二度と奴隷市場等を作らせたりは致しません! どうか御武運を……元将軍ソルバ様」
「ほっほっほっ、大昔の話じゃよ。 さて……職員達に引き継ぎをさっさと終わらせて何処かで余生を過ごすとしようかのぉ」
態とらしく伸びをしたソルバは、衛兵達と別れギルドのカウンターへと向かった。
「各員、ソルバ氏の逃亡を確認。 コレより、街の外を捜索するぞ!」
「「「「はっ!!」」」」
そして衛兵達も芝居がかった態度でギルドを後にし、残されたセムネイルは笑いながらソルバの後を追うのであった。
◆◇◆
「それで? 当てはあるのか?」
残される職員達に資料の束を渡しているソルバは微笑みながら答える。
「ほっほっほっ、そうですなぁ。 行ける所まで旅をし、良き後継者に出会えぬか己の運を試してみましょうかのぉ」
「なるほどな。 ふむ……それなら、コロシアムの観客席に居た者達の中に良さげな者は居なかったのか?」
セムネイルの言葉にソルバは動きを止め、顎に手を当てながら考える。
「なるほど……それでしたら確かに、不思議な気配の者達が居りましたな。 しかし、年を取り過ぎております。 今から鍛えても、達人にはなれど……免許皆伝には遠いでしょうなぁ」
セムネイルはソルバの言っている者達が魔人族だと直ぐに思い至る。
同時に、タリアから誰かを鍛えるのには向いていないと夜を共にした時に相談されていた事を思い出した。
(そうか、魔人族に戦闘訓練を施していたのはタリア達だと長老も言っていたな。 ふむ……ならば、強者であるソルバに師事を願った方が魔人族達も怪我をせぬか)
セムネイルはソルバを4次元に誘う事を決め、真面目な顔で口を開いた。
「なら、俺の4次元に住め。 観客席に居た者達は魔人族達だ。 年齢でいえば、ソルバよりはるかに年上だぞ? しかも、時間で云えばほぼ無限にあるだろう。 どうだ? もし、ソルバが嫌じゃないならだが……」
ソルバは目を見開き、そして暫し考えた後にニヤリと笑った。
「ほっほっほっ……つまり、儂も竜の肉を食う機会があるのですかな?」
「ん? くっくっくっ、そういえば食いたいと言っていたな。 分かった、まだ肉の在庫はある筈だ。 だが、急がないと無くなるぞ? 大食いな女神がいるからな」
鬼人の女神モーンデの顔を思い出したセムネイルは笑い、ソルバは焦ってふたつ返事で了承した。
「なんじゃと!? それはいかん! セムネイル殿、早く4次元に戻りましょうぞ! 腐った王国の未来は、育てた兵士達に任せましたからな!! 早く、急いでくだされ!」
「ふはははは! おいおい、刀を捧げた王国よりも竜の肉が優先か? まぁいい。 これからよろしく頼むぞ、ソルバ」
こうして、神剣流派免許皆伝のソルバが4次元に亡命する事が決まったのであった。
進み出た衛兵の合図で、背後の衛兵達が槍を構えた。
反対にソルバは刀を腰に差し、殺し合いをするつもりはないと示す。
「ふむ……さて、困りましたのぉ。 長年右腕としてこのギルドを支えた敏腕受付嬢は消え、儂も解任。 このギルドはどうなりますのかな」
ソルバは何処か他人事のように呟き、その余裕な態度にセムネイルは笑みが溢れる。
「くっくっくっ……そうだな、困ったものだ。 それで? お前達は本気でソルバを捕縛するのか? 恐らくだが……王国全ての兵士で襲い掛かっても無理だぞ?」
「ぐ……それは、この街で衛兵をする者なら誰でも理解しています! 我が祖国にいる兵士達の多くはソルバ氏に育てて頂きましたから……今回の命令に従いたい者は居りません。 ですが、命令は命令なのです」
衛兵達は顔を顰め、上の命令に不満を露わにした。
本当に、この場にいる衛兵達はソルバの捕縛に内心では反対しているのだ。
「うむ、良くぞ言ったの……ポリ。 そうじゃ、命令は絶対じゃ。 そうか、お主等の様な兵士達が育っておるなら儂の様な老人が王国を守ろう等と想う必要はないのぉ」
「はい。 なので、ソルバ氏……どうか他国にお逃げ下さい。 私達はギルドに踏み込んだものの、既にソルバ氏は他国に亡命せんと逃亡し逃したと報告致します」
衛兵長のポリは微笑みながら頷いた。
「礼を言おう。 最後に約束してくれ、頼んだ奴隷市場再興阻止の件……必ず頼む」
衛兵達はソルバに敬礼し、衛兵長ポリはソルバと固い握手を交わす。
「お任せ下さい。 汚職していた衛兵も見つけだし、既に裁きを与えました。 この街に、二度と奴隷市場等を作らせたりは致しません! どうか御武運を……元将軍ソルバ様」
「ほっほっほっ、大昔の話じゃよ。 さて……職員達に引き継ぎをさっさと終わらせて何処かで余生を過ごすとしようかのぉ」
態とらしく伸びをしたソルバは、衛兵達と別れギルドのカウンターへと向かった。
「各員、ソルバ氏の逃亡を確認。 コレより、街の外を捜索するぞ!」
「「「「はっ!!」」」」
そして衛兵達も芝居がかった態度でギルドを後にし、残されたセムネイルは笑いながらソルバの後を追うのであった。
◆◇◆
「それで? 当てはあるのか?」
残される職員達に資料の束を渡しているソルバは微笑みながら答える。
「ほっほっほっ、そうですなぁ。 行ける所まで旅をし、良き後継者に出会えぬか己の運を試してみましょうかのぉ」
「なるほどな。 ふむ……それなら、コロシアムの観客席に居た者達の中に良さげな者は居なかったのか?」
セムネイルの言葉にソルバは動きを止め、顎に手を当てながら考える。
「なるほど……それでしたら確かに、不思議な気配の者達が居りましたな。 しかし、年を取り過ぎております。 今から鍛えても、達人にはなれど……免許皆伝には遠いでしょうなぁ」
セムネイルはソルバの言っている者達が魔人族だと直ぐに思い至る。
同時に、タリアから誰かを鍛えるのには向いていないと夜を共にした時に相談されていた事を思い出した。
(そうか、魔人族に戦闘訓練を施していたのはタリア達だと長老も言っていたな。 ふむ……ならば、強者であるソルバに師事を願った方が魔人族達も怪我をせぬか)
セムネイルはソルバを4次元に誘う事を決め、真面目な顔で口を開いた。
「なら、俺の4次元に住め。 観客席に居た者達は魔人族達だ。 年齢でいえば、ソルバよりはるかに年上だぞ? しかも、時間で云えばほぼ無限にあるだろう。 どうだ? もし、ソルバが嫌じゃないならだが……」
ソルバは目を見開き、そして暫し考えた後にニヤリと笑った。
「ほっほっほっ……つまり、儂も竜の肉を食う機会があるのですかな?」
「ん? くっくっくっ、そういえば食いたいと言っていたな。 分かった、まだ肉の在庫はある筈だ。 だが、急がないと無くなるぞ? 大食いな女神がいるからな」
鬼人の女神モーンデの顔を思い出したセムネイルは笑い、ソルバは焦ってふたつ返事で了承した。
「なんじゃと!? それはいかん! セムネイル殿、早く4次元に戻りましょうぞ! 腐った王国の未来は、育てた兵士達に任せましたからな!! 早く、急いでくだされ!」
「ふはははは! おいおい、刀を捧げた王国よりも竜の肉が優先か? まぁいい。 これからよろしく頼むぞ、ソルバ」
こうして、神剣流派免許皆伝のソルバが4次元に亡命する事が決まったのであった。
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