白薔薇の紋章

サクラ

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第三章 仲間たちの宴

第1話

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「もう少しよ?もう少しで手に入るから、だから…」


ブロンドの長い髪、碧く光る瞳、真っ白な肌に、真紅の唇。
異国の少女は眼帯をした男の手を握り締めてそう言った。

手を握られている男は大きなベッドの上に横たわっている。
少女の呼びかけになんの反応もしめさない。

眠っているのか、それとも…。


「白薔薇姫の血さえ手に入れば、あなたの命を復活させることができる」


少女の声は男には届かない。
それでも少女は男に話しかける。


「だから今は私の血で我慢して。そうでもしなければエド、お前の命が本当に失われてしまう」


少女は男の手を離し
左手に巻いている包帯をほどいた。
腕にはナイフで切った傷が複数あった。
古いものから新しいものまで数え切れないくらいに。

少女は何の躊躇いもなく、自分の腕をナイフで切りつけた。
少女の白い肌に真っ赤な血がよく生える。

血がしたたり落ちたまま少女はその腕を男の唇の上にかざした
一滴、また一滴
男の唇に彼女の血が滴り落ちる。



「ローゼ様!それ以上は体に差し障ります!」


「かまわない、私の命など、エドが生き延びることができるのであればどれだけ差し出しても構わない!」


「しかし、目が覚めたとき、ローゼ様の体がボロボロになってはエドが悲しみます」


「だから、一刻も早く白薔薇姫と白薔薇の剣を手に入れるのだ!」


「分かりました。私の命に代えても白薔薇姫と剣を手に入れてまいります」




ローゼと呼ばれた少女は
切りつけた左手にまた包帯を巻いた。


男の唇についた自分の血を指でぬぐいそのまま男の唇の中に押し込んだ。


それを見つめる少女の瞳は悲しく揺れていた。








私は困惑している。
いきなり転校するはめになって
しかもその転校初日に自分が白薔薇姫であることを告げられる。

姫と言っても、それはずっと昔の話で
世間から見たら私はただの女子高生。

ただ、私の役目はちょっと変わっていて
四霊と呼ばれる人たちと
鬼の力を封印した刀を守らなければならないらしい。

それはこの村に来たその日に白薔薇学園の理事長に言われことだ。

納得したわけではないが、戒さんを始めとする四霊の人たち
そして、私の従妹になるという茨さんを紹介されて
この話が嘘ではないということだけは分かった。

分かったんだけどさぁ…

「何?何か気になることでもあるか、珠姫?」


何食わぬ顔で私の顔を見つめる戒さん。
しかしその手にはご飯茶碗に盛られた炊き立てのご飯。


「ごめんね~私達が集まるときは鍋!って決まっててさ~」


申し訳なさそうに茨さんが私の隣に来て謝ってくれる。
いや、鍋は別にいいんですよ。楽だし。


だからって、白薔薇姫の話をする間もなく、人の家にきて
速攻鍋を作って食べるのって何かおかしくない?おかしいよね?
戒さん以外ほぼ初対面なのに
なんで人の家でこんなにくつろげるのー!?


「…もう始めていたのか」

「鳳先生!っていうかなんで勝手に上がってきてるんですかー!!」

「すまない。先代の白薔薇姫がいたころは勝手に上がっていたからクセになっていた」

「そ、そうですか…」


仕事を終えた鳳先生も合流して
広い部屋がますます狭くなる。



「こうして鍋をつつけば、初対面だろうがなんだろうが一気に仲良くなれる!鍋っていうのはすばらしいな!俺はつくづく日本に生まれてよかったね」


「なんでもいいけど蓮!お前は肉ばかりとりすぎだ!少し野菜を食え、野菜を!」

「野菜?オレは草なんて食わないって何度も言ってんだろ!」

「てめぇが肉ばっかり食ってるからすぐ減るんだよ!」


亀代さんと戒さんが肉を取り合ってケンカを始める。



「オレは餅巾着があればそれでいい」

「蛍くん好きだもんねそれ」

「あぁ、好きだ」

ケンカを二人を余所に、幸せそうに餅巾着を食べる蛍さんと
それを嬉しそうに見る茨さん。
なんだろう、いい雰囲気。
もしかして付き合ってるのかな…




「…食べたいの?珠姫ちゃん

「いや食べる!食べるよ!」

「いきなり押しかけてなんだけど、今日は珠姫ちゃんの歓迎会なんだからさ!たくさん食べてよ」


ニコッと笑う顔もかわいい。
本当お人形見たい。この人がお姫様って言われたほうが納得する。


蛍さんの横に並んでも引けを取らない。
お似合いってこういうことなんだよな。

「茨さんは食べてる?さっきからみんなによそってばかっりじゃない?」

「茨さんなんて堅苦しいよ!倫でいいって、私も珠姫って呼ぶし!ね?」



「そうそう、堅苦しく呼ぶ必要なし!こいつのことは倫でいいし、こいつらのことも名前で呼べばいい、そのほうが早く親しくなれるしな!あ、俺のことはちゃんとさん付けするように!もしくは様だ!」


「結構です!戒さん!誰が様付けで呼ぶもんか!」


戒さん。一番最初に出会った人。
森の中で連れて行かれそうなところを助けてくれた人。
いい人だと思ったけど、口が悪くて一言多い。
俺様だし…苦手!


「戒くんは慣れ慣れしいんだよ!いや図々しい?その俺様やめたら?」


「それを言うんだったらお前の方こそおしとやかにしな!そうすればもう少し可愛がってやるのに」


なんだか知らないうちに戒さんと倫のけんかが始まってしまった。
他の三人はやれやれといった様子。
きっと毎度のことなんだろう。



「いい加減にしろ!今夜はただ鍋を食いに来たわけじゃない!珠姫に白薔薇の伝説について話をしに来たんだ!戒も倫も大人しくしろ!」


二人のけんかを止めたのは
それまで鍋に文句を言っていた蛍さんだった

俺様の戒さんもピタッと黙ってしまう迫力
この人ただものじゃない!

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