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第6章
06-169 逃亡市民
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半田千早たちは枝葉で車体に擬装を施し、各車8人ずつ分乗して出発したのだが、わずか20分で停止した。
半田千早と里崎杏は、ブッシュに隠れて北をうかがっている。
「キャプテン、ヒトだよね」
半田千早の「キャプテン」には声音に違いがある。船長のキャプテン、大尉(一尉または二等海上保安正)のキャプテン、隊長のキャプテンだ。
里崎杏は、半田千早の声音を聞き分けられるようになっていた。今回のキャプテンは、隊長の意味だ。
「ヒトね。
でも、貧しそう」
「そんなはずはないんだけどね。
この気候だから、畑を開けば作物は実るんだ。森の恵みもあるし、魚も捕れる……」
「確かに……。2メートルのナイルパーチには驚いたし……。川にあんな大物がいるなんて、ね」
「キャプテン、トラクターやトラックがない。ウマもウシも……。農作業は人力だけで……」
「そのようね。
でも、極端に痩せてはいないかな?」
「太ってもいないよ。
デブのおっちゃんがいない。
食糧は不足していないかもしれないけど、潤沢にあるわけではない……」
「いい分析ね」
「千早さん、何をしようとしているのかな?」
「結婚式?
若い2人が新郎新婦?」
「普段着よ」
「精一杯、着飾っているんだよ」
「キャプテン、やっぱり、あのヒトたち、豊かじゃないんだよ。
壁のない建物も一時的な小屋のようだし……」
結婚式が始まる。
若い男女が手を取り合い、2人を村人が見詰めている。長老とするには若い男が、式を進める。宗教的要素はあまりないが、厳粛な雰囲気がある。
「いま、出て行くと驚かせてしまうね」
半田千早の気遣いに、里崎杏は彼女の優しさを感じた。
「そうね。
もう少し待ちましょう」
集まりは50人ほど。しかし、式が始まるとと近隣の村からなのか、来客が相次ぐ。
ただ、彼らが持参する食べ物が少ない。魚料理やパンが多く、肉料理がない。野菜や果物は、ほとんどない。森の恵みと呼ばれる野生の果実が少し。
来訪者の着衣は質素。布は植物性の繊維を手織りしたものらしい。染色されておらず、着衣はライトブラウン1色。
来訪者の付き人は必ず武器を持つ。護衛なのか招いた側の一部も武器を持っている。使い込んだボルトアクションだ。
構えてはいない。スリングで肩にかけている。
商売柄、半田千早は彼らの装備を素早く観察する。
「ボルトの形状からモーゼル系だね。間違いない。
使い込んでいるだけじゃなく、作られてからかなり経っているんじゃないかな?
弾は……。
この距離からではわからないけど、7.92ミリ、7.62ミリ、7.7ミリ、7.5ミリ、7.35ミリ、6.5ミリのどれかだろうね」
「そんなにたくさんあるの?」
「口径だけでね。
薬莢の長さ、リムレス、セミリムド、リムドなど薬莢底の形状もいろいろ。
200万年後にやって来たヒトは、誰もが200万年前の世界で手に入るあり合わせの武器を装備していたんだ。
骨董品もあったから、バラバラになっちゃった。でも、圧倒的に多いのは、7.62×51ミリNATO弾と7.62×39ミリカラシニコフ弾。
その次が、7.62×63.3ミリスプリングフィールド弾や7.62×54ミリラシアン弾かな。
5.56×45ミリNATO弾は少ない……」
「仕事とは言え、詳しいのね」
「商売だから……。
最初は中古の銃を買い入れて、修理して再販していたんだ」
「そうだったの……」
「いまでも、やってるけどね」
「片倉さん、知っているでしょ?」
「建築家の?」
「うん。
この世界に来たとき、片倉さん、農家の土蔵で見つけた古ぼけたライフルを持っていたんだ。
しかも、弾なし。
それが、いまの私たちの主力商品。
この世界ではType99とかM2599なんて呼ばれている九九式短小銃。これをデッドコピーして、7.62ミリNATO弾仕様にした。最近は、7.62ミリラシアン弾仕様や.303ブリティッシュ弾仕様まである。
注文があれば7.92×57ミリモーゼル弾や.30-06スプリングフィールド弾仕様も作る。
でも主力はNATO弾だね」
「今回は?」
「NATO弾仕様。
2番目に使われている弾だから」
「1番は?」
「7.62ミリのカラシニコフ弾。
ヒト食いに対して、もっとも効果があるから……」
「九九式小銃が主力商品なの?」
「まぁね。
安いから数が出る。
でも、AK-47由来の自動小銃やスターム・ルガー系の半自動小銃、ポンプアクションのライフルも売れ筋だよ」
「千早さんの会社は、いろいろと作っているのね」
「商品ラインナップは重要だからね。
お客様の要望はいろいろだし……。
でも、拳銃は売るけど作ってはいないんだ。弾薬はパラベラム弾、APC弾、スペシャル弾、マグナム弾は全部口径9ミリ、44口径レミントン弾や45口径ロングコルト弾、45口径APC弾もある。
拳銃弾の種類は、ビックリするほど多いよ。人気はパラベラム弾ならベレッタ、APC弾ならワルサーかな。
若い女の子は、ワルサーと半自動のカービンの組み合わせが人気」
「千早さんも?」
「拳銃はワルサーと5連発リボルバー、ライフルは見ての通りAK-47系。ポーランドのベリルをモデルにしている。
最近は、AK-12の要素を取り入れた新型の開発も始まったんだ。1つのモデルで、いろいろな弾種に対応できる」
「私たちは、オークの時渡りを知らせるために、この世界にやって来たから、平和な世界だとは思っていなかったのだけど……」
「ヒト食いに比べたら、白魔族なんてムカつくだけでかわいいものだよ」
結婚の宴は、1時間を過ぎても続いている。儀式が終わり、披露宴といった感じか。だが、不思議なことに、歌はなく、楽器も奏でない。不自然に静かな宴だ。
誰もが小声なのか、小鳥のさえずりだけが聞こえてくる。
半田千早が立ち上がろうとする。
「キャプテン、そろそろ行ってみようよ」
「それなら、顔の迷彩を落としましょ」
「だね」
「千早さん、待って!
あれは?」
「小型の兵員輸送車みたいだね。
砲塔があるから戦闘車かもしれない
主砲は口径40ミリ以下、砲身長は30口径程度。装甲貫徹力は低い。
だけど……。
この村には場違い?」
「そうよね。
ヘンじゃない?
披露宴の招待客じゃないでしょ」
「うん。
キャプテン、もう少し様子を見ようよ。
結婚式、参加したいけど」
「そうね」
小型砲塔付きの装甲車は、見かけほど小型ではなかった。車幅が狭く、正面からは小さく見えるが、全長は4.5メートル強ある。
低木が散在する平坦地では、扱いやすい車輌だ。小型トラックとハードトップセダンが同行している。
その3輌が宴がたけなわの村人たちの直近まで進む。
車輌はダッジWCに似ている。フロントのリジットアクスルには、大型のデファレンシャルギアが見える。
「何をする気かな?」
里崎杏の問いには、不穏な声音が混じっていた。一瞬、半田千早は里崎が怯えているのかと感じたが、そうではない。彼女の目が据わっている。
そして、彼女はヘッケラー&コッホMP5短機関銃のセイフティを解除する。
銃を持つ村人が構えるが、撃てるはずがない。装甲車とトラックには、機関銃が装備されている。数挺のボルトアクションライフルで対抗できるものではない。
セダンから着飾った女性、上質な服を着る10歳代前半の少年が2人、仕立てのいい軍服風の男が1人降りてきた。
セダンは、ゴツいデザインには似合わない明るいアイボリーと小豆色のツートンで塗装されている。
仕立てのいい軍服の男が軍帽を被り、左の手を左腰に佩く反りの大きい刀の柄に手を置く。その刀はサーベル風の造りで、護拳が付いている。片手で扱う刀剣だ。
里崎杏は半田千早が、腰に吊す日本刀に左手を添える瞬間を見逃さなかった。
この刀は長宗元親が半田千早に選ばせ、与えた。室町時代末期に作られた本物の日本刀で、素材は隕鉄と玉鋼。鉄とニッケルの合金で、非常に変形しにくい。工芸品的な飾りではなく、使える武器だ。
長宗元親が祖先から伝わるこの無名の名刀を半田千早に与えることになった経緯は、彼女の養父にある。
半田隼人は日本刀を持っていた。死後、この刀の継承が問題になったのだが、チュールが早々に辞退したことから、健太か翔太が継ぐべき、との意見が強かった。
姉としても、健太か翔太が適任だと思った。
彼女がそんな話を長宗にしたところ、長宗我部家を祖とする長宗家伝来の刀コレクションを見せられ、「どれでも好きなものを選べ」と。
そして、彼女は戦国時代初期の刀としてはかなり短い刃渡り65センチの打ち刀を選んだ。
鞘はクマンであつらえた外装にドラゴンの薄皮を貼った木製。柄はバンジェル島でチタン合金を削り出して作ってもらった。柄と刀身は、ボルトとナットで接合している。
年長の少年が花婿を指差す。
同時に花嫁が泣き叫ぶ。
「イヤよ!
やめて。
ひどいよ」
言葉がわかる。
「ジブラルタルの言葉だ!」
彼女が大きな声を発したことで、言語がわかった。
新郎がうな垂れている。
仕立てのいい軍服の男が年長の少年にボルトアクションのライフルを渡す。
少年がボルトを引く。
泣き叫ぶ花嫁は、村の男たちが抑えている。
里崎杏が「各車前進」と無線で命じる。
そして、彼女はブッシュから出て、村に向かって歩いて行く。
「はい、はい、そこまで!
坊や、何をしようとしているのかな?
お姉さんに教えて!」
半田千早は慌てた。
アサルトライフルを構えて、里崎杏に続く。
村人と装甲車の連中は、当初、里崎杏の言葉を解しなかった。だが、すぐに方言だと気付く。
そして、結婚式の進行をしていた神職らしき男が、説明する。
「市民狩りだ」
擬装を施した装甲車2輌が村に突入する。
これで、形勢が逆転する。
里崎杏が神職らしき男に事情を尋ねる。
「この男の子が新郎さんに銃口を向けた理由が知りたいのだけど」
神職が少し考える。
「あなたたちは誰なんだ?」
当然の疑問だ。
それに半田千早が答える。
「この川の河口から来た。
私たちは、交易を求めてやって来た商人だ」
神職らしい男が驚く。
「川の河口から?
伝説では何千キロも……」
「伝説ではない。
ここに至るまで、2000キロを走ってきた」
神職はどう反応すべきか思案している。
「この土地のほかに、たくさんのヒトがいるのですか?」
半田千早の声音は力強かった。
「えぇ、たくさんいるよ。
他の土地と交易できれば、豊かになれるよ。
もし、困ったことがあるなら、支援もできるよ」
新婦が泣きながら何かを言ったが、方言が強く半田千早には聞き取れない。
神職が説明する。
「彼女の夫になる若者は、今日、この場で、貴尊市民の子がヒトを殺すことに慣れるための練習台に選ばれたんだ」
半田千早は神職の言葉を解したが、意味は理解できないでいた。
そのわずかな時間、ヒトの心の間隙を突くように装甲車の砲塔が旋回する。
ミルシェだけが見逃さなかった。
貴尊市民と呼ばれるヒトたちの装甲車に飛び移ると、開いていた砲塔のハッチに発煙弾を投げ込む。
数秒後、咳と涙でグチャグチャな顔になった男たちが装甲車のハッチから転がり出てくる。
半田千早が貴尊市民側をにらむ。
「私は、喧嘩の仲裁をしている。
誰も怪我しないように、誰の生命も損なわれないように。
で、ヒト殺しの練習って、何?」
ワゴンに乗っていた貴婦人風女性が答える。
「商人風情に語る必要はないが、貴尊市民はヒトならざる怪物と数百年にわたって戦っている。
崇高なる使命を受け継いでいる貴尊市民に対して、愚かにも労働市民はたびたび反乱を起こす。
このときに、躊躇いなく労働市民を誅することができるよう、逃亡市民を使ってヒトの殺し方を学ぶのだ」
半田千早は純粋に確認したかった。
「その怪物だけど。
オーク、ギガス、セロのうちどれ。
私はギガスとの戦いは経験がないけれど、オークやセロとは何度も戦っている。
オークは、白魔族とか、創造主とも呼ばれている。ヒトよりもかなり小さくて、体毛が薄く、ヒトを食べる。
この地域なら、オークかな?」
神職が間髪を入れず反応する。
「ヒトを食う化け物がいるんだ。
貴尊市民は労働市民を守っていると言うが、実際は労働市民の子を掠い、その化け物と取り引きしている」
ミルシェが「おばさんの言っていることと違うじゃない」と大きな声でロロカットに話しかける。
キュッラが何を考えているのか、彼女と同年齢くらいの少年の前に立つ。年長の男の子のほう。
「ヒトを殺したことがないの?」
少年は腹を立てていた。
「労働市民が貴尊市民に話しかけるなんて、無礼だろう!」
キュッラは動じない。
「戦ったことは?」
「……」
少年は答えなかった。
「私はある。
湖水地域に救世主が侵攻したとき、西ユーラシアやクマンのヒトたちとともに戦った。
十字砲火を何度も潜った。
でも、ヒトを殺したことはない。
それに、ヒトを殺す練習なんて聞いたことがない。3人の戦女神だって、そんな練習はしていない。
どうしても必要な練習なら、私もしてみたい。練習台は、きみにする」
キュッラは、ツーポイントスリングで胸の前に吊す半自動小銃の安全装置を外す。ヘルメットとボディアーマーを着けているが、顔に迷彩はない。
「女のくせに」
キュッラが微笑む。
「その女の股から出てきたんだろ。
それとも地面の割れ目から生えてきたの?」
少年は狼狽えていた。
商人だという武装集団の男たちが大笑いしているからだ。銃口は向けていないが、鋭く警戒している。少年には、歴戦の軍人のように見えた。
半田千早が判定する。
「新郎さんを一方的に殺そうとした、あんたたちが悪い。
謝罪し、すぐに立ち去れ」
父親が刀の柄に手を置き、威嚇する。
「女。
生意気もそこまでにしておけ」
「おじさん、私たち相手に戦う気?
それって、無謀だよ。
ここでの出来事は、会話を含めて、すべて通信されている。
ベルーガはもちろん、ジブラルタルやコーカレイ、ノイリンやクフラックも傍受している。
私たちがアトラス山脈の東側に達し、ヒトと接触したことは世界が知っている。
何かあれば、各地から捜索隊が派遣される。もちろん武装してね。湖水地域やクマンから、大軍が押し寄せる。
おじさん、覚悟できているんだよね」
これははったりではない。アトラス山脈東麓にある巨大塩湖であるアトラス湖周辺には、ヒトが住むことは知られている。
人口やどういうヒトなのかがわからない。ごく少数が自給自足をしているのかもしれないし、数十万人規模のコミュニティがあるのかもしれない。
現在、クマンは東に向かって領域を広げ、湖水地域は西に向かって勢力圏を広げている。
そして、すでに2つの地域は接触に成功し、新たな人界が形成されつつある。
さらに、西ユーラシアの寒冷に疲れ、ドラキュロの西進に怯えるヒトは、西アフリカへの移住を真剣に考えている。
西ユーラシアのヒトが西アフリカ沿岸部に移住した場合、ヒトの世界は大きく変貌する。団結できれば、セロ(手長族)との戦いにも勝算がある。
オークやギガスは、ヒトを滅ぼそうとは考えていない。
だが、セロは違う。ヒトとセロとのニッチは重複しており、ガウゼの法則(競合排除則)が働き、ヒトを滅ぼそうとしている。
ヒトだけではない。精霊族、鬼神族、初期移住ギガス(黒魔族)の末裔であるトーカ(半龍族)と彼らと行動を共にするヒト、おそらくギガスの大半も西アフリカへの移住を行うだろう。
ドラキュロがライン川を渡れば、押し出されるようにヒトや他の種は、西に向かうことになる。
西は海。逃げ場はない。ならば、余裕のあるうちに南に逃げたい。
ドラキュロの西進を阻止できない以上、アフリカに逃れるしかない。ヒトが団結すれば、セロは倒せるかもしれない。ヒトが団結しても、ドラキュロはどうにもならない。
寒冷だというのにドラキュロの個体数は増え続けている。10年前の推定4倍。この状況で、温暖化すれば津波のように押し寄せてくる。
その前に逃げなくてはならない。
西ユーラシアが寒冷から脱せないことは、不幸ではあるが同時に幸運でもある。
地球の温暖化は明かで、北極からの寒気が居座っている西ユーラシアだけが取り残されている。しかし、それは永遠ではない。
長期の寒冷によって、西ユーラシアのヒトは疲弊している。西アフリカに逃れるしか、生き残る選択肢がない。
だから、アトラス山脈東麓に住むヒトのことが知りたいのだ。
半田千早は、何かを隠すつもりはない。無線はオープンで、傍受を歓迎している。
神職らしい男は頭髪が白く老人のようだが、実際は高齢ではない。
「お助けいただき感謝しますが……。
みなさんは、本当に川を遡ってきたのですか?
北には食人動物がいると伝えられています。
それは、本当ですか?」
半田千早は即答した。
「本当よ。
戦っている仲間もいる」
「貴尊市民は食人動物と戦い、労働市民を守っていると主張しています。
表向きは。実際は、貴尊市民はその食人動物と取り引きをしているのです。
加えて、労働は過酷で、私たちは耐えられずに逃げ出したのです」
「戦っていない?」
仕立てのいい軍服が答える。
「我ら貴尊市民は、オークと自称する小柄なヒトならざる生き物と戦い、この一帯を守り続けている。
300年の長きにわたって」
半田千早は核心に迫る疑問を持った。
「ということは……。
オークは北にいて、貴尊市民は南から攻めている……?」
「その通りだ」
この瞬間、半田千早の無線を傍受していた、一部のヒトたちが騒ぎ出す。
チュニジアに拠点を置く白魔族(オーク)攻撃が膠着状態に陥っており、その打開策が見つかっていなかった。
この攻撃には、西地中海沿岸のヒトと精霊族や鬼神族が参加している。
現在の東からの攻勢に加えて、南からも攻撃できれば、白魔族の防衛線を突破できるかもしれない。
ジブラルタル海峡の南側には、ジブラルタル勢力が強固な陣地を築いている。戦力が許せば、西からも攻撃できる。
東西と南から攻撃を仕掛ければ、この方面の白魔族を一掃できる可能性が出てくる。
一瞬で、世界は動き始めた。
「ここは、200万年前ならアルジェリアね」
地図を確認している里崎杏がそう言うと、半田千早は反応を躊躇った。アルジェリアという国名を知ってはいたが、名前以上のことは知らないからだ。
それは、この世界に12歳でやって来た納田優奈も同じだ。
不自然な沈黙を里崎杏は無視した。
「200万年前は砂漠だったけど、いまでは草原が広がり、たくさんの動物がいる。
南アメリカは大きな爬虫類や不気味な哺乳類が多いけど、ここは普通よね。まぁ、何を基準に普通とするかで、感想は変わるけど……。
ゾウやサイ、カバ、キリンは絶滅したようだけど、ガゼルの繁栄はすごい。スイギュウ、イボイノシシ、オカピ、ディクディクは生き残った。
大消滅を、ね。
ライオン、リカオン、ハイエナもいる。霊長類は、ほとんどが滅びてしまった。原猿類の一部はいるにみたいだけど……。
香野木さんは動物相が貧弱だと言うけれど、個体数だけなら多いよね。
でも、種は少ない」
納田優奈は、里崎杏が何を言いたいのかわからない。だが、そこを突くことは躊躇いがある。
「納田さん、食糧の確保。
私たちは、当分、ここにいる。
香野木さんが何らかの判断をするまでは……」
「半田さん、適地を探し、滑走路を造って。
物資の補給が必要になる。
できれば、援軍も……。
心当たりは?」
「キャプテン、あります。
ヴルマンのゲマール領領主ベアーテ……。
フェニックス輸送機が2機あるし、全ヴルマンの指導者であり、ゲマール領の領主だから兵を動かせる。ヴルマン全軍は無理でも、彼女の護衛兵なら……」
「そのヒト、信用できる?」
「信用できる指導者なんていないよ。
指導者は誰でも腹黒い。二枚舌、三枚舌は当たり前。
だけど、こっちも腹黒。
訓練された兵をすぐに展開できるのは、ヴルマンとフルギアだけ。そして、大型輸送機を持っているのはヴルマン。
ならば、ヴルマンに動いてもらう。
キャプテン、ヴルマンが動けばフルギアが動く。フルギアが動けば、すべての蛮族が動く。
チュニジアの白魔族を追い払うことができれば、北アフリカはヒトと精霊族、鬼神族が住める土地になる。
ヒト食いがいない、安全な土地。
精霊族の伝承では、精霊族、鬼神族、半龍族は北アフリカにいたんだ。
白魔族がやって来て、恭順しない種を追い出した。行き場所は、ヒト食いがいる西ユーラシアしかなかった。
白魔族は黒魔族とは違う。
黒魔族はヒトと争うが、それは互いに意思の疎通が難しいから。昔はヒトを奴隷にしたらしいけど、それもなくなっていて、ヒトとはことさら争わない。
父さんの仮説だけど、黒魔族と行動をともにするヒトとは、半龍族の仲間になったヒトのこと。半龍族は黒魔族と意思疎通できる。ヒトは半龍族を介して、黒魔族と話し合える。
それを突き止めたのは父さん。
もし、黒魔族が北アフリカ移住を求めるなら、ヒトは拒否しない。彼らには生きる権利がある。
200万年前に何があったとしても、それは過去のこと」
「半田さん、過去を水に流せと?」
「ヒトは何度も黒魔族と戦った。
大決戦もあった。
争いはいつでもある。同族間でも。
戦争と平和は、特別のことじゃない。
殺すこともあれば、殺されることもある」
「若いのに、達観した意見ね」
納田優奈が割り込む。
「ヒトは生態系の頂点にいない。
殺すことが自然であるように、殺されることも自然なんだ」
里崎杏は、どうしても地球の支配者でないヒトを想像できなかった。
里崎杏が神職だと感じた人物は、小さな集団のリーダーだった。彼には宗教色がほとんどなく、単に過去にあった儀式を真似て、結婚式を行っただけだった。
彼は里崎杏を恐れていた。
「あのぅ、乱暴はやめてください」
「乱暴?
そんなつもりは、まったく……。
畑がないようですが、食料は?」
「全部は奪わないでください」
「奪ったりはしません。
食料は持っています」
「畑を作ると、貴尊市民に見つかってしまいます。見つからない場所に少しだけ……。農具もありませんし……」
「食料は?」
「いつも、不足していますル
2人が結婚するので、食料の確保を大勢でしたのです。一帯のヒトが集まって……。
そうしたら、貴尊市民に見つかってしまった……。
迂闊でした」
半田千早が話題を変える。
「この付近に広くて平坦な場所はありませんか?
できれば、草原がいいのですが……」
「あります。
川の向こう岸ですが」
「案内していただけますか?」
「えぇ、いいですが……」
「キュッラ、健太、偵察に行け」
2人が歩み出ると、現地の男の子が名乗り出る。
「俺たちが案内する。
船もある」
半田千早が頷くと、キュッラと健太は2人の少年に続く。16歳以下の2人は、成人は弾倉6本180発が定数だが、4本120発を装備する。手榴弾は2個。
「何をなさるのですか?」
「平坦な場所を探し、幅の広い道のようなものを造ります。
協力していただけますか?」
神職だと考えていた男は、狼狽える。
「働きますので、生命だけは……」
半田千早と納田優奈は、彼らの状況をある程度理解している。支配者と被支配者、搾取者と被搾取者がいるのだ。
里崎杏は、ごく普通の条件を出した。
「もし、滑走路建設に協力していただけるなら、対価を払いましょう。
食料は無理ですが……」
屈強な男が問う。
「銀で払ってくれるか?」
「いいですよ。
この銀貨でいいですか?」
里崎杏は、ポケットからクマン銀貨を出す。純度99.9%の50グラム銀貨だ。
里崎杏がクマン銀貨を老人に渡す。
「これを1枚くださると?」
1枚のつもりはなかったが、頷く。
屈強な男が老人から渡された銀貨を値踏みする。
「1日、1人、1枚か?」
半田千早が頷き、その様子を里崎杏が確認し、彼女も頷く。
白髭・禿の老人が申し出る。
「日の出から日没まで働きます」
半田千早が慌てる。
「日の出の2時間後から日没の2時間前まででいいよ」
翌日、川の対岸には8人の男が集まってきた。1000メートルの転圧滑走路を造るには、不十分だが、この場所を案内してくれた2人の少年を加えて、工事が始まる。
滑走路用地は概ね平坦だが、それでも凹凸がある。高木も数本伐採しなければならないし、根を掘り出さなくてはならない低木も複数ある。
動物の巣穴もある。
草を刈れば終わりじゃない。
土木工事の道具が足りないが、一帯に住むヒトたちは農具が不足しているので現地調達は無理。
だが、初日に銀貨1枚を受け取ったヒトが彼らの住まいに戻ると、翌日は倍の20人が道具持参でやって来た。
3日目は40人。道具は貧弱だが、ヒト手が多いと作業が進む。木立は少ないが、頭大の石がある。それを人力で運び出す。
1000メートルに少し足りない直線ができたのは、工事開始から4日目だった。
この直線を装甲輸送車で踏み固め、微妙な凹凸は現地の老若男女が協力してくれる。成人男性は大きな石や倒木を除き、子供たちは小石や枯れ枝を拾う。
「銀貨送れ」
銀貨が不足することは、工事初日にわかっていた。バンジェル島に送った至急電は、西アフリカと西ユーラシアを駆け巡る。
バンジェル島は急いでクマン銀貨1000枚の調達を始めるが、最初に動いたのはカナリア諸島にいるクフラックの駐留部隊だった。
フルギア銀貨3000枚を無線受信から数時間で用意した。用立てたのは偶然寄港していたフルギア商人で、彼の背後にはフルギア政府がいる。
フルギア銀貨3000枚、16.5キログラムを積んだブロンコ偵察攻撃機がカナリア諸島を離陸。1200キロを飛行して、建設途中の滑走路を確認し、銀貨をパラシュート投下した。
フルギア銀貨はクマン銀貨よりも銀の含有率がやや低いが、やや重い。銀の含有量では、フルギア銀貨が多い。
労賃としては、値上げとなる。
キュッラは、成人男性と10歳の女の子の労賃に差を付けなかった。
大きな石は重いが、小さな木切れのほうが飛行機の吸入口は吸い込みやすいのだ。その仕事に軽重はない。
ならば、労賃は同じ。それに、幼い子のほうが小さな異物をよく探し出す。
一部に不満はあったが、キュッラは押し切った。
あるグループは「長が代表して銀を受け取る」と申し出てきたが、キュッラは「労賃は働いてくれたヒトに直接払う。それ以外は認めない」と拒絶。
これは揉めたが、キュッラは強硬だった。そのグループを追い返す。ある種の部族主義から来る行動であることは確かで、労賃を長が独占する可能性が高い。
湖水地域にも似たようなことがあり、働いても豊かにならないことがあった。
だから、キュッラは厳しく拒否した。
それを半田千早や納田優奈は何も言わず、里崎杏は現地のヒトと揉めないか、やや心配する。
どうであれ、労賃の支払いができ、滑走路が完成する。
そして、西から3000もの大軍がやって来た。
半田千早と里崎杏は、ブッシュに隠れて北をうかがっている。
「キャプテン、ヒトだよね」
半田千早の「キャプテン」には声音に違いがある。船長のキャプテン、大尉(一尉または二等海上保安正)のキャプテン、隊長のキャプテンだ。
里崎杏は、半田千早の声音を聞き分けられるようになっていた。今回のキャプテンは、隊長の意味だ。
「ヒトね。
でも、貧しそう」
「そんなはずはないんだけどね。
この気候だから、畑を開けば作物は実るんだ。森の恵みもあるし、魚も捕れる……」
「確かに……。2メートルのナイルパーチには驚いたし……。川にあんな大物がいるなんて、ね」
「キャプテン、トラクターやトラックがない。ウマもウシも……。農作業は人力だけで……」
「そのようね。
でも、極端に痩せてはいないかな?」
「太ってもいないよ。
デブのおっちゃんがいない。
食糧は不足していないかもしれないけど、潤沢にあるわけではない……」
「いい分析ね」
「千早さん、何をしようとしているのかな?」
「結婚式?
若い2人が新郎新婦?」
「普段着よ」
「精一杯、着飾っているんだよ」
「キャプテン、やっぱり、あのヒトたち、豊かじゃないんだよ。
壁のない建物も一時的な小屋のようだし……」
結婚式が始まる。
若い男女が手を取り合い、2人を村人が見詰めている。長老とするには若い男が、式を進める。宗教的要素はあまりないが、厳粛な雰囲気がある。
「いま、出て行くと驚かせてしまうね」
半田千早の気遣いに、里崎杏は彼女の優しさを感じた。
「そうね。
もう少し待ちましょう」
集まりは50人ほど。しかし、式が始まるとと近隣の村からなのか、来客が相次ぐ。
ただ、彼らが持参する食べ物が少ない。魚料理やパンが多く、肉料理がない。野菜や果物は、ほとんどない。森の恵みと呼ばれる野生の果実が少し。
来訪者の着衣は質素。布は植物性の繊維を手織りしたものらしい。染色されておらず、着衣はライトブラウン1色。
来訪者の付き人は必ず武器を持つ。護衛なのか招いた側の一部も武器を持っている。使い込んだボルトアクションだ。
構えてはいない。スリングで肩にかけている。
商売柄、半田千早は彼らの装備を素早く観察する。
「ボルトの形状からモーゼル系だね。間違いない。
使い込んでいるだけじゃなく、作られてからかなり経っているんじゃないかな?
弾は……。
この距離からではわからないけど、7.92ミリ、7.62ミリ、7.7ミリ、7.5ミリ、7.35ミリ、6.5ミリのどれかだろうね」
「そんなにたくさんあるの?」
「口径だけでね。
薬莢の長さ、リムレス、セミリムド、リムドなど薬莢底の形状もいろいろ。
200万年後にやって来たヒトは、誰もが200万年前の世界で手に入るあり合わせの武器を装備していたんだ。
骨董品もあったから、バラバラになっちゃった。でも、圧倒的に多いのは、7.62×51ミリNATO弾と7.62×39ミリカラシニコフ弾。
その次が、7.62×63.3ミリスプリングフィールド弾や7.62×54ミリラシアン弾かな。
5.56×45ミリNATO弾は少ない……」
「仕事とは言え、詳しいのね」
「商売だから……。
最初は中古の銃を買い入れて、修理して再販していたんだ」
「そうだったの……」
「いまでも、やってるけどね」
「片倉さん、知っているでしょ?」
「建築家の?」
「うん。
この世界に来たとき、片倉さん、農家の土蔵で見つけた古ぼけたライフルを持っていたんだ。
しかも、弾なし。
それが、いまの私たちの主力商品。
この世界ではType99とかM2599なんて呼ばれている九九式短小銃。これをデッドコピーして、7.62ミリNATO弾仕様にした。最近は、7.62ミリラシアン弾仕様や.303ブリティッシュ弾仕様まである。
注文があれば7.92×57ミリモーゼル弾や.30-06スプリングフィールド弾仕様も作る。
でも主力はNATO弾だね」
「今回は?」
「NATO弾仕様。
2番目に使われている弾だから」
「1番は?」
「7.62ミリのカラシニコフ弾。
ヒト食いに対して、もっとも効果があるから……」
「九九式小銃が主力商品なの?」
「まぁね。
安いから数が出る。
でも、AK-47由来の自動小銃やスターム・ルガー系の半自動小銃、ポンプアクションのライフルも売れ筋だよ」
「千早さんの会社は、いろいろと作っているのね」
「商品ラインナップは重要だからね。
お客様の要望はいろいろだし……。
でも、拳銃は売るけど作ってはいないんだ。弾薬はパラベラム弾、APC弾、スペシャル弾、マグナム弾は全部口径9ミリ、44口径レミントン弾や45口径ロングコルト弾、45口径APC弾もある。
拳銃弾の種類は、ビックリするほど多いよ。人気はパラベラム弾ならベレッタ、APC弾ならワルサーかな。
若い女の子は、ワルサーと半自動のカービンの組み合わせが人気」
「千早さんも?」
「拳銃はワルサーと5連発リボルバー、ライフルは見ての通りAK-47系。ポーランドのベリルをモデルにしている。
最近は、AK-12の要素を取り入れた新型の開発も始まったんだ。1つのモデルで、いろいろな弾種に対応できる」
「私たちは、オークの時渡りを知らせるために、この世界にやって来たから、平和な世界だとは思っていなかったのだけど……」
「ヒト食いに比べたら、白魔族なんてムカつくだけでかわいいものだよ」
結婚の宴は、1時間を過ぎても続いている。儀式が終わり、披露宴といった感じか。だが、不思議なことに、歌はなく、楽器も奏でない。不自然に静かな宴だ。
誰もが小声なのか、小鳥のさえずりだけが聞こえてくる。
半田千早が立ち上がろうとする。
「キャプテン、そろそろ行ってみようよ」
「それなら、顔の迷彩を落としましょ」
「だね」
「千早さん、待って!
あれは?」
「小型の兵員輸送車みたいだね。
砲塔があるから戦闘車かもしれない
主砲は口径40ミリ以下、砲身長は30口径程度。装甲貫徹力は低い。
だけど……。
この村には場違い?」
「そうよね。
ヘンじゃない?
披露宴の招待客じゃないでしょ」
「うん。
キャプテン、もう少し様子を見ようよ。
結婚式、参加したいけど」
「そうね」
小型砲塔付きの装甲車は、見かけほど小型ではなかった。車幅が狭く、正面からは小さく見えるが、全長は4.5メートル強ある。
低木が散在する平坦地では、扱いやすい車輌だ。小型トラックとハードトップセダンが同行している。
その3輌が宴がたけなわの村人たちの直近まで進む。
車輌はダッジWCに似ている。フロントのリジットアクスルには、大型のデファレンシャルギアが見える。
「何をする気かな?」
里崎杏の問いには、不穏な声音が混じっていた。一瞬、半田千早は里崎が怯えているのかと感じたが、そうではない。彼女の目が据わっている。
そして、彼女はヘッケラー&コッホMP5短機関銃のセイフティを解除する。
銃を持つ村人が構えるが、撃てるはずがない。装甲車とトラックには、機関銃が装備されている。数挺のボルトアクションライフルで対抗できるものではない。
セダンから着飾った女性、上質な服を着る10歳代前半の少年が2人、仕立てのいい軍服風の男が1人降りてきた。
セダンは、ゴツいデザインには似合わない明るいアイボリーと小豆色のツートンで塗装されている。
仕立てのいい軍服の男が軍帽を被り、左の手を左腰に佩く反りの大きい刀の柄に手を置く。その刀はサーベル風の造りで、護拳が付いている。片手で扱う刀剣だ。
里崎杏は半田千早が、腰に吊す日本刀に左手を添える瞬間を見逃さなかった。
この刀は長宗元親が半田千早に選ばせ、与えた。室町時代末期に作られた本物の日本刀で、素材は隕鉄と玉鋼。鉄とニッケルの合金で、非常に変形しにくい。工芸品的な飾りではなく、使える武器だ。
長宗元親が祖先から伝わるこの無名の名刀を半田千早に与えることになった経緯は、彼女の養父にある。
半田隼人は日本刀を持っていた。死後、この刀の継承が問題になったのだが、チュールが早々に辞退したことから、健太か翔太が継ぐべき、との意見が強かった。
姉としても、健太か翔太が適任だと思った。
彼女がそんな話を長宗にしたところ、長宗我部家を祖とする長宗家伝来の刀コレクションを見せられ、「どれでも好きなものを選べ」と。
そして、彼女は戦国時代初期の刀としてはかなり短い刃渡り65センチの打ち刀を選んだ。
鞘はクマンであつらえた外装にドラゴンの薄皮を貼った木製。柄はバンジェル島でチタン合金を削り出して作ってもらった。柄と刀身は、ボルトとナットで接合している。
年長の少年が花婿を指差す。
同時に花嫁が泣き叫ぶ。
「イヤよ!
やめて。
ひどいよ」
言葉がわかる。
「ジブラルタルの言葉だ!」
彼女が大きな声を発したことで、言語がわかった。
新郎がうな垂れている。
仕立てのいい軍服の男が年長の少年にボルトアクションのライフルを渡す。
少年がボルトを引く。
泣き叫ぶ花嫁は、村の男たちが抑えている。
里崎杏が「各車前進」と無線で命じる。
そして、彼女はブッシュから出て、村に向かって歩いて行く。
「はい、はい、そこまで!
坊や、何をしようとしているのかな?
お姉さんに教えて!」
半田千早は慌てた。
アサルトライフルを構えて、里崎杏に続く。
村人と装甲車の連中は、当初、里崎杏の言葉を解しなかった。だが、すぐに方言だと気付く。
そして、結婚式の進行をしていた神職らしき男が、説明する。
「市民狩りだ」
擬装を施した装甲車2輌が村に突入する。
これで、形勢が逆転する。
里崎杏が神職らしき男に事情を尋ねる。
「この男の子が新郎さんに銃口を向けた理由が知りたいのだけど」
神職が少し考える。
「あなたたちは誰なんだ?」
当然の疑問だ。
それに半田千早が答える。
「この川の河口から来た。
私たちは、交易を求めてやって来た商人だ」
神職らしい男が驚く。
「川の河口から?
伝説では何千キロも……」
「伝説ではない。
ここに至るまで、2000キロを走ってきた」
神職はどう反応すべきか思案している。
「この土地のほかに、たくさんのヒトがいるのですか?」
半田千早の声音は力強かった。
「えぇ、たくさんいるよ。
他の土地と交易できれば、豊かになれるよ。
もし、困ったことがあるなら、支援もできるよ」
新婦が泣きながら何かを言ったが、方言が強く半田千早には聞き取れない。
神職が説明する。
「彼女の夫になる若者は、今日、この場で、貴尊市民の子がヒトを殺すことに慣れるための練習台に選ばれたんだ」
半田千早は神職の言葉を解したが、意味は理解できないでいた。
そのわずかな時間、ヒトの心の間隙を突くように装甲車の砲塔が旋回する。
ミルシェだけが見逃さなかった。
貴尊市民と呼ばれるヒトたちの装甲車に飛び移ると、開いていた砲塔のハッチに発煙弾を投げ込む。
数秒後、咳と涙でグチャグチャな顔になった男たちが装甲車のハッチから転がり出てくる。
半田千早が貴尊市民側をにらむ。
「私は、喧嘩の仲裁をしている。
誰も怪我しないように、誰の生命も損なわれないように。
で、ヒト殺しの練習って、何?」
ワゴンに乗っていた貴婦人風女性が答える。
「商人風情に語る必要はないが、貴尊市民はヒトならざる怪物と数百年にわたって戦っている。
崇高なる使命を受け継いでいる貴尊市民に対して、愚かにも労働市民はたびたび反乱を起こす。
このときに、躊躇いなく労働市民を誅することができるよう、逃亡市民を使ってヒトの殺し方を学ぶのだ」
半田千早は純粋に確認したかった。
「その怪物だけど。
オーク、ギガス、セロのうちどれ。
私はギガスとの戦いは経験がないけれど、オークやセロとは何度も戦っている。
オークは、白魔族とか、創造主とも呼ばれている。ヒトよりもかなり小さくて、体毛が薄く、ヒトを食べる。
この地域なら、オークかな?」
神職が間髪を入れず反応する。
「ヒトを食う化け物がいるんだ。
貴尊市民は労働市民を守っていると言うが、実際は労働市民の子を掠い、その化け物と取り引きしている」
ミルシェが「おばさんの言っていることと違うじゃない」と大きな声でロロカットに話しかける。
キュッラが何を考えているのか、彼女と同年齢くらいの少年の前に立つ。年長の男の子のほう。
「ヒトを殺したことがないの?」
少年は腹を立てていた。
「労働市民が貴尊市民に話しかけるなんて、無礼だろう!」
キュッラは動じない。
「戦ったことは?」
「……」
少年は答えなかった。
「私はある。
湖水地域に救世主が侵攻したとき、西ユーラシアやクマンのヒトたちとともに戦った。
十字砲火を何度も潜った。
でも、ヒトを殺したことはない。
それに、ヒトを殺す練習なんて聞いたことがない。3人の戦女神だって、そんな練習はしていない。
どうしても必要な練習なら、私もしてみたい。練習台は、きみにする」
キュッラは、ツーポイントスリングで胸の前に吊す半自動小銃の安全装置を外す。ヘルメットとボディアーマーを着けているが、顔に迷彩はない。
「女のくせに」
キュッラが微笑む。
「その女の股から出てきたんだろ。
それとも地面の割れ目から生えてきたの?」
少年は狼狽えていた。
商人だという武装集団の男たちが大笑いしているからだ。銃口は向けていないが、鋭く警戒している。少年には、歴戦の軍人のように見えた。
半田千早が判定する。
「新郎さんを一方的に殺そうとした、あんたたちが悪い。
謝罪し、すぐに立ち去れ」
父親が刀の柄に手を置き、威嚇する。
「女。
生意気もそこまでにしておけ」
「おじさん、私たち相手に戦う気?
それって、無謀だよ。
ここでの出来事は、会話を含めて、すべて通信されている。
ベルーガはもちろん、ジブラルタルやコーカレイ、ノイリンやクフラックも傍受している。
私たちがアトラス山脈の東側に達し、ヒトと接触したことは世界が知っている。
何かあれば、各地から捜索隊が派遣される。もちろん武装してね。湖水地域やクマンから、大軍が押し寄せる。
おじさん、覚悟できているんだよね」
これははったりではない。アトラス山脈東麓にある巨大塩湖であるアトラス湖周辺には、ヒトが住むことは知られている。
人口やどういうヒトなのかがわからない。ごく少数が自給自足をしているのかもしれないし、数十万人規模のコミュニティがあるのかもしれない。
現在、クマンは東に向かって領域を広げ、湖水地域は西に向かって勢力圏を広げている。
そして、すでに2つの地域は接触に成功し、新たな人界が形成されつつある。
さらに、西ユーラシアの寒冷に疲れ、ドラキュロの西進に怯えるヒトは、西アフリカへの移住を真剣に考えている。
西ユーラシアのヒトが西アフリカ沿岸部に移住した場合、ヒトの世界は大きく変貌する。団結できれば、セロ(手長族)との戦いにも勝算がある。
オークやギガスは、ヒトを滅ぼそうとは考えていない。
だが、セロは違う。ヒトとセロとのニッチは重複しており、ガウゼの法則(競合排除則)が働き、ヒトを滅ぼそうとしている。
ヒトだけではない。精霊族、鬼神族、初期移住ギガス(黒魔族)の末裔であるトーカ(半龍族)と彼らと行動を共にするヒト、おそらくギガスの大半も西アフリカへの移住を行うだろう。
ドラキュロがライン川を渡れば、押し出されるようにヒトや他の種は、西に向かうことになる。
西は海。逃げ場はない。ならば、余裕のあるうちに南に逃げたい。
ドラキュロの西進を阻止できない以上、アフリカに逃れるしかない。ヒトが団結すれば、セロは倒せるかもしれない。ヒトが団結しても、ドラキュロはどうにもならない。
寒冷だというのにドラキュロの個体数は増え続けている。10年前の推定4倍。この状況で、温暖化すれば津波のように押し寄せてくる。
その前に逃げなくてはならない。
西ユーラシアが寒冷から脱せないことは、不幸ではあるが同時に幸運でもある。
地球の温暖化は明かで、北極からの寒気が居座っている西ユーラシアだけが取り残されている。しかし、それは永遠ではない。
長期の寒冷によって、西ユーラシアのヒトは疲弊している。西アフリカに逃れるしか、生き残る選択肢がない。
だから、アトラス山脈東麓に住むヒトのことが知りたいのだ。
半田千早は、何かを隠すつもりはない。無線はオープンで、傍受を歓迎している。
神職らしい男は頭髪が白く老人のようだが、実際は高齢ではない。
「お助けいただき感謝しますが……。
みなさんは、本当に川を遡ってきたのですか?
北には食人動物がいると伝えられています。
それは、本当ですか?」
半田千早は即答した。
「本当よ。
戦っている仲間もいる」
「貴尊市民は食人動物と戦い、労働市民を守っていると主張しています。
表向きは。実際は、貴尊市民はその食人動物と取り引きをしているのです。
加えて、労働は過酷で、私たちは耐えられずに逃げ出したのです」
「戦っていない?」
仕立てのいい軍服が答える。
「我ら貴尊市民は、オークと自称する小柄なヒトならざる生き物と戦い、この一帯を守り続けている。
300年の長きにわたって」
半田千早は核心に迫る疑問を持った。
「ということは……。
オークは北にいて、貴尊市民は南から攻めている……?」
「その通りだ」
この瞬間、半田千早の無線を傍受していた、一部のヒトたちが騒ぎ出す。
チュニジアに拠点を置く白魔族(オーク)攻撃が膠着状態に陥っており、その打開策が見つかっていなかった。
この攻撃には、西地中海沿岸のヒトと精霊族や鬼神族が参加している。
現在の東からの攻勢に加えて、南からも攻撃できれば、白魔族の防衛線を突破できるかもしれない。
ジブラルタル海峡の南側には、ジブラルタル勢力が強固な陣地を築いている。戦力が許せば、西からも攻撃できる。
東西と南から攻撃を仕掛ければ、この方面の白魔族を一掃できる可能性が出てくる。
一瞬で、世界は動き始めた。
「ここは、200万年前ならアルジェリアね」
地図を確認している里崎杏がそう言うと、半田千早は反応を躊躇った。アルジェリアという国名を知ってはいたが、名前以上のことは知らないからだ。
それは、この世界に12歳でやって来た納田優奈も同じだ。
不自然な沈黙を里崎杏は無視した。
「200万年前は砂漠だったけど、いまでは草原が広がり、たくさんの動物がいる。
南アメリカは大きな爬虫類や不気味な哺乳類が多いけど、ここは普通よね。まぁ、何を基準に普通とするかで、感想は変わるけど……。
ゾウやサイ、カバ、キリンは絶滅したようだけど、ガゼルの繁栄はすごい。スイギュウ、イボイノシシ、オカピ、ディクディクは生き残った。
大消滅を、ね。
ライオン、リカオン、ハイエナもいる。霊長類は、ほとんどが滅びてしまった。原猿類の一部はいるにみたいだけど……。
香野木さんは動物相が貧弱だと言うけれど、個体数だけなら多いよね。
でも、種は少ない」
納田優奈は、里崎杏が何を言いたいのかわからない。だが、そこを突くことは躊躇いがある。
「納田さん、食糧の確保。
私たちは、当分、ここにいる。
香野木さんが何らかの判断をするまでは……」
「半田さん、適地を探し、滑走路を造って。
物資の補給が必要になる。
できれば、援軍も……。
心当たりは?」
「キャプテン、あります。
ヴルマンのゲマール領領主ベアーテ……。
フェニックス輸送機が2機あるし、全ヴルマンの指導者であり、ゲマール領の領主だから兵を動かせる。ヴルマン全軍は無理でも、彼女の護衛兵なら……」
「そのヒト、信用できる?」
「信用できる指導者なんていないよ。
指導者は誰でも腹黒い。二枚舌、三枚舌は当たり前。
だけど、こっちも腹黒。
訓練された兵をすぐに展開できるのは、ヴルマンとフルギアだけ。そして、大型輸送機を持っているのはヴルマン。
ならば、ヴルマンに動いてもらう。
キャプテン、ヴルマンが動けばフルギアが動く。フルギアが動けば、すべての蛮族が動く。
チュニジアの白魔族を追い払うことができれば、北アフリカはヒトと精霊族、鬼神族が住める土地になる。
ヒト食いがいない、安全な土地。
精霊族の伝承では、精霊族、鬼神族、半龍族は北アフリカにいたんだ。
白魔族がやって来て、恭順しない種を追い出した。行き場所は、ヒト食いがいる西ユーラシアしかなかった。
白魔族は黒魔族とは違う。
黒魔族はヒトと争うが、それは互いに意思の疎通が難しいから。昔はヒトを奴隷にしたらしいけど、それもなくなっていて、ヒトとはことさら争わない。
父さんの仮説だけど、黒魔族と行動をともにするヒトとは、半龍族の仲間になったヒトのこと。半龍族は黒魔族と意思疎通できる。ヒトは半龍族を介して、黒魔族と話し合える。
それを突き止めたのは父さん。
もし、黒魔族が北アフリカ移住を求めるなら、ヒトは拒否しない。彼らには生きる権利がある。
200万年前に何があったとしても、それは過去のこと」
「半田さん、過去を水に流せと?」
「ヒトは何度も黒魔族と戦った。
大決戦もあった。
争いはいつでもある。同族間でも。
戦争と平和は、特別のことじゃない。
殺すこともあれば、殺されることもある」
「若いのに、達観した意見ね」
納田優奈が割り込む。
「ヒトは生態系の頂点にいない。
殺すことが自然であるように、殺されることも自然なんだ」
里崎杏は、どうしても地球の支配者でないヒトを想像できなかった。
里崎杏が神職だと感じた人物は、小さな集団のリーダーだった。彼には宗教色がほとんどなく、単に過去にあった儀式を真似て、結婚式を行っただけだった。
彼は里崎杏を恐れていた。
「あのぅ、乱暴はやめてください」
「乱暴?
そんなつもりは、まったく……。
畑がないようですが、食料は?」
「全部は奪わないでください」
「奪ったりはしません。
食料は持っています」
「畑を作ると、貴尊市民に見つかってしまいます。見つからない場所に少しだけ……。農具もありませんし……」
「食料は?」
「いつも、不足していますル
2人が結婚するので、食料の確保を大勢でしたのです。一帯のヒトが集まって……。
そうしたら、貴尊市民に見つかってしまった……。
迂闊でした」
半田千早が話題を変える。
「この付近に広くて平坦な場所はありませんか?
できれば、草原がいいのですが……」
「あります。
川の向こう岸ですが」
「案内していただけますか?」
「えぇ、いいですが……」
「キュッラ、健太、偵察に行け」
2人が歩み出ると、現地の男の子が名乗り出る。
「俺たちが案内する。
船もある」
半田千早が頷くと、キュッラと健太は2人の少年に続く。16歳以下の2人は、成人は弾倉6本180発が定数だが、4本120発を装備する。手榴弾は2個。
「何をなさるのですか?」
「平坦な場所を探し、幅の広い道のようなものを造ります。
協力していただけますか?」
神職だと考えていた男は、狼狽える。
「働きますので、生命だけは……」
半田千早と納田優奈は、彼らの状況をある程度理解している。支配者と被支配者、搾取者と被搾取者がいるのだ。
里崎杏は、ごく普通の条件を出した。
「もし、滑走路建設に協力していただけるなら、対価を払いましょう。
食料は無理ですが……」
屈強な男が問う。
「銀で払ってくれるか?」
「いいですよ。
この銀貨でいいですか?」
里崎杏は、ポケットからクマン銀貨を出す。純度99.9%の50グラム銀貨だ。
里崎杏がクマン銀貨を老人に渡す。
「これを1枚くださると?」
1枚のつもりはなかったが、頷く。
屈強な男が老人から渡された銀貨を値踏みする。
「1日、1人、1枚か?」
半田千早が頷き、その様子を里崎杏が確認し、彼女も頷く。
白髭・禿の老人が申し出る。
「日の出から日没まで働きます」
半田千早が慌てる。
「日の出の2時間後から日没の2時間前まででいいよ」
翌日、川の対岸には8人の男が集まってきた。1000メートルの転圧滑走路を造るには、不十分だが、この場所を案内してくれた2人の少年を加えて、工事が始まる。
滑走路用地は概ね平坦だが、それでも凹凸がある。高木も数本伐採しなければならないし、根を掘り出さなくてはならない低木も複数ある。
動物の巣穴もある。
草を刈れば終わりじゃない。
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この直線を装甲輸送車で踏み固め、微妙な凹凸は現地の老若男女が協力してくれる。成人男性は大きな石や倒木を除き、子供たちは小石や枯れ枝を拾う。
「銀貨送れ」
銀貨が不足することは、工事初日にわかっていた。バンジェル島に送った至急電は、西アフリカと西ユーラシアを駆け巡る。
バンジェル島は急いでクマン銀貨1000枚の調達を始めるが、最初に動いたのはカナリア諸島にいるクフラックの駐留部隊だった。
フルギア銀貨3000枚を無線受信から数時間で用意した。用立てたのは偶然寄港していたフルギア商人で、彼の背後にはフルギア政府がいる。
フルギア銀貨3000枚、16.5キログラムを積んだブロンコ偵察攻撃機がカナリア諸島を離陸。1200キロを飛行して、建設途中の滑走路を確認し、銀貨をパラシュート投下した。
フルギア銀貨はクマン銀貨よりも銀の含有率がやや低いが、やや重い。銀の含有量では、フルギア銀貨が多い。
労賃としては、値上げとなる。
キュッラは、成人男性と10歳の女の子の労賃に差を付けなかった。
大きな石は重いが、小さな木切れのほうが飛行機の吸入口は吸い込みやすいのだ。その仕事に軽重はない。
ならば、労賃は同じ。それに、幼い子のほうが小さな異物をよく探し出す。
一部に不満はあったが、キュッラは押し切った。
あるグループは「長が代表して銀を受け取る」と申し出てきたが、キュッラは「労賃は働いてくれたヒトに直接払う。それ以外は認めない」と拒絶。
これは揉めたが、キュッラは強硬だった。そのグループを追い返す。ある種の部族主義から来る行動であることは確かで、労賃を長が独占する可能性が高い。
湖水地域にも似たようなことがあり、働いても豊かにならないことがあった。
だから、キュッラは厳しく拒否した。
それを半田千早や納田優奈は何も言わず、里崎杏は現地のヒトと揉めないか、やや心配する。
どうであれ、労賃の支払いができ、滑走路が完成する。
そして、西から3000もの大軍がやって来た。
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ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
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勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
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パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
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セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
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