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PAGE4 黒いナニカ
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それ、は。
暗がりの部屋の中でもいっそう黒い、なにかだった。
その境界線みたいなものはないっていうのに、黒いそいつは、確かに人のようなサイズで、だからといって人とは到底思えない、モヤの塊のようなものだった。
咄嗟に、こいつはダメだと思った。
何がどうダメかって?
そりゃもう、わかんねえけど、本能がダメだって告げていたね。
そいつに目があるのか、そもそも生き物なのかなんなのかわかりゃしねえが急いで逃げるべきだと思った。
だが、どこに?
確かに広いマンションの一室だ、きっと隠れる場所なんていくらでもあるだろう。
その家に慣れ親しんでればな。
生憎俺は単なる雇われ探偵もどきで、心霊現象の研究をしちゃいるが退治となれば専門外。
実を言えばそういった類いのものを追い求めて研究所なんて立ち上げたのはいいが、実際に不可思議な現象に遭ったのは残念ながら今回が初めてなのだ。
心霊写真が撮れるとか、謎の手形とか、ラップ音だとか。
そういうものに出会えるかもしれない。ロマンじゃないか。
そのくらいの軽い気持ちだったことは否めない。
俺だってただ野次馬根性でここに来たわけじゃない、前払いでいくらかもらっているんだ、それなりに調査だってするつもりだったし万が一に備えてお札やら十字架やら用意だってしてきたさ。
(あれはそんなんじゃねえ)
ぞわりと全身に鳥肌が立ったんじゃないかという怖気。
脳裏に浮かんだのはシャケフレークもどきの脳みそみたいな物体。
とにかく俺はその場を後にして慌てて別室に逃げ込んだ。
扉をそっと閉めて、アイツが入ってきたら入れ違いに逃げられる位置に陣取って、頭は妙に冷静なのに、体はガタガタ震えて指先はまともに動かない。
「ひぃっ……!?」
金切り声のような、何か鉄同士がこすれ合うような、そんな音がして俺は思わず耳を塞いだ。
もしかしたらアイツの声かもしれないと思うと、それこそ先ほど姿を見かけたばかりだと理解していても、目と鼻の先にいると突きつけられる事実に体の震えが止まらない。
一体どのくらい時間が経ったのだろう。
耳を塞いで、俺はただ耐えるだけだ。
耳障りなこの声がいつ終わったのか、一分程度だったのか、数分を要したのか。
とにかく音が止んだとき、俺は全身びっしょりと汗を掻いていて、その場で気を失うんじゃないかと思ったくらいだ。
だが、そこで気がついた。
(やつが、いねえ……?)
真っ暗なヤツが現れて途端に息苦しさや全身を倦怠感が襲った、その事実に今気がついた。
先ほどまではそれどころじゃなかったってことなんだろうが、それでも俺は恐る恐る部屋のドアを隙間程度に開けて、先ほどまでやつがいた廊下を見る。
そこは薄暗い廊下で、その先には玄関のドアが見えていた。
あれは俺の錯覚だったのだろうか?
(いいや、そんなはずはねえ)
あれがなんなのか気にならないわけではないが、今はそれどころじゃなかった。
とにかくあの気味悪いなにかが再び現れる前にとっととこの部屋を出るべきだと俺は震える体を叱咤して立ち上がる。
よたよたと歩く姿は俺を知る仲間には決して見せられるものじゃあなかろうが、今はそれどころじゃない。
どうにかこうにか立つことができた俺が部屋を出ようとしたところで、ごとんと音が聞こえた。
俺の、背後で。
暗がりの部屋の中でもいっそう黒い、なにかだった。
その境界線みたいなものはないっていうのに、黒いそいつは、確かに人のようなサイズで、だからといって人とは到底思えない、モヤの塊のようなものだった。
咄嗟に、こいつはダメだと思った。
何がどうダメかって?
そりゃもう、わかんねえけど、本能がダメだって告げていたね。
そいつに目があるのか、そもそも生き物なのかなんなのかわかりゃしねえが急いで逃げるべきだと思った。
だが、どこに?
確かに広いマンションの一室だ、きっと隠れる場所なんていくらでもあるだろう。
その家に慣れ親しんでればな。
生憎俺は単なる雇われ探偵もどきで、心霊現象の研究をしちゃいるが退治となれば専門外。
実を言えばそういった類いのものを追い求めて研究所なんて立ち上げたのはいいが、実際に不可思議な現象に遭ったのは残念ながら今回が初めてなのだ。
心霊写真が撮れるとか、謎の手形とか、ラップ音だとか。
そういうものに出会えるかもしれない。ロマンじゃないか。
そのくらいの軽い気持ちだったことは否めない。
俺だってただ野次馬根性でここに来たわけじゃない、前払いでいくらかもらっているんだ、それなりに調査だってするつもりだったし万が一に備えてお札やら十字架やら用意だってしてきたさ。
(あれはそんなんじゃねえ)
ぞわりと全身に鳥肌が立ったんじゃないかという怖気。
脳裏に浮かんだのはシャケフレークもどきの脳みそみたいな物体。
とにかく俺はその場を後にして慌てて別室に逃げ込んだ。
扉をそっと閉めて、アイツが入ってきたら入れ違いに逃げられる位置に陣取って、頭は妙に冷静なのに、体はガタガタ震えて指先はまともに動かない。
「ひぃっ……!?」
金切り声のような、何か鉄同士がこすれ合うような、そんな音がして俺は思わず耳を塞いだ。
もしかしたらアイツの声かもしれないと思うと、それこそ先ほど姿を見かけたばかりだと理解していても、目と鼻の先にいると突きつけられる事実に体の震えが止まらない。
一体どのくらい時間が経ったのだろう。
耳を塞いで、俺はただ耐えるだけだ。
耳障りなこの声がいつ終わったのか、一分程度だったのか、数分を要したのか。
とにかく音が止んだとき、俺は全身びっしょりと汗を掻いていて、その場で気を失うんじゃないかと思ったくらいだ。
だが、そこで気がついた。
(やつが、いねえ……?)
真っ暗なヤツが現れて途端に息苦しさや全身を倦怠感が襲った、その事実に今気がついた。
先ほどまではそれどころじゃなかったってことなんだろうが、それでも俺は恐る恐る部屋のドアを隙間程度に開けて、先ほどまでやつがいた廊下を見る。
そこは薄暗い廊下で、その先には玄関のドアが見えていた。
あれは俺の錯覚だったのだろうか?
(いいや、そんなはずはねえ)
あれがなんなのか気にならないわけではないが、今はそれどころじゃなかった。
とにかくあの気味悪いなにかが再び現れる前にとっととこの部屋を出るべきだと俺は震える体を叱咤して立ち上がる。
よたよたと歩く姿は俺を知る仲間には決して見せられるものじゃあなかろうが、今はそれどころじゃない。
どうにかこうにか立つことができた俺が部屋を出ようとしたところで、ごとんと音が聞こえた。
俺の、背後で。
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