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★コミンテルンとの闘い★
【張学良軍の反乱②】
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鈴木の話を聞いているとき、廊下を歩く沢山の足音が通り過ぎて行った。
足音に気付いた鈴木が「御前会議」だと教えてくれた。
「それでは、この御前会議で⁉」
驚く私に、鈴木は黙ったまま頷いた。
御前会議とは国家の緊急かつ重大な問題において天皇陛下臨席のもとに主要閣僚、軍首脳が集まって行われる合同会議である。
御前会議が始まると鈴木は私を会議の控室に連れて行った。
ここには万一の事態に備えて侍従長のみが入ることができるのだが、私はその侍従長である鈴木に入るように促された。
控室はその性格上、会議の内容も知り得ることができる。
先ず岡田首相が事件の内容と経過を説明し、起こり得る問題点を抽出しそれに対する政府の対応を現在検討中であることを報告した。
次に有田外務大臣より、日本と同じく中国北部の自国民の安全のために派兵しているイギリス、アメリカそしてイギリスに避難している自由フランス政府より、日本へ対応を依頼する内容の電信が相次いで届いたことが伝えられた。
なお蒋介石からは会議直前に連絡が着いたむね大使館より報告があったが、まだ対応については検討中である事も付け加えられた。
有田外務大臣の報告が終わると再び岡田首相が席を立ち、対応については他国のことにつき中国国民党及び蒋介石の許可なくして軍を派遣することは謹むよう発言があり、陸軍から少し騒めく声が漏れた。
政府の報告が終わり、次に海軍が報告を行った。
伏見宮博恭王軍令部総長が臨席に居る加藤隆義大将に発言を促す。
起立した加藤大将は、現在の各艦隊の配置状況と、修理及び改装中の艦の状況を長々と説明し聞いている人たちをイライラさせた。
質疑をする場ではないものの、陸軍参謀次長の塚田中将が「それらは、いつ出航できるのか」と聞かれると、また各地域の艦艇の元状態を報告しはじめて、今度は岡田首相が一番早く出動できる艦隊はどの艦隊かと尋ねられると、正月明けで未だボイラーに火を入れていない艦が多くあり、行動するには各種点検なども必要で発令後5日は掛かりそこから艦隊編成となると更に5日ほどかかると説明した。
海軍の報告が終わると、次は陸軍が報告を行った。
杉山元陸軍参謀総長に代わり、塚田中将が現在の対応状況を細かく説明を始めた。
先ず満州に駐屯する関東軍から、第6師団、第8師団、混成第14旅団、騎兵第4旅団を北京東部の国境線上に移動中であること。
派兵部隊は既に山下泰文中将率いる第25軍(総兵力3万5千)に決定し、既に第25軍参謀部では北京市の南60キロ、つまり北京―天津—保定を繋げた三角形の真ん中まで行軍して敵の出方を待つ体勢で、この位置であれば張学良軍が北京西に広がる山岳地帯を迂回してきたとしても不意打ちなどを受けることもなく、また天津港からの物資輸送も問題なく行える旨を伝えた。
次に第25軍の輸送手段だが、門司の第1船舶輸送司令部で行い、足りない分は広島県宇品の教育隊からも船舶を派遣する手配が終了し、門司・宇品両港にある輸送船は既に出向の準備が整い現在鉄道で移動中の第25軍の到着を待っているところであることを説明した。
塚田中将は最後に「出ろと言われれば、今夜にでも中国へ向け出港することは可能です」とワザと勇ましく言い、まだ準備段階にも達していない海軍を牽制したため場の空気は一気に一触即発の空気に包まれた。
ここで今までお言葉を挟まないでいた陛下が、仰った。
「大陸で直接張学良軍との戦になるかも知れない陸軍と、そうでない海軍との温度差は分かるが」と。
陛下のお言葉に、一触即発だった空気が緊張に代わり、更に陛下は話を続けた。
「大本営とは、何か」と。
黙ったまま俯く陸海軍の出席者に代わり、岡田首相が言った。
「統帥権を持つ天皇直属の軍事機関で、戦争の危険が高いときに陸軍と海軍を総括するため臨時に設置される最高司令部の役割を担う組織です」と。
すると陛下は、この一大事に何故大本営からこの場所に誰も来ていないのかと、陸軍参謀総長杉山元と海軍軍令部総長伏見宮博恭王に聞いた。
黙って俯いたままの杉山の代わりに、伏見宮博恭王が答えた。
それは大本営の構成員である、陸軍参謀本部と海軍軍令部がこの場所にきているからだと言うと、陛下はそれなのになぜこのように御前会議の場において陸軍と海軍が異なる意見を述べて対立することが起きるのかと聞いた。
この問いには伏見宮博恭王も黙って俯くしかなかった。
今の大本営は名ばかりで、陸軍や海軍からの情報を受けて、それを伝えるのが主な仕事となっている。
もちろん天皇直属の軍事機関らしく、陸海軍ばかりでなく政府への提案を行う事も有るが、それはあくまでも提案であって総括するための指示ではない。
戦艦扶桑と山城の輸送艦への改造。
盧溝橋とノモンハンに要塞を造る計画。
石原中将の満州北部方面司令人事や、大和型戦艦の油槽船計画。
これら全ては上手く実現に至った提案であり、指示ではなかった。
そして陛下は仰った。
「鈴木侍従長傘下に、新しい大本営を設置する」と。
侍従長傘下ということは、天皇陛下直下と同じ意味を表す。
足音に気付いた鈴木が「御前会議」だと教えてくれた。
「それでは、この御前会議で⁉」
驚く私に、鈴木は黙ったまま頷いた。
御前会議とは国家の緊急かつ重大な問題において天皇陛下臨席のもとに主要閣僚、軍首脳が集まって行われる合同会議である。
御前会議が始まると鈴木は私を会議の控室に連れて行った。
ここには万一の事態に備えて侍従長のみが入ることができるのだが、私はその侍従長である鈴木に入るように促された。
控室はその性格上、会議の内容も知り得ることができる。
先ず岡田首相が事件の内容と経過を説明し、起こり得る問題点を抽出しそれに対する政府の対応を現在検討中であることを報告した。
次に有田外務大臣より、日本と同じく中国北部の自国民の安全のために派兵しているイギリス、アメリカそしてイギリスに避難している自由フランス政府より、日本へ対応を依頼する内容の電信が相次いで届いたことが伝えられた。
なお蒋介石からは会議直前に連絡が着いたむね大使館より報告があったが、まだ対応については検討中である事も付け加えられた。
有田外務大臣の報告が終わると再び岡田首相が席を立ち、対応については他国のことにつき中国国民党及び蒋介石の許可なくして軍を派遣することは謹むよう発言があり、陸軍から少し騒めく声が漏れた。
政府の報告が終わり、次に海軍が報告を行った。
伏見宮博恭王軍令部総長が臨席に居る加藤隆義大将に発言を促す。
起立した加藤大将は、現在の各艦隊の配置状況と、修理及び改装中の艦の状況を長々と説明し聞いている人たちをイライラさせた。
質疑をする場ではないものの、陸軍参謀次長の塚田中将が「それらは、いつ出航できるのか」と聞かれると、また各地域の艦艇の元状態を報告しはじめて、今度は岡田首相が一番早く出動できる艦隊はどの艦隊かと尋ねられると、正月明けで未だボイラーに火を入れていない艦が多くあり、行動するには各種点検なども必要で発令後5日は掛かりそこから艦隊編成となると更に5日ほどかかると説明した。
海軍の報告が終わると、次は陸軍が報告を行った。
杉山元陸軍参謀総長に代わり、塚田中将が現在の対応状況を細かく説明を始めた。
先ず満州に駐屯する関東軍から、第6師団、第8師団、混成第14旅団、騎兵第4旅団を北京東部の国境線上に移動中であること。
派兵部隊は既に山下泰文中将率いる第25軍(総兵力3万5千)に決定し、既に第25軍参謀部では北京市の南60キロ、つまり北京―天津—保定を繋げた三角形の真ん中まで行軍して敵の出方を待つ体勢で、この位置であれば張学良軍が北京西に広がる山岳地帯を迂回してきたとしても不意打ちなどを受けることもなく、また天津港からの物資輸送も問題なく行える旨を伝えた。
次に第25軍の輸送手段だが、門司の第1船舶輸送司令部で行い、足りない分は広島県宇品の教育隊からも船舶を派遣する手配が終了し、門司・宇品両港にある輸送船は既に出向の準備が整い現在鉄道で移動中の第25軍の到着を待っているところであることを説明した。
塚田中将は最後に「出ろと言われれば、今夜にでも中国へ向け出港することは可能です」とワザと勇ましく言い、まだ準備段階にも達していない海軍を牽制したため場の空気は一気に一触即発の空気に包まれた。
ここで今までお言葉を挟まないでいた陛下が、仰った。
「大陸で直接張学良軍との戦になるかも知れない陸軍と、そうでない海軍との温度差は分かるが」と。
陛下のお言葉に、一触即発だった空気が緊張に代わり、更に陛下は話を続けた。
「大本営とは、何か」と。
黙ったまま俯く陸海軍の出席者に代わり、岡田首相が言った。
「統帥権を持つ天皇直属の軍事機関で、戦争の危険が高いときに陸軍と海軍を総括するため臨時に設置される最高司令部の役割を担う組織です」と。
すると陛下は、この一大事に何故大本営からこの場所に誰も来ていないのかと、陸軍参謀総長杉山元と海軍軍令部総長伏見宮博恭王に聞いた。
黙って俯いたままの杉山の代わりに、伏見宮博恭王が答えた。
それは大本営の構成員である、陸軍参謀本部と海軍軍令部がこの場所にきているからだと言うと、陛下はそれなのになぜこのように御前会議の場において陸軍と海軍が異なる意見を述べて対立することが起きるのかと聞いた。
この問いには伏見宮博恭王も黙って俯くしかなかった。
今の大本営は名ばかりで、陸軍や海軍からの情報を受けて、それを伝えるのが主な仕事となっている。
もちろん天皇直属の軍事機関らしく、陸海軍ばかりでなく政府への提案を行う事も有るが、それはあくまでも提案であって総括するための指示ではない。
戦艦扶桑と山城の輸送艦への改造。
盧溝橋とノモンハンに要塞を造る計画。
石原中将の満州北部方面司令人事や、大和型戦艦の油槽船計画。
これら全ては上手く実現に至った提案であり、指示ではなかった。
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