対ソ戦、準備せよ!

湖灯

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★コミンテルンとの闘い★

【対潜水艦戦③】

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 13時45分。

 電信を担当していた薫さんの声が響く。

「済州島沖でソビエト軍潜水艦の追尾を行っていた第27駆逐隊『時雨しぐれ』より入電!ソビエト軍SC型潜水艦の乗員41名の救助に成功!」

「救助!? それは一体どういうことなんだ?」

 永野がその情報について質問をする。

「詳細は、後日と艦長の瀬尾少佐から追記として入電されているだけです」

「う~む……」

 考えている永野に私は言った。



「SC型潜水艦の定員は38から41名と言われています。と言う事は艦内の全員を確保したと言う事でしょう」

「しかし拿捕をしたとの報告は入っていないぞ」

「公海上を移動する船舶を拿捕することはできません」

「たしかに、その通りだが……」



 永野が首をかしげて考えているとき、また電信員の薫さんの報告が届く。

「13時55分、対馬沖第16駆逐隊『雪風』脇田中佐より入電! ソビエト軍SC型潜水艦の乗員40名の救助に成功したとの事です!」

「雪風からも……」

 永野は答えを見出したらしく、禿げた側頭部をポンと鳴らして得意気に言った。

「わかった! ソビエトの潜水艦は、まともに潜航する能力が無く、故障したのだ‼」



 永野の言葉を隣で聞いていた阿南が真面目な顔で「そのようなことが、こんな時に2つも重なるのはオカシイのではないでしょうか。 柏原少佐は、どう思う?」と、話を私に振る。

「おそらく第27駆逐隊と第16駆逐隊は、共にソビエトの潜水艦艦長を降伏させるような罠を仕掛けたのだと思います」

「罠とは?」と、阿南が聞いた。

「たとえば相手の潜水艦に油断させておいて、囲みのど真ん中に浮上させてしまうとか……たしか、そう、ですよね」

 私はさも以前永野に教わったように彼に聞いた。

 永野は私が聞いた意味を咄嗟に理解して「ああ、その通りだ!」と威厳を持った声で言ってくれた。

 それでもまだ少し納得のいかない阿南が何か言おうとしたとき、薫さんが「局長、ナイス‼」と囃し立て、永野は薫さんの言葉のまま大いに燥いでいた。





 対潜哨戒任務に出た駆逐隊からの報告はまだ続き、14時05分決定的な戦果がもたらされた。

「第32駆逐隊『朝顔』中村大尉より入電、津島北端舌崎浦に座礁したるソビエト製潜水艦を発見せり!乗員40名全員を無事救助!」

 薫さんの報告に、我々3人は思わず歓喜の声を上げた。

 第27駆逐隊にしても第16駆逐隊にしても、ソビエト軍の乗員を確保するという奇跡的な大戦果を上げたものの、ソビエト北方艦隊司令部から発行されたはずの命令書など重要な書類はソビエト兵たちが降伏する際に自ら自沈処分した艦と共に海の底に消えた。

 しかし座礁となると話は別だ。

 浅瀬に乗り上げられた艦は、損傷して浸水があり、彼らは急いで脱出しなければならなかった。

 たとえ艦長が重要書類を焼却処分したとしても、全ての書類を燃やすだけの猶予があったかどうかは分からない。

 たとえ全ての書類が焼失したとしても、ソビエト北方艦隊司令部やソビエト政府はそのことを確かめる術はない。

 捕らえた艦長たち乗組員を尋問して、彼らが何をしようとしていたのかが分かれば書類が焼失していても交渉の切り札になり得るのだ。



「座礁した位置を地図で確認したのですが現場は対馬の東側、つまり対馬海峡に入るルートですが、朝鮮海峡を通り抜けるはずの敵潜水艦の中で何故この艦だけが対馬海峡を通るルートを選んだのでしょう? しかも座礁してしまうほどの海岸すれすれを」

 阿南が疑問を投げかけると、永野が自信満々に答えた。

「おそらく航空機との共同作戦じゃないのか」と。

 なるほど、それは大いに考えられる。

 第32駆逐隊は駆逐艦朝顔を含む4隻全ての艦は大正時代に採用された旧式艦、もちろん水中調音器や音響探知機などの装備は最新式の物に変更されていて速力も35,5ノットと速度もでるが、なにしろボイラーは古いから加速は鈍く音も大きい。

 いくら曳航式の水中探査艇を曳いていたとしても、前には太鼓を叩きながら行進する母艦が居るので敵潜水艦を追う形での探査は難しい。

 だから、おそらく第32駆逐隊は自艦の出す騒音を利用して、朝鮮海峡側を先行して音で封鎖したのだろう。

 敵潜水艦の捜索を一旦航空機に任せて。

 そして隊列から離れて対馬海峡側を先行したまま停止していた場所に、潜水艦を追い込んだ。



 旧式艦が、このような任務を遂行成し得たのかは、旧式なるが上での知恵に他ならない。

 彼らの母港である舞鶴には水上偵察機部隊が居る。

 おそらく日頃から、このような状況に備えて空海共同の訓練を行っていたことは想像できる。

 つまり今回の大手柄も、航空機との共同作戦でソビエト潜水艦の進路を妨害して、朝鮮海峡から対馬湾岸に潜水艦を追い詰めたのだろう。
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