2 / 5
②
しおりを挟む「わぁっ!!…って、突然驚かすん無しやで」
「あほ!いまお前の声にビビったやないかい!」
「もーやめてくださいよ~」
エントランスに入って、奥に進もうとした矢先、私の前を歩く芸人さんがそう言った。
やるだろうな、とは思っていたけれど、そうやって突然大きな声を出すのだけは本当にやめてほしい。
いきなり驚かすから芸人さんが相方に叩かれていて、その姿を後ろで見た時は思わず少し笑ってしまった。
…しかしその和やかな雰囲気は、突如霊媒師の女性が発した言葉によって、一気に再び大きな恐怖に包まれる。
「あ、この奥にあるロビーの受付見えるでしょ?そこに女性が…まだ20代前半かな?立っていて、物凄い勢いでこちらを睨んでいます」
「え、えぇ!?あそこ、あの受付のところですか?」
「そうそう。連続して殺人事件があったホテルだから、当時働いてて殺されてしまった従業員かな?彼女、頭から血を流しています。あんまり受付ところ、じっと見つめすぎないで下さいね。万が一目が合ったりなんかしたら大変ですから」
「いや先生、そんなこと詳しく言わんといて下さいよ!」
この廃墟ホテルのロビーは、エントランスから入ってすぐ目の前に広がっている。
ロビーにはたくさんの椅子やテーブルが乱雑に散らばっており、その向こうに受付がある。
ロビーに備え付けられた窓やカーテンが大きく破られており、その光景にもまた大きな不快感や恐怖を感じずにはいられない。
……あの受付に、いま、女性の霊がいるんだ…。
霊媒師さんは「見つめすぎないで」と言っていたけれど、私は気になって何度も何度もそこに目を遣ってしまう。
「…受付のほう、何枚か写真撮ってみますか?」
私はそう言うと、事前にスタッフさんから預かっていたカメラを手に持った。
もしここで何かが映れば、それが取れ高になる。
怖いから何も映らないでほしいけど、私の名前を世に知らしめるという意味では、映ってほしい。
私はそんな複雑な思いを抱えながら、受付を何枚かデジカメに収めた。…が、結果は何も映っていない。
「あっ。あそこ売店ちゃう?」
「え?」
そして写真を撮った直後、芸人さんがそう言って売店らしき場所を指差した。
その声にその指で差した先を見てみると、確かにそこには薄汚れた木の板に「売店」と書かれてある。
もちろん商品自体は全く残っていないが、そこに一体だけ立つ女性の白いマネキンと目が合った。
「っ…!」
今のマネキンは顔のパーツまでは全く描かれていないが、30年前のものともなると、顔のパーツがくっきりと描かれてあって思わずゾッとした。
マネキンのその大きな目が、ギョロ、とこちらを睨んでいるように見える。
「ちょっとこれは…なんとも言えない雰囲気ですね」
私はそのマネキンを見るなり思わずそう言うと、苦い表情を浮かべた。
さすがに手で触れる気にはなれないが、その不気味な目から不思議と目が離せない。
「さっきから色んなモン倒れてはるけど、このマネキンだけ倒れてないんやね」
「あ、ほんまや。なんでやろ」
そして不意にそう言った芸人さんたちの言葉に、私も「確かに…」と呟いた。
しっかり固定されているわけではないのに、確かにこのマネキンだけちゃんと立っている。
…ますます不気味だなぁ。
そんなマネキンにそう思ってしまったのは私だけではないようで、隣に立つ芸人さんも2人とも似たようなことを口にしていた。
「…香音ちゃん、とりあえず写真撮っとこか。マネキン」
「あ、そうですね」
そしてそう言った芸人さんの言葉に、私は早速同じデジカメでマネキンの写真を撮った。
…………
その後は、1階のトイレや大浴場、
そして2階の客室をなんとなく見て回り、気になったところは全て写真を撮った。
途中、霊媒師さんに「この部屋の奥で男性が横たわっています」とか「この廊下に老婆が立っていますので気を付けて下さいね」などと言われ、その度に3人でビビりながらもロケを続けていた。
そして、ロケを続けること約1時間ほど。
意外にも特に何かが起こるわけでもなく、奇妙な音や声などが聞こえることもないまま次に3階に上がろうとした時…
そこで、事件は起こった。
「次、3階やな」
「いやーさすがに3階で何かあってくれへんとこれオンエア危ないで」
「えっ、せっかく頑張ってるのにお蔵入りとか勘弁して下さいよぉ」
3人でそんな会話を繰り広げながら、なんとか和やかな雰囲気を出しつつ3階に繋がる階段を上りきった時、不意に後ろで男性のスタッフさんが言った。
「え、あれ?ちょっとゴメン」
「…え?」
「?」
最初に気が付いたのは、ディレクターさんだった。
私たちがその声に後ろを振り向くと、ディレクターさんが突如、思いも寄らなかった言葉を口にした。
「霊媒師さん、居なくない?」
「…えっ」
0
あなたにおすすめの小説
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/9:『ひかるかお』の章を追加。2025/12/16の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/8:『そうちょう』の章を追加。2025/12/15の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/7:『どろのあしあと』の章を追加。2025/12/14の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/6:『とんねるあんこう』の章を追加。2025/12/13の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/5:『ひとのえ』の章を追加。2025/12/12の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/4:『こうしゅうといれ』の章を追加。2025/12/11の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/3:『かがみのむこう』の章を追加。2025/12/10の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
(ほぼ)1分で読める怖い話
涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる