17世紀ドイツで特殊部隊に勧誘されてます

コダーマ

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【第1章 EDE.】黒き刃の聖騎士

尻を叩かれた

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 ある意味、住む世界が違うのかと姉の片付けを断念したヴェルツの前で、弾丸小僧は立ち止まった。


「この辺かな……」


 目の前には城壁。見上げれば、建物の二階分の高さはありそうだ。街の防護壁なわけだから、当然壁の上には見張りや攻撃時に使用する兵士詰所がある。この地点は詰所の窓からも、街路からも死角になった位置だ。人目を避けて街の外れに来たというわけでもないようで、リガは背にしょっていた縄をヴェルツに押し付けた。長さがある為、ずしりと重い。


「持ってろ」


 そして持っていた鉤状の金具フックをその先に装着する。


「……何してるんですか?」


 ヴェルツの問いに、弾丸小僧は「うん」と生返事で答えた。しかし青の眼はきらきら輝いている。ヴェルツは小さく首を振った。ああ、嫌な予感がする。

 少年は軽い動作で縄を投げて壁面に鉤を引っ掛けると、その先端をヴェルツに渡した。


「登れ」


「………………」


 泣きたくなってきた。何で自分がこんな……。愚痴ると即刻、姉に尻を叩かれる。


「早く登りなよ、ヴェルツ」


「何だよ、階段を使えばいいじゃないか……」


 大きな防護壁だから所々に階段が付いているのが見える。


「階段なんか呑気に上ってみろ。奴らに見付かる」


「や、奴らって?」


 リガが手にしていた銃をジャキッと鳴らす。それ以上の躊躇は許さないとの脅しだ。ヴェルツは仕方なく縄に手をかけた。所々に作ってある結び目を足がかりに縄をよじ登るのは意外と骨の折れる作業だった。スカートの長い裾を足に絡ませながら、キルスティンも続く。


「ワッ!」


 姉の叫びに、彼女の視線を辿ってヴェルツも呆然とした。壁の上には細い通路が通してあり、街の外側に向かってヴェルツの肩くらいの高さの壁が続く。所々に小窓が造られていて周囲の様子が一望に見渡せる造りになっている。

 そこから覗いた先──エルベ川が南北に流れる平野一面に、大勢の兵士たちの胸当てや兜が陽光を受けてきらめいているのが見えた。軍勢が街を幾重にも囲んでいたのだ。


「カトリック軍に包囲されてるって……」


 この光景に圧倒される。視界に入るだけで兵士の数は千、いや二千……以上か? 多すぎて分からない。こんな中を抜けることなど考えられない。街を出たい、村に帰りたいとの思いもあるが断念せざるを得ないだろう。心の中ではロックの行方が気にかかっているのだが。それから彼女の安否も──。


「この包囲網を抜けようと考えてるのか」

 大量の銃火器を抱えながらも、さすがにリガは素早く縄ロープを上がってきた。

「さっき街を出ろって言ったけど、こいつはまず無理だな。間違いなくカトリック軍につかまる。民間人なら本当にスパイとして使われるぞ」


 偽情報を持たされて街に戻される。都合が悪くなったら殺される。使い捨てだな。

 ちらりと外の光景を見ながらヴェルツに頭を下げろと合図する。壁から飛び出た彼の頭は実に狙いやすい的になる。慌ててその場に座り込んで、彼は恨めしげに銀髪の青年を見上げた。
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