20 / 98
【第1章 EDE.】黒き刃の聖騎士
尻を叩かれた
しおりを挟む
ある意味、住む世界が違うのかと姉の片付けを断念したヴェルツの前で、弾丸小僧は立ち止まった。
「この辺かな……」
目の前には城壁。見上げれば、建物の二階分の高さはありそうだ。街の防護壁なわけだから、当然壁の上には見張りや攻撃時に使用する兵士詰所がある。この地点は詰所の窓からも、街路からも死角になった位置だ。人目を避けて街の外れに来たというわけでもないようで、リガは背にしょっていた縄をヴェルツに押し付けた。長さがある為、ずしりと重い。
「持ってろ」
そして持っていた鉤状の金具フックをその先に装着する。
「……何してるんですか?」
ヴェルツの問いに、弾丸小僧は「うん」と生返事で答えた。しかし青の眼はきらきら輝いている。ヴェルツは小さく首を振った。ああ、嫌な予感がする。
少年は軽い動作で縄を投げて壁面に鉤を引っ掛けると、その先端をヴェルツに渡した。
「登れ」
「………………」
泣きたくなってきた。何で自分がこんな……。愚痴ると即刻、姉に尻を叩かれる。
「早く登りなよ、ヴェルツ」
「何だよ、階段を使えばいいじゃないか……」
大きな防護壁だから所々に階段が付いているのが見える。
「階段なんか呑気に上ってみろ。奴らに見付かる」
「や、奴らって?」
リガが手にしていた銃をジャキッと鳴らす。それ以上の躊躇は許さないとの脅しだ。ヴェルツは仕方なく縄に手をかけた。所々に作ってある結び目を足がかりに縄をよじ登るのは意外と骨の折れる作業だった。スカートの長い裾を足に絡ませながら、キルスティンも続く。
「ワッ!」
姉の叫びに、彼女の視線を辿ってヴェルツも呆然とした。壁の上には細い通路が通してあり、街の外側に向かってヴェルツの肩くらいの高さの壁が続く。所々に小窓が造られていて周囲の様子が一望に見渡せる造りになっている。
そこから覗いた先──エルベ川が南北に流れる平野一面に、大勢の兵士たちの胸当てや兜が陽光を受けてきらめいているのが見えた。軍勢が街を幾重にも囲んでいたのだ。
「カトリック軍に包囲されてるって……」
この光景に圧倒される。視界に入るだけで兵士の数は千、いや二千……以上か? 多すぎて分からない。こんな中を抜けることなど考えられない。街を出たい、村に帰りたいとの思いもあるが断念せざるを得ないだろう。心の中ではロックの行方が気にかかっているのだが。それから彼女の安否も──。
「この包囲網を抜けようと考えてるのか」
大量の銃火器を抱えながらも、さすがにリガは素早く縄ロープを上がってきた。
「さっき街を出ろって言ったけど、こいつはまず無理だな。間違いなくカトリック軍につかまる。民間人なら本当にスパイとして使われるぞ」
偽情報を持たされて街に戻される。都合が悪くなったら殺される。使い捨てだな。
ちらりと外の光景を見ながらヴェルツに頭を下げろと合図する。壁から飛び出た彼の頭は実に狙いやすい的になる。慌ててその場に座り込んで、彼は恨めしげに銀髪の青年を見上げた。
「この辺かな……」
目の前には城壁。見上げれば、建物の二階分の高さはありそうだ。街の防護壁なわけだから、当然壁の上には見張りや攻撃時に使用する兵士詰所がある。この地点は詰所の窓からも、街路からも死角になった位置だ。人目を避けて街の外れに来たというわけでもないようで、リガは背にしょっていた縄をヴェルツに押し付けた。長さがある為、ずしりと重い。
「持ってろ」
そして持っていた鉤状の金具フックをその先に装着する。
「……何してるんですか?」
ヴェルツの問いに、弾丸小僧は「うん」と生返事で答えた。しかし青の眼はきらきら輝いている。ヴェルツは小さく首を振った。ああ、嫌な予感がする。
少年は軽い動作で縄を投げて壁面に鉤を引っ掛けると、その先端をヴェルツに渡した。
「登れ」
「………………」
泣きたくなってきた。何で自分がこんな……。愚痴ると即刻、姉に尻を叩かれる。
「早く登りなよ、ヴェルツ」
「何だよ、階段を使えばいいじゃないか……」
大きな防護壁だから所々に階段が付いているのが見える。
「階段なんか呑気に上ってみろ。奴らに見付かる」
「や、奴らって?」
リガが手にしていた銃をジャキッと鳴らす。それ以上の躊躇は許さないとの脅しだ。ヴェルツは仕方なく縄に手をかけた。所々に作ってある結び目を足がかりに縄をよじ登るのは意外と骨の折れる作業だった。スカートの長い裾を足に絡ませながら、キルスティンも続く。
「ワッ!」
姉の叫びに、彼女の視線を辿ってヴェルツも呆然とした。壁の上には細い通路が通してあり、街の外側に向かってヴェルツの肩くらいの高さの壁が続く。所々に小窓が造られていて周囲の様子が一望に見渡せる造りになっている。
そこから覗いた先──エルベ川が南北に流れる平野一面に、大勢の兵士たちの胸当てや兜が陽光を受けてきらめいているのが見えた。軍勢が街を幾重にも囲んでいたのだ。
「カトリック軍に包囲されてるって……」
この光景に圧倒される。視界に入るだけで兵士の数は千、いや二千……以上か? 多すぎて分からない。こんな中を抜けることなど考えられない。街を出たい、村に帰りたいとの思いもあるが断念せざるを得ないだろう。心の中ではロックの行方が気にかかっているのだが。それから彼女の安否も──。
「この包囲網を抜けようと考えてるのか」
大量の銃火器を抱えながらも、さすがにリガは素早く縄ロープを上がってきた。
「さっき街を出ろって言ったけど、こいつはまず無理だな。間違いなくカトリック軍につかまる。民間人なら本当にスパイとして使われるぞ」
偽情報を持たされて街に戻される。都合が悪くなったら殺される。使い捨てだな。
ちらりと外の光景を見ながらヴェルツに頭を下げろと合図する。壁から飛び出た彼の頭は実に狙いやすい的になる。慌ててその場に座り込んで、彼は恨めしげに銀髪の青年を見上げた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった
黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった!
辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。
一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。
追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる