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【第3章 楽園の行方】最後の裏切り
まだ、撃てる
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──撃たれた。
その瞬間、彼女の全身に衝撃と痛みが走る。一瞬の意識の喪失。
「オリンピア、起きて」
ひょいと背を起こされ、彼女は目を見張った。
「え、わた……?」
傍らにはリガが居て、背中を支えてくれている。オリンピアは混乱した。全身を見回す。怪我はない。生きている。ああ、そうだ。ロックが撃つ寸前、誰かが横から自分の体を突き飛ばして……。恐る恐る彼女は背後を振り返った。そして痛ましい事実に愕然とする。
そこには僧形の男が倒れ伏していたのだ。固く目を閉じ、意識がないのは明らかだった。肌は頭から指先まで色を失い、真っ白である。僧衣には溢れ出る血液が赤の模様を広げていく最中であった。
「マナーワン……」
その傍らでは銃を持ったままロックが昏倒していた。取り憑かれたようにゆっくりとオリンピアはその場から立ち上がる。
「オリンピア? 何して……?」
リガの問いには答えず、男の手からサイレンサーを拾い上げる。何の感情も沸かないのが不思議でならない。全てが麻痺したのだろう。精神も、利き腕も。
でも──。
「でも、まだ撃てるわ」
見回した聖堂内には大司祭の姿はなかった。全員の視線が己から逸れた一瞬に、ここから逃げ出したのだろう。ショットガンも消えていた。彼が持って出たのは間違いない。元大司祭の目的は分かっている。ここに居る者全員の命を奪うこと。さもなければ自身の生存が外部に漏れてしまう。
建物ごと全員を消す方法も、簡単に目の前に積まれていた。祭壇の油脂焼夷弾の山に弾丸をぶち込むことだ。
外から祭壇を狙うには──。オリンピアの視線を移動させる。ステンドグラス越しに教会の鐘楼が見えた。
「あそこね」
どこへ行く、とリガが言ったような気がしたが、彼女は答えず背を向ける。サイレンサーを握り締めた右手には微かな痺れが走っていた。
※ ※ ※
その瞬間、彼女の全身に衝撃と痛みが走る。一瞬の意識の喪失。
「オリンピア、起きて」
ひょいと背を起こされ、彼女は目を見張った。
「え、わた……?」
傍らにはリガが居て、背中を支えてくれている。オリンピアは混乱した。全身を見回す。怪我はない。生きている。ああ、そうだ。ロックが撃つ寸前、誰かが横から自分の体を突き飛ばして……。恐る恐る彼女は背後を振り返った。そして痛ましい事実に愕然とする。
そこには僧形の男が倒れ伏していたのだ。固く目を閉じ、意識がないのは明らかだった。肌は頭から指先まで色を失い、真っ白である。僧衣には溢れ出る血液が赤の模様を広げていく最中であった。
「マナーワン……」
その傍らでは銃を持ったままロックが昏倒していた。取り憑かれたようにゆっくりとオリンピアはその場から立ち上がる。
「オリンピア? 何して……?」
リガの問いには答えず、男の手からサイレンサーを拾い上げる。何の感情も沸かないのが不思議でならない。全てが麻痺したのだろう。精神も、利き腕も。
でも──。
「でも、まだ撃てるわ」
見回した聖堂内には大司祭の姿はなかった。全員の視線が己から逸れた一瞬に、ここから逃げ出したのだろう。ショットガンも消えていた。彼が持って出たのは間違いない。元大司祭の目的は分かっている。ここに居る者全員の命を奪うこと。さもなければ自身の生存が外部に漏れてしまう。
建物ごと全員を消す方法も、簡単に目の前に積まれていた。祭壇の油脂焼夷弾の山に弾丸をぶち込むことだ。
外から祭壇を狙うには──。オリンピアの視線を移動させる。ステンドグラス越しに教会の鐘楼が見えた。
「あそこね」
どこへ行く、とリガが言ったような気がしたが、彼女は答えず背を向ける。サイレンサーを握り締めた右手には微かな痺れが走っていた。
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