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【終章】EDE-N
結構出来た名前
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「拙僧も前向きに考えました。EDE.と言っても、猊下により発足されて僅か半年の小さな組織でしたからね。ですから次は拙僧が中心となって新たな自衛組織を造ろうと思います。いかがでしょう」
「いや、いかかでしょうとか言われても」
自分には関係ないことですから。出来れば余所で勝手にやってくださいと言いたい所を、言葉を挟む余裕もない。僧形の男は勝手にメモ用紙を取り出した。
「いいですか。頭の悪いあなたにも分かるように説明して差し上げます」
心なしか失礼なことを言って、彼は紙にペンを走らせた。
几帳面な筆跡で「EDE.」と書く。その最後に「─N」と付け足した。
EDE-N──。
「このNはドイツ語でNüeネオ──つまり新しいEDE.という意味を持ち、エデンと読みます。ヘブライ語でエデンの園、楽園という意味を持ちます。結構出来た名でしょう。考えたのは拙僧です。勿論、拙僧がそのリーダーを務めます。ヴェルツさも……」
「いや、結構です。自分はあの……故郷の村に帰って……」
ごにょごにょと呟く言葉を、多分相手は聞いちゃいないんだろうなと思いながら。
「帰るなら、あの女連れて帰れよ」
不意に背後から声がして、ヴェルツはゆっくりと振り返る。最早そうそうのことではうろたえはしないが、この時の弾丸小僧の引き攣った怒りの形相には恐怖を感じた。
「あの女って……うちの姉のことですかね」
そ・う・だ・よっ!
このところずっとキルスティンに付きまとわれ、かわいいと言ってはいじくられ体重も落ちたリガは殺気立っている。確かに成長期の少年の頬がこけ、目の周りが窪んで異様に顔色が悪い。
「空気の読めない姉を持って申し訳ありません。全部……全部、自分が悪いんです」
「あんたのその言い方がまた……」
まぁまぁ、とマナーワンが気楽な調子で割り込んだ。こちらも空気の読めない男だ。
「モリガンさんは?」
「はぁ? おっさんならあっちで蜂蜜なめてるよ」
見やった先には復興作業を堂々とサボり、石段に腰掛けた男の姿があった。大きな壺を抱え、至福の笑みを浮かべている。何となく目の焦点が合っていない。
「クマさんかよ。あの様ザマ何だよ」
リガが溜め息をついた。
「戦争は全然終わってないのにな」
「え?」
復興に向かっている明るい街を目の前にして、少年の表情は暗い。
「また周囲の村が傭兵隊に襲われたって。カトリック軍も近くの都市を次々と陥落させているし……。あと、極秘だけど対神聖ローマ帝国戦争にスウェーデン軍が動くらしい。フランスやネーデルラントもキナ臭いしな。ドイツはまだまだ荒れるぜ」
「そうですか……」
「いや、いかかでしょうとか言われても」
自分には関係ないことですから。出来れば余所で勝手にやってくださいと言いたい所を、言葉を挟む余裕もない。僧形の男は勝手にメモ用紙を取り出した。
「いいですか。頭の悪いあなたにも分かるように説明して差し上げます」
心なしか失礼なことを言って、彼は紙にペンを走らせた。
几帳面な筆跡で「EDE.」と書く。その最後に「─N」と付け足した。
EDE-N──。
「このNはドイツ語でNüeネオ──つまり新しいEDE.という意味を持ち、エデンと読みます。ヘブライ語でエデンの園、楽園という意味を持ちます。結構出来た名でしょう。考えたのは拙僧です。勿論、拙僧がそのリーダーを務めます。ヴェルツさも……」
「いや、結構です。自分はあの……故郷の村に帰って……」
ごにょごにょと呟く言葉を、多分相手は聞いちゃいないんだろうなと思いながら。
「帰るなら、あの女連れて帰れよ」
不意に背後から声がして、ヴェルツはゆっくりと振り返る。最早そうそうのことではうろたえはしないが、この時の弾丸小僧の引き攣った怒りの形相には恐怖を感じた。
「あの女って……うちの姉のことですかね」
そ・う・だ・よっ!
このところずっとキルスティンに付きまとわれ、かわいいと言ってはいじくられ体重も落ちたリガは殺気立っている。確かに成長期の少年の頬がこけ、目の周りが窪んで異様に顔色が悪い。
「空気の読めない姉を持って申し訳ありません。全部……全部、自分が悪いんです」
「あんたのその言い方がまた……」
まぁまぁ、とマナーワンが気楽な調子で割り込んだ。こちらも空気の読めない男だ。
「モリガンさんは?」
「はぁ? おっさんならあっちで蜂蜜なめてるよ」
見やった先には復興作業を堂々とサボり、石段に腰掛けた男の姿があった。大きな壺を抱え、至福の笑みを浮かべている。何となく目の焦点が合っていない。
「クマさんかよ。あの様ザマ何だよ」
リガが溜め息をついた。
「戦争は全然終わってないのにな」
「え?」
復興に向かっている明るい街を目の前にして、少年の表情は暗い。
「また周囲の村が傭兵隊に襲われたって。カトリック軍も近くの都市を次々と陥落させているし……。あと、極秘だけど対神聖ローマ帝国戦争にスウェーデン軍が動くらしい。フランスやネーデルラントもキナ臭いしな。ドイツはまだまだ荒れるぜ」
「そうですか……」
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