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第二幕 幼少期
15.誕生日には花束を 〜2度目の人生で初めて贈る母へのプレゼント
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トントントン
ノックの後に筆頭執事クラウディオ・サクラーティの声が聞こえた。
クラウディオ
「グリエルモ様、来賓の皆様からの、贈物の贈呈が間も無く終わります」
グリエルモ
「すぐに行く」
グリエルモは返事を返すと、ポケットからハンカチを取り出して、水と火の魔法で暖かいおしぼりを作り、アントニオの顔を拭いてあげた。
グリエルモ
「気持ちが落ち着いたら、メアリーにプレゼントを渡しに行こう? 大丈夫。トニーのプレゼントは絶対に喜ばれるよ。私が保証する。何があってもメアリーはトニーの事を嫌いになったりしないよ」
アントニオは、またコクっと頷いた。
皆で会場に戻ると、メアリーが心配そうにこちらへ目線を向けるので、グリエルモは頷いて、大丈夫だと合図した。
クラウディオ
「贈呈式の最後は、御子息であらせられるアントニオ様からの贈物でございます。アントニオ様自らが花を摘んで、花束を作られました」
クラウディオが司会としてアナウンスすると、会場から拍手が上がった。
ジュゼッペが奥から花束をとってきて、アントニオに渡す。幼いアントニオの身長と同じくある大きな花束だ。アントニオは花束を抱きしめて、メアリーのもとに向かおうとしたが、小刻みに震えて上手く歩けない。
落ち着け! 落ち着け、俺!
ふと、アントニオの肩に温かいものが触れた。グリエルモがアントニオの肩に手を添えて、体を支えてくれたのだ。その温もりが、一歩を踏み出す勇気をくれる。アントニオは支えられながら、メアリーの前に歩み出た。
白銀の髪を揺らめかせる母メアリーは、170cmで高身長な女性であるが、それ以上に大きく見える人物である。多くの人々を、物理的にも精神的にも救ってきた聖女であり、国の英雄である。幼く体の小さいアントニオには、尚更大きく見える。
菫色の瞳がはまる切れ長の目が、メアリーが自分を睨んでいるように、アントニオは感じた。
受け入れられなかったらどうしよう!?
だが、アントニオは勇気を出して、花束を前に突き出した。俺は父上(勇者)の息子なんだ!
アントニオ
「母上、お誕生日おめでとうございます」
静まり返る会場内。
十数秒はたったと思う。大きな花束の所為で、アントニオからはメアリーの様子がわからなかったが、花束はまだ、受け取られていない。
つまり、母上に気に入られなかったのだ。
アントニオは泣いた。
メアリ
「うぅっ....うぅ....」
しかし、聞こえてきた嗚咽は自分の声ではなかった。
グリエルモ
「メアリー、早く受け取ってあげないと、トニーが困っているよ?」
メアリー
「だ、だって! 涙で前が見えないわ!」
グリエルモは溜息をついてから、アントニオを花束ごと抱き上げると、メアリーの腕の中に渡した。
メアリー
「泣かないように我慢しようと思って、目に力を入れてみたけど、無理! ...だって、こんなに素敵なプレゼントを私は他に知らないわ」
メアリーは花束とアントニオを一緒に抱きしめて、その頬にキスをした。
同時に拍手と歓声が上がり、会場中が歓喜に包まれる。
その光景をみたアントニオは、ホーっと息を吐いて、真っ赤になりながらも、自然な笑顔を取り戻したのである。
____
 ̄ ̄ ̄ ̄
贈呈式の後で、花束のゴーレムリリーを巡り、少し騒ぎが起こった。
ゴーレムリリーは、強力な魔物の生息地にしか生えておらず、幻の花と言われている。しかも、その香りには人を魅了する効果があるとされ、精油を精製し香水を作ると惚れ薬として使えると、大人気なのだ。
だが、正確な生息地が分かっておらず、花のために命の危険がある探索を行う商人はいない。もしかしたら、いるのかもしれないが、持ち帰ることに成功した例はない。旅人が危険地帯に迷い込み、偶然、発見したゴーレムリリーを持ち帰ったという事例しかないのだ。だが、花に魅了された持ち主は、よほどお金に困っていない限り、ゴーレムリリーを手放さない。奇跡的なシチュエーションが重ならない限り、市場にはゴーレムリリーが出まわらないのだ。
つまり、ゴーレムリリーは需要に対して、供給が全く追いついていない花であった。
そんな花を、2歳の子供が大量に摘んで持ち帰ったという話に、招待客のみならず、屋敷の住人や騎士達まで色めきだった。
「花を売って下さい!いくらでも出します!」
「何処に咲いていたか教えて!」
「花びら1枚だけでも!お願いします!」
「どの位の規模の部隊で採りにいったのですか?」
大人達に取り囲まれて質問責めにされたが、アントニオは、大変なおネムだった。
今日はお昼寝もしていないし、散々泣いて疲れた。もう、限界だ。
アントニオ
「リュシアンが飛竜に乗せてくれて、1人で魔物を一掃してくれたので、私は摘んだだけです」
それだけ言うと、アントニオはメアリーの腕の中で眠ってしまった。
今度はリュシアンが取り囲まれたが、「私は何も...アントニオ様に従っただけです」といい、それ以上は喋らなかった。
この日のことで、リュシアン・フルードランという男は、大変素晴らしい能力があり、主に忠実で口の堅い人物であるとして注目されることとなった。その結果、正式に竜騎士として配属されることとなる。
そして、後日、ゴーレムリリーの花束の花は、魔導騎士の護衛を2人もつけて広間で公開された。3日間だけ公開されたあと、ネハによって香水に作り変えられた。どんな時に使われるのかは不明である。
ノックの後に筆頭執事クラウディオ・サクラーティの声が聞こえた。
クラウディオ
「グリエルモ様、来賓の皆様からの、贈物の贈呈が間も無く終わります」
グリエルモ
「すぐに行く」
グリエルモは返事を返すと、ポケットからハンカチを取り出して、水と火の魔法で暖かいおしぼりを作り、アントニオの顔を拭いてあげた。
グリエルモ
「気持ちが落ち着いたら、メアリーにプレゼントを渡しに行こう? 大丈夫。トニーのプレゼントは絶対に喜ばれるよ。私が保証する。何があってもメアリーはトニーの事を嫌いになったりしないよ」
アントニオは、またコクっと頷いた。
皆で会場に戻ると、メアリーが心配そうにこちらへ目線を向けるので、グリエルモは頷いて、大丈夫だと合図した。
クラウディオ
「贈呈式の最後は、御子息であらせられるアントニオ様からの贈物でございます。アントニオ様自らが花を摘んで、花束を作られました」
クラウディオが司会としてアナウンスすると、会場から拍手が上がった。
ジュゼッペが奥から花束をとってきて、アントニオに渡す。幼いアントニオの身長と同じくある大きな花束だ。アントニオは花束を抱きしめて、メアリーのもとに向かおうとしたが、小刻みに震えて上手く歩けない。
落ち着け! 落ち着け、俺!
ふと、アントニオの肩に温かいものが触れた。グリエルモがアントニオの肩に手を添えて、体を支えてくれたのだ。その温もりが、一歩を踏み出す勇気をくれる。アントニオは支えられながら、メアリーの前に歩み出た。
白銀の髪を揺らめかせる母メアリーは、170cmで高身長な女性であるが、それ以上に大きく見える人物である。多くの人々を、物理的にも精神的にも救ってきた聖女であり、国の英雄である。幼く体の小さいアントニオには、尚更大きく見える。
菫色の瞳がはまる切れ長の目が、メアリーが自分を睨んでいるように、アントニオは感じた。
受け入れられなかったらどうしよう!?
だが、アントニオは勇気を出して、花束を前に突き出した。俺は父上(勇者)の息子なんだ!
アントニオ
「母上、お誕生日おめでとうございます」
静まり返る会場内。
十数秒はたったと思う。大きな花束の所為で、アントニオからはメアリーの様子がわからなかったが、花束はまだ、受け取られていない。
つまり、母上に気に入られなかったのだ。
アントニオは泣いた。
メアリ
「うぅっ....うぅ....」
しかし、聞こえてきた嗚咽は自分の声ではなかった。
グリエルモ
「メアリー、早く受け取ってあげないと、トニーが困っているよ?」
メアリー
「だ、だって! 涙で前が見えないわ!」
グリエルモは溜息をついてから、アントニオを花束ごと抱き上げると、メアリーの腕の中に渡した。
メアリー
「泣かないように我慢しようと思って、目に力を入れてみたけど、無理! ...だって、こんなに素敵なプレゼントを私は他に知らないわ」
メアリーは花束とアントニオを一緒に抱きしめて、その頬にキスをした。
同時に拍手と歓声が上がり、会場中が歓喜に包まれる。
その光景をみたアントニオは、ホーっと息を吐いて、真っ赤になりながらも、自然な笑顔を取り戻したのである。
____
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贈呈式の後で、花束のゴーレムリリーを巡り、少し騒ぎが起こった。
ゴーレムリリーは、強力な魔物の生息地にしか生えておらず、幻の花と言われている。しかも、その香りには人を魅了する効果があるとされ、精油を精製し香水を作ると惚れ薬として使えると、大人気なのだ。
だが、正確な生息地が分かっておらず、花のために命の危険がある探索を行う商人はいない。もしかしたら、いるのかもしれないが、持ち帰ることに成功した例はない。旅人が危険地帯に迷い込み、偶然、発見したゴーレムリリーを持ち帰ったという事例しかないのだ。だが、花に魅了された持ち主は、よほどお金に困っていない限り、ゴーレムリリーを手放さない。奇跡的なシチュエーションが重ならない限り、市場にはゴーレムリリーが出まわらないのだ。
つまり、ゴーレムリリーは需要に対して、供給が全く追いついていない花であった。
そんな花を、2歳の子供が大量に摘んで持ち帰ったという話に、招待客のみならず、屋敷の住人や騎士達まで色めきだった。
「花を売って下さい!いくらでも出します!」
「何処に咲いていたか教えて!」
「花びら1枚だけでも!お願いします!」
「どの位の規模の部隊で採りにいったのですか?」
大人達に取り囲まれて質問責めにされたが、アントニオは、大変なおネムだった。
今日はお昼寝もしていないし、散々泣いて疲れた。もう、限界だ。
アントニオ
「リュシアンが飛竜に乗せてくれて、1人で魔物を一掃してくれたので、私は摘んだだけです」
それだけ言うと、アントニオはメアリーの腕の中で眠ってしまった。
今度はリュシアンが取り囲まれたが、「私は何も...アントニオ様に従っただけです」といい、それ以上は喋らなかった。
この日のことで、リュシアン・フルードランという男は、大変素晴らしい能力があり、主に忠実で口の堅い人物であるとして注目されることとなった。その結果、正式に竜騎士として配属されることとなる。
そして、後日、ゴーレムリリーの花束の花は、魔導騎士の護衛を2人もつけて広間で公開された。3日間だけ公開されたあと、ネハによって香水に作り変えられた。どんな時に使われるのかは不明である。
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