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第三幕 学生期
153.ダンスパートナー5 ❤︎
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レオナルドは金色のリボンブローチを着け、タイラは銀色のリボンブローチを身に着ける。
アントニオ
「あれ? レオは相手を決めたのではないのですか?」
レオナルド
「少し、思うところがあって。」
アントニオ
「タイラ様も、去年のパートナーと履修登録をしないのですか?」
タイラ
「去年のパートナーは5年生だったたから卒業しておりまして、今年は相手が未定なのです。それに俺は、毎年、その年に捕まる1番いいパートナーと組むことにしているんです。」
アントニオ
「さすが、タイラ様は強気のパートナー募集ですね。あぶれたらどうしようかとか思われないのですか?」
タイラ
「今年はトニー様とレオの所に集まった女子に声をかけるから大丈夫です。今年も5年生がいいかなぁ~。ダンスが上手いし。」
アントニオ
「わぁ~、選ぶ側の余裕ですね。いいなぁ~。」
タイラ
「何を言ってるのですか? トニー様が1番人気でしょう?」
アントニオ
「1番、人気がないの間違いです...。」
レオナルド
「女子にはトニーの良さが分からないんだ!」
タイラ
「何かあったのか?」
レオナルド
「今朝、髪の色しか見ていない女子生徒がいたんだよ。」
タイラ
「何だと!? そんな低俗な女はこちらから願い下げだ!」
怒る2人を見て、カレンは少し胸が痛んだ。
アントニオ
「あぁ~、でも、あの方達はレオが好きで、レオ以外の人と組むのが嫌だっただけですよ。誰だって、好きな人から、別の人とパートナーを組んで欲しいと言われたら悲しいです。」
レオナルド
「そうですか? ならいいのですが...。」
女子生徒を庇うアントニオを見て、カレンはとても胸が痛んだ。
自分を嫌う人間を、庇うようなことは中々出来るものではないわ。トニー様は、人の心の痛みがわかる、お優しい方なのだわ。
タイラ
「ところで、姉上は結局どうしたんですか? レオと...」
カレン
「沈黙! 沈黙! 沈黙!」
タイラ
「...!?」
カレンはすかさず、闇の沈黙魔法を発動させ、タイラを黙らせた。
危なかった! ワタクシが焦茶蔑視発言をしたことが、ジーンシャン家の方々にバレたら大変だわ! それに、今はパートナーがいないとバレるのもまずい!
タイラはカレンを思いっきり睨んだが、カレンはタイラを睨み返し、『絶対に黙っていなさいよね!』と圧力をかけた。
アントニオ
「え!? どうしたのですか?」
ジュン王太子
「いえ、お気になさらず! 単なる姉弟(してい)のじゃれ合いですから!」
リッカルド
「あぁ~。あれで去年、俺も王女様にやられたんですよね。魔法を封じられて無力になったところでガツンと!」
_______
伯爵子息のラドミール・ベナークは、ラバのことで仲良くなった男爵令嬢のリアナ・ジャニエスを誘おうと思った。だが、リアナがレオナルドを見つめて、目がハートマークになっていることに気が付いてしまった。
イライラして、その場を離れようとすると、同じクラスの伯爵令嬢、フィオナ・グリーンウェルと目が合った。
フィオナは153cmの身長、ラドミール は158cmで身長差もちょうどいい。
ラドミール
「リボンブローチをしているってことは、相手が決まってないのか?」
フィオナ
「えぇ。この学校には、あまり知り合いも多くないですし。」
ラドミール
「ふ~ん。」
ルーカス
「ふ~ん。じゃないですよ! 申し込まないのですか? なら私が...」
ラドミール
「お前は黙れ!」
ラドミールは、ルーカスを蹴飛ばして押しのけたが、20秒くらい無言でモジモジしてから、ようやく口を開いた。
ラドミール
「俺と組むか?」
フィオナ
「有難うございます。ダンスパートナーを
お引き受け致しますわ。」
笑顔になったラドミールに、フィオナは少しドキッとした。
ルーカス
「良かった! 良かった! じゃあ、私も相手を探してこようっと!」
伯爵家の2人をおいて、ルーカスは急いでクリスタの元へ向かった。
クリスタのところには、すでに男爵家の使用人ディーデリック・バースや大商人子息のマーク・ホワイトリー、男爵子息のエーリク・ハッキネンが集まっていた。
しまった! ラドミール様の所為で出遅れたか?
ルーカス
「待って、待って! クリスタちゃん! 騎士家同士、気兼ねしない俺と組みません?」
クリスタ
「あ、御免なさい。私はもう、ディーデリックと組んだの。だって、身長バランス的に1番良かったから。」
ルーカス
「えぇ!? そんな!」
マークは147cmしかないし、ルーカスも157cmで、162cmあるクリスタよりも背が低い。エーリクは161cmあるが、クリスタよりも背が低いことに変わりはないのだ。162cmのディーデリックが選ばれたのは、致し方ないことである。
マークは意中のクリスタが、ディーデリックにとられて項垂れていた。しかも、マークは平民である。話しかけられる女子は極めて少ないのだ。背も低いし、パートナー探しは絶望的であった。
クリスタ
「御免なさい。」
ディーデリックは軽く頭を下げて、申し訳なさそうにした。
ヤヴァイ! このままだと、あぶれて男と組むことになる!
危機を察したルーカスとエーリクは、急いでフリーな女子生徒のもとに駆け出した。
_______
男爵子息のユーリ・ブラウエルは、レオナルド様希望の列に並ぶリアナのもとに来ていた。
ユーリ
「リアナ、同じ男爵家だし、俺と組まないか?」
リアナ
「うぅ~ん。ユーリのことがダメってわけじゃないんだけど、ほら! やっぱり、女の子はお姫様に憧れるって言うかぁ~。」
ユーリ
「はぁ~? タイラ王子狙いなのか?」
リアナ
「タイラ王子もカッコイイけどぉ~、やっぱり、レオ様でしょ!」
ユーリ
「お前、馬鹿なのか? 絶対無理だろ!」
リアナ
「分かんないじゃない! でも、こんなことなら意地でもアントニオ様とお知り合いになっておけば良かった! そしたら、紹介してもらえたのに!」
ユーリ
「ふん! もういい! あぶれても知らないからな!」
リアナ
「馬鹿ね! 女子は絶対にあぶれないのよ!」
ユーリは諦めて、リアナのもとを離れ、パートナーを探した。男爵家を示す赤いリボンブローチを身に着ける女子生徒に声を掛ける。
「御免なさい。自分よりも背の低い人はちょっと...。」
「同じくらいの身長だと、ハイヒールを履くと、私の方が背が高くなっちゃうから...。」
ユーリは150cmで、一般的な12歳男子としては平均的な身長であるのだが、王立学校の学生は背の高い学生が多く、女子生徒達は背の高い人に目がいきやすかった。
背の低い学生にも声をかけたのだが、いい返事はもらえなかった。
「伯爵家以上の人がいいの! 御免ね!」
「貴方はダンスが上手いの? 私は、絶対いい成績がとりたいから、戦士科の学生が希望なの。」
人気があるのは、やはり、背が高く、イケメンで、家柄がよく、ダンスの上手い学生である。
そして、今年は、レオナルドとタイラを狙っている女子生徒があまりにも多過ぎて、伯爵家の男子生徒ですら平民の女子生徒に頭を下げてダンスパートナーをお願いするような状況に陥っていた。
だが、レオナルド・ジーンシャンやタイラ王子がパートナーを選べば、選ばれなかった良質な女子生徒が一斉にパートナーを探し始めるはずだ。
しかし、同じように考えて、待っている男子生徒の数は女子生徒の数を上回っている。
ユーリは焦った。
本気で不味い! このままだと、あぶれてしまう!
そんな時、柱の陰で小さくなっている女子を発見した。リボンブローチの色は青で、騎士家の娘だと分かる。背が低く、痩せっぽっちで、髪はボサボサだし、眼鏡をかけていて、何故か制服もダボダボで合っていないサイズを着ている。
ユーリ
「お前、何してるんだ?」
女子生徒
「授業時間が終わるのを待っているんです。」
ユーリ
「何でだ? パートナーを決めて、さっさと帰ればいいだろ?」
女子生徒
「私、去年の成績が悪くって、補講でギリギリ単位を取ったのですけど...パートナーから、お前の所為で成績が悪かったって、見放されちゃって...それで、知り合いは皆、私とは組みたくないって...パートナーが決まらないと帰れないし、だから、ここにいるの。」
ユーリ
「でも、女子はいいよな。そんなんでも、来週の授業に出席すれば、あぶれた男の中で、1番条件のいい奴と組めるんだから。」
女子生徒
「そんなことないですよ。ダンスの下手な女子と組んで悪い成績をとるくらいなら、ダンスの上手い男子生徒同士で組んで、上位の成績をとりたいって人の方が多いから。」
ユーリ
「そんなに下手なのか?」
女子生徒
「そうですよ。皆に、そう言われる。」
ユーリ
「ちょっと、一緒に踊ってみてよ。俺、ユーリ・ブラウエル。男爵子息で魔法戦士科の1年。」
女子生徒
「え!? 魔法戦士科? じゃあ、貴方は大丈夫よ。男子生徒でも、あぶれるのは、大抵、運動神経のない魔法科だから。私は魔法科の2年生で、ゼイネップ・キュチュク。デニズ辺境伯領の騎士家の娘です。」
ユーリ
「それで? 一緒に踊るのか?」
ゼイネップ
「私に足を踏まれても良ければ...。」
ユーリ
「足を踏むのは許さないけど、踊れよ!」
ユーリが差し出した左手に、ゼイネップは右手を重ねた。
ユーリが重(かさ)なった方の手を引くので、ゼイネップは自然とユーリの方に引き寄せられた。ユーリの右手がゼイネップの背中を捕まえて、さらに引き寄せるので、ゼイネップはユーリの二の腕に自分の左手を置くしかなくなった。
あれ? いつもと、何か違うわ? いつもは、もっとこう、自分から距離を詰めて、ぎこちない動きで、格好悪く構えるのに。何だか、いつの間にか、ダンスの姿勢が組めちゃった。
重ねた手が軽く引かれ、ゼイネップの左足が少し浮くと、今度は振り子のように押し戻され、ゼイネップの左足はワルツの一拍目を踏み出した。
そのまま無意識のうちにステップが誘導され、ゼイネップは自然とダンスを踊った。
なに? どういうこと? 勝手に体が動くわ?
ゼイネップは、心地よいダンスの快感に酔いしれた。
こんなに気持ちの良いダンスは初めて!
ユーリ
「何だ。全然大丈夫じゃん。ちょっと、身体が硬いけど、慣れれば問題ないだろ。」
ダンスの最後は、やはり無意識のうちに回転させられ、身体が離れて、自然とお辞儀して終われた。
近くにいた学生達が、パチパチと拍手を送ってくれる。
ゼイネップは嬉しくて、自分で自分が信じられなくて、訳が分からないまま、とにかく、目の前にいるユーリを見つめた。
もしかして、この人...滅茶苦茶ダンスが上手いのでは? でも、こんなに上手いなら、レベルの高いクラスを希望するはず。私なんかじゃ、きっと断られちゃうわね。
ユーリ
「どうする? 俺は組んでもいいけど?」
ゼイネップ
「うん。分かってる。無理しなくていいから。」
ユーリ
「ん? どういう意味だ? 騎士家の癖に断るのか!?」
ゼイネップ
「え!? えぇ~? 断るって?」
ユーリ
「嫌ならいいよ! 他をあたる!」
去ろうとしたユーリの背中に、ゼイネップは必死でしがみついた。
ゼイネップ
「待って! 待って下さい! もう一度、もう一度言って下さい! もしかして、さっき、私とペアを組んでもいいとか、仰った!?」
ユーリ
「はぁ~? そうだよ! だから、そう言ってるだろ!? ちょっと、離せよ馬鹿! 制服がシワになるだろ!」
ゼイネップはユーリから手を離すと、その場で跪き、平伏した。
ゼイネップ
「お、お許し下さい! 何卒、お願い致します!」
ゼイネップが土下座みたいな姿勢になっているので、周りの生徒達がザワザワし始めた。
ユーリ
「ちょ! おまっ! 止めろよ!」
ゼイネップ
「ペア、組んで下さい!」
ユーリ
「分かったから! 立てよ!」
ゼイネップは嬉しさのあまりユーリに抱き付いた。
ゼイネップ
「有難うございます!」
アントニオ
「あれ? レオは相手を決めたのではないのですか?」
レオナルド
「少し、思うところがあって。」
アントニオ
「タイラ様も、去年のパートナーと履修登録をしないのですか?」
タイラ
「去年のパートナーは5年生だったたから卒業しておりまして、今年は相手が未定なのです。それに俺は、毎年、その年に捕まる1番いいパートナーと組むことにしているんです。」
アントニオ
「さすが、タイラ様は強気のパートナー募集ですね。あぶれたらどうしようかとか思われないのですか?」
タイラ
「今年はトニー様とレオの所に集まった女子に声をかけるから大丈夫です。今年も5年生がいいかなぁ~。ダンスが上手いし。」
アントニオ
「わぁ~、選ぶ側の余裕ですね。いいなぁ~。」
タイラ
「何を言ってるのですか? トニー様が1番人気でしょう?」
アントニオ
「1番、人気がないの間違いです...。」
レオナルド
「女子にはトニーの良さが分からないんだ!」
タイラ
「何かあったのか?」
レオナルド
「今朝、髪の色しか見ていない女子生徒がいたんだよ。」
タイラ
「何だと!? そんな低俗な女はこちらから願い下げだ!」
怒る2人を見て、カレンは少し胸が痛んだ。
アントニオ
「あぁ~、でも、あの方達はレオが好きで、レオ以外の人と組むのが嫌だっただけですよ。誰だって、好きな人から、別の人とパートナーを組んで欲しいと言われたら悲しいです。」
レオナルド
「そうですか? ならいいのですが...。」
女子生徒を庇うアントニオを見て、カレンはとても胸が痛んだ。
自分を嫌う人間を、庇うようなことは中々出来るものではないわ。トニー様は、人の心の痛みがわかる、お優しい方なのだわ。
タイラ
「ところで、姉上は結局どうしたんですか? レオと...」
カレン
「沈黙! 沈黙! 沈黙!」
タイラ
「...!?」
カレンはすかさず、闇の沈黙魔法を発動させ、タイラを黙らせた。
危なかった! ワタクシが焦茶蔑視発言をしたことが、ジーンシャン家の方々にバレたら大変だわ! それに、今はパートナーがいないとバレるのもまずい!
タイラはカレンを思いっきり睨んだが、カレンはタイラを睨み返し、『絶対に黙っていなさいよね!』と圧力をかけた。
アントニオ
「え!? どうしたのですか?」
ジュン王太子
「いえ、お気になさらず! 単なる姉弟(してい)のじゃれ合いですから!」
リッカルド
「あぁ~。あれで去年、俺も王女様にやられたんですよね。魔法を封じられて無力になったところでガツンと!」
_______
伯爵子息のラドミール・ベナークは、ラバのことで仲良くなった男爵令嬢のリアナ・ジャニエスを誘おうと思った。だが、リアナがレオナルドを見つめて、目がハートマークになっていることに気が付いてしまった。
イライラして、その場を離れようとすると、同じクラスの伯爵令嬢、フィオナ・グリーンウェルと目が合った。
フィオナは153cmの身長、ラドミール は158cmで身長差もちょうどいい。
ラドミール
「リボンブローチをしているってことは、相手が決まってないのか?」
フィオナ
「えぇ。この学校には、あまり知り合いも多くないですし。」
ラドミール
「ふ~ん。」
ルーカス
「ふ~ん。じゃないですよ! 申し込まないのですか? なら私が...」
ラドミール
「お前は黙れ!」
ラドミールは、ルーカスを蹴飛ばして押しのけたが、20秒くらい無言でモジモジしてから、ようやく口を開いた。
ラドミール
「俺と組むか?」
フィオナ
「有難うございます。ダンスパートナーを
お引き受け致しますわ。」
笑顔になったラドミールに、フィオナは少しドキッとした。
ルーカス
「良かった! 良かった! じゃあ、私も相手を探してこようっと!」
伯爵家の2人をおいて、ルーカスは急いでクリスタの元へ向かった。
クリスタのところには、すでに男爵家の使用人ディーデリック・バースや大商人子息のマーク・ホワイトリー、男爵子息のエーリク・ハッキネンが集まっていた。
しまった! ラドミール様の所為で出遅れたか?
ルーカス
「待って、待って! クリスタちゃん! 騎士家同士、気兼ねしない俺と組みません?」
クリスタ
「あ、御免なさい。私はもう、ディーデリックと組んだの。だって、身長バランス的に1番良かったから。」
ルーカス
「えぇ!? そんな!」
マークは147cmしかないし、ルーカスも157cmで、162cmあるクリスタよりも背が低い。エーリクは161cmあるが、クリスタよりも背が低いことに変わりはないのだ。162cmのディーデリックが選ばれたのは、致し方ないことである。
マークは意中のクリスタが、ディーデリックにとられて項垂れていた。しかも、マークは平民である。話しかけられる女子は極めて少ないのだ。背も低いし、パートナー探しは絶望的であった。
クリスタ
「御免なさい。」
ディーデリックは軽く頭を下げて、申し訳なさそうにした。
ヤヴァイ! このままだと、あぶれて男と組むことになる!
危機を察したルーカスとエーリクは、急いでフリーな女子生徒のもとに駆け出した。
_______
男爵子息のユーリ・ブラウエルは、レオナルド様希望の列に並ぶリアナのもとに来ていた。
ユーリ
「リアナ、同じ男爵家だし、俺と組まないか?」
リアナ
「うぅ~ん。ユーリのことがダメってわけじゃないんだけど、ほら! やっぱり、女の子はお姫様に憧れるって言うかぁ~。」
ユーリ
「はぁ~? タイラ王子狙いなのか?」
リアナ
「タイラ王子もカッコイイけどぉ~、やっぱり、レオ様でしょ!」
ユーリ
「お前、馬鹿なのか? 絶対無理だろ!」
リアナ
「分かんないじゃない! でも、こんなことなら意地でもアントニオ様とお知り合いになっておけば良かった! そしたら、紹介してもらえたのに!」
ユーリ
「ふん! もういい! あぶれても知らないからな!」
リアナ
「馬鹿ね! 女子は絶対にあぶれないのよ!」
ユーリは諦めて、リアナのもとを離れ、パートナーを探した。男爵家を示す赤いリボンブローチを身に着ける女子生徒に声を掛ける。
「御免なさい。自分よりも背の低い人はちょっと...。」
「同じくらいの身長だと、ハイヒールを履くと、私の方が背が高くなっちゃうから...。」
ユーリは150cmで、一般的な12歳男子としては平均的な身長であるのだが、王立学校の学生は背の高い学生が多く、女子生徒達は背の高い人に目がいきやすかった。
背の低い学生にも声をかけたのだが、いい返事はもらえなかった。
「伯爵家以上の人がいいの! 御免ね!」
「貴方はダンスが上手いの? 私は、絶対いい成績がとりたいから、戦士科の学生が希望なの。」
人気があるのは、やはり、背が高く、イケメンで、家柄がよく、ダンスの上手い学生である。
そして、今年は、レオナルドとタイラを狙っている女子生徒があまりにも多過ぎて、伯爵家の男子生徒ですら平民の女子生徒に頭を下げてダンスパートナーをお願いするような状況に陥っていた。
だが、レオナルド・ジーンシャンやタイラ王子がパートナーを選べば、選ばれなかった良質な女子生徒が一斉にパートナーを探し始めるはずだ。
しかし、同じように考えて、待っている男子生徒の数は女子生徒の数を上回っている。
ユーリは焦った。
本気で不味い! このままだと、あぶれてしまう!
そんな時、柱の陰で小さくなっている女子を発見した。リボンブローチの色は青で、騎士家の娘だと分かる。背が低く、痩せっぽっちで、髪はボサボサだし、眼鏡をかけていて、何故か制服もダボダボで合っていないサイズを着ている。
ユーリ
「お前、何してるんだ?」
女子生徒
「授業時間が終わるのを待っているんです。」
ユーリ
「何でだ? パートナーを決めて、さっさと帰ればいいだろ?」
女子生徒
「私、去年の成績が悪くって、補講でギリギリ単位を取ったのですけど...パートナーから、お前の所為で成績が悪かったって、見放されちゃって...それで、知り合いは皆、私とは組みたくないって...パートナーが決まらないと帰れないし、だから、ここにいるの。」
ユーリ
「でも、女子はいいよな。そんなんでも、来週の授業に出席すれば、あぶれた男の中で、1番条件のいい奴と組めるんだから。」
女子生徒
「そんなことないですよ。ダンスの下手な女子と組んで悪い成績をとるくらいなら、ダンスの上手い男子生徒同士で組んで、上位の成績をとりたいって人の方が多いから。」
ユーリ
「そんなに下手なのか?」
女子生徒
「そうですよ。皆に、そう言われる。」
ユーリ
「ちょっと、一緒に踊ってみてよ。俺、ユーリ・ブラウエル。男爵子息で魔法戦士科の1年。」
女子生徒
「え!? 魔法戦士科? じゃあ、貴方は大丈夫よ。男子生徒でも、あぶれるのは、大抵、運動神経のない魔法科だから。私は魔法科の2年生で、ゼイネップ・キュチュク。デニズ辺境伯領の騎士家の娘です。」
ユーリ
「それで? 一緒に踊るのか?」
ゼイネップ
「私に足を踏まれても良ければ...。」
ユーリ
「足を踏むのは許さないけど、踊れよ!」
ユーリが差し出した左手に、ゼイネップは右手を重ねた。
ユーリが重(かさ)なった方の手を引くので、ゼイネップは自然とユーリの方に引き寄せられた。ユーリの右手がゼイネップの背中を捕まえて、さらに引き寄せるので、ゼイネップはユーリの二の腕に自分の左手を置くしかなくなった。
あれ? いつもと、何か違うわ? いつもは、もっとこう、自分から距離を詰めて、ぎこちない動きで、格好悪く構えるのに。何だか、いつの間にか、ダンスの姿勢が組めちゃった。
重ねた手が軽く引かれ、ゼイネップの左足が少し浮くと、今度は振り子のように押し戻され、ゼイネップの左足はワルツの一拍目を踏み出した。
そのまま無意識のうちにステップが誘導され、ゼイネップは自然とダンスを踊った。
なに? どういうこと? 勝手に体が動くわ?
ゼイネップは、心地よいダンスの快感に酔いしれた。
こんなに気持ちの良いダンスは初めて!
ユーリ
「何だ。全然大丈夫じゃん。ちょっと、身体が硬いけど、慣れれば問題ないだろ。」
ダンスの最後は、やはり無意識のうちに回転させられ、身体が離れて、自然とお辞儀して終われた。
近くにいた学生達が、パチパチと拍手を送ってくれる。
ゼイネップは嬉しくて、自分で自分が信じられなくて、訳が分からないまま、とにかく、目の前にいるユーリを見つめた。
もしかして、この人...滅茶苦茶ダンスが上手いのでは? でも、こんなに上手いなら、レベルの高いクラスを希望するはず。私なんかじゃ、きっと断られちゃうわね。
ユーリ
「どうする? 俺は組んでもいいけど?」
ゼイネップ
「うん。分かってる。無理しなくていいから。」
ユーリ
「ん? どういう意味だ? 騎士家の癖に断るのか!?」
ゼイネップ
「え!? えぇ~? 断るって?」
ユーリ
「嫌ならいいよ! 他をあたる!」
去ろうとしたユーリの背中に、ゼイネップは必死でしがみついた。
ゼイネップ
「待って! 待って下さい! もう一度、もう一度言って下さい! もしかして、さっき、私とペアを組んでもいいとか、仰った!?」
ユーリ
「はぁ~? そうだよ! だから、そう言ってるだろ!? ちょっと、離せよ馬鹿! 制服がシワになるだろ!」
ゼイネップはユーリから手を離すと、その場で跪き、平伏した。
ゼイネップ
「お、お許し下さい! 何卒、お願い致します!」
ゼイネップが土下座みたいな姿勢になっているので、周りの生徒達がザワザワし始めた。
ユーリ
「ちょ! おまっ! 止めろよ!」
ゼイネップ
「ペア、組んで下さい!」
ユーリ
「分かったから! 立てよ!」
ゼイネップは嬉しさのあまりユーリに抱き付いた。
ゼイネップ
「有難うございます!」
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女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
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しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
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