社会人2●年 アラフォーの対処法

藍川 東

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21.白いシャツにコーヒー牛乳をこぼしたときの対処法

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 人って生きていると、

 『今日はキメたるっ!』

 と関西人でもないのに関西弁チックにイキる時ってあると思うのです。(個人的感想)

 と、ある日。アラフォー社会人もイキっておりました。
 ちょっと頑張りたい日だったので、朝から気合をほんのり入れ、基本服装自由な職場ですが白シャツに紺スカートなんぞに身を包み出勤したわけです。

 家から自作のソイラテ(気合が入っているので、コーヒー牛乳とはいわない)を水筒(これはこれ以上言葉を飾れない百均のプラ製)に入れて出勤いたしました。
 席について水筒(inソイラテ)を片手に資料を読みんでる私。
 中身は一切変わってないのに、『え? できるアラフォー女子系?』なんて妄想にに浸っておりました。
 そんな中、ふと胸元に視線を落とすと、

 (…………。)

 人は想定外のことが起こると、まず固まるものです。

 コーヒー牛乳色の染み。

 それも可愛く数滴はねちゃいました、てへ? と可愛い子ぶれるレベルではなく、長さ5センチから7センチ、幅7ミリほどありそうな、無作為にたらーっとこぼしましたどうもすみませんけどなにか? というレベル。

 本日のイキり先の外出は昼からです。
 今は午前中です。

 (…………。)

 アラフォーは無言で席を立ちました。
 ここで騒いで周囲の目を引き付けるのは、アラフォーにはハードルが高い動作です。
 なぜならば、

 (洋服の染み落としなんて持ち歩いている人がいるだろうか? 限りなくゼロに近い。ここで声を上げて注目を集めたとて、何の解決にもならない。むしろアラフォーの緩い口元or手元が周知されるだけ。ここは誰にも知られないうちに速やかに対応すべき)

 という思考が0.03秒くらいで脳裏を走りました。
 お若い人だと自分の感情の驚きのままに口に出してしまうかもしれません。
 しかしアラフォーは違います。
 まずなぜこのような状態になったのか。
 口からこぼしたのか、手元からこぼしたのかまったくわからない状態で声を上げた場合、周囲も突っ込みに困るだろう、という気遣いを優先するのです。
 決して己の老いとか衰えに内心恐れおののいたわけではありません。
 ここ大事なところです試験に出します。

 それではここから、アラフォー社会人としての対処法についてお伝えいたします。

 ①無言で席を立つ。
  決して騒いだりしてはいけません。
  椅子を引く速さ、膝を伸ばすタイミング、一歩目を踏み出す角度。
  すべて『通常』の状態で行います。
  ただし、ハンドタオルなどを持ってさりげなく胸元を隠すことは有効です。

 ②トイレの洗面台でシャツを水洗いする。
  『シャツを脱いでつまみ洗いした方が、水濡れするところが少なくてすむよね?』という考えが閃光のように過りましたが、所詮は一瞬のきらめき。 
  他の人がトイレに入ってきたとき、シャツを脱いだアラフォーと遭遇するなどという恐怖体験をさせてしまう可能性があります。
  そのような危険性を考慮し、着たまま流水でコーヒー牛乳を落とします。
  水濡れ範囲が染みより大きく広がっていますが、やむを得ない仕儀です。
  水に濡らすと落ちたように見えますが、乾かすと見えてくるのが染みです。
  念入りに水洗いします。
  そして頭の中では、この状態で人が入ってきたときの会話をシミュレートしています。
 『えっ? どうしたんですかっ?』 (それは驚くでしょう)
 『ちょっとこぼしちゃってさ~』 (何を、とかどうやって、とかは省略)
 『あ~、大変ですね~』 (終了。トイレの洗面台の会話は、短さと意味のなさが重要)
 ……幸いにも、遭遇者ゼロでした。

 ③乾かし方を考え、行動する。
  ……濡れた白シャツですよ。
  どっかにないかな、需要。
  そんな儚い妄想をしつつ、現実的行動がアラフォー社会人に求められるものスキル
  とりあえずエアタオルに腰をかがめて当ててみる。(弊社のは上から風が出る仕様。)
  ……アラフォーは腰が弱い。
  それと洗面台でシャツを洗うより不審者感UP。
  やむなく作戦を変更し、ハンドタオルで水分を取る。
  すぐに限界が来る。
  おもむろにボタンを閉め、自然に胸元にタオルをあて、トイレを後にする。
  諦めを飲み込むのがアラフォー。

 ④上着を着る。日頃の自分の善行に感謝する。
  席に戻る前に、置き傘ならぬ『置きジャケット』を羽織る。
  (なら、最初からジャケットはおればいいじゃん、という向きもあろうかと思われますが、ジャケットでは隠れない位置だったのです。)
  そして、日ごろの自分の善行に感謝する。
  たまたま、ハンディファン持ってきてたわけですよ。
  涼しい日になってきて、持ってきてない日もあったのに。
  これも私の日頃の善行が、なにかに目を付けられた故でしょう。

  なんか今日暑くない? て風情でジャケットの中に風を送ってみる。
  決して『ジャケット脱げばいいじゃん?』という言葉は受け入れない。
  シャツはアラフォーから気化熱を奪いつつ、徐々に乾いていく……。

 ということで、残ったのは胸元が冷えて風邪ひく? と焦るアラフォーと、うっすら残ったコーヒー牛乳の染み(輪郭)。
 昼からの仕事は無事にイキり顔で対応し、無事に終了。

 常に仕事にはほどほどのベストを尽くす、社会人2●年のアラフォー。
 会社人生で培われた『いい感じに事を終わらす』技術は、結構な割合で発動する万能スキルです。

 でも、コーヒー牛乳が口から垂れたのか水筒から垂れたのか。
 なぜ水分が胸元に垂れていたのに、何も感じなかったのか。
 …………謎は女を魅力的に見せるものです。(アラフォーでも。)
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