君の瞳に恋をして

るり

文字の大きさ
5 / 8
新学期

1.体内環境。

しおりを挟む
♦︎  ♦︎

 朝食を食べ終えた李由は、歯磨きをしに洗面所へ行った。鏡は、見えないように、鏡用の黒いカーテンを閉めた。

 青い歯ブラシを手に取り、歯磨き粉をつける。口に入れると、ほんのりと桃の甘い香りが口の中に広がった。この歯磨き粉は、麻由の趣味で買わされたものだったが、今では自分も愛用している。

 八重歯のある歯は磨きにくく、大変だったが、口の中のざらざら感が無くなるまで丁寧に磨く。
 舌でそれが無いか確かめ、口の中に溜まった歯磨き粉を吐き出す。
 コップに水を入れ、口に含み、歯磨き粉の味がしなくなるまでゆすぐ。

 本当は口をゆすぐのは一回でいいのだが、口の中に残っている歯磨き粉の味が大嫌いなので、味がしなくなるまでゆすいで吐き出すのを繰り返す。

 ゆすぎ終わるとすぐに部屋に戻って制服に着替えた。
 ネクタイを縛るのは、入学したての頃よりは上手になったかもしれないが、でもまだぎこちない。
 __後で麻由に直してもらうか。

 中学は学ランだった李由にとって、ブレザーの高校ではネクタイが一番難しかった。入学式では李人が締めてくれたのでなんとか大丈夫だった。だが高校生活をしていく中で、一人でネクタイを締められないとなると、笑われてしまう。特に麻由に。
 
それが嫌だったので、スマホで調べて練習をたくさんした。おかげで今は上達している。

「麻由、僕もう行く」

 リビングでまだ朝食を食べている麻由に、一応声をかける。そうする事で、身だしなみを見てもらう。

「ネクタイ曲がってるよ。直してあげる」

「ん。ありがと」

 麻由は慣れた手つきで曲がったネクタイを直した。
 李由はこれでいつも学校に行っている。

「じゃ、行ってくる。学校でね」

「うん、気をつけてね。僕の李由」

「......きもい」

「え~、ひっどーい」

 頬を膨らませふてくされている麻由にふんわりと微笑み、ショルダーバッグを担いで玄関から外に出て行った。

 夏休みが終わったばっかりの今日、頭髪・服装検査がある。一から三年生の全校生徒が第一体育館に集まって、生徒指導の先生がチェックをする。
 こんな暑い中であんな人数の人が集まったら倒れてしまう。李由は憂鬱な気分になりながら、学校への近道を歩く。

「暑い...」

 八月が終わったとは言え、まだ暑さは残っている。李由は早く冬になれと心から願った。
 冬はサポーター無しでも生きていけるし、いちいち隠す必要がないから楽だ。

 何度もため息をつきながら歩いていると、目の前に背の高い同じ制服を着た男子がウロウロしていた。
 李由は面倒事が大嫌いなので、気づいていないふりをしながらそのまま道を突っ切った。
__あんな人、見たことない。

 いくら全校生徒の人数が多いからって、全員の顔を知らないわけではない。何回か二、三年生と交流する機会はあったし、別クラスの一年生同士でも普通に一緒の授業をする機会はある。だから、名前は知らなくても顔は知っている。
 でもあんな人は見たことがなかった。

 高身長で、一重の切れ目で、だけどパッチリとした瞳をしていた気がする。下を見ながら歩いていたので、相手の顔はそんなに把握していないけど。

 学校にいち早く向かうため、いつもより早く歩いた。

「あ、李由ちゃん。おはよう」

「遥斗(ハルト)さん。おはようございます」

 するとまた違う人が前にいた。だけどその人は知っている。
 駒沢遥斗(コマザワハルト)。李人の幼馴染で、李由たちが小学生の頃に遊んでくれた第二の兄のような人だ。

 李由は遥斗が大好きで、たまに家に泊まりにくるときは一緒のベッドで眠っていた。

「今日は早いんだね。いつもは俺が学校着いた後に来るのに」

「なんか、知らない人、歩いてて...」

「知らない人?」

「はい」

 李由は今までのことを全て話した。
 高身長の同じ制服を着た男がこの近辺をうろうろしていたこと。それが怖くて多少走ったことを、遥斗に全て話した。

 それを聞いた遥斗は、クスッと笑った。

「それ多分、転校生じゃないか?」

「転校生?」

「今日から転校生が来るんだってよ。しかも李由ちゃんのクラスにね」

「えー」

 最悪だった。
 今でもまだ馴染めていないクラスに、また新しい人が来るなんて。ストレスが溜まって傷跡が増えてしまう。

 李由は大きなため息をつき、遥斗のたくましい腕を小さな両手でぎゅっと握った。
 単純に、怖かった。
 その転校生は、絶対に自分の隣に座ることがわかっていたからだ。

 李由の席は一番後ろの窓側の席で、隣はいつも空いていた。というか君悪がって李由の隣に座りたい人なんていない。だからいつも空いている。

 転校生が来るとなると、空いている席はそこ以外になかった。だから、怖くなって遥斗にしがみついたのだ。

「大丈夫。いつも通りにしていれば、李由ちゃんは平気だよ」

そう言って、遥斗は李由の頭を撫でてくれた。
 李由は学校まで、遥斗から離れようとはしなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

神父様に捧げるセレナーデ

石月煤子
BL
「ところで、そろそろ厳重に閉じられたその足を開いてくれるか」 「足を開くのですか?」 「股開かないと始められないだろうが」 「そ、そうですね、その通りです」 「魔物狩りの報酬はお前自身、そうだろう?」 「…………」 ■俺様最強旅人×健気美人♂神父■

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

ヴァレンツィア家だけ、形勢が逆転している

狼蝶
BL
美醜逆転世界で”悪食伯爵”と呼ばれる男の話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...