女二人旅情

よみずがえり

文字の大きさ
22 / 31

連休最終日、優子の気比神宮巡参拝と戦災慰霊

しおりを挟む
 優子ゆうこ由紀江ゆきえはそれぞれ別々で休日を過ごしていた。
 優子は家にいても、テレビもパソコンもないし、スマホは格安モバイルを使ってはいるものの、家にワイファイ環境もないため使うのを控えている。つまりやることがない。なので、優子はやはり外に出ることにした。
(由紀江さん、お邪魔するのはわるいかな…)
 そう思いながら、由紀江のことを考える。しかしやはり由紀江の家にはいかなかった。優子は気比神宮へ向かった。せっかくなので、正面に回り込んで、大鳥居をくぐって参拝した。実は敦賀に来てすぐに由紀江と一回だけ来ていた。その時は、広い境内に驚いた。ただ隅々までは回れていなかったので、今回は境内をいろいろ見て回ろうと思っていた。
 とにかく境内社が多い。優子はその一つ一つにお参りした。
 裏門近くに気になる場所を見つけた。隣の学校敷地内に不思議な場所がある。
「?」
 優子は近くの説明が書いてある石板を読んだ。
 それに納得したうえで、参拝した。
 優子はこういった説明などを見るのも楽しいなと思った。それは時には狛犬や灯篭などの後ろにも、施工年などが書いてあり、そんなに昔からあるものなのかと、驚くこともしばしばある。優子はそれに目覚め始めていた。
 優子はまたもや不思議なものを見つけた。それは気比神宮東参道入り口に立っている石柱だ。表からはたまに通っているので、「気比神宮東参道」と書いてあるのは知っていたが、裏にも、よく見たら側面にもびっしりと文字が書いてある。どうやら人の名前のようだ。そしてそこにはこうも書いてある。『敦賀空襲戦災者」。優子はそれを見て、しばらく立ち止まった。空襲、戦災。空襲とは学校の授業で聞いたことがある。保護施設での授業の時に教わった中に、東京の空襲の話が出たことがある。その空襲かと思った。優子はその空襲がここでもあったのか。そのことが気になりだした。
 優子は由紀江に連絡を取った。
「由紀江さん、少しお話いいですか。」
「ん?どうしたの?うちくる?」
「はい。行きます。」
 優子は由紀江の家に行った。そして敦賀の戦災のことを聞こうと思った。
「いらっしゃい。どうしたのかな?」
 由紀江は優子を招き入れた。そして台所から、オレンジジュースとお菓子を持ってきた。
「あ、すみません。そんな…。」
「いいのいいの。で、どうしたの?」
「今、気比神宮に行ってきて、東参道の石碑で敦賀空襲戦災者と書かれたものを見たのですが、敦賀にもそういったことがあったのかと思って、少し知っていれば聞きたいなと。」
「ああ、よく見つけたね。それはあんまり知られてないけどね。」
 由紀江はいつもの柔らかい表情から、ほんの少しうつろな表情に変わった。
「昔ね、敦賀は空襲があったんだよ。三回ね。その合わせての犠牲者の名前が書いてあるの。」
「三回、ですか。空襲って、確か焼夷弾の。」
「そうそう。一回目はね。その焼夷弾。二回目はまた違った空襲。機銃掃射とか小型爆弾とかだったらしい。三回目は模擬原爆。」
「…。」
「重い話なんだよね。まさかこんなに早く優子ちゃんに話すことになるとはね。でも、見つけてくれてありがとね。」
 優子は聞き入った。そしてそれはもっと知らなくてはならない話にも思えた。敦賀に住んでいる身として。
「せっかくならさ。近くの、街中に本勝寺っていうお寺があって、そこに戦災慰霊碑があるから、手合わせに行く?」
「はい。行きます。」
 優子と由紀江はジュースを飲んだ後、家を出て、気比神宮の横を通り、神楽のアーケードを通って、少し住宅街に入り、歩いて本勝寺へ訪れた。そこには、大きな慰霊碑があった。優子と由紀江はお寺の正面で手を合わせた後、慰霊碑の前へ行き、手を合わせた。
 由紀江は仕事をしているときとは全く別の感じでの真面目な表情。優子はそれを少し気にして、慰霊碑に手を合わせた。
 二人はまた来た道を歩いて帰った。
「まあね、またそのうち私が知っている限りのことは話そうかな。私も体験したわけじゃないけど、一応直接聞いたり、本で調べたりしたからね。」
 優子はその話を知ることは重要だと感じた。それは自分でも理解し、由紀江から感じ取ったものでもあった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話

穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。

処理中です...