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第三章『王都』
88話 準々決勝第一試合
しおりを挟む翌朝、無事に負傷の件を誤魔化しきった僕らは、馬車で闘技場に向かっていた。
昨日はマイナ先生もユニィも宿に泊まったので、馬車の中はストリナも合わせて女子ばかり。揺れる車内は、ちょっと良い香りに包まれている。
「こきゅうにあわせてね、れいりょくをグルグルかいてんさせるの。そとにもれないように。でね、ぶきでたたかうときは、ギュってかためるの。しんじゅつをつかうときは、つかいたいほうこうだけにれいりょくをピューってするんだよ~」
ストリナは馬車の中でずっと喋っている。今の話題は、霊力の使い方についてらしい。喋ってる内容は、ほとんど義母さんの受け売りだ。
ストリナが異常な回数神術を行使できる理由を聞かれて答えた形だが、これ、コンストラクタ家の秘伝ってやつじゃなかったろうか?
わかっているのかいないのか、マイナ先生もユニィも、ストリナのたどたどしい説明を真剣に話を聞いている。まぁ基礎らしいから、この二人なら教えても問題ないだろう。なんせ、マイナ先生は僕のヨメだし、ユニィのお父さんはクソ親父の弟子で、元上司である。
「なるほど。あたしたちは常に全身から霊力を放っていて、それを神術に利用しているけど、仙術の霊力操作を応用すれば方向を調整できて、その分霊力を節約できるのね」
おや。ちゃんと伝わっているっぽい。
ちなみに、僕は霊力をグルグルというのはおぼろげにわかるが、ピューというのが良く分からないので、光るやつ以外の神術はまだ使えない。前世の記憶が戻ってきてから、さらにわからなくなった気もする。
「ふあーあ」
退屈になって、あくびを噛み殺す。困った。起きていられない。
「おにーちゃん、ついたらおこすからねてていーよ」
昨日血をたくさん失ったせいか、身体がまだだるい。
「じゃ、お言葉に甘える」
なんかストリナを甘やかすつもりが、甘やかされているなと思いつつ、眠りについた。
◇◆◇◆
会場の正面で、馬車は止まった。僕は予定通りにストリナに起こされたので、全員をエスコートして馬車を降りる。
「なんで仙術と神術を同時に使えるのかまで説明できるなんて、リナちゃんすごいね~」
最年少が教師役というのも変な話かもしれないが、女子同士の会話は僕が寝た後も弾んだらしい。昨日はマイナ先生もユニィも3人同じ部屋で寝たので、もはや姉妹のようになっている。
僕らは御者席に座るシーピュさんたちに声をかけてから、闘技大会の会場に向かう。イメージ的には前世の陸上競技場の半分ぐらいの大きさか。これくらいの規模の施設は、王都内にいくつかあるらしい。大きな街なので、娯楽も必要なのだろう。
「そうなのです。うちの家の者は、まだ同時行使できる者がいないので、早速……」
にぎやかに喋るユニィの言葉が、急に止まる。視線の先には、一台の馬車が止まっていた。降りてきたのはリシャス・パール、ユニィの婚約者だ。
リシャスの方もユニィに気づいたようだが、ユニィは黙ってリシャスの前を通り過ぎた。
「チッ。このあばずれが」
聞こえよがしの舌打ちに、ちょっとムッとする。リシャスもまだ少年と言って良い年齢だ。言葉が随分と汚いが、意味を分かって言っているのだろうか?
「イー君、行こっ」
ユニィは僕の袖を持って引っ張ってくる。感じの悪い婚約者の近くにはいたくないのだろう。
僕らは自然と速足になって、入り口に辿り着いた。
トーナメント表をが張り出されているので、チラリと見る。今日の試合は準々決勝から始まるらしい。クソ親父の相手は、第3騎士団の筆頭騎士のベイ・ウィフトという人物だ。
当然のように、シーゲン子爵も8人の中に残っていて、順調に勝ち進めば決勝で当たることになるだろう。
意外だったのは、アノーテさんと一緒に宿の横の広場で治療活動を手伝ってくれたペーパさんも残っていたことだ。流派のところに、親父と同じ『イ流仙術』と書かれているので、多分間違いないだろう。
というか、『イ』って何だろう?
「楽しみだね~」
受付を通り抜けて建物の中に入り込んだ時点で、安心したのか再び楽しげな会話が戻ってくる。
「そういえば、君たちのお父さんたちが本気で戦ってるところって、見たことある?」
マイナ先生が無邪気に聞いてくる。そう言えば、戦っている姿は何度も見たが、本気と言われると記憶にない。
「本気で戦わなくても、うちに挨拶に来るだけで中庭が壊れてしまうのです。いっつも、ジェクティ様に怒られているのです」
それ、絶対修理費用とか出してないよね。何で許されているのだろう?
「こないだ、とーさまとシーゲンおじちゃん、ちりょうしたの」
「ああ、こないだ義母さんにやられたやつね。あれ、何で最後まで治さなかったの?」
「いいクスリになるっていってたの」
客席に案内されながらも、やたら話が弾む。僕らが向かっているのは、平民用の個室だ。
決勝戦出場者は、多かれ少なかれ賞金が出る。それを目当てに、選手の家族の誘拐事件も頻発するため、選手の関係者には個室と騎士団の護衛があてがわれるらしい。
ちなみに、男爵家なのに平民用の個室になったかは謎だ。どっちみちVIP席なので、僕は特に気にしないが。
やがて、目的地の個室に到着する。
「ありがとう」
案内してくれた担当者と、入り口の警備の騎士に銀貨を渡す。チップを自力で渡すのは、実は初めてだ。
前世だと考えられないが、貴族など富裕層の義務らしい。こないだ莫大な収入があったので、うちもついに富裕層の仲間入りである。
「もしかして、ジェクティ様が最強だったりして?」
「実は尻に敷かれてるのかもです」
女子たちはケラケラと笑っていた。
◆◇◆◇
「準々決勝から、今大会に限り、真剣の使用が認められました! もちろん神術や仙術も全て使用可能! 白熱の真剣勝負をご覧いただけます!」
司会者が、何やら危ない内容をアナウンスしていた。義母さんが試作した聖紋具のスピーカーとマイクは、会場の隅々まで司会者の声を届けている。
「ただし! 本当に殺せば失格! 身体を切断しても失格となります! 選手の皆さん! 失格とならないよう気をつけてくださいね!」
殺し合いにはならなさそうで良かった。
「さて、ではここで、観客席の皆様の安全を護る神術士を紹介しましょう! 先の大戦で『殲滅姫』の二つ名で恐れられた、王国最強の神術士、ジェクティ・コンストラクタ男爵夫人です!」
なるほど。ここで義母さんが登場するのか。いちいちオーバーなアナウンスで、前世のスポーツ中継みたいだ。
着飾った義母さんが入場してきたので、全力で拍手する。
義母さんは、舞台上で優雅にお辞儀をすると、何か呟きながら翡翠色の杖を振り上げた。見た目は飾り気のない棍だが、宝石のような透明感がある。僕も見たことがない美しい杖だ。
「っふぇ?」
杖から伸びた銀色に輝く線が、舞台をドーム状に覆っていく。そして、それが形を変えて幾重にも聖紋を描きだす。前世でいうところのグラフィックを見ているようだが、多分あれはミスリルのアマルガムだろう。
観客が、あまりの美しさに息を呑んだ。
「これが噂の聖紋神術の多重展開だ! なんと舞台全体を覆う規模の防御壁を10枚同時に展開っ! 美しい! あり得ないっ」
アナウンサーが興奮している。
「ねぇ? あれって秘術の類だよね? こんなところで見せても良いの?」
マイナ先生が呟く。確かに、ミスリルアマルガムを人前で使うなとは、クソ親父の教えだった気がする。まぁ義母さんはこれまでも水銀で同じことをやってたわけだし、違いはわからないか。
「だいじょーぶ。まえに20まいつかったのみたことある」
クソ親父がアモン監査官を斬ろうとした時だ。今はミスリルのアマルガムがあるので、もっと凄いことができるだろう。そう考えれば、もはやあれは秘術ではないかもしれない。
「そ、そうなんだ」
スッと、義母さんが目立たない位置に移動したのが見えた。
「さぁ! 続いては選手の入場です! 一人目は王立第3騎士団の若きエース! 筆頭騎士のベイ・ウィフト卿だぁっ!」
ドラムロールの盛り上がりの中、重装備の鎧を着こんだ騎士が、花道を歩いてくる。愛想を振りまいている様子はない。
「所属する貴族派閥は古典派! 流派はシルバークラウン流だ!」
あら。そんな紹介もあるのか。しかし、観客席からの拍手はあまりない。
「続いてぇっ! 二人目は先の大戦の英雄の一角! 今大会でベールを脱いだ元冒険者でイ流仙術の開祖! ヴォイド・コンストラクタ男爵だぁっ!」
先ほどと同じドラムロールで、爽やかな銀髪イケメンが入場してくる。観客席に優雅にお辞儀をすると、女性冒険者から黄色い声が飛んだ。
クソ親父のほうは観客席からの拍手があった。手を叩いているのは、主に冒険者たちだろう。
「なんと! 熱中症とレイスウィルス感染症の治療法を国王陛下に奏上し、その治療に必要な塩不足解消を直談判! 今回優勝すれば、陛下が動くぞぉっ!」
ワッと、観客席が盛り上がる。
え? 司会者さん、それ言ってもいいの? 相手は古典派ってことはパール伯爵の手先でしょ? あの鎧の色って多分ミスリルだし、強そうだけど大丈夫なの?
「さぁ、両者が舞台に上がったところで、試合開始です!」
司会者が黙ると、試合開始を告げる銅鑼が打ち鳴らされた。
クソ親父はまだ剣も抜いていないのに対し、ウィフト卿は背中から大剣を抜いて構える。
あの大剣も、ミスリル製だろう。どれをとっても最高位の装備で、ものすごくお金がかかっていそうだ。
父上の装備は少し古ぼけた豪華な騎士服と、よそ行き用のミスリルの剣だけ。昔褒美として陛下から貰ったと言っていたか。小さい頃に、国の紋章が刻印されている剣を自慢していたのを聞いたことがある。
さすがに権威ある大会で、身なりに気を使ったのだろう。
ちなみに普段は安物の鉄剣で狩りをしていたりする。
しばらくにらみ合い、クソ親父が先に飽きた。
「おっとこれは?」
司会者が訝しげに呟く。クソ親父は何気ない調子で、ウィフト卿に歩いて近づいていったからだ。
当然、上段から体重が乗った大剣の一撃が、鋭く振り下ろされる。
「あのクソ親父、僕には剣を剣で受けるなっていっつも言ってるくせに」
親父は、大剣を受け止めるために剣を振り上げ、そのまま振り抜いた。
大剣はシャアアアンと澄んだ音を立てて、中ほどから切断された。切っ先はそのままクルクルと飛んで義母さんの防壁にあたり、跳ね返される。
なるほど。確かに武器と武器を合わせたらダメだ。
「おっとぉっ! 初手からの武器破壊! 私たちは何を見せられているんだぁ!?」
続いて、軽やかなステップで、親父がウィフト卿の間合いへ飛び込む。
ウィフト卿はミスリル製の剣が切断されたことに一瞬狼狽していたが、さすが本職の騎士。半分になった剣で、それでも迎撃しようとする。
が、今度は被った兜の面甲を斬られた。素顔が露出する。
「ひっ」
ウィフト卿が息を呑んだ瞬間、親父は鎧ごと蹴り倒していた。
胸に足を乗せて、顔に剣を突きつける。
「ま、参った――」
ウィフト卿は震える声で、降参を宣言し、
「勝者! ヴォイド・コンストラクタ!」
司会者が親父の勝利を大音量で叫ぶ。それもすぐに、観客の歓声にかき消された。
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