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【VerΑ編第1章〜ラノアのマイホーム】
16話「初めてのフレンド」
しおりを挟むスピちゃんを倒した私の目の前の光景が消える。
次の瞬間、目の前には——大きなクリスタルがあった。辺りを見渡せば、そこは小さな広場のようで囲むように店やら家やらがある。
目の前のクリスタルは緑に輝いていて、柔らかい光で辺りを照らしていた。
ちょっと簡素だけど木製の建物が並ぶここは村か町の中心なのだろう。町並みの向こうには森が広がっている。ただこの広場からまっすぐ伸びる大通りの先は開かれており、門らしき物があった。
人も多い。みんな私と同じような白い服を着ていて、同じように右腕に腕輪を嵌めていた。頭上には名前が表示されている。
なんか獣がいないの新鮮! と思ってよく観察すると……それぞれに動物みたいな耳や尻尾が生えている。昆虫のような薄透明の羽が生えている人がいれば、背中に殻がある人もいた。
見た目は様々だけど、基本的に人の姿プラスαって感じだ。
私はどうなっているんだろう?
クリスタルがその表面に私の姿を鏡のように映している。見ると、顔は普通だ。耳も普通。背後を見ると、太く短い尻尾が生えていた。大きさは違うけど、スピちゃんと同じ尻尾だ。その尻尾から背中へと小さなヒレが生えている。これもスピちゃんと一緒だ。
ちなみに両方とも服を貫通している。まあゲームなので気にしない。
あー、つまり前世の姿が少し現れているってことなのかな? 私がくるりと一回転してみた。おお、ちゃんと尻尾も動く!
と思っていると、尻尾の先が何かに当たった。凄い感覚まであるや。
「ごめんなさい!」
「? ああ、いいよ~」
私の尻尾が掠った先にいたのは、可愛らしい少女だった。背は私と同じぐらいだけど、スレンダーな体型な割に胸が大きい。
格好は同じ白のワンピースだけど、茶色のショートカットの髪の上に猫みたいな耳が生えている。
しかも耳の先っぽから黒い毛がシュッと生えていて可愛い。背後には砂色の毛皮に覆われた細長い尻尾があった。
顔もアイドルみたいに可愛い。目はぱっちり二重で、青い瞳が印象的だった。外国の人かな? いやでも日本語話してた。
頭の上には【ミリー】という名前が表示されている。VRという語尾が名前に付いてないって事は、現実の見た目もこうなのだろう。ずるいなあ、可愛いなあ。
「あたしも尻尾長いし気を付けなあかんな」
猫耳少女——ミリーが自分の尻尾を掴み、にこりとこちらへとの笑いかけた。言葉のイントネーションが少し不思議だ。関西の人だろうか? にしてはなんか標準語も交じってる。
「あ、うんごめんね。その猫耳可愛いね」
「猫耳? あーほんまや! あいつむかつく顔してたけど、確かに可愛い」
ミリーがクリスタルに映る自分の耳を見て、嬉しそうにぴょんぴょん跳ねていた。まだ十代に見えるし学生かな?
「あはは、前世といきなり戦ってびっくりしたよね」
「サーベルタイガーじゃなかったのは残念やけど進化システムあるらしいしまあ同じネコ科で我慢しとこ。それよりもやっぱりPS大事って痛感した」
ミリーがマシンガンのように喋る。お喋りな子のようだ。
「えー、あーうん、そうだね」
「あーごめん、あたしミリー。そっちは? 同い年がいるとは思わなかった!」
ミリーが私に向けて、男性ならそれだけで恋に落ちてしまいそうな笑顔で手を差し出してきた。
「私はラノアだよ。あははー歳はどうだろうねえ」
「めっちゃ可愛いよラノア! 高校生? あたしは高二! あ。、呼び捨てでもいい? あたしはミリーでいいし。フレンドなろ!」
握手をすると、それをブンブンと振るミリー。
おーぐいぐい来る。
「フレンド?」
「VerAからフレンド機能付いてるんよ? 多分クランとかギルドとかもあるんちゃうかってお兄ちゃん言うてた」
「へー。そういえば前回は全然コミュニケーション取れなかったもんなあ」
「あれ、ラノアちゃんもしかして——Verβ経験者!?」
猫みたいに瞳孔が開かれた瞳で見つめてくるミリー。
彼女もやってたのかな?
「えーうん。ちょっとだけ」
「お兄ちゃんがずっとやってたんやけど、あたしもプレイしててん! あ、ラノア、【アキコ】ってプレイヤー見付けたら」
ドキッ!
やっぱり知ってたか!
えーあーどうしよう。
というより、ミリーの目が怖い。さっきまでの友好的な眼差しに、殺意というか獣の光が宿っている。
「もし、どっかで見かけたら教えてな」
「あーうん、見かけたら教える」
「ほな、フレンド交換しよ~」
こうして私とミリーはフレンドとなった。
私が【アキコ】だって事は……なんとなく言いそびれてしまった……。
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