31 / 73
【VerΑ編第2章〜古竜の寝所】
31話「フロントゲートガーディアン戦——sideミリー」
しおりを挟む「ボス戦慣れてるあたしが虎をやるから、そっちは2人にまかせた」
そう言って、ミリーが駆ける。その走りに迷いはない。
「無茶しちゃダメだよ!」
「任せろ」
背中にかかる言葉が嬉しい。ミリーが獰猛な笑みを浮かべながら叫ぶ。
「同じネコ科同士、仲良く——しようや!」
見た目通り鈍重な動きで斧を横薙ぎに振る【フロントゲートガーディアン】。背の低いミリーと比べればまるで巨人のように見えるその虎の巨像に、しかしミリーはひるむことなく飛び込む。
「人型なら負けない!」
ミリーが常時発動スキルである【弱点目視】によって急所を見る。
「こいつら二体とも、背中と頭が弱点っ!!」
「分かった!」
「助かる」
情報を共有しておき、さて、どう攻めようかと舌なめずりをするミリー。
二体出てくるボスって事は……まあ大概、どっちかが弱ったらパワーアップか特殊行動始めるパターンやな。
まあその時はその時だ。
思考を中途半端に中断し、ミリーは戦闘モードへと自身を切り替えていく。
リアルでのミリーは特に格闘技をやっているわけでもスポーツを嗜んでいるわけでもない。
運動は嫌いじゃないが、負けず嫌いかつゲームが好きなミリーは、VRゲーム内で身体を動かす方が性に合っていた。
ミリーが躊躇無く【フロントゲートガーディアン】が振りまく斬撃の嵐の中に飛び込む。
一撃は恐ろしく重いだろうが、動きは遅い上に、予備動作が長い。
パリィはおそらく出来るだろうが、万が一タイミングを外したら危険と判断した。
ミリーが横薙ぎ、横薙ぎ、縦振りの3連撃を躱し、ボスに肉薄。
目の前にある鎧へとラノアに貰ったナックルで殴り付けた。
鈍い音と共に、ボスの頭上のHPゲージが削れたのを確認するとすぐにバックステップ。
ミリーの目の前を、ボスが柄を短く持ちカウンター気味に払った一撃を通った。
「削れたのは削れたが、ダメージはいまいちか」
おそらく1割も削れていない。
ボスが斧の柄を地面に叩き付ける動作をすると、ボスの全身から蒸気が噴き上がり、目が一段と強い赤光を放つ。
「っ!! スキル!?」
これまでとは比べものにならないほどの速い踏み込みと共にボスが大上段から斧を振り下ろす。
ミリーが迷いながらも横へとステップしてそれを躱す。叩き付けられた斧から蒸気が刃の様に噴出、斧の更に先まで蒸気による衝撃波が届く。
更にその後、溜めていた蒸気を鎧から全方向へと放出。
後ろに避けていたら危なかった、とミリーはホッとしながらもあの踏み込みの速さを今後の行動パターンとして覚えておく。あとは、隙が大きいからと殴りに行ったらあの蒸気を喰らう事も念頭に入れないと。
嫌らしいボスだ。大技は喰らうと下手したら一撃でアウトで、細かい技でその隙を潰している。
「ははっ、これこれ! これだから——ゲームは止められない!」
ボスの横薙ぎ、一回転しながらの全周囲攻撃。
隙を見付けて、ミリーが飛び込む。
拳撃を叩き込む、一発、二発、もう一発!
ミリーの弾丸のようなパンチを食らいながらもボスは平然と斧と持ち上げると、柄を地面へと叩き付けた。
「しまっ——っ!!」
地面から衝撃波が放たれて、ミリーが吹っ飛ぶ。
数メートルは吹き飛ばされたミリーだが、ネコのように身体を捻らせ着地。すぐに地面を蹴る。
「あれも注意せなあかん。欲張り過ぎた!」
幸い、あれのダメージはさほどだ。HPが2割ほど削れたが、まだ許容範囲内。
「慎重になりすぎて、溜まりが遅いな」
ミリーが呟きながら、自らのHPゲージとスタミナゲージとその下にもう一つあるゲージを見つめていた。
道中で使わずにおいたおかげでかなり溜まっているが、使うタイミングが難しい。
「まあだけど——行動パターンは覚えたで虎ちゃん」
ミリーが迫るボスの薙ぎ払いをジャンプで躱す。そのまま、ボスの頭を蹴って一回転。
ボスの背後に着地すると同時に身体を回転させながら渾身のストレートをボスの背中へと叩き付けた。
ボスの背中は何かのタンクのような物を背負っており、どうやらそれが弱点のようだ。
「ゴガアアア!!」
ボスが背中を隠そうと振り向きながら斧を払う。
「そう来ると思ってた!」
地面に伏せて四足獣のような格好で躱すミリーが、そのままボスの股下をくぐった。
そして前進のバネを使って、立ち上がりながらのアッパーを背中のタンクへとぶつけた。
タンクから、破裂音と共に蒸気が漏れ出す。
すると、ボスが力尽きたように斧に持たれながら膝を折った。
「ワンダウン! チャンス!」
ミリーがすかさず、連撃を叩き込む。
最後の一発の前に、ミリーが右拳をまるで溜めるような動作で振りかぶった。右手が赤く発光。
武器に付いているスキルである【暗黒武踏】が発動。
踊るような連撃の最後に黒いオーラを纏った、右のフルスイングがボスの頭部へと命中。
強烈な破壊音と共に、ボスのHPゲージが大きく削れ5割を切った。
ミリーがラノア達を見ると、狼の像もHPが残り4割ほどまでに削れている。上手く2人ともやっているようだ
すると、二体のボスが赤く光りながら同時にバックステップ。横並びになると——
「やっぱりな!」
二体は赤く光りながら、互いへと向けて武器を振るった。
「合体してる!」
それぞれの武器が合わさった瞬間に、二体のボスから歯車やらパイプやら伸びて融合。
「ガルガグワアアア!!」
叫びながらこちらへと向かって来たのは一回り大きくなり、背中合わせで一体化した姿だった。
腕が四本、左右それぞれに斧と剣を装備。頭部も二つあり、前面が虎、後面が狼になっている。
「えー合体とかずるい!」
「仕方ない、そういう仕様なのだろう。まるで両面宿儺だな」
「こっからは連携するで!」
その巨像のHPゲージが統合されて一本になっており、名前も変わっている。
その名は——【眠りを守りしスクハザ】
このダンジョン【古竜の寝所】の、ボスである。
「さあ……ランカー3人の連携、見せたろ!」
ミリーが嬉しそうに吼えるのを合図に、全員が動き出した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件
☆ほしい
ファンタジー
勇者パーティーで「役立たず」と蔑まれ、役立たずスキル【畑耕し】と共に辺境の地へ追放された農夫のアルス。
しかし、そのスキルは一度種をまけば無限に作物が収穫でき、しかも極上の品質になるという規格外のチート能力だった!
辺境でひっそりと自給自足のスローライフを始めたアルスだったが、彼の作る作物はあまりにも美味しく、栄養価も高いため、あっという間に噂が広まってしまう。
飢饉に苦しむ隣国、貴重な薬草を求める冒険者、そしてアルスを追放した勇者パーティーまでもが、彼の元を訪れるように。
「もう誰にも迷惑はかけない」と静かに暮らしたいアルスだったが、彼の作る作物は国家間のバランスをも揺るがし始め、いつしか世界情勢の中心に…!?
元・役立たず農夫の、無自覚な成り上がり譚、開幕!
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』
宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる